鳥貴族アルコール製剤誤提供事件にみる企業の誠実性
企業側で有事対応の仕事をしたり、不正事実の情報提供をする従業員側で告発のお手伝いをしておりますと、顧客の利益を侵害するような不祥事を発生させた企業が「バレないのなら公表しない」という決断を下すケースが非常に多いことを痛感します。健康被害が出なかったダスキン事件大阪高裁判決(違法添加物入りのぶたまんを販売したケース)において、役員に5億7000万円の損害賠償責任が認められたような事例が生じても、やはり取締役の皆様は「ダスキン事件は運が悪くて後日バレちゃったケース。ウチはバレません。バレずに済むのなら公表はしないでいいのでは?」という結論が役員の間で暗黙のうちに承認される、というのが現状です。
そんな中、東証1部の鳥貴族さんが食品添加物アルコール製剤を、焼酎と間違えて150人ほどのお客様に提供してしまったという不祥事を8月15日に公表しています(HPではリリースを若干修正のうえ、16日付けで再公表しています)。取引先であるサーバーメンテ業者の方が知りえた可能性はあるとはいえ(飲食されたお客さんも「なんか泡が多いのでは」と不審に思った方もいらっしゃったようですが)、かなりカッコ悪い不祥事を潔く公表し、保健所に届け出たことは(私のような仕事をしている者からみると)評価に値すると思います。
よく講演等で「不祥事が発生した時の対応によって、その企業経営者の誠実性がよくわかる」と申し上げますが、今回の件でも、どんな企業でも不祥事は起きるわけですから、このような対応はむしろ誠実性あるものと考えたいところです。ただ、再発防止策を検討するということであれば、「ドリンクサーバーから抽出されるチューハイに異変が感じられた」にもかかわらず、そのままお客様にその商品を出していた、といったことへの対応に触れていないのはやや疑問が残ります。もちろん、このようなことが二度と発生しないような体制をとることも大切ですが、どんなに頑張っても、同じようなことはまた起きます。起きたときに、現場社員さんがどのような対応をとるべきか、ということを検討しておくことがよほど再発防止策になるものと考えます。
そしてもうひとつ、私が一番気になったのは7月21日に異常を感じたにもかかわらず、公表が8月15日になった点については説明が必要ではないでしょうか。善解すれば、「他店舗での不祥事の有無を先に事実確認する必要があったため」とも考えられますが、このような場合、顧客の被害状況を一日も早く情報収集する必要があるわけで、また被害弁償にはレシート等が必要になるのですから、他店舗における不祥事の有無を確認することよりも「情報収集のための公表」が優先されるべきではないでしょうか。ひょっとすると経営者にまで誤提供の事実が報告されるまでに時間を要したのかもしれませんが、もし会社側で公表が3週間余り先になってしまった合理的な理由があれば、その経緯についても説明すべきではないかと思いました。
あまり報じられていませんが、王将フードサービスさんは、あの第三者委員会報告書が公表されて以来、委員会から提示されたガバナンス向上のための提言をひとつひとつ誠実にクリアされていて、先日はついに創業家との取引を一切停止できたことがリリースされました。これでようやく一区切りがついたようです(こちらのリリース)。こういった姿勢こそ、企業価値を評価するにあたってとても重要だと考えるところでして、このたびの鳥貴族さんの不祥事公表も、社員の方々の注意を喚起させ、よりよい企業風土の形成に寄与してほしいと願うところです。
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コメント
飲食企業における不祥事の報告は、難しいものがあると思います。今回は、食品でないものを提供してしまったので、企業不祥事として間違いないと思います。しかし、実際の店舗では、野菜炒めの中に輪ゴムが混じっていた、店内をハエが飛んでいた・・・のはやむを得ないとして、そのハエが結果として死んだ際に食べ物の上に落下して、お客さんに出されてしまった・・・というトラブルは、それなりに存在していると思います。何が企業不祥事なのか店舗内のトラブルの一環なのか。チューハイを頼まれたのにレモンサワーを出してしまった的なトラブルなら、毎日のように起きているわけです。どこまでが企業内の処理事項で、どこからが企業不祥事として、外部に公表するべきなのか。そこの見極めには、そのトラブルの原因の究明が進まないとできない部分もあると思います。悩ましいところだと思います。
投稿: ひろ | 2016年8月17日 (水) 09時16分
>食品添加物アルコール製剤を、焼酎と間違えて150人ほどのお客様に提供してしまった
食品(飲料)でないものを食品として提供したのだから食品衛生法第十条に違反する。営業停止にすべきだ。
投稿: maharao | 2016年8月17日 (水) 14時22分
ご意見ありがとうございます。
実際に鳥貴族では消毒用として使用されていたそうですが、元々は飲料用アルコールだったと思います。以下の食品衛生法10条の規定ぶりからみると、今回の食品添加物の誤提供は10条違反にはあたらないように思いました。
第十条 人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
投稿: toshi | 2016年8月17日 (水) 15時25分
いつも楽しみに拝見させていただいております。
鳥貴族の消毒用アルコール誤提供については、4日間151杯も提供されていたそうですので、もっと早く気づいても良さそうに感じました。
手指消毒用エタノールの濃度は80%、一方で甲種焼酎は36度以下ということのようですから、いつもより早く酔った方もいらっしゃったのかもしれません。
企業経営者の不祥事対応については、規制当局の実行力と行政罰の仕組みが更に整備されなければ、正直な会社が損をする(だから黙っておいた方が良い。バレたら経営トップは知らなかったことにすればいい)という経営者達の感覚は変わらないと思います。
開示に3週間もかかってしまったのは、公表せざるを得ない事態に追い込まれたと見えてしまいました。
投稿: 内部監査関係者 | 2016年8月18日 (木) 00時23分