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2016年8月 1日 (月)

会計不正事件に浸透し始めた日本取引所「不祥事対応プリンシプル」

定時株主総会が終了したことも影響しているのかもしれませんが、7月下旬になって東証1部上場会社の企業不祥事公表が目立ちます。とりわけ三井ホームさん、住友電設さん、住江織物さん等、老舗企業もしくはそのグループ会社における不適切会計処理事案が目を引きます。それぞれの会社リリースを読みますと「なぜこの程度で過年度決算をしなきゃいけないの?」「なぜ第三者委員会を設置せず、社内調査で済ませようとするの?」「なぜこの時期に公表なの?もっと早く公表できたのでは?」と疑問を抱くところもあるかもしれません。

おそらく、今年3月から適用されている日本取引所自主規制法人「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」が、各企業の対応にかなり影響を及ぼしているはずです。企業不祥事の発覚時には、会計監査人との協議とともに、取引所への相談も重要となります。たしかに同プリンシプルは特別な行為規範を上場会社に新たに要求したものではなく、また細かなルールベースで規定されたものではありませんので、従わない場合に何らかのペナルティが取引所から課せられるというものでもありません。

ただ「会計不正はかならず発見される」という保証はないわけでして、証券市場には実際に「隠れ会計不正事件」は多数存在します。したがいまして、もしプリンシプルの趣旨精神に反するような不祥事対応に終始しておりますと、ステイクホルダーから「この会社はもっと大きな不正を隠しているにちがいない」と安易に推測されてしまうので、これを回避したい不祥事企業へのインセンティブ効果は大きいといえるでしょう。私が昨年から今年にかけて関与した事例のように、最初は資金流用で調査を始めたところ、会社の非協力的な態度が尋常ではないのでさらに追及すると組織ぐるみの粉飾が発見された、という事件も普通に発生しています。

とりわけプリンシプル対応においては、不祥事発覚時点における調査範囲の決定方法、調査を誰に委ねるか、再発防止策の実効性をどのように担保すれば説得力があるか、といったあたりは最大の課題です。社外取締役や社外監査役さんの有効活用が求められる場面でもあります。私としましても、もう少し時間的余裕ができましたら、ブログでひとつひとつの事例を紹介して取引所プリンシプルがどのように活用されているのか、私なりの解釈を申し上げたいところです。皆様方におかれましても、たとえば上記3社のリリースを参考として、企業不正発覚時における企業の危機対応を学ぶことも有益ではないでしょうか。

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