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2016年8月10日 (水)

取締役会全会一致の原則の裏に潜む「暗黙のお約束」

コーポレートガバナンス・コードが実施されて2年目となりますが、ご承知のとおり複数の社外取締役さんが選任されている上場会社もたいへん増えました。コードの要請としてダイバーシティ(取締役会構成員の多様化)が求められていますから、さぞや取締役会の議論は活発化して反対議決票も投じられているのでは・・・と思われる向きもあるかもしれません。しかし8月8日の日経新聞朝刊「経営の視点(取締役会、全会一致のなぜ)」で編集委員の方がお書きになっているとおり、取締役会の意思決定は「全会一致」が事実上の原則になっています(会社法上は出席取締役の過半数の賛成が決議成立要件です)。

上記の記事で有識者の方々が指摘しておられるとおり、「事を荒立てて決めたくないので全会一致が慣例になっている」のであり、「社外取締役のひとりでも反対すれば採決を強行しない」というのが実情だと思います。ガバナンス・コードでは、取締役会の活性化のために社外役員に対する事前レクチャーなども推奨されていますが、実態は取締役会で反対されないための「根回しの場」と化しているのも事実でして、むしろ2時間以内で取締役会が紛糾せずに終了するために事前レクチャーが存在するといっても過言ではないと思います。

モニタリングモデルが採用されている米国企業の取締役会でも全会一致が多いようですが、アドバイザリーボード型の日本で全会一致が慣例とされるのは、やはり「みんなで決めた」という責任分散志向が強いから、と言われています。ただ、私はむしろ「取締役はPDCAが嫌い」というのがホンネのところではないかと考えます。毎月重要な審議案件が次から次へと取締役会にかけられる中で、スピード経営を維持するためには目先の案件に気持ちが集中しているわけでして、「あの3か月前の案件の経過はどうなってますか?」と社外役員から質問しないと、報告が聴けない状況が多いように感じます。誰かが反対したり、議事録に異議を述べたような案件だと、いやでもPDCAに配慮せねばならず、社内取締役も社外取締役も、業務執行の是非を判断しなければなりません。モニタリングのクセがついていない取締役会では、これがとても面倒に感じられるのではないでしょうか。

しかしながら、社外取締役さんが増えたことで、上記記事で有識者のおひとりがおっしゃっておられるように「社外取締役の理解が得られず、決議が持ち越しになる事例が増えている」ことも事実。いわば社外取締役に事実上の拒否権が付与されているのでありまして、「あの人、ちょっとムズカシイ人だな」と思える社外取締役さんが就任した取締役会では、このあたりの悩みを抱えてしまうことになります(タテマエではなく、ホンネベースで考えてくださいね)。そこで登場するのが「条件付き決議」と「詳細は社長一任」です。議論が紛糾した場合に、なんとなく「ここのところは●●の条件で賛成、ということで決議をとりましょう」とか「もう取締役会も時間が押していますので、詳細は社長一任・・ということで」といった形で決議がとられます(昨年経産省でまとめられた取締役会のプラクティス集の中でも、このような条件付き取締役会決議が行われている実例が紹介されています。14ページ以下参照)。

ところで私自身が社外取締役兼取締役会議長という立場でもあるせいか、この条件付決議というものがどうも気になるのです。そもそも契約行為でもない取締役会決議に法的な条件を付すことができるのかどうか、といった法理上の疑問はさておいて、この「条件」というのは停止条件なのか解除条件なのか、という点です。停止条件ならば(賛成決議をとったとしても)いまだ決議の効力は生じておらず、後日、条件が成就した時点ではじめて決議の効力が発生します。また解除条件であれば、決議の瞬間に効力は発生しますが、後日、条件不成就が明らかになった場合には効力がなくなります。いったい「条件付き決議」と言う場合は、どっちを指すのでしょうかね?さらにいえば「●●の条件で」といっても、その●●の条件が成就したかどうかは、一体だれが決めるのでしょうか?

ちなみに、法律に詳しい社外取締役が、別の社外役員の方々に「いまの条件付き決議って、法律上はなんの意味もないですよ。解釈すれば、全員異議なく承認可決されました。ただ、後日事の経過を社長が説明するというリップサービスがついただけですよ」と申し上げると、またまた議論が紛糾するという事態も想定されます。このあたりは会社のお約束ゴトとして、大人の対応が必要なのかもしれませんね。

また、「詳細は社長一任」として決議される場合もありますが、この「詳細というのは、何が詳細なのですか?ひょっとして、その詳細の中には今回の決議の方向性を変えてしまうような要素はないのですか?」と聞きたくなるような重要事項が含まれていることもあります。法律上の「包括委任」を容認する趣旨なのか、それとも個別委任の意味で一任する、ということなのか、あまり詰めた議論もなされないままに「社外役員の皆さんもお忙しいことでしょうし、もう時間も押してますので、詳細は社長一任で・・・」とされるケースが見受けられます。このあたりも会社のお約束として大人の対応が求められるのかもしれませんが、いずれにしても、このPDCAに注力するのが社外取締役の重要な役目であり、決して妥協してはならないところだと考えます。

PDCA嫌いの日本企業の取締役会において、取締役会の議決権行使に多数決原理が持ち込まれるのであれば別ですが、今後も全会一致の原則が多用されるのであれば、このあたりは結構社外取締役さんにとっては重要な問題ではないかと。最近は取締役会議事録も詳細に記録される会社が増えているようなので、このあたりの趣旨もきちんと残しておくべきではないでしょうか。

8月 10, 2016 コーポレートガバナンス・コード |

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コメント

以前、取締役会の運営に携わっていた時には、解除条件はありえず、停止条件のみを認めて、かつ、条件成就を代表取締役が確認して履行する旨の議事録を作成していました。

これであれば、Toshi先生の懸念も晴れるのではないでしょうか。

ちなみに、代表取締役は条件確認の責任が降ってくることを非常に嫌がっていましたが。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2016年8月10日 (水) 20時04分

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