自社監査役監査基準に注意義務のレベル表示を付する企業登場
8月25日、26日と、毎年恒例の日本監査役協会主催の夏期合宿(通称長浜合宿)に参加しました。琵琶湖畔長浜での夏期合宿は、もう30年以上続いている伝統のある行事です。「参加」といいましても、(研修を受けるほうではなく)全体講演の講師、2年目研修チームの講師として、ということですが、毎年楽しみにしているのは、夜の懇親会です。190社の監査役の皆様が一同に会しての立食パーティですが、多くの企業の監査役実務をお聴きできる「またとない機会」でして、とりわけ今年は取締役監査等委員の方、女性監査役の方の参加が急増していたのが特徴的でした。またガバナンス・コードが「トレーニング」に触れているせいか、社外監査役の方も多く参加されていましたね(頭が下がります)。
なかでも某会社では、今年から自社の監査役監査基準に1~5までのレベル感を表示しているそうです。「これは絶対にやらねばならない」「これは原則としてやらねばならない」「これはできる範囲でやるべき」「時間があればやるべき」等々。昨年、日本監査役協会が策定している監査役監査基準にレベル感が表示されるようになりまして、レベル1、レベル2と規定されている項目のみ自社監査役基準に盛り込む・・・といった会社はありましたが、すべて取り込んで、なおかつレベル表示まで(監査役協会の基準を参考にして)自社基準に付する会社さんは、あまり聞いたことがありません。
ここまで読んでピンときた監査役さんもいらっしゃるかもしれません。そうです。あのセイクレスト事件大阪高裁判決を意識した行動です。取締役に対して社長の暴走を防止すべき内部統制構築を勧告する義務、社長を解任するための臨時株主総会を開催することを取締役に勧告する義務などが認められたセイクレスト事件判決(今年2月に最高裁で不受理決定)ですが、なぜこんなキビシイ義務が監査役さんに認められたかというと、自社の監査役監査基準や内部統制システムの監査基準等に、そういった行動規範が盛り込まれていたからだ・・・という意見も出ているところでして、この判決をもとに自社の監査役監査基準を(たとえば日本監査役協会のモデル基準でレベル1と2と表示されている条項のみ自社に取り入れる等)見直している会社も多いようです。
そこで某社では、「そんな判決が出たんじゃたまらない。でも、だからといって後ろ向きの自社基準を作ったって監査役としての仕事がおもしろくない。だったら、ベストプラクティスとしての監査基準を策定する中で、自社の監査役監査基準にも、善管注意義務の判断基準の元になるレベルを自分たちで決めて、それを明記しておこうではないか」ということで、基準へのレベル感の表示に至ったようです。私個人のセイクレスト事件判決の見方としては、決して自社の監査役監査基準の規定ぶりが決め手になったのではないと解釈していますが、なかなか前向きな監査役さんもいらっしゃるなぁと感心いたしました。
また、別の監査役さんからは、三菱自動車工業さんの燃費偽装事件に関する第三者委員会報告書に対する詳細な感想をお聴きし、似たようなご経験をされたこともあり、かなり三菱自動車さんに同情的な意見を拝聴いたしました。これも「なるほど」と思わせる内容でしたので、またあらためて別のエントリーでご紹介させていただきます。いずれにしても、現役の監査役さんからナマの監査実務をお聴きすることはたいへん有益でして、今後も機会があればまた夏期合宿に参加させていただきたいと思いました(参加された監査役の皆様、どうもお疲れ様でした)。
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