三菱自動車の不正ふたたび-行政を敵に回すには覚悟が必要
公益通報者さんがコメントで述べておられるように、燃費偽装事件で揺れる三菱自動車さんでさらなる不正が指摘されています。同社は、国交省の指示に従って、正しい燃費データを測定するために実施していた社内試験で、本来であれば複数の試験結果のうち中央値に近いデータ3つを採用すべきところを、下方の(自社に都合の良い)データ3つを選んで使用していた、とのこと。国交省はこれを「不正」と断定したそうです。
私の素朴な疑問は①なぜ70回も試験を繰り返して、そのうち都合のよい3回分だけを選ぶという方法に誰も疑義を持たなかったのか、②ルールに書いていない点の解釈について自社でわからないのであれば、なぜ国交省に問い合わせるといったことをしなかったのか、③自社の再検査方法によれば、国交省自身による検査と自社の検査結果に差が生じることは想定していなかったのか、ということです。①については私なりの解釈がありますが、長くなりますのでここでは触れません。②と③については、いわゆる企業の危機対応と行政との関わりに関連する課題です。国交省の再検査指示というのは、私から見れば(自浄能力を発揮して企業の誠実性を示すための)「助け舟」のひとつだと認識しています。スズキさんは、その助け舟にうまく乗りましたが、三菱自動車さんは、いわば行政に泥を塗った(国交省の顔をつぶした)形です。
三菱自動車さんとしては「試験方法には問題があったが、決して品質(燃費)では負けていない」「たしかに燃費偽装の意図はあったが、発表値とそれほど大きな差はない」といった、これまでの対応にこだわりすぎたことが、今回の新たな不正の原因だったのかもしれません。しかし、不祥事発覚時の有事対応では、行政を味方につけて乗り切れば、世間に公表せずに済むケースもあれば、公表せざるをえない場合でも信用毀損を最小限度に抑えることができるケースが多いのです。行政だって国民から(行政対応を)批判されることを嫌いますので、企業の不祥事対応を真剣に後押しすることもありますし、オモテから後押しすることはできなくても、そのサインを出してくれることもあります。
行政の出すサインを見落とすか、サインを無視してしまえばオワリです。もはや助け舟は出してくれません。とりわけ監督官庁は、自分のところの監督責任を免れるために、「ふまじめ企業」のレッテルを貼る準備をします。「こんなふまじめ企業は監督不能です」と説明したいがために、それまで入手した情報はマスコミに伝達され、その結果、不祥事企業はマスコミの餌食になってしまいます。不祥事企業が国民から「とんでもない」との印象を強くするにしたがって、行政監督を批判する国民感情はやわらいでいきます。
もし再検査によって国交省による検査結果との間にかい離が生じた場合、「国交省の検査がまちがっていました」といった結論になるでしょうか。おそらく国交省としては三菱自動車さんの検査方法を厳しくチェックして、少しでも間違いがあれば「不正だ」と断定するはずです。本来ならばルールの趣旨を解釈すれば「平均値中央値に近いところから3回」の試験結果を採用しなければならないはずですが、かりにわからなくても、国交省とのコミュニケーションが必要だったのではないかと。もちろん、企業にはルール(もしくはルールの適用)の方がおかしいと感じた場合には「闘うコンプライアンス」も必要ですが、それなりの覚悟が必要です※。三菱自動車さんのクライシス・マネジメントの観点でいえば、このたびの燃費偽装事件においては、行政を味方につけるべきだったと考えます。
※・・・9月1日深夜のニュースによりますと、金融コンサルタントの方がインサイダー取引による課徴金処分を争って勝訴されたそうですね。課徴金納付命令が取り消されるのは初めてとのこと。情報伝達者(証券会社社員)の解雇無効判決も出ているそうで、コンサルタントの方と情報伝達者がそろって記者会見に臨んだそうです。課徴金処分は2013年、金額は6万円ということですから、やはり行政を敵に回すのには相当の覚悟が必要ですね。
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コメント
いつも素敵な記事をありがとうございます。
ところで記事内、前半では中央値に近い3回、後半では平均値に近い3回、と少し表記が揺れているように思います。
記事の趣旨には関わりのないことですが念のためお知らせしておきますね。
これからも更新を楽しみにしております。よろしくお願いします。
投稿: た | 2016年9月 2日 (金) 21時18分
ご指摘ありがとうございます。たしかに不正確な表現になっていました。いちおう「中央値」でそろえてみました。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2016年9月 4日 (日) 23時55分