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2016年9月18日 (日)

不正の迷宮-三菱自動車(スリーダイヤ転落の20年)

2l1989年のプロ野球日本シリーズの巨人対近鉄において、近鉄は初戦から3連勝。近鉄の勝利投手がヒーローインタビューで「シーズンのほうがしんどかった。巨人はロッテ(その年の最下位)よりも弱いんじゃないの?(笑)」と言い放ってしまいました。巨人の選手達はこの発言に怒り狂い、発奮して、その後4連勝して日本一になりました(語り草ですから、どこまで真実かはわかりませんが・・・)。

東芝事件に続き、日経グループ会社による三菱自動車燃費偽装事件に関連する本が出版されました(「不正の迷宮 三菱自動車-スリーダイヤ転落の20年」日経BP社 1,500円税別)。個人的には東芝会計不正事件を扱った「東芝の迷宮」よりも相当におもしろい内容です。

ひょっとしたら、もう日経ビジネス等で記事化されていたのかもしれませんが、三菱自動車社員から日産の社員を揶揄するような発言(日産の燃費測定能力を疑い、プライドを傷づける発言)がもとで、日産の社員達が怒り狂い、三菱の燃費偽装の事実を本気で暴いたのですね(このあたりの経緯はまったく存じ上げませんでした)。プライドを持つことは決して悪いことではありませんが、相手もプライドを持つ社員です。三菱自動車社員の挑発的発言がなければ、(日産は軽四自動車で共同事業者だったわけですから)今回の燃費偽装事件はどうなっていたのか・・・と思うと、やはりコミュニケーション能力は重要だなあと思うところです。

当ブログでも「素朴な疑問」として、昨年11月に開発担当部門の2名の部長さん方が(開発目標の達成度合いを正直に報告しなかったとして)諭旨解雇となったことと、今回の燃費偽装事件との関連性について記しましたが、この昨年11月の解雇処分に至った顛末も書かれています(うーーーん、なるほど、そういうことだったのか。。。)

非常に勉強になったのはトヨタ自動車、マツダ、三菱自動車の元開発責任者の方々の実名による対談集ですね。これを読むと、なぜ燃費不正が三菱で起こって、マツダやトヨタでは起きないのか、ナットクします。フォードからやってきたマツダの経営者が、開発部門の業績をどのように管理したのか、また、「技術的にその目標は達成できません」と上司に報告することが許されない(雰囲気の)トヨタにおいて、なぜ開発部門が偽装に走らないのか、といったあたりはとても共感するところです(これ、旭化成建材さんのデータ偽装事件において、ひとりの現場責任者がデータ偽装に走り、もうひとりの現場責任者が一切偽装に手を染めなかった背景事情にとても似ています)。

また、このブログでもコンプライアンス経営における「行政との対応」をよく話題にしますが、やはり今回の三菱自動車と国交省のやりとりは、不祥事発生企業と行政との対応の重要性を物語る好例だと思います。ここはコンプライアンス担当者にはぜひ読んでいただきたいところです。行政というのは、国民から批判の矛先が向けられるとみるや、手のひらを返すような対応をとります。国交省が「手じまい」のサインを出したのですから、そこにうまく乗れればよかったのに、先日のブログでも申し上げたように、再報告においても行政の逆鱗に触れることとなり、「常軌を逸した不祥事だ」と国交省に言わしめるところまで来てしまいました(もちろん、この「続編」のところまでは本書では触れられていません)。

ここ20年にわたる三菱自動車さんの不祥事発生直後の経営者インタビューを掲載しているところも、企業風土を時間軸で考察するには非常に参考になります。ただ、誠実な社員の方が多いこともよくわかりましたので「企業風土」という括りが正しいのかどうかはなんとも。後半部分は過去の日経ビジネス誌の抜粋が多いのですが、日経ビジネス社だけでなく、日経オートモーディブ社、日経トレンディ社も含めた取材班構成なので、それぞれの専門色が各所に出ていて秀逸なノンフィクションに仕上がっています。三菱自動車の偽装事件にご興味のある方だけでなく、「この偽装事件は他の会社でも起きる」ということを考えさせられるところから、コンプライアンス経営に関心の高い方々にもお勧めできる一冊です。

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コメント

いつも楽しみにブログを拝見しております。
事件後8/30に「国土交通省が三菱自動車とスズキの燃費不正問題を検証するため、国土交通省は公正な第三者である独立行政法人自動車技術総合機構による燃費・排出ガスの確認試験を実施し、三菱については、これまで以上に不正の悪質さを暴く結果となった。」と報じられていました。
国土交通省は、守備範囲が広いですが多額の補助金を投入する事案や国民に広く影響する事案については、職業的懐疑心を持って抜きうち実測・検査・特別監査をするなど、改善をしていただきたいものです。
内部告発通報者の苦労や通報者への企業経営者からの理不尽な仕打ちを考えれば、行政による実効力のある検査が求められます。
国土交通省の専門家が、一度でも三菱の社内燃費試験に立ち会いしておけば、データ偽装は見抜けたのではないでしょうか。

投稿: たか | 2016年9月21日 (水) 01時15分

 機械設計屋ならわかるとおもうが、軸受などの設計に際し、従来の面圧を踏襲して 40年もの年月が流れている、トライボロジー分野に画期的な理論「炭素結晶の 競合 モデル(CCSCモデル)」という画期的な理論を日立金属が発表した。鉄鋼材料 と 潤滑油の相互作用で出来た表面に付着しているナノレベルの炭素結晶の構造が 滑り具合を決定しているとのこと。つまりダイヤモンドが燃費を阻害している という原理である。
 この理論に基づいて開発されている自己潤滑性特殊鋼SLD-MAGICの売り上げが 一段と加速することが予想される。

投稿: 島根安来っ子 | 2016年11月12日 (土) 20時55分

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