旬刊商事法務2113号(2016年10月合併号)の巻頭座談会「グループ・ガバナンス強化に向けた取組みと法的論点(上)」を拝読いたしました。昨日の川井先生のブログ「学者や実務家の先生方が、グループ・ガバナンスを論じる際に"足りない"と感じている(?)こととは?」の中で、「このテーマにご関心のある法務関係者の方々には、必読の座談会だろう」と書かれておりましたので、自称「関心のある法務関係者」としては「これは読まねば・・・」といった気持が高ぶりました。
法律家が会社法の視点からグループ・ガバナンスを考えるにあたっては、司会者である石井先生の項目立ては問題整理のうえで秀逸だと思いました。また舩津先生(同志社大学教授)のご意見「子会社管理、グループ・ガバナンスといったものについて、実務的、具体的なイメージを学界として持てていないということも、多分にある」という点も同感です(だからこそ伊藤忠商事、キリンHDの法務責任者の方々をお招きして具体的事象でイメージを描きたい、といった企画になったように思われます)。川井先生も、
私が推測しているところでは、実務家のうち、外部の法律事務所の弁護士も、子会社管理、グループ・ガバナンス、グループ・コンプライアンスといったものについて、実務的、具体的なイメージを持てていないケースが多いのではないか、と思っているからなのです。そんなの、お前だけだよ、と言われるかもしれませんが・・・(笑)。
とおっしゃっていますが、実は私も恥ずかしながら持てていません(笑)。
ではなぜグループ・ガバナンスの具体的なイメージを持てないのかという点について、少しだけ私見を述べたいと思います(あくまでも仮設ということで、「これが真実」といった確信は持てませんが・・・)。
私は過去に、グループ会社が400も500もある大規模会社の「企業集団内部統制」構築のお仕事を2度ほどさせていただいた経験があります(また、セブン&アイHD傘下の上場子会社ニッセンHDのCSR委員会顧問として、親会社によるCSR統制の現場に2年ほど関与したこともあります・・・「あれ?それって業務執行じゃないの?」といったツッコミはなしということで・・・笑)。いずれの親会社も、私が意見を述べることがおこがましいほどシステムが充実していますので、あくまでもグループ会社の内部統制の構築が中心であり、それぞれ半年、1年の期間、多くのグループ会社のシステム整備や運用チェックに関与いたしました。その結果として私が抱いた感想は「グループ・ガバナンスは法律でコントロールできるものではなく、少なくともコンプライアンスの視点で考えるにあたっては法律の枠外で対処すべき問題が山積している」といったものでした。
まず、なんといっても「指揮命令系統の複雑さ」です。経理や法務、内部監査部門を通じて内部統制の仕組みを変えようとしても、親会社の事業部門から別の注文がグループ会社に届きます。「あれ?半年前に『このようなシステムに変えましょう』と指示したのに、どうして変わってないのでしょうか?」「いやいや、先生、本社の製造第3部の●●部長からクレームがきましてね。事業部からの指示には逆らえないですから・・・」といったやりとりを何度も経験しました。もちろん本社の経理部門からの指示も同様です。人事部は人事政策をまとめるところであって、グループ会社トップの実質的な人事権は本社の事業部門が掌握しています。グループ会社のトップが誰の意見を優先するかは明明白白でして、この複雑な指揮命令系統はもはや法律の世界ではなく、親会社における法務や経理と営業や開発、製造部門との力関係。親会社とグループ会社の歴史に依拠する問題です。
また、グループ間の連携は「人からシステムへ」と変遷しています。本社の経理や法務には優秀な人たちが集まっていますが、彼らの優秀さはどんどん「パーツ化」されています。狭い範囲でスキルが要求され、そこで完結するのであり、ITシステムで集約される全体像については、誰も把握できないこともあります(以前は警察出身の総務担当者と同じように、会計士の資格を持っている人が、経理部内でブラブラしていたりしましたが、最近はめっきりそんな人も減りましたよね)。そのブラックボックスが、時には「責任をあいまいにして処分を免れる」(自らのセクションをみんなで守る)といった人智につながっていたりします。
グループの管理部門は益々IT化によって効率性が追求され、また人がパーツ化されるなかで、グループ間における人の交流はあまり進みません。しかし事業部門においてはご承知の通り、事業戦略の一環として(片道切符もありますが)人事交流は進みます。こうなると、誰の意見が最もグループ会社を動かすかは歴然としています。私もグループ会社の内部統制支援にあたっては、「本社において、どの事業部門の誰に話を通しておくべきか」を考えながら「今度こそグループ会社のシステムは変わるだろうか」と期待をしておりました。そこでは法は無力であり、「根回し」がすべてといったところでしょうか。
先週金曜日、虎ノ門にある大学(サテライト)におきまして、JILA(日本組織内弁護士協会)主催のパネルディスカッションに登壇させていただきました。その準備の際、某社の社内弁護士の方からおもしろい話をお聞きしました。某社では、事業部門と本社管理部門において、それぞれ法務部門が事実上分かれているそうですが、事業部門に近いところの法務担当者は、できるだけ事業部門の要望に沿った形での(ある程度はリスクを承知でゴーサインを出す)支援を行い、本社管理部門の法務部門では「ダメなものはダメ(最終的には経営判断にも関与する)」といったスタンスでお仕事をされるそうです。これ、すごくわかるような気がします。「そんなものは法務の役割ではない!」といったお声も聞こえてきそうですが、それは法務の力が強い会社だからであり、そうでない会社の場合には十分ありえる話ではないかと。
つまり、グループ・ガバナンスの話を会社法という枠組みで考える(法律家がグループ・ガバナンスの具体的なイメージを持てるようになる)にあたっては、それが子会社管理責任(資産管理義務)という論点にせよ、グループコンプライアンス(コンプライアンス配慮義務)という論点にせよ、まずは法務部の力を各企業において高めること(社長が「法務は営業や開発、製造と同じくらい重要なセクションである」と認識するにはどうすればよいか?)を考えるべきだと思う次第です。役員セミナーにお招きいただく機会が増えれば増えるほど、この課題は容易には克服できないことを痛感するところではありますが・・・・・