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2016年9月28日 (水)

ニッセンHD臨時株主総会を終えて・・・独立社外取締役の重み

すでに日経ニュース、産経ビズニュース等でも報じられておりますとおり、セブン&アイ・ネットメディア(セブン&アイHDの100%子会社)との三角株式交換を承認するためのニッセンホールディングス臨時株主総会が本日開催されまして、特別多数(賛成率97%)をもって株主の皆様より承認されました。これをもってニッセンHDはセブン&アイHDの100%子会社となりますので、10月27日には上場廃止となる予定です(産経ビズニュースはこちら)。株主の皆様、本当に、本当にご承認どうもありがとうございました。

ここ3カ月ほど、ニッセンHDの第三者委員会委員長として、大株主と少数株主との公平な利益分配に尽力してまいりました。業績は既報の通りであり、経営責任をとらねばならない立場ではございますが、役員一同とりわけ独立役員は少数株主保護のための対応(三角株式交換方式を採用した正当性、株式交換比率の合理性、手続きの公正性)には万全を尽くしました(第三者委員会のためだけのリーガルアドバイザーとのコミュニケーションも十分にとりました)。交換比率の合理性にあたっては、セレブリックス株式取得価格決定申立事件の決定(東京地裁決定平成25年9月17日)の要旨を参考にし、また手続きの合理性については今年2月のジュピターテレコム事件最高裁決定の立場を参考にいたしました。

本日の株主総会では、もちろん厳しいご質問も受けましたが、想定していたよりも短い時間で終了し、ニッセンは上場会社としての最後の株主総会を終えました。私の独立役員(社外取締役)としての任務もほぼ終えました。まったく偉そうに言える立場ではございませんが、有事における手続きの公正性については自信を持って確保できたと申し上げます。何が公正な手続きであるかという理屈を考えることよりも、公正だと信じる手続きをいかに実践するか、という点のほうがよっぽどムズカシイことを認識しました。とくにニッセンHDの取締役会には親会社関係取締役が3名おりますので、株式交換に関する情報障壁を確立しながらも、同時に日常の重要な業務執行を決定する取締役会を運営する意識の共有が求められました。

親会社が50.7%を保有する上場子会社において、特別多数(66.7%)の賛成を得るためには、創業家の方々を含め、本当に少数株主の皆様のご理解、ご賛同を得る努力が求められます。そういった意味ではISSさんとグラスルイスさん(議決権行使助言会社)の賛成意見は大きかった。また、「モノ言う個人株主」の皆様による猛烈な反対推奨運動がなかったことにも助けられたように思います(もちろん、今のところ、という意味ですが)。このように株主の皆様に非上場化を理解していただいたわけですから、今後はセブン&アイグループにおいて(一日も早く)赤字体質の脱却がはかられねばなりません。

そういえば、「モノ言う個人株主」として(以前、事務所にも遊びに来ていただいた)Yさんのブログに、本日(9月27日)「ブログの方向性について」と題する衝撃的なエントリーが掲載されています。平成18年のカネボウ事件以来、レックス事件、サンスター事件ほか価格決定申立事件で数々の裁判例が形成されることに寄与され、平成26年会社法改正にも多大な影響を与えたYさんが、「今後は価格決定申立は基本的にはしません、ひとつの区切りとして四季報や有価証券報告書を読みながら普通の投資家としての活動をちゃんとやろうかな、と思っています」とのこと(ええ!?ホントに!?)。カネボウ事件ではYさんと対決した(カネボウ側の)Kさんが、本日私とともにニッセンHDの第三者委員会委員(社外取締役)としての役割をほぼ終えましたが、このような日にYさんの上記ブログ記事に接するというのも、単なる偶然とは思えない気がいたします。

しかしYさんに、このようなブログ記事を書かしめたジュピターテレコム事件最高裁決定の影響力は大きなものだと感じます。この最高裁決定によって、経済界はM&Aにおける予見可能性、ソフトローによるルールメーキングの迅速性を手にしたばかりか、有能な個人株主がもたらすリーガルリスクの脅威からも解放されるわけです。ただ、だからこそ、今後は経済界が「お飾り」ではなく、真の意味で少数株主の利益保護を実践できる社外取締役を育成する必要があると思います。決して株主にウソをつかないこと・・・・、社外役員の役割はこれからますます重みを増すことになります。

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コメント

 山口先生、大役お疲れさまでした。ほっとされているところかと思います。普段ソフトな語り口(書き口?)の先生が断定されているのは、分け合ってのことと思いますが、少々意外な感じでした。
 ところで、Yさんの引退(?)宣言はびっくりですね。当初サポートしていたO弁護士の件も影響しているのでしょうか。

投稿: Kazu | 2016年9月29日 (木) 19時26分

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