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2016年9月26日 (月)

電通社の不正広告取引と取引先企業による監査権行使問題

以前、私が主宰する大阪の研究会におきまして、電通さんのグループ会社の皆様に危機広報に関するレクチャーをしていただきました。企業不祥事を起こした会社は、有事にどのように謝罪会見を開くべきか、といったことを、危機広報コンサルタントとしての豊富なご経験に基づいて解説いただいきまして、たいへん有意義なものでした。今回は、その電通さんご自身の不祥事(ネット広告に関する不適切・不正取引)が発覚したということで、副社長さんをはじめとするトップの方による謝罪会見をじっくり拝見し、「なるほど・・・」と勉強させていただいております。

今回はバナー広告ではなく、今後も広告代理店さんにとって収益の伸びが期待される「運用型デジタル広告」に関する不正取引ということで、まさにスポンサーさんとの信頼関係の上に成り立っている業務として「不正はあってはならない」ところで起きてしまったようです。実際問題として、スポンサーさんにとっては委託事務遂行の状況は電通さんの誠実性を信頼するしかないわけです(そもそもネット上ではスクロールという作業がありますので、実際に目に触れる広告なのか、単に表示された広告なのか、という違いもスポンサー側ではわかりません。また年齢、性別によって広告が出る人と出ない人がいるのでなおさらわからないと思います)。そこに不正が起きたことは、電通さんの誠実性を毀損するものとして、金額的重要性もさることながら今後の営業にも痛手になってしまったのでは、と推察いたします。また取引先との数字をごまかす、という行動を社員が慢性的に許容してしまいますと、組織としての「会計軽視の風土」につながり、いわゆる粉飾企業の仲間入りをしてしまうおそれがあるので要注意です。この「粉飾の芽」は早めに摘んでおく必要があります。

電通さんの社内調査によって111社、633件、被害金額2億3000万円分が判明したということですが、なぜトヨタ自動車さんからの問い合わせによって判明したのか、という点がまず素朴な疑問ですね。「お得意様であるトヨタ自動車さんだから真剣に調査した」ということではないのでしょうか。111社も被害企業が認められるわけですから、それまでも、「ちょっとこの広告って効果がイマイチみたいなんだけど、ホントに契約どおりに広報されているの?調査して報告してくれない?」といった問い合わせがあったのではないでしょうか。ただ、クレーム先がそれほど大きな取引先でなければ社内調査にまでは至らなかった、ということも考えられるところです。一人一人の社員の方はとても誠実でも、組織的行動となると誠実性が欠如するのが「まじめな企業の不祥事」の特徴です。電通さんの誠実性に関わるポイントとして、このあたりは第三者委員会を設置して明らかにすべきではないかと(社内調査では調査対象にならないと思います)。

また、アップル社をはじめとして、海外企業が日本の広告代理店さんとスポンサー契約を締結する場合、その業務において合理的な理由で不正が疑われる場合、スポンサーさんは広告代理店さんの監査を行う権限を有し、代理店さんはこれに協力する義務が契約書で明文化されているはずです。まさに、今回の電通さんのような状況が発覚すると、取引相手方は不正を行ったとされる相手方の監査権を発動できることになるのですが、日本の企業は代理店さん相手に、このような合意はされていないのでしょうかね?たとえば米国のCFE(公認不正検査士)の業務として、このような(不正取引発覚時の)相手方業務検査を厳格に行いますし、これを妨害する行為については厳しいペナルティが課されます。

規制緩和時代が進む中、営業秘密の侵害行為については、行政当局自身が行政処分権限による規制に動くよりも、侵害を受けたとされる企業による民事賠償請求を支援することで企業規制の実効性を高める傾向にあります(いわゆる行政規制の費用対効果論。たとえば最近のエディオンさんによる上新電機さんへの賠償請求訴訟などは、経産省指針を活用した形で提訴されたものと考えられます)。このような不正取引が、広告代理店さんの業界全体に横たわる懸案事項だとすれば、相手方による監査権限行使を積極的に活用するようなことも、最近の規制緩和時代にふさわしい「安心思想」によるコンプライアンス経営の手法ではないかと考えます。また、そういった相手方による監査権限行使を予防するためにも、広告代理店業界としての自主監査(自主チェック)も検討されるところではないでしょうか。

いずれにしましても、電通さんは(グループ会社を通じて)企業のコンプライアンス経営を指導する立場にあり、また日本を代表する代理店でもあるわけですから、ぜひとも「自浄能力を発揮した素晴らしいモデル」といわれるような危機対応をしていただきたいですし、内部統制上の不備をどのように健全化させるのか、そのプロセスを他社への見本として示していただけることを期待しております。

 

 

9月 26, 2016 監査社会の彷徨 |

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コメント

これは、不思議な事件だと思って及んでおりました。ネット広告を出稿したら、そのリンク先である自社のページのページビューとかを観察しないものなのでしょうか、トヨタ以外は。また、電通さんもいろいろな会社のネット広告を請け負っていて、どの会社の広告にどの程度反応したというアクセスログの分析というのはされていないのでしょうか。普通であれば、請求書を発行する営業部門とは別の部署が効果測定作業をしていて、それが営業部に回付されるという流れであり、そういうデータがない請求書を発行するという神経が理解できません。電通の社内にリスクに応じた業務処理統制があったのだろうか?という疑問が。そして、出稿側にも広告の効果を測定するという意識があったのかどうかという疑問が。

投稿: ひろ | 2016年9月26日 (月) 08時41分

ひろさん、ありがとうございます。
この事件、おそらく電通さんは重く受け止めておられるようで、今後は自浄能力を発揮するようなリリースが出されるのではないかと噂されています。

ところで、いくらトヨタさんであっても、運用デジタル型広告の不正を見抜くというのは(専門家によると)不可能に近いそうでして、やはり(予想どおり?)トヨタさんに内部告発がなされた、もしくは関係取引先からの情報提供があったとみるのが自然ではないかと(あくまでも推測です)。電通の副社長さんが会見で「これは新聞に書いていただきたくない」と前置きして、最初に指摘を受けたのはトヨタさんだったと述べたそうですが、トヨタさんが本件について詳細な経緯をリリースしてほしくない、とのお気持ちがあったのではないでしょうか。

投稿: toshi | 2016年10月 2日 (日) 13時59分

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