東芝が監査人を不提訴-会社法は会計監査人を「外部」の組織とみているのか?
証券取引等監視委員会は、「東芝のトップは粉飾を認識していた」とする調査報告書をまとめ、検察庁と立件に関する協議を正式に求めたそうで、まだまだ東芝さんの会計不正事件は今後の展開があるかもしれませんね。
ところで特設注意市場銘柄からの脱出を目指している東芝さんですが、9月17日、株主から要求が出されていた新日本有限責任監査法人さんへの訴訟提起について、諸事情検討した結果として「提訴しない」ことをリリースしています(東芝社のリリースはこちらです)。工事進行基準案件等において監査人の任務懈怠の可能性が認められるものの、責任追及はしないとの結論に至ったそうです。そして本日(9月20日)、この不提訴理由通知を受けて、東芝社の株主から会計監査人を提訴する株主代表訴訟が提起されました。大阪の「株主の権利弁護団」が支援されているそうですね(朝日新聞ニュースはこちらです)。
東芝さんが監査人を提訴しない姿勢として「外部に責任を求めるよりも、自らが襟を正す姿勢を堅持して、会社の内部管理体制強化や企業風土改善に全力を尽くす」ことを表明されています。この姿勢は私も共感するところでして、この結論に至る過程で関係者の多くから事情聴取をしたり、監査人に書面で質問をしていたうえで「勝訴の可能性を慎重に検討した」ことからみても、同社としては十分に審議を尽くされたものと推測いたします。たしか、最近、東芝さんが(別事件において)取締役の方々を提訴しない、とした判断が「任務懈怠ではないか」と争われた裁判の判決が出されたそうですが(東京地裁において請求棄却)、その影響が受けたものかもしれません。
ただ、会計監査人という組織が、はたして法律上「外部」といえるかどうかは私もよくわからないところです。このたびの株主による提訴請求からおわかりのとおり、会計監査人に対する株主代表訴訟が現行法上で認められていますし、会社法の条文でも会計監査人は「役員等」として、会社の機関のひとつとされています(会社法326条2項)。一方、東芝さんの上記リリースでは、平成20年4月18日大阪地裁判決を引用して、裁判では「クリーンハンズ原則」が適用されることから、たとえ監査人を訴えても当社が敗訴する可能性があることを示しています。あくまでも「外部」ということを前提とした考え方のようです。
ちなみに上記大阪地裁判決(ナナボシ事件判決)は、監査人が「監査見逃し責任」を問われて敗訴した事例でして、被告である監査法人トーマツさんも、たしかクリーンハンズ原則を抗弁として出しておられましたが、裁判所はこれを認めず、民法上の過失相殺によって損害額の調整を図りました。しかも原告(ナナボシ社再生債務者管財人)は会社法423条による損害賠償請求ではなく、監査契約上の債務不履行責任による損害賠償請求を根拠としていたものです。つまり機関としての会計監査人の責任を追及した事例ではありません。
たしかに会計参与のように、取締役らと共同で計算書類を作成する立場ではないものの、株主や会社債権者からみれば、会計監査人は開示書類の信頼性を会社と一緒に担保している立場にあります。また、最近のコーポレートガバナンス・コードにおいても、会計監査人がコードの名宛人とされています。したがって、株主から見れば会計監査人は会社の外部といえるのかどうかは、やや悩ましい問題のように思えます。つまり株主からみれば、会計監査人への責任追及は、東芝さんの「会計不正の原因解明のために必須であり、まさに自浄能力の発揮」の場面だと受け取られることにならないでしょうか。
たとえば会社が会計監査人に対して「役員等」としての責任追及を行った場合、会社が敗訴すると法430条によって損害賠償債務を他の取締役らと連帯して負うことになります。そうしますと、取締役らと会計監査人との間で、責任分担に関する求償関係が生じます。以前、責任追及された会計監査人の取締役や監査役に対する求償問題が話題になりましたが、これは逆もありうるわけです。そう考えますと、会社が双方を提訴すれば、それぞれから有意な証拠が出てくる可能性もありそうです。
いずれにしても、今後は不提訴理由通知(通知には理由を付することになっていますが、会社が判断材料としている資料は株主側に提示しているのでしょうか?)が出されましたので、監査人に対する株主代表訴訟の帰趨に注目が集まります。新日本監査法人さんは、IXI事件における大株主さんから提起された損害賠償請求訴訟において、一定程度の和解金を支払う対応をされましたが、今回はどのような対応をされるのでしょうか。今後の展開に注目しておきたいと思います。
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