オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための「発想」-週刊エコノミストの拙稿
本日(10月31日)発売の週刊エコノミスト(11月8日号)に拙稿を掲載いただきました。見出しは「オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための『発想』」というものでして、副題は「形ばかりのガバナンス内部統制では不正は防げない。トップ主導で指揮命令系統の『見える化』が必要だ」といったものです。冒頭で少しだけ自己紹介や当ブログのことも広報(?)させていただきました。
ブログでは書いたことがない斬新な視点も含んでいますので、ご異論・ご批判もあるかとは思いますが、ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。企業不正に関する内部告発をされている方の支援から考えたこと、逆に内部告発によって危機にさらされている企業側を支援した経験から考えたこと、不正が発生しても長期にわたって組織が不正を放置してしまう要因など、私自身の言葉で書きました(自分としては、まだまだこの10倍くらいの字数でないと書ききれない内容なので、いわばダイジェスト版といったところかと)。
企業不祥事を発生させる組織の構造的欠陥というものは、本当はそこに原因(のひとつ)があるのですが、誰も触れたがらない、触れることがタブー視されている、といった特質があるように思います。ただ、その構造的欠陥の修復にターゲットを絞らないと、いずれは企業文化が崩壊してしまって目標を見失った優秀な人材がどんどん流出してしまう結果に至ります。そのうち財務情報にも「優秀な人材」という無形資産の喪失が如実に現れて、さらに企業不祥事体質が慢性化していくという負のスパイラル現象が見受けられます。
私自身「企業が儲けながら不祥事を抑止すること(トライアル&エラー ※)」をずっと考えながら執務していますが、本当にこの両立は難しいですね。組織が大きくなればなるほど、利益の最大化と不正防止を両立させるためには「当該企業固有の企業文化」「組織風土」を潤滑油として意識しなければならないと確信します。世間でカリスマ経営者と呼ばれている方の中には、どうもこのあたりに天賦の才能をお持ちの方がいらっしゃるように感じています(そういった会社の法務部の方々って、世間からのイメージとは異なり、とても仕事がしやすい、ということもあるようですね)。
「働き方改革」「コーポレート・ガバナンス改革」といった言葉が多用される時代です。しかしながら、それらの言葉を自らに都合よく使う人たち、反論をさせないために声高に叫ぶ人たち、ご自身独特の見解を「これが社会の常識だ」と盲信して意見を述べる人たちに惑わされず、組織の活性化のために何が必要か、自社と向き合って真摯に考える姿勢がトライアル&エラーの発想には求められるように確信しています。
※・・・これまで「トライ&エラー」なる用語を使っていましたが、先日「先生、正確にはトライアル&エラーですよ」とご指摘を受けましたので、今後はこちらを使います。
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コメント
toshi先生
いつも楽しみに拝見させていただいております。
週刊エコノミスト早速購入して拝見いたしました。
「社内に居残る不正関与者」の項は、分かりやすかったです。
しかし、「機能しない監査部門」についての項は、オリンパス、東芝の内部監査部門が何かできたにもかかわらず何もしなかったかのごとく見えてしまいました。
公表された東芝の報告書を見れば監査部門は、会計監査を内部監査規程上で外すことを不正発覚の数年以上前に行っています。更に内部監査報告書にも、ロスコンの兆候ありと記載して、新日本監査法人へのシグナルを送っているようにも見えます。
経営者不正に東芝内部監査部門が正面きってできるギリギリの抵抗ラインではなかったでしょうか。オリンパスは監査役に不正関与者がいたため、オリンパスの内部監査が事実や物証を押さえても何かできたとは到底思えません。CEOのウッドフォード氏ですら不正関与経営者らに解任されてしまっていることから、見てとれます。
経営者不正に社会から期待されているのは、まず外部監査のお墨付きであって、その次ぎに監査役や監査委員会です。
部門不正や従業員不正に対して社会が期待するのが内部監査であって、一括りに内部監査が機能しない例としてオリンパス、東芝を扱うのは、無理があるように見えました。
機能しない監査役、監査委員会を構築できてしまう現行法令、上場規則、なんちゃてコンプライが何の痛みも伴わない日本の仕組みに重大な欠陥があるように思えてなりません。
投稿: たか | 2016年11月 2日 (水) 01時50分
さっそくお読みいただき、また、ご意見をいただきまして感謝いたします。なかなか傾聴に値するご意見だと思いました(今後の思考整理のために参考にさせていただきます)。多くの不祥事をみておりまして、自社のガバナンスを見つめ直すことが、いま本当に問われているのだろうな、と思います。
投稿: toshi | 2016年11月 2日 (水) 02時12分
12月21日、日弁連主催の「公益通報シンポジウム」、山口様もパネラーとなるとのこと、楽しみにしています。
法改正の検討とりまとめを本年中に目指す消費者庁の検討会・ワーキンググループ(第13回は11月16日)もよろしくお願いします。
事業者が「利益の増大」を図る過程で「培ってきた(適切な表現ではないかもしれませんが)」また「組織の文化・伝統としてきた」行為やシステムを、「不正」なのではないかを指摘するのは、その時点での多数派に逆らうことになり、「タブー視」されることが実状です。「絶対」といっても過言ではないように思います。物凄い勇気が必要なのですが、通報者が報われることはなく、不利益を被ることは皆さんご存知です。
多数派は往々にして、それなりに権力のある役職者に昇進している場合があるので(過去、利益の増大に貢献してきたわけですから)、まずは「内部監査で問題が見つかっていない」として時間を稼ぎ、いざ発覚の場合は「内部調査には限界があった」という危機管理マニュアルの棒読みを聞かされます。
この際の「限界?」とは「ウソ発見器を持っていませんでした」という意味なんでしょうか?
上記の消費者庁検討会や日弁連シンポが、「公益通報者の【保護】」を広報して頂ける点はありがたいのですが、山口様のおっしゃる「天賦の才を持ったカリスマ経営者」が増えていかないと『不正発見がタブー視されない組織』は実現しないわけです。
しかし「特質・気質・体質とも言える日本の仕組みや法令」を刷新できるような強大なカリスマがどれだけいるのでしょうか?
他力本願でなく、自分から変えてゆけることすれば。。。まずは「経営者のコンプライアンス意識を信じ(妄信していいのか悩みますが、リスク承知で信じてみる)」て、「下部組織からの妨害・嫌がらせに負けず(これも難しいです)に、直接、経営者に通報する」、「回答が無ければ催促する」等の過酷な試行錯誤が必要ですね。
投稿: 試行錯誤者 | 2016年11月13日 (日) 10時09分