監査役狙い撃ち訴訟における「平時と有事の分岐点」-大阪地裁判決
判例時報2298号(8月21日号)には、公益通報者保護法関連や監査役関連の気になる判例が掲載されていますが、なかでも監査役、取締役監査等委員の皆様には参考になりそうな大阪地裁平成27年12月14日判決が注目です。ゴルフ場経営会社(会社更生法による手続中)の監査役さん(監査役会設置会社における弁護士の社外監査役)だけが更生会社管財人(原告)から監査見逃し責任を追及された裁判でして、結論的には監査役さんが勝訴した(請求棄却となった)事件です(たしか金融商事判例にも掲載されていたような記憶があります)。
前掲・判例時報の解説部分にも記載されていますが、従来監査役さんの法的責任追及といえば、多くの取締役の責任追及に交じって(付け足しで?)訴えられたケースが多く、原告側もあまり監査役さんの責任追及には熱心ではない傾向にありましたが、最近は大原町農協事件最高裁判決やセイクレスト事件大阪高裁判決のように、監査役さんが「狙い撃ち」されるケースが増えているようです。本件も、他の役員の方々については和解が成立しているものの、この社外監査役さんだけは(和解が成立しなかったようで)高額の損害賠償請求の査定申立てがなされたものです。
前掲の大原町農協最高裁判決やセイクレスト事件高裁判決と同様、イエローフラッグ理論によって監査役さんが、取締役さん達の善管注意義務違反に該当する事実を「認識していた、もしくは認識しえたかどうか」が争われており、判決では取締役さん達の善管注意義務違反行為が当該監査役さんには明白とはいえなかった(したがって、是正権限を行使しなかったからといって任務懈怠とはいえない)と判断されました。当該会社は親会社から業務委託契約、金銭消費貸借契約等の名目によって会社資金を吸い取られていったのですが、取締役会の承認決議を得るための資料等からは「おかしい」と気づくこと(取引の異常性に疑義を示すこと)は困難であり、また異常性に気づかなかったので具体的な調査義務もなかったとのこと。つまり「監査役の有事と平時の分岐点」がどこにあるのか、という点に関する判断が個別の事情をもとに詳細に判決で示されています。
結論からすれば(解説者も同じ意見ですが)妥当な判断とは思いますし、勝訴したとはいえ上場会社の監査役、監査等委員の皆様にも警鐘を鳴らすに十分な内容です(ちなみに判決は確定しています)。また、どういった場合に監査役さんが敗訴リスクを負うのか、ということだけでなく、外形的に利益相反取引に近い内容の取引が行われている場合には、取引に事故が生じますと提訴リスクが顕在化する、という点にも注意が必要です。監査役の法的責任に疑義が生じないためにどうすべきか(グレーゾーンに踏み込まないためにどうすべきか)、という点についても考えさせられる事例です。また、監査役さんの「平時と有事の分岐点」について検討する機会がありましたら詳細に解説したいと思います。
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