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2016年10月13日 (木)

ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題について考える

Tanakakaishahou東京大学の田中亘教授の執筆された本が発売されましたね。予想どおり10月12日現在、アマゾンの商法、会社法部門で売れ筋ランキングトップですが、この厚さで3,800円(税別)とは驚異的です。(いきなり値段の話で恐縮ですが)。東京大学出版会さんとしても、「この本は間違いなく売れる!」とマーケットの動向を想定したうえでの価格決定なのでしょうね。

ちなみに、私が執筆した論文の意見も、(通説に対する反対説として)名前入りで本文5行にわたって引用していただいておりますが(280頁参照、田中先生の意見まで含めると9行)、今後、法学部生やロースクール生の皆様にお読みいただく基本書に、拙意見を引用いただいたことはたいへん光栄でございます(どうもありがとうございます。せめて第2版くらいまでは残しておいてください>田中先生)。司法試験受験生の基本書定番は「リークエ会社法」(リーガル・クエスト会社法第3版 有斐閣)だと思いますが、今後はこの田中会社法を活用する受験生も増えるでしょうね。

さて、その田中亘教授が、判例雑誌「金融・商事判例」1500号の巻頭において「ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題」という小稿をお書きになっています。株式価格決定申立事件における裁判所の「取得価格決定方法」に大きな方向性を与える最高裁決定として、今後のM&A実務に大きな影響を及ぼす決定であり、当ブログでもすでに2度ほど取り上げました。

この最高裁決定の判断過程は、これまで田中教授が論文等で主張していた流れに沿うものですが、それでも「残された課題」があると述べておられます。それは、親子会社間の取引のような、利益相反のある取引が、「一般に公正と認められる手続き」により行われたかどうかについて、裁判所がどの程度立ち入った審査を行うべきか、という点だそうです。

裁判所は手続面を重視した審査を行うべきであるが、米国判例法で示されている手続審査は相当に立ち入ったものであり、単に第三者委員会が設置されたとか、株価算定機関の意見を得たといった外形的事実のみの審査にとどまるとすれば、それは米国法の実情とは大きく異なり、利益相反のある取引の公正さが担保されなくなるのではないか

と述べておられます。上記決定における小池最高裁判事の補足意見にも触れて、一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われることが求められるとのこと。まさに、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(正確にはその子会社)がニッセンホールディングスを100%子会社化する際のスキームがそのまま「残された課題」事例かと思われます(公開買付ではなく株式交換を活用したスキームなので株主利益擁護に関する論点が多いと思われます)。ニッセンの第三者委員会は、委員会独自のリーガルアドバイザーとともにセブン&アイと直接交渉しましたが、そこでは(少数株主の利益に関わる)第三者委員会固有の論点を議論の対象にしました。しかも、ご承知のとおりセブン&アイ側には著名な有識者を含む4名の社外取締役の方々がおられることも意識して、「セブンの社外取締役がナットクするような理屈」を考えなければならないわけですから、かなり交渉内容はむずかしいものでした(すいません、中身はお話できませんが)。

代理人ではなく、自分が当事者の立場だったこともあり、田中教授の指摘されるとおり、株価算定機関の意見を得たというだけでは到底、株主の皆様に納得してもらえる話にはならないことを痛感しました。セブン&アイとの資本業務提携を締結するに至る2年半前の交渉経過、その後今日に至るまでのセブンとの協力関係、その結果としてのシナジー効果の検証、そしてニッセンの現状の財務状況における最善の選択肢といったところまで、ニッセンの取締役として相当程度経営に関与していたからこそ第三者委員会の意見をとりまとめることができました(その結果として、株価算定機関の算定したレンジの範囲内に数字が収まれば一番良いのですが・・・)。

そういった意味では、株式価格決定を伴うようなM&Aの場面では、子会社化される側の会社においても、また「選択と集中」を推進する親会社側においても、社外取締役や社外監査役の方が、意見形成に関わることの必要性を感じますね(最近はモニタリングモデル、執行と監督の分離といったことが取締役会改革として議論されていますが、状況によっては監督だけに特化することは不可能ではないかと)。一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われたかどうかの判断事由(判断根拠)は、個々のM&Aによって異なるものだと認識しておくべきです。

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