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2016年10月31日 (月)

オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための「発想」-週刊エコノミストの拙稿

本日(10月31日)発売の週刊エコノミスト(11月8日号)に拙稿を掲載いただきました。見出しは「オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための『発想』」というものでして、副題は「形ばかりのガバナンス内部統制では不正は防げない。トップ主導で指揮命令系統の『見える化』が必要だ」といったものです。冒頭で少しだけ自己紹介や当ブログのことも広報(?)させていただきました。

ブログでは書いたことがない斬新な視点も含んでいますので、ご異論・ご批判もあるかとは思いますが、ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。企業不正に関する内部告発をされている方の支援から考えたこと、逆に内部告発によって危機にさらされている企業側を支援した経験から考えたこと、不正が発生しても長期にわたって組織が不正を放置してしまう要因など、私自身の言葉で書きました(自分としては、まだまだこの10倍くらいの字数でないと書ききれない内容なので、いわばダイジェスト版といったところかと)。

企業不祥事を発生させる組織の構造的欠陥というものは、本当はそこに原因(のひとつ)があるのですが、誰も触れたがらない、触れることがタブー視されている、といった特質があるように思います。ただ、その構造的欠陥の修復にターゲットを絞らないと、いずれは企業文化が崩壊してしまって目標を見失った優秀な人材がどんどん流出してしまう結果に至ります。そのうち財務情報にも「優秀な人材」という無形資産の喪失が如実に現れて、さらに企業不祥事体質が慢性化していくという負のスパイラル現象が見受けられます。

私自身「企業が儲けながら不祥事を抑止すること(トライアル&エラー ※)」をずっと考えながら執務していますが、本当にこの両立は難しいですね。組織が大きくなればなるほど、利益の最大化と不正防止を両立させるためには「当該企業固有の企業文化」「組織風土」を潤滑油として意識しなければならないと確信します。世間でカリスマ経営者と呼ばれている方の中には、どうもこのあたりに天賦の才能をお持ちの方がいらっしゃるように感じています(そういった会社の法務部の方々って、世間からのイメージとは異なり、とても仕事がしやすい、ということもあるようですね)。

「働き方改革」「コーポレート・ガバナンス改革」といった言葉が多用される時代です。しかしながら、それらの言葉を自らに都合よく使う人たち、反論をさせないために声高に叫ぶ人たち、ご自身独特の見解を「これが社会の常識だ」と盲信して意見を述べる人たちに惑わされず、組織の活性化のために何が必要か、自社と向き合って真摯に考える姿勢がトライアル&エラーの発想には求められるように確信しています。

※・・・これまで「トライ&エラー」なる用語を使っていましたが、先日「先生、正確にはトライアル&エラーですよ」とご指摘を受けましたので、今後はこちらを使います。

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2016年10月28日 (金)

これからのガバナンス論議を占う-企業関連制度改革会合

本日は私自身の備忘録程度の内容ですが、政府(内閣府)の未来投資会議(企業関連制度改革会合)の議事内容をみておりますと、来年に向けて、さらにコーポレート・ガバナンス論議が盛んになるだろうと確信いたします。事務局提出資料だけでなく、それぞれの有識者の方が出されている意見書の内容は、その方のスタンスとともに、近時のガバナンス論議の中心課題を如実に示しています。

有識者の方々から「企業統治改革の見直し論」への批判が明確に出されること自体、「これまでのガバナンス改革には見直しが必要ではないか」といった意見が世間的に強まってきていることの顕れかと。そういえば「良心に基づく企業統治」といった方向性からの見直し論とは別に、ガバナンス・コードの本家本元のイギリスでも、EU離脱をきっかけに労働者代表が取締役会メンバーに含まれるべき、といったガバナンス・コードの改正が検討されている、と日経で報じられていました(イギリスが引っ張ってきたIFRSなんかも、同国のEU離脱で今後どうなってしまうのでしょうかね?これ、会計基準の強制適用に法的根拠を持たない日本では大問題ですよね。すでに任意適用されている企業さん等、かなり気をもんでおられるのではないかと)。

以前、日経新聞で大胆に発言されていた東レの日覺社長のご意見、上記会合で意見書を提出されている「公益資本主義」提唱者の原丈人氏のご意見等への賛同者が増えることによって、まさに健全なガバナンス論議が始まるのではないでしょうか。とても楽しみになってきました。

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2016年10月27日 (木)

会計監査は企業の「第2経理部」である-細野氏インタビュー

私が企業会計のおもしろさやその社会的有用性に興味を持つようになったのは、私自身が12年ほど前に社外役員に就任したこともありますが、なんといっても浜田康氏、細野祐二氏の数々の書籍に出会えたからだと言っても過言ではありません。その細野祐二氏(会計評論家、元公認会計士)が、週刊エコノミスト11月1日号における単独インタビューに答えておられ、「会計士の欺瞞を暴く」なるメインタイトルの記事に登場されています。このブログエントリーのタイトルは、インタビュー冒頭で細野氏が述べた言葉です。ご推察のとおり、会計(監査)業界の現状に対してかなり厳しいご意見を述べておられます。

細野氏は現在、会計評論家だけでなく、様々な組織の財務諸表作成に関する「お困りごと」の相談業務等を行っておられ、その仕事ぶりから「公認会計士をクビになって、ようやく本当の会計士になった」ともおっしゃっています。(その意味するところはインタビュー記事をお読みになるとわかります)。キャッツ事件では被告人となって最高裁まで争った末に有罪が確定し、法と会計の狭間の問題に苦悩された細野氏だからこそ、現在の公認会計士の閉塞感を具体的に表現することができるのでしょう。昨年、東芝会計不正事件が連日騒がれていた時期に、最初に「これはPLの問題ではなく、BS(のれんの減損)こそ問題である」と雑誌で指摘をされたのも細野氏だったと記憶しています。法律家からも、また会計専門職の方からも、いろいろなご意見はあると思いますが、私は毎度のことながら、細野氏の意見には考えさせられる点が多いですね。

しかし、細野氏の現在のお仕事ぶりを知り、なるほど、このようなフォレンジック(に近い?)お仕事もあるのだなあと感じました。ところで、もし私が弁護士という資格を失い、「法務コンサルタント」という肩書で仕事をするとなると、いったい何ができるでしょうかね?「法律事務」は、かなりの部分において弁護士や司法書士等の独占業務なので、法務支援事業というのも、弁護士法に違反しないように配慮する必要があります(法律に詳しい経営コンサルタントといったあたりでしょうかね?)。

そういえば私の存じ上げている方で、諸事情により弁護士資格を失った後、弁護士の頃よりも多額の収入を得ていることを知り愕然としたことを思い出しました。資格を持たないほうがいろんなリスクをとってチャレンジする意欲が湧くのかもしれません(たぶん私には無理な気がしますが・・・)。

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2016年10月24日 (月)

有償ストックオプションの会計処理問題-会計基準によって「事実」は作られる?

週末の日経新聞では新たなディスクロージャー・ルールに関する企業規制の検討が開始されると報じられていましたが、企業情報の開示といえばFACTA最新号(2016年11月号)の32頁以下に「新株予約権でトーマツ『暴走』-有償ストックオプションの息の根を止める『ごり押し』、報酬とみなし費用計上を迫るが発行500社は大混乱か」といったタイトルの記事が掲載されており、こちらのほうに興味が湧きました。

役職員へのインセンティブ目的で権利確定条件付有償新株予約権を発行している企業の会計処理については、ほとんどの企業で企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(複合金融商品適用指針)に基づいて処理されていますが、企業会計基準委員会(ASBJ)がストックオプション会計基準の適用を検討していることから、(発行企業においては)新株予約権付与の時点におけるストックオプションの公正価値を報酬と算定して、費用計上しなければならない可能性が出てきたようです。

ガバナンス改革のもと、インセンティブプランを加味した報酬基準への見直しを進める企業が増えていますが、有償ストックオプションの会計処理問題について、新日本、あずさ、PWCあらたといった大手監査法人さんは現在は静観しているところ、トーマツさんだけは他の監査法人に先立って、監査対象企業に処理方針の見直しを迫っているとのこと。上記FACTAの記事では、監査対象企業が混乱しているにもかかわらず、トーマツさんが会計処理方針の変更を勧める根拠を示さないことや、トーマツさんの組織上の問題(ガバナンス)を指摘して「トーマツショック」を取り上げられています。

ただ、トーマツさんが「暴走」してどのような得があるのか、そのあたりは記事の中では示されていません(ひょっとすると、ASBJの委員長や副委員長がトーマツさんのご出身というこtで、そのバックアップを図るという意味で個別監査法人と会計基準開発組織との癒着ということを問題視しているともとれますが、よくわかりません・・・)。ASBJさんでは、たしか2年ほど前から権利確定条件付有償新株予約権の会計処理問題の審議を開始されていましたし、私も、この問題は承知していましたが、むしろ「法と会計の狭間の問題」として、学問上の関心から眺めておりました。ASBJが開発する会計基準というのは会計的事実を決めるにあたっては重要な意味を持つわけで、いったいどのようなことを重視して開発されるのだろうか・・・という点です。

会計基準の開発は、社会で通用している慣習的な処理方法を追認する形で帰納的に発達してきたのですが、それでは「つぎはぎだらけ」(いわゆるピースミール)となり、整合性のとれない基準になってしまうのではないか、といった意見が強くなり、概念的フレームワークを下に演繹的に作成されるようになってきたものと理解しています。ただ、最近は企業活動のグローバル化に伴い、国際的な整合性というルール意識が強くなる傾向にあるため、たとえば今回問題とされている有償ストックオプションの会計処理基準についても、一国内における社会規範よりも、たとえばIFRSではどのように判断されているか、といった国際間規範との整合性を重視する傾向にあるようです。

法律家からみれば、会社法との整合性こそ重視すべき、といった気持ちにもなるのですが、そこが会計の世界における「相対的真実主義」の興味深いところであり、投資家による自己責任における企業評価にとって有用である事実こそ「会計的真実」だと理解しています。権利確定条件付新株予約権取引の内容において、報酬として付与されることが明示されている以上、将来の不確実性はその時点(配分の決定に基づいて付与される時点)でリスクとして数値化され、公正価値算定が可能になるわけで、それが会計的真実として正しいとすれば、そのような方向性に会計処理方針が変更されることも十分に合理性があるように思います。「有償新株予約権の払い込みはリスクもある投資なので報酬性はないのでは?」といった反対意見があることは承知していますが、そもそもそこにいう「リスク」や「不確実性」のとらえ方が異なるので、議論がかみ合わない可能性がありますね。

ちなみに国際財務報告基準(IFRS)では、権利確定条件付き有償新株予約権の付与については、その取引の実質(行使条件として勤務条件が定められている等)を踏まえ、IFRS2号(株式報酬)の適用範囲に含められているようです。問題とすべきは、違法配当や粉飾決算の決め手となる「会計基準の法規範性」との関係から、日本における会計基準の開発は、いったいどのような力学によって決められるのか、たとえば国際的な会計基準との整合性を重視することが妥当なのか、といったところにあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

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2016年10月21日 (金)

経団連主催の企業倫理セミナーにて講演をさせていただきました。

本日(10月20日)、経団連主催の関西企業倫理セミナーにおきまして「コンプライアンス経営の推進に向けて-精神論ではなく実践論としての企業倫理」と題する講演をさせていただきました。毎年10月は経団連の企業倫理月間ということで、東京と大阪でほぼ同時に開催されるものです。大阪国際会議場の特別会議室に250名ほどご来場いただきまして厚くお礼申しあげます。いままで(講演や本業で?)お世話になった企業の関係者の方々ともひさしぶりにお会いできて楽しかったです。

講演の要旨は後日、写真とともに経団連ニュースにてネット上でご覧いただければ幸いです。こういった講演では、会場からの質問はあまりいただかないのが通例なのですが、本日は多数の方にご質問をいただきまして、こちらも新たな「気づき」をいただきました。「答え」になっていない回答もあったかもしれませんが、ご勘弁ください。なお、国際会議場の一番大きなホールでは「日本監査役協会監査役全国会議」が開催されていてビックリいたしました(^^;。

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2016年10月19日 (水)

グループ・ガバナンスの話はなぜむずかしいのか?(あくまでも私見・・・)

旬刊商事法務2113号(2016年10月合併号)の巻頭座談会「グループ・ガバナンス強化に向けた取組みと法的論点(上)」を拝読いたしました。昨日の川井先生のブログ「学者や実務家の先生方が、グループ・ガバナンスを論じる際に"足りない"と感じている(?)こととは?」の中で、「このテーマにご関心のある法務関係者の方々には、必読の座談会だろう」と書かれておりましたので、自称「関心のある法務関係者」としては「これは読まねば・・・」といった気持が高ぶりました。

法律家が会社法の視点からグループ・ガバナンスを考えるにあたっては、司会者である石井先生の項目立ては問題整理のうえで秀逸だと思いました。また舩津先生(同志社大学教授)のご意見「子会社管理、グループ・ガバナンスといったものについて、実務的、具体的なイメージを学界として持てていないということも、多分にある」という点も同感です(だからこそ伊藤忠商事、キリンHDの法務責任者の方々をお招きして具体的事象でイメージを描きたい、といった企画になったように思われます)。川井先生も、

私が推測しているところでは、実務家のうち、外部の法律事務所の弁護士も、子会社管理、グループ・ガバナンス、グループ・コンプライアンスといったものについて、実務的、具体的なイメージを持てていないケースが多いのではないか、と思っているからなのです。そんなの、お前だけだよ、と言われるかもしれませんが・・・(笑)。

とおっしゃっていますが、実は私も恥ずかしながら持てていません(笑)。

ではなぜグループ・ガバナンスの具体的なイメージを持てないのかという点について、少しだけ私見を述べたいと思います(あくまでも仮設ということで、「これが真実」といった確信は持てませんが・・・)。

私は過去に、グループ会社が400も500もある大規模会社の「企業集団内部統制」構築のお仕事を2度ほどさせていただいた経験があります(また、セブン&アイHD傘下の上場子会社ニッセンHDのCSR委員会顧問として、親会社によるCSR統制の現場に2年ほど関与したこともあります・・・「あれ?それって業務執行じゃないの?」といったツッコミはなしということで・・・笑)。いずれの親会社も、私が意見を述べることがおこがましいほどシステムが充実していますので、あくまでもグループ会社の内部統制の構築が中心であり、それぞれ半年、1年の期間、多くのグループ会社のシステム整備や運用チェックに関与いたしました。その結果として私が抱いた感想は「グループ・ガバナンスは法律でコントロールできるものではなく、少なくともコンプライアンスの視点で考えるにあたっては法律の枠外で対処すべき問題が山積している」といったものでした。

まず、なんといっても「指揮命令系統の複雑さ」です。経理や法務、内部監査部門を通じて内部統制の仕組みを変えようとしても、親会社の事業部門から別の注文がグループ会社に届きます。「あれ?半年前に『このようなシステムに変えましょう』と指示したのに、どうして変わってないのでしょうか?」「いやいや、先生、本社の製造第3部の●●部長からクレームがきましてね。事業部からの指示には逆らえないですから・・・」といったやりとりを何度も経験しました。もちろん本社の経理部門からの指示も同様です。人事部は人事政策をまとめるところであって、グループ会社トップの実質的な人事権は本社の事業部門が掌握しています。グループ会社のトップが誰の意見を優先するかは明明白白でして、この複雑な指揮命令系統はもはや法律の世界ではなく、親会社における法務や経理と営業や開発、製造部門との力関係。親会社とグループ会社の歴史に依拠する問題です。

また、グループ間の連携は「人からシステムへ」と変遷しています。本社の経理や法務には優秀な人たちが集まっていますが、彼らの優秀さはどんどん「パーツ化」されています。狭い範囲でスキルが要求され、そこで完結するのであり、ITシステムで集約される全体像については、誰も把握できないこともあります(以前は警察出身の総務担当者と同じように、会計士の資格を持っている人が、経理部内でブラブラしていたりしましたが、最近はめっきりそんな人も減りましたよね)。そのブラックボックスが、時には「責任をあいまいにして処分を免れる」(自らのセクションをみんなで守る)といった人智につながっていたりします。

グループの管理部門は益々IT化によって効率性が追求され、また人がパーツ化されるなかで、グループ間における人の交流はあまり進みません。しかし事業部門においてはご承知の通り、事業戦略の一環として(片道切符もありますが)人事交流は進みます。こうなると、誰の意見が最もグループ会社を動かすかは歴然としています。私もグループ会社の内部統制支援にあたっては、「本社において、どの事業部門の誰に話を通しておくべきか」を考えながら「今度こそグループ会社のシステムは変わるだろうか」と期待をしておりました。そこでは法は無力であり、「根回し」がすべてといったところでしょうか。

先週金曜日、虎ノ門にある大学(サテライト)におきまして、JILA(日本組織内弁護士協会)主催のパネルディスカッションに登壇させていただきました。その準備の際、某社の社内弁護士の方からおもしろい話をお聞きしました。某社では、事業部門と本社管理部門において、それぞれ法務部門が事実上分かれているそうですが、事業部門に近いところの法務担当者は、できるだけ事業部門の要望に沿った形での(ある程度はリスクを承知でゴーサインを出す)支援を行い、本社管理部門の法務部門では「ダメなものはダメ(最終的には経営判断にも関与する)」といったスタンスでお仕事をされるそうです。これ、すごくわかるような気がします。「そんなものは法務の役割ではない!」といったお声も聞こえてきそうですが、それは法務の力が強い会社だからであり、そうでない会社の場合には十分ありえる話ではないかと。

つまり、グループ・ガバナンスの話を会社法という枠組みで考える(法律家がグループ・ガバナンスの具体的なイメージを持てるようになる)にあたっては、それが子会社管理責任(資産管理義務)という論点にせよ、グループコンプライアンス(コンプライアンス配慮義務)という論点にせよ、まずは法務部の力を各企業において高めること(社長が「法務は営業や開発、製造と同じくらい重要なセクションである」と認識するにはどうすればよいか?)を考えるべきだと思う次第です。役員セミナーにお招きいただく機会が増えれば増えるほど、この課題は容易には克服できないことを痛感するところではありますが・・・・・

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2016年10月18日 (火)

「住友銀行秘史」とコーポレート・ガバナンス

9784062201308_210月8日の日経朝刊に「指名委員会を設置した上場会社が600社を超えた」といった記事が掲載されていました。ほんとに社外取締役を中心として後継社長を指名することなどできるのだろうか?といった疑念を抱いていますが、この25年前に発覚したイトマン事件の内幕を読むと、さすがに「形だけでもあったほうがいいかも・・・」と思ってしまいますね。

まだ発売されたばかりの本なので(ネタバレはエチケット違反かと思いますので)内容には触れませんが、話題の「住友銀行秘史」をさっそく読了いたしました。110年の歴史を誇る中堅商社イトマンが沈みゆく1年半ほどのストーリーです。実名を出された方々の言動だけでなく、その言動に対する著者の評価(批判?)も赤裸々に綴られているので、(反論が困難という意味でも)本書の評価は分かれそうな気がします。ただ、私のように内部告発や内部通報に関心のある方にはぜひともお勧めしたいところですし、社長解任の場面なども出てきますので、組織の権力闘争に関心のある方にもおすすめです。

ところで、私の存じ上げる方々が、この25年前の事件にたくさん登場します(久保利先生も少しだけ登場します)。イトマンの会計士さんも実名で、かつ監査意見形成に関するやりとりなども詳しく書かれています。とりわけコーポレートガバナンス・ネットワークの前理事長さん(当時は日銀の営業局長)が、こんな感じでイトマン事件に登場するとは思いもしませんでした。前理事長さんが、かつて「社外取締役ネットワーク」を設立してガバナンス論を語っておられたとき、「アメリカのガバナンスの直輸入盤みたいで、ずいぶんと原理的だなあ」と感じたこともありました。しかし、住友銀行の権力闘争と、これを背景とするイトマン事件の渦中にあって、このようなドロドロとした経営権争いが演じられている中に身を置いていたら、たしかに海外のガバナンスに光をあてたくなるだろうな・・・と。そういったことを再認識できただけでも、本書を読んでよかったと思います。

しかし朝日さんや読売さんはいいとしても、この本、日経さんは書評を取り上げますでしょうかね?日経新聞とはこういった世界である、「新聞・雑誌の編集権」とはこういったものである・・・ということを理解するうえでも有益な一冊かもしれません。

 

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2016年10月14日 (金)

会計・監査制度改革(不正会計防止)に向けられる金融庁の視線は眩しい・・・

P_20161013_204317ネット上ではあまり話題に上っていないようですが、 「粉飾決算-問われる監査と内部統制」の著者でもいらっしゃる浜田康先生(公認会計士、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授)が、このたび証券取引等監視委員会の委員に就任される予定だそうです(10月6日付けの日経人事ニュースで知りました。もちろん正式には国会の同意が必要となります)。近時の東芝不正会計事件について、浜田先生は会社側にも、監査法人側にもたいへん厳しい指摘をされていますし、また「司法は会計についてあまりにも無知ではないか」との持論を展開していらっしゃる浜田先生の委員就任は、金融庁の会計・監査制度改革に向けた本気度を如実に示している・・・というのが私の率直な感想です。

その浜田先生も教授を務めておられる青山学院大学大学院会計プロフェッション科では「青山アカウンティング・レビュー」の第6号を発刊し、10月10日に書店に並びました。早速拝読しておりますが、会計・監査制度に関与しておられる金融当局の方々は、本書をまちがいなく読んでおられるものと推測いたしました。なぜなら、これからの上場会社や監査法人に対する当局の規制の在り方がとてもよく理解できるからです。今号のメインテーマは「これからの会計監査のあり方を考える」、いや、実に精読する価値がありますね(2,100円税別)。

まずなんといってもメインタイトルを冠した金融庁総務企画局長の池田氏と青学の八田進二教授との対談です(聞き手は同学院の町田教授)。今年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言17項目を、金融庁はどのように整理しているか(どれを重要とみているか)といった視点が述べられています。おそらく「監査法人向けガバナンス・コードの策定」と「ローテーション制度」が重要であることは予想されるところですが、実はもうひとつあるのですね(これは中身をお読みいただくと、なるほど、その論点をそこと結びつけて考えるのか!と、とても新鮮に受け止められるものと思います)。また池田局長が「10年前と今とを比較して、なぜ会計・監査制度の重要性が増していると理解するのか」、(「あくまでも個人的な意見ですが」とのことですが)その根拠が書かれていて、これもどこかで使わせていただきます(笑)。

つぎに、第14回青学会計サミットでの天谷知子氏(公認会計士・監査審査会事務局長)のご発言が盛り込まれている討論会議事録ですね。私、お写真で初めて天谷氏のご尊顔を拝見いたしました(それはどうでもいいことですが・・・)。天谷氏も「あくまでも個人の見解」として発言されていますが、東芝事件に関するご意見や、監査法人のどこに問題があったか、といった分析は、ぜひとも理解しておきたいところです。しかし読んでいるうちに、上場会社向けのガバナンス・コードと、監査法人向けのガバナンス・コードとでは、おそらく「コンプライオアエクスプレイン」の意味合いが相当に異なるだろうな・・・と思いました。

さらに、「金融庁のLEON風チョイ●るオ●ジ」こと佐々木清隆氏(証券取引等監視委員会事務局長)による「監督機関からみた会計監査への期待」に関する論稿です。三様監査全体に共通する課題でもあるが、とりわけ会計監査においては事後チェック中心であり、現在起きている事象、将来のリスクを見据えたフォワードルッキング的な視点が強化される必要があると説かれています(これって、やっぱり「優秀なオオカミ少年になれ」という私の提言と根本のところでは同じではないかと)。私もこれは「三様監査」すべてに言える大きな課題だと認識していますし、不正の長期化の根本原因ではないかと考えます。しかし読んでいて気がついたのですが、上記3名の当局の方々が、いずれも「これは個人的見解だが」と前置きしつつも、内容的にはほぼ同様の意見をお持ちだというのがスゴイ!笑。

もちろん「監査なくして会計なし」と説かれる浜田康教授の論稿も必読ですし、目次をご覧いただければおわかりのとおり、会計、監査の世界で著名な方々による論稿がてんこ盛りです。ちなみに私個人の好みとしては、新日鉄住金の財務担当執行役員の方の論稿がとても刺激になりました(これもどっかで使わせてもらおうかと・・・)。ところで、本書の最大の難点は入手がなかなか困難ではないか・・・ということです。話題の「住友銀行秘史」は無尽蔵に置かれているのに、こちらは(せっかくの良書にもかかわらず)一般の書店では、大きなところでも1~2冊程度しか並んでいません。私は大学関係者でもなんでもありませんからよくわかりませんが、大学側にでも注文しないと大量に入手することは困難ではないかと思います。本書と皆様とのアクセスルートがもっとも心配ですが(一応、上記リンク先にも問い合わせ先が記載されているようですね)、ぜひともお読みいただきたい一冊です。

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2016年10月13日 (木)

ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題について考える

Tanakakaishahou東京大学の田中亘教授の執筆された本が発売されましたね。予想どおり10月12日現在、アマゾンの商法、会社法部門で売れ筋ランキングトップですが、この厚さで3,800円(税別)とは驚異的です。(いきなり値段の話で恐縮ですが)。東京大学出版会さんとしても、「この本は間違いなく売れる!」とマーケットの動向を想定したうえでの価格決定なのでしょうね。

ちなみに、私が執筆した論文の意見も、(通説に対する反対説として)名前入りで本文5行にわたって引用していただいておりますが(280頁参照、田中先生の意見まで含めると9行)、今後、法学部生やロースクール生の皆様にお読みいただく基本書に、拙意見を引用いただいたことはたいへん光栄でございます(どうもありがとうございます。せめて第2版くらいまでは残しておいてください>田中先生)。司法試験受験生の基本書定番は「リークエ会社法」(リーガル・クエスト会社法第3版 有斐閣)だと思いますが、今後はこの田中会社法を活用する受験生も増えるでしょうね。

さて、その田中亘教授が、判例雑誌「金融・商事判例」1500号の巻頭において「ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題」という小稿をお書きになっています。株式価格決定申立事件における裁判所の「取得価格決定方法」に大きな方向性を与える最高裁決定として、今後のM&A実務に大きな影響を及ぼす決定であり、当ブログでもすでに2度ほど取り上げました。

この最高裁決定の判断過程は、これまで田中教授が論文等で主張していた流れに沿うものですが、それでも「残された課題」があると述べておられます。それは、親子会社間の取引のような、利益相反のある取引が、「一般に公正と認められる手続き」により行われたかどうかについて、裁判所がどの程度立ち入った審査を行うべきか、という点だそうです。

裁判所は手続面を重視した審査を行うべきであるが、米国判例法で示されている手続審査は相当に立ち入ったものであり、単に第三者委員会が設置されたとか、株価算定機関の意見を得たといった外形的事実のみの審査にとどまるとすれば、それは米国法の実情とは大きく異なり、利益相反のある取引の公正さが担保されなくなるのではないか

と述べておられます。上記決定における小池最高裁判事の補足意見にも触れて、一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われることが求められるとのこと。まさに、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(正確にはその子会社)がニッセンホールディングスを100%子会社化する際のスキームがそのまま「残された課題」事例かと思われます(公開買付ではなく株式交換を活用したスキームなので株主利益擁護に関する論点が多いと思われます)。ニッセンの第三者委員会は、委員会独自のリーガルアドバイザーとともにセブン&アイと直接交渉しましたが、そこでは(少数株主の利益に関わる)第三者委員会固有の論点を議論の対象にしました。しかも、ご承知のとおりセブン&アイ側には著名な有識者を含む4名の社外取締役の方々がおられることも意識して、「セブンの社外取締役がナットクするような理屈」を考えなければならないわけですから、かなり交渉内容はむずかしいものでした(すいません、中身はお話できませんが)。

代理人ではなく、自分が当事者の立場だったこともあり、田中教授の指摘されるとおり、株価算定機関の意見を得たというだけでは到底、株主の皆様に納得してもらえる話にはならないことを痛感しました。セブン&アイとの資本業務提携を締結するに至る2年半前の交渉経過、その後今日に至るまでのセブンとの協力関係、その結果としてのシナジー効果の検証、そしてニッセンの現状の財務状況における最善の選択肢といったところまで、ニッセンの取締役として相当程度経営に関与していたからこそ第三者委員会の意見をとりまとめることができました(その結果として、株価算定機関の算定したレンジの範囲内に数字が収まれば一番良いのですが・・・)。

そういった意味では、株式価格決定を伴うようなM&Aの場面では、子会社化される側の会社においても、また「選択と集中」を推進する親会社側においても、社外取締役や社外監査役の方が、意見形成に関わることの必要性を感じますね(最近はモニタリングモデル、執行と監督の分離といったことが取締役会改革として議論されていますが、状況によっては監督だけに特化することは不可能ではないかと)。一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われたかどうかの判断事由(判断根拠)は、個々のM&Aによって異なるものだと認識しておくべきです。

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2016年10月10日 (月)

東芝会計不正事件-歴代社長立件にはいくつかの壁がある

10月9日の毎日新聞朝刊(社会面)に、「東芝不正会計問題 元PC責任者から聴取 監視委、3社長の指示確認」との見出しで、カンパニー部門の元社長の方が、金融庁から任意で聴取を受けたことが報じられていました(有償版ですが、ネットニュース記事はこちらです)。証券取引等監視委員会の委員長が12月で退任されるようですので(次は元広島高検検事の方のようです)、委員長最後の大仕事として金融庁は組織として気合いが入っているとの風評が聞こえてきますね。しかし、気合いが入る真の理由は、やはり金融行政のグローバルな連携が深まる中で、「エンロンではあれだけ経営者が厳罰を受けたのに、東芝では誰もお咎めなしということはおかしいのではないか」といった海外からの批判が高まっているからだと私は思います

金融庁の積極的な対応とは裏腹に、上記毎日新聞記事でも解説されているように、検察庁はいまだ東芝歴代トップの方々の立件には消極的なようで、刑事責任を問えるかどうかは流動的のようです。まずなんといっても8年ほど前に検察が敗れた長銀事件最高裁判決の存在は大きいと考えます。長銀事件の最高裁では、やはり多くの裁判官が「絶対的真実主義」を重視して有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件を解釈しています。検察出身の古田裁判官だけが唯一「相対的真実主義」を加味して有価証券報告書の虚偽性を判断せよ、といった補足意見を述べておられましたが、おそらくこのあたりが検察庁が及び腰になる一因ではないかと思います。財務報告の視点による東芝社PC取引の見方は、法律家が得意な絶対的真実主義と、会計士が得意な相対的真実主義のどちらを根底におくかで大きく異なるはずです(このあたりを詳しくお知りになりたい方は、初版2013年の拙著「法の世界からみた『会計監査』」をお読みいただければと)。

さらに、今年法案が成立した改正刑事訴訟法における「司法取引」は未だ施行されていませんので、検察による経済事件の立件には、いわゆる「積み上げ捜査」手法が採用されるのが原則です。つまり、歴代の3人の社長さんを立件したいのであれば、その下のカンパニー幹部の方々の身柄も拘束して、事実上の不起訴合意をとりつけたうえで、検察官面前調書を作成することになると思います。そして歴代トップの方々による「プレッシャー」はあったにせよ、カンパニー社長さん方の犯罪事実を確定するわけですが、その際に気になるのが財務アドバイザー(監査法人)の存在です。たしか東芝事件では会計監査人のほかに、アドバイザー業務を提供していた大手監査法人さんがおられた(ように報じられている)わけですが、おそらくカンパニーとの間で、綿密なコミュニケーションが重ねられていたはずです。そうなりますと、歴代トップの方々を立件する際にはカンパニー社長さん方の犯罪に、監査法人も加担していたようにも受け取られかねず、そのあたりの取扱いは大いに悩ましいところではないでしょうか。

そしてもう一つ気になりますのが、金融庁による立件手法に対する検察庁の信頼感ではないかと。先日、東京電力株式のインサイダー取引を巡り、金融庁の法的解釈を覆す司法判断が二つ出ました(情報提供者が勤め先証券会社から解雇処分を受けたのですが、重要事実の伝達にはあたらないとして解雇処分を無効とした判決、そして情報受領者が、金融庁から課徴金処分を受けたのですが、この金融庁の処分が取り消された判決です。新聞にも掲載されていました)。行政処分である課徴金は、その迅速性や柔軟性が持ち味だとは思うのですが、やはり司法相手でガチンコ勝負となりますと、(インサイダー取引を規制する条文の構成が非常に複雑なだけに)事実認定を裏付ける証拠に甘さが残るわけでして、このあたりが検察庁からいま一つ信頼を置かれない要因ではないかと推測いたします(なお、この点は未だ私の「仮説」にすぎませんので、今後は検証が必要になります)。

いずれにしましても、やはり相対的真実主義の考え方を基本として会計処理方法の虚偽性を問うことには大きな壁があるようです。平成17年の会社法改正で、会計帳簿の適時性、正確性が初めて条文化されたわけですから、私は現行法上は過料(行政罰)とされている会計帳簿の虚偽記載を刑事罰化すべきだと考えます(もちろん「納税以外に記帳する意味などない」とおっしゃる中小事業者の方々による反対はあると思いますが)。有価証券報告書や計算書類になる前の会計帳簿の記帳を問題にすることができれば、粉飾事件に対する検察庁の壁はかなり低くなるのではないかと思うのですが。

最後に、検察庁の消極論が現状のままだと、他の上場会社にとって危惧される点があります。エンロン事件以来、アメリカでは役員に対する厳罰化によって、大きな会計不正事件が起きていなことが評価されつつありますので、米国SOX法のような厳罰主義の規制が、日本のすべての上場会社の役員に適用される時代が到来するかもしれません。おそらく上場会社の役員の方々にとってみれば、東芝事件の歴代トップの方々が立件されるほうが胸をなでおろすことになるかもしれませんね。

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2016年10月 5日 (水)

注目度が増す?「第三者委員会」委員選定プロセスの開示

大戸屋さん(東証1部)の現経営陣と創業家との対立解消に向けた「第三者調査」報告書(第三者委員会報告書ではございません)がリリースされました。なるほど、創業家側にも大物弁護士(元東京高検検事長)が代理人となって交渉を担当されていたのですね。新聞報道等で概要は存じ上げておりましたが、創業家側の協力が得られないままに第三者委員会が設置された事情、経緯が報告書末尾で説明されているところはとても興味深いです(すいません、報告書をきちんと読めていないので内容についてはまた追ってコメントさせてください)。

この大戸屋さんの件は不祥事発覚ではないので関係ありませんが、証券取引所の企業不祥事対応のプリンシプルが公表されて以来、第三者委員会設置プロセスを透明化したい、といったご相談が企業側から出されることが増えているようです。ここ5,6年ほど、日弁連の第三者委員会ガイドラインが公表され、これに準拠した形の委員会報告書が作成されることで、相当程度に報告書の信用性は高まったと思います。ところが、この「信用性」を利用(悪用)した「なんちゃって第三者委員会報告書」が増えてきたことも事実。「第三者」とは言いながら、実は経営陣の責任転嫁の隠れ蓑としての意義しか持たない報告書も(かなり多く?)作成されているように思われます。しかし「なんちゃって報告書」かどうかは、外からはなかなか見えにくいため、結局のところ報告書の内容と第三者委員会委員が独立性を有するかどうかで判断せざるをえないのが現実です。

この「独立性」判断にあたり、やはり第三者委員会の選定プロセスが開示されることが望ましいわけでして、もっとも効果的なのは第三者委員会の選定指針を社内ルール化することです。そこで、コンプライアンス経営に熱心な企業(企業担当者)では、不祥事発生時において第三者委員会設置の要否を判断する基準、および設置を決めた際における委員の選任方法に関する基準をあらかじめ社内ルールとして策定しようとの試みが出てきました。私自身も3社ほど、社内ルール策定に関するご相談を受けています。たとえば関西のある上場企業では、大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会が共同運営している「第三者委員会委員推薦名簿」を活用して、その名簿登載者から会社側が(委員長候補者)を選定する、といったルールを検討中です。

会計不正事件等、とりわけ有事に至った後に第三者委員会委員を選定しようとすると、(調査の時間が限られていますので)どうしても顧問弁護士さんからの紹介・・・ということにならざるをえず、候補者の方がどんなに独立公正な立場で職務を全うしようとしても、独立性に疑念を抱かれることになりかねません。したがって平時のうちから、有事を想定して社内ルール化するというのも一案ではないかと思います。弁護士会が推薦した人を委員長に選ぶというのではリスクが大きいのであれば、名簿から企業側が選ぶということにすればかなり会社側の拒絶感も薄らぐように思います。最近は社外取締役の数が増えていますので、たとえば社外取締役や社外監査役さんが中心になって選定作業を進めるというのも検討されるべきではないでしょうか。

もちろん日弁連ガイドラインへの準拠は、第三者委員会の公正性を担保するひとつの判断根拠になりうると考えます。ちなみに会計不正事件に対する第三者委員会報告書のモデルとしては、私は監視委員会の開示課や特別調査課で数年間、開示不正を審査した人たちが作成したものが秀逸だと思いますね。あくまでも私の好みですが、これまで読んだ会計不正に関する報告書の中では、この5年前の第三者委員会報告書は、金融庁で会計不正を摘発してきた任期付公務員の方々(しかも別々の法律事務所の弁護士で構成されているので独立性が高い)による報告書なので、ベストモデルではないか・・・と考えています。

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2016年10月 3日 (月)

会計監査制度の改革に向けた「関係者の本気度」は高まるか?

10月1日(土)の日本内部統制研究学会には多数ご参集いただき、厚くお礼申しあげます。約170名の会員および非会員の方々が早朝から明治大学駿河台キャンパスにお越しになり、私が司会を務めた自由論題の第一会場にも多数の方に来ていただきました(ありがとうございます!)。今年は学会の役員改選期となり、八田進二会長(青山学院大学)が任期満了で退任され、新会長には株式会社プロティビティ・ジャパン社長の神林比洋雄氏が選任されました。ちなみに法曹出身理事としては、池永朝昭氏(アンダーソン・毛利・友常)、武井一浩氏(西村あさひ)、浜辺陽一郎氏(青山学院大学)、遠藤元一氏(東京霞が関)と私が理事に選出されましたが、控え目で奥ゆかしいタイプは私ひとりで、あとはかなり発言力の大きな方ばかりとなりました。

さて、今回の学会で、理事仲間や監査法人の方々とお話をしていて「今後の大きな課題」と思われたのが監査法人改革ですね。先週の日経新聞でも三日にわたって「揺れる監査」という特集が組まれていましたが、やはり当局(金融庁)の「会計監査制度改革」への本気度が相当に高まっているように感じました(なお学会における金融庁の方の記念講演とは関係ありません、あくまでも学会関係者との雑談の中から感じたという意味です)。東芝元経営陣の刑事立件において、ガチンコで検察庁ともやりあうくらいですから、監査法人との関係でも本気度は相当なものであっても不思議ではないですね。とくに上記特集記事の(下)でも報じられていた「10年ローテーション」の実現可能性がどの程度あるのか。海外諸国でも、実際に10年ローテーションを導入して、「我が国にはなじまない」としてもとに戻したところもありますので、日本も当然のことながら「やってみなはれ」となるのでは?

「やってみなはれ」となれば、当然のこととして大手監査法人でも監査体制を充実させる(改革に向けての本気度が変わる)ことになります。たしかに、某大手監査法人では法人としての監査の品質を維持できないといった視点から、会計士さんの選別を開始したことが報じられています。もちろん「一体どこから10年がカウントされるの?」といった問題もありますが、いままで20年~30年、継続して監査してきた企業とのお付き合いも変わるでしょうし、監査法人の選定にあたる監査役(監査委員)の方々の本気度も変わると思います。すでに金融庁で審議が始まっている「監査法人版ガバナンス・コード」は間違いなく導入されますが、外部の有識者が監査法人のガバナンスに向ける目も本気度を増すこととなるでしょう。

ただ、これまで他のエントリーで何度も申し上げておりますとおり、日本の監査法人が「優秀なオオカミ少年」になることは(日本公認会計士協会の後押しがあったとしても)ローテーション制度くらいではむずかしいと予想しています(私個人としては残念ですが)。会計監査人と被監査企業とのバトルは激しくなるかもしれませんが、守秘義務の関係上、「この会社は危険区域にある」といったことを宣言する実務にはなりにくいですね(某商社の株式を空売りした米系ファンドが「日本の監査法人はまったく機能せず」とリリースしても、なにも動きません)。

不適切な会計処理が具体的に判明していない状況において、会社自身が「財務報告内部統制には重要な不備がある」と宣言できる(宣言しなければならない)実務運用がなされていない以上、「オオカミ少年待望論」が実現しないのもやむをえないところかもしれません。したがって今後は、監査制度改革への関係者の本気度が高まるなか、監査法人としても、どのようにオモテとウラの使い分けを上手に行えるのか、品質保証のスキルアップとともに、根回しや、腹芸、外圧の活用等、様々な方向性をもった対処が求められることになりそうですね。

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