会計監査制度の改革に向けた「関係者の本気度」は高まるか?
10月1日(土)の日本内部統制研究学会には多数ご参集いただき、厚くお礼申しあげます。約170名の会員および非会員の方々が早朝から明治大学駿河台キャンパスにお越しになり、私が司会を務めた自由論題の第一会場にも多数の方に来ていただきました(ありがとうございます!)。今年は学会の役員改選期となり、八田進二会長(青山学院大学)が任期満了で退任され、新会長には株式会社プロティビティ・ジャパン社長の神林比洋雄氏が選任されました。ちなみに法曹出身理事としては、池永朝昭氏(アンダーソン・毛利・友常)、武井一浩氏(西村あさひ)、浜辺陽一郎氏(青山学院大学)、遠藤元一氏(東京霞が関)と私が理事に選出されましたが、控え目で奥ゆかしいタイプは私ひとりで、あとはかなり発言力の大きな方ばかりとなりました。
さて、今回の学会で、理事仲間や監査法人の方々とお話をしていて「今後の大きな課題」と思われたのが監査法人改革ですね。先週の日経新聞でも三日にわたって「揺れる監査」という特集が組まれていましたが、やはり当局(金融庁)の「会計監査制度改革」への本気度が相当に高まっているように感じました(なお学会における金融庁の方の記念講演とは関係ありません、あくまでも学会関係者との雑談の中から感じたという意味です)。東芝元経営陣の刑事立件において、ガチンコで検察庁ともやりあうくらいですから、監査法人との関係でも本気度は相当なものであっても不思議ではないですね。とくに上記特集記事の(下)でも報じられていた「10年ローテーション」の実現可能性がどの程度あるのか。海外諸国でも、実際に10年ローテーションを導入して、「我が国にはなじまない」としてもとに戻したところもありますので、日本も当然のことながら「やってみなはれ」となるのでは?
「やってみなはれ」となれば、当然のこととして大手監査法人でも監査体制を充実させる(改革に向けての本気度が変わる)ことになります。たしかに、某大手監査法人では法人としての監査の品質を維持できないといった視点から、会計士さんの選別を開始したことが報じられています。もちろん「一体どこから10年がカウントされるの?」といった問題もありますが、いままで20年~30年、継続して監査してきた企業とのお付き合いも変わるでしょうし、監査法人の選定にあたる監査役(監査委員)の方々の本気度も変わると思います。すでに金融庁で審議が始まっている「監査法人版ガバナンス・コード」は間違いなく導入されますが、外部の有識者が監査法人のガバナンスに向ける目も本気度を増すこととなるでしょう。
ただ、これまで他のエントリーで何度も申し上げておりますとおり、日本の監査法人が「優秀なオオカミ少年」になることは(日本公認会計士協会の後押しがあったとしても)ローテーション制度くらいではむずかしいと予想しています(私個人としては残念ですが)。会計監査人と被監査企業とのバトルは激しくなるかもしれませんが、守秘義務の関係上、「この会社は危険区域にある」といったことを宣言する実務にはなりにくいですね(某商社の株式を空売りした米系ファンドが「日本の監査法人はまったく機能せず」とリリースしても、なにも動きません)。
不適切な会計処理が具体的に判明していない状況において、会社自身が「財務報告内部統制には重要な不備がある」と宣言できる(宣言しなければならない)実務運用がなされていない以上、「オオカミ少年待望論」が実現しないのもやむをえないところかもしれません。したがって今後は、監査制度改革への関係者の本気度が高まるなか、監査法人としても、どのようにオモテとウラの使い分けを上手に行えるのか、品質保証のスキルアップとともに、根回しや、腹芸、外圧の活用等、様々な方向性をもった対処が求められることになりそうですね。
| 固定リンク
コメント
「10年ローテーション」とか導入したら、それだけで監査報酬、引き上げですよね。それを前提で制度化してほしい。だって、昔からの会社を知っているという知識のない人たちが監査を受任して、10年経ったら自分たちの顧客で無くなる前提で距離感持って監査をする。そしたら、20年、30年来監査をやっている監査法人の監査より客観性は出るけれども、効率は落ちる。会社の人には当たり前の業界の知識を質問されてしまう。「そんな質問いまさらするの?」という人たちにいろいろ説明するなら説明資料も増えてしまう。たくさん資料を出せば、読むのにも時間がかかるから、監査時間は増える。
監査報酬が増額になる前提で導入しないなら、無責任に制度を変えたりしないでほしい・・・と思います。私は、今は、上場企業の監査をしていないので、そこに利害はありません。むしろ社外監査役なので、監査法人を選ぶ際には、不効率さに伴う監査時間のアップはどれくらいで、監査報酬のアップはそれに見合っているかを検討しなければいかないことになります。
投稿: ひろ | 2016年10月 3日 (月) 13時16分