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2016年8月 2日 (火)

三菱自動車燃費偽装事件-危機意識がなければ内部監査は絵に描いた餅に終わる

本日(8月2日)は三菱自動車さんが燃費偽装問題に関する特別調査委員会報告書を公表する日ですね。会社側もどのような報告書の内容なのか知らないはずなのですが、どういうわけか(?)事前にリークされていて、7月29日の読売新聞朝刊のトップに「三菱自動車、不正指摘を軽視」と題する記事が掲載されておりました。その後、朝日新聞さんでも同様の記事が掲載されています。

2011年に過去のリコール隠し事件を受けて、三菱自動車さんが社員に向けたアンケート(匿名だが在籍部署名の記載は必要)を取ったそうです。その際、開発部門の社員複数のアンケート結果から、データ偽装や資料の虚偽記載に関する記述が認められました。これを契機に開発部門が自ら社内調査を行ったのですが、不正はなかったとして「問題なし」と上層部に報告していた、とのこと。特別調査委員会の関係者は取材に対して「この時点で徹底的な調査を行っていれば、燃費不正を見つけられた可能性がある」と証言されているようです。おそらく開発部門で不正が行われている兆候が見つかったのであれば、開発部門のトップを調査責任者にすべきではなく、内部監査部門が調査をすべきだった、という趣旨がこめられているように思います。

ただ、社内調査が徹底的に行われないのは、なにも三菱自動車事件に限られるものではありません。会社で不正が発覚した際、「まだほかにもあるのではないか」との気持ちから、類似案件の発見作業が行われますが、こういった調査では類似の不正事実が出てくるケースが多いはずです。これまで長年にわたって監査では発見できなかったような不正が、いとも簡単に会社の多くの部署で発見されてしまうとなると、「いったい監査部門は何をしていたのか」と世間から批判を浴びます。しかし「不正を指摘する通報はあったけれども、おそらく何かの間違いだろう。疑いを晴らすために監査を行おう」と考えるのか、「火のないところに煙は立たず、社内で不正の兆候を発見した際には、徹底的に調査を行う」と考えるのとでは不正発見の可能性には大きな隔たりがあると思います。

本気で不正を見つけようとする社内調査には自然と内部通報が集まります。通報者の共感が得られるからであり、不正を通報しても会社から不利益な取り扱いを受けない、といった安心感が通報者に生じるからです。逆に予定調和的な社内調査、とりあえず調査したけども社長を安心させるためのストーリー作りに専念する社内調査では、到底有力な情報は集まらないし、また不正の兆候を見つけることも困難です。要は「不正は早期に見つけること」といった意識をどれだけ組織が持っているか、ということで社内調査の質は決まるのであり、徹底した調査以前の組織風土こそ重要です。

なお、上記読売新聞ニュースによると、2011年3月にデータ偽装等の指摘がありながら、「不正はなかった」といった報告がなされるまで約1年を要しています。なぜこのように調査が長引くのでしょうか?この一年間に、具体的にはどのような調査が行われていたのでしょうか?この空白の1年を埋める作業こそ、組織風土を変えるためのヒントが隠されているような気がします。

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コメント

「組織風土なんて変える気がない」というのがこの会社の組織風土です(笑)。

経営者側のなおも歯切れの悪い発言(本音が見て取れる)を耳にして、もうハッキリとわかることがあります。全取締役および執行役員クラスをクビにして、上層部を全部入れ替えてしまうしか、この企業は変わりませんよ。このままではまたまたまた絶対に同じことが起きます。

投稿: 機野 | 2016年8月 4日 (木) 11時29分

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