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2016年11月30日 (水)

ガバナンス・コードは「監査役会の実効性評価と概要開示」を要請すべきではないか

企業の情報管理に大きな影響を及ぼしそうな最高裁決定が出たようですね(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。当ブログでもかつて金商法166条の解釈問題として取り上げた事件に関する上告審です(2013年のブログエントリーーはこちらです)。近時、フェア・ディスクロージャー・ルールの取り扱いなども議論されていますので、企業の情報開示に向けた取り組みは要注意ですね。

さてここからが本題ですが、GPIFの最高投資責任者の方が「今後は株式運用にESG投資の要素をとりいれる」姿勢を明らかにして反響を呼んだことが、本日(11月30日)の日経朝刊一面に掲載されていました。日本企業のガバナンスを論じるにあたり、その役割が海外からわかりにくいとされている監査役(監査役会)制度も、ガバナンス投資が注目される中で(もうすこし?)光があたっても良いのではないかと、個人的には思います。

11月24日に公益社団法人日本監査役協会のHPに3本の興味深い研究報告がリリースされました。(①「会計不正防止における監査役等監査の提言-三様監査における連携の在り方を中心に-」 ②「『コーポレートガバナンス・コード(第4章)』の開示傾向と監査役としての視点-適用初年度における開示分析-」 ③「選任等・報酬等に対する監査等委員会の意見陳述権行使の実務と論点-中間報告としての実態整理-」)

私的には③の監査等委員会の実態調査と実務上の論点整理がとても興味深いのですが、なるほど・・・と得心したのが監査役会の実効性評価に関する提言です。協会によるアンケート調査結果では、9割の会社が「監査役会の実効性評価はやっていない(検討中との回答も含めます)」と回答されていますが、上記①の会計不正防止における監査役等監査の提言では、今後実施すべきであると明記されています。また、②のガバナンス・コードの開示傾向の中でも、監査役の視点として監査役会の実効性評価も検討すべきであると述べられています。

多くの会社が「監査役会の実効性評価などやっていない」と回答している中で、協会がやるべきだと述べたところはナイスですね(これを決断された委員の方々に敬意を表します)。これは「監査役等監査」とあるように、監査役会だけでなく、監査委員会も、また監査等委員会もやるべきだ、ということだと思いますので、ぜひともガバナンス・コードの見直しの中では監査役会の実効性評価の導入を要請していただきたいと思います。私からすると、「当社では常勤監査役を中心に、監査役制度の実効性評価を行っています。その評価プロセスと結果の概要は以下のとおりです・・・・」と積極的に動く監査役会の存在は、それだけで監査環境の整備に資するものと考えます。

たしかにコードの本家本元である英国では監査役(監査役会)という制度はありませんが、日本のガバナンス・コードでは監査役制度も「取締役会の役割・機能」の一翼を担うものとして捉えられている以上、日本独自の監査役会の実効性評価とその概要開示を(本則市場に上場する企業を対象とした)補充原則の中に含むというのも十分考えられるのではないかと(また、エクスプレインする企業の理由にも興味があります)。

社外取締役を2名以上選任せよ、と要請するガバナンス・コードの影響からか、監査等委員会設置会社に移行する上場会社が700社にも及ぶということですが、まだまだ圧倒的に監査役会設置会社が多いのが現実です。「海外から(監査役制度は)わかりにくい」と指摘されていますが、むしろ監査役の活躍風景を海外に紹介して、その実効性を理解してもらうためにも実行性評価とその開示は有益ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

11月 30, 2016 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年11月29日 (火)

社会福祉法人改革によるガバナンスの強化の行方は?

今朝(11月28日)の日経新聞では監査法人や同族企業、そして社会福祉法人に関する企業統治が話題になっていました。そもそも経営諮問委員会のようなものを設置することが「ガバナンス改革」とまでいえるのかどうかはやや疑問ですが、内部の方々だけで組織運営していたところに外部の目を入れるという意味ではやはり改革といえるものがある、ということなのでしょうね。ともかく社会福祉法人の場合には、理事を選出する母体である評議員会の委員に(強制的に)社外者を選任させる、財務規律の強化を図る・・・ということなのでこちらは正真正銘「ガバナンス改革」といってもよいかもしれません。

ところで新聞記事(法務面特集記事)では、社会福祉法人のガバナンス改革はコンプライアンス経営のため、ということで「果たして理事らの不正を改革によって防止できるか」という視点がクローズアップされていました。しかし、私が過去に関与したいくつかの社会福祉法人の事例では、そもそも社外役員が就任した瞬間に、過去の不正が発覚したというものばかりでした。上場会社の役員経験者の方々が、ガバナンス構築に向けて組織内の調査を開始したとたんに、長年社会福祉法人内で行われていた不正が暴かれた・・・というものです。社会福祉法人のガバナンス改革は、上場会社にガバナンス・コードが導入されるのとはワケが違うということです。

したがって、私の感覚からすると、社会福祉法人のガバナンス改革の一番の目的は「今後、不正を防止できるか」といったゆるふわのマッタリしたものではなく、「現在行われている多くの不正をどれだけ暴くことができるか」という喫緊の課題解決だと考えます。私が過去に関与したものは、いずれもかなり規模の大きな法人だったので(事件は)地方新聞にも掲載されましたが、それほど騒がれない程度の不正が起きる比較的規模の小さなところまで含めると、たいへんな数の不正が暴かれるのではないかと推測いたします。

当然のことながら社会福祉法人では、現在「不正をどうやって隠すか、不正と言われないために、これまでの慣習をどう変えていくべきか」「社外の人材といっても、話のわかる昔からの知り合いでよいか」といったことに躍起になっておられるところもあると思いますし、これを指南するコンサルタントの方々も大忙しかと存じます(もちろん不正とは無縁の立派な社会福祉法人もたくさんあります)。いずれにしても、過去はどうあれガバナンス改革によって将来的に経営の健全化が図られることは好ましいと思います。ただ、社会福祉法人には「行政からの不当なイジメに対する正当防衛として、不正をしないと経営がやっていけない、不正をやることで、なんとか地域の福祉に貢献できている、健全化することで地域の弱者を切り捨てないといけない」といった切ない事情も多々あるので、そのあたりのジレンマが社会福祉法人統合化(=サービスの偏在化)とともに表面化する気がいたします。

11月 29, 2016 行政系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月24日 (木)

不正を公表しない企業判断に対するいくつかの素朴な指摘

先週土曜日に少しだけご紹介したデロイトトーマツさんの「企業の不正リスク実態調査2016」ですが、同社HPでリリースされているエクゼクティブサマリーを見ただけでもおもしろい調査結果が出ています(上場会社402社からの回答結果だそうです)。なお、私の手元には全調査結果とその評価に関する冊子がありますが、こちらにも更におもしろい(?)調査結果が記されていますので、ご興味のある方は同社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

HPにも掲載されている調査結果として、不正事実の公表判断に関する回答が集計されています。不正が判明した上場会社について、その事実を公表したかどうか、という質問に58%の企業が「公表しなかった」と回答しています(2年前の調査時点と比べると、前回は42%の企業が公表しなかったとありますので、ずいぶんと増えていますね)。その理由は公表する程度の重要性に乏しかったから、とのこと。たしかに投資家の判断に影響を及ぼす程度でなければ公表する必要はないと考えられますし、最近は不正公表の要否に関する社内基準を設定している企業も増えていますので、その影響かもしれません。

しかし、「重要性が乏しいので公表しなかった」という理由には注意が必要です。まずなんといっても重要性に乏しいと社員が考えたからこそ、素直に上司に報告した可能性が高いということです。ご承知のとおり、不正はなかなか社内でも発見できません。ましてや重要性が高く、自らの部署にマイナスとなるような不正はなかなか上司に報告が上がってきません。どうせ自分の部署の責任が問われるような不正であれば、「部署の外に見つからないこと」に賭けるのが通常の感覚であり、仲間内の義理人情を大切にする部署の常識かと。つまり重要性の高い不正は多くの会社で水面下に横たわっているということです。

つぎに、デロイトトーマツさんの実態調査では、不正事実を公表しなかった企業のうち9割が「損害金額が5000万円以下だった」ということで重要性を認めなかったとあります。たしかに定量的判断では重要性が乏しいのかもしれませんが、質的な判断ではどうなのでしょうか?犯罪に近いような不正、多人数が関わっている不正、経営者に近い立場の方による資金流用事案等、悪質なものであれば、たとえ損害金額が5000万円以下であったとしても内部統制に及ぼす影響は大きく、公表の必要性は高いと思われます。ちなみに行政当局のリスクアプローチによる不正絞り込み手法の中でも、今後は会計不正以外の不正から会計不正事案を絞り込むことも検討されているようです。

さらに、社内調査の実態からみて、不正の疑惑をどこまで深堀りして調査を行ったのか、という点です。何度も申し上げいるとおり、最近の会計不正事件の調査は「件外調査」がとても重要です。不正が発覚した場合に、その不正が組織のどこまで広がっているのか、いつから広がったのか、というタテ・ヨコの件外調査をフォレンジック手法を活用して徹底することが求められます。しかしこれは社長の徹底した指揮命令がなければ困難です。内部通報や内部告発がなされた疑惑だけに焦点をあてれば損害金額が5000万円以下であったとしても、件外調査の結果、その10倍程度の損害金額に膨れ上がるというのも稀ではありません。

上記デロイトトーマツさんの調査結果にも記載されているように、近時は日本取引所による「企業不祥事対応のプリンシプル」が公表され、不祥事発覚企業の自浄作用に関心が向けられています。公表の要否は自浄能力判断にとって極めて重要なポイントになりますので、自社固有の常識にとらわれることなく、世間の視点で判断する必要があります。

11月 24, 2016 不祥事の適時開示 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月23日 (水)

GPIFの運用委託先が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」に選出されました。

(といっても私ではございませんが)私が社外取締役を務めております大東建託が、このたびGPIFの運用委託先が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」を公表する企業(6社)に選ばれました。花王さん、オムロンさん、荏原製作所さん、ディスコさん、資生堂さんに並んで選出されたということは(私のことのように?)光栄に存じます。選出理由として、コード73項目に独特の立場から解説をしており、これまでの企業姿勢との整合性もあり、経営の透明性が感じられるとのことで、まさに評価をしていただきたい点が評価されたものと思います。どうもありがとうございます<m(__)m>。

ちなみに花王さんの選出評価の中に「これまでコンプライとしていたものを、真摯な姿勢で見直した末にエクスプレインに転じた姿勢」と記されています。これ、私もまったく同感です。アリバイ工作ではなく、本気でコードを社内に浸透させようと思って検討してみると、実はコンプライしているというものではなく、エクスプレインしなければならないということがわかった」という事態に直面するはずです。世間ではコンプライすることが重要だと言われる中で、うちの会社ではコンプライしないほうが企業価値を向上させることができるのではないか、と思ったときに堂々とエイクスプレインすればよいのではないでしょうか。また、今後コンプライする予定だと述べる場合でも、進捗状況を機関投資家に示すことは「ガバナンス改革に前向きな姿勢」が理解されるものと思います。

GPIFさんでは、「優れた統合報告書」も合わせて発表しているので、そこで示されている会社さんの統合報告書も、今後の参考としてじっくり拝読させていただきます(ちなみに9社というのはカプコンさん、オムロンさん、味の素さん、ポーラ・オルビスHDさん、丸井グループさん、三菱商事さん、大和ハウス工業さん、堀場製作所さん、三菱重工業さんとのこと。)

11月 23, 2016 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年11月22日 (火)

上場会社「経営者確認書」に込められた社長コミットメントの本気度

本日(11月21日)発売の週刊エコノミストに、「異常な東芝のバイセル取引、旧経営陣不問なら資本市場に禍根」と題する浜田康氏の論稿(3000字)が掲載されています。前にも申し上げたとおり、浜田さんはもうすぐ証券取引等監視委員会の委員に就任されるご予定ですので注目度は抜群ですね。浜田さんの名著「粉飾決算」でも、東芝会計不正事件に対して厳しい指摘をされていましたので、今回の論稿も「米国会計基準違反は明らか」といったご解説を含め、とても参考になりました。

とりわけ金融庁と検察庁との意見対立の諸要因に触れておられ、長銀事件最高裁判決で検察が慎重になるのもわかるが、10年前と現在とでは、資本市場を取り巻く環境変化は極めて重要であり、司法が長銀事件の判断をそのまま東芝事件に持ち込むことは不適切だと述べておられます。その理由とするところは上記エコノミスト誌をお読みいただくとして、私も浜田さんが指摘されるように、10年前と今とでは社会情勢が異なる、資本市場の健全性確保の要請は高い、という点は全く同感です。ただ、司法判断を立件の方向へ変えるためには、資本市場を取り巻く環境が変わったということだけでなく、もう少し越えるべきハードルがあるように感じるのです。

たとえば「会計基準と罪刑法定主義(憲法31条)との関係」です。刑事立件のためには、会計事実が存在しないにもかかわらず存在するかのような表示がされている場合であれば「公正なる会計慣行違反」ですんなりいきます。しかし、会計事実はあるけれども、その会計処理に問題がある場合、つまり「会計慣行」自体を問題とする場合は別途検討が必要です。金商法が米国会計基準にお墨付きを付与している(日本国内で使ってもよいとする権原を付与する)ことはわかるのですが、では米国会計基準が日本の刑事処分を下すための法令と同等の正当性が認められるためには、どうしても「罪刑法定主義」との関係をクリアする必要があります。

そこで、米国会計基準(の解釈指針)は法と同等の慣行性、周知性は認められるのか、またその慣行性や周知性があることを実行者は認識していたのかどうか、PC取引の取引不正だけで、東芝全体の業績に対して投資家の判断を誤らせるだけの重要性があるか、またそのことを実行者が認識していたかどうか、そしてその実行者は旧経営陣との間で、このような事実を共有していたかどうか、といった点です。また「同業他社では同じようなことが慣行としてされていなかったのか』という点も、可罰的違法性や故意を論じるにあたっては重要になってくると思います。

もう一点、いつも会計専門職の方々とお話をしていて、法律家と会計専門職との間で認識の差があるように感じるのが「経営者確認書」の持つ意味です。監査法人さんは、経営者が「間違いありません」と財務報告の作成責任にコミットするからこそ適正意見を出すわけです。したがって、この経営者確認書はとても重視されます(受託者責任を尽くすという意味でも重要視されますよね)。しかし法律家はかなり形式的なものだと理解しているのではないでしょうか。たとえば手術の前に、患者さんは「どんな事態になっても私は文句を言いません」という同意書を提出しますが、ミスが発生すれば普通に損害賠償請求権を行使することはあたりまえです。あくまでも「それくらいの気持ちで財務諸表を作成しました」といったものではないかと。金商法上の内部統制報告制度には独自の開示規制(民事上及び刑事上)が条文化されているにもかかわらず、この10年間一度も問題にされたことがないのも、おそらく同様の理由からだと思います。

私も「10年前とは保護法益に関する社会的評価が大きく変わったのです」と言って司法判断の変容に期待したいのですが、どうしてもこのあたりをクリアしなければ最高裁を説得することはむずかしいように感じています。また、私なりの「ではそうすればよいか?」といった解決策は別途、講演等で述べたいと思います。

11月 22, 2016 不正を許さない監査 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年11月21日 (月)

電通過労死事件-企業行動規範を三次元で考える

11月17日、新人社員の方の過労自殺事件、その後の強制捜査を受けて、電通さんは「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などの言葉が並ぶ「鬼十則」という仕事の心構えについて、来年の社員手帳から削除することを検討している、と報じられています(たとえばロイターニュースはこちら)。

Obekka23_3現役の電通社員の方々からすれば、上記ニュースにもあるように電通の営業指針が廃止されることは衝撃的でしょう。そういえば4年ほど前に読んだホイチョイ・プロダクションズさんの「戦略おべっか」の中に、この「鬼十則」のいくつかの条項について、その意味するところがストーリーとして解説されていました(本書は最近電通マン36人に教わった36通りの『鬼』気くばり」と改題されて 文庫化されています)。

ところで、なぜこのような営業活動のための行動準則が作成されたのか、つまり、こういった準則作成に至ったエピソードや、社員が準則を実践に移すための動機付けとなるストーリーのようなものが頭に思い浮かぶものでなければ、「鬼十則」は現場の行動指針にはならないと思います。鬼十則と一般の企業の行動規範とを同等に扱うのが適切かどうかはわかりませんが、私がコンプライアンス経営のお手伝いをするときも、企業行動規範の文言を社員の方々に覚えていただいたり、カードとして携行していただくだけでは不正予防の役に立たないと感じています。

むしろ、文言は「うろ覚え」であったとしても、企業行動規範が出来上がった歴史や失敗談、過去に行動規範が社員の行動に及ぼした影響などから、行動規範を具体化するストーリーを連想してもらうことが一番効果的だと思います。 おそらく電通さんでも、鬼十則の文言自体よりも、各条項が具体的にどのような行動を求めているか、過去にこれを実現してどのような成功例があったのか、実現できずにどのような失敗例があったのかといったストーリーのほうを身につけておられるのではないでしょうか。つまり、文言としての鬼十則が廃止されたとしても、社員の心得としての鬼十則は時間軸をもって組織に形成されてきたものである以上、いったん身についた行動規範は簡単には変えることはできないように思います。

たとえば上記ニュースにあるような「取り組んだら放すな、殺されても放すな」という文言も、どのようなエピソード、ストーリーの下で作成されたのか、そのあたりまで考えたうえで廃止か存続か検討すべきではないかと。もちろん、現在の「働き方改革」の中で「使われている文言が不適切だ」と判断すれば、文言を修正したり、その条項だけを削除するということも検討すべきです。競争戦略としての社内ルールであるにもかかわらず、これを全廃するという行動は、なんとなく「社外向けポーズ」の意味合いがあるように思えてなりません。本当に社内改革をするのであれば、この鬼十則が作成された自社ストーリー自身を否定するような行動が求められると考えます。

世間ではこれで電通さんの「企業理念」に変化がみられたと評価してもらえるかもしれませんが、社内的には「理念など絶対に変えるつもりはなく、単に早く有事を収束させるための戦略にすぎない」と受け取られているのかもしれません。ちなみに上記「戦略おべっか」の中に、電通式の不祥事謝罪方法が記載されています。それによると、今回の電通さんの過労死事件にあたり、いつ謝罪会見をするのか・・・・、それは上記書籍をお読みいただくとおわかりになるかと思います。

11月 21, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月18日 (金)

ガバナンス、コンプライアンス経営にとって重要なリリース(3本)

さて、本日は珍しく2本目のエントリーとなりますが、コーポレートガバナンスや企業コンプライアンスのトレンドを語るために重要なリリースがいくつか出ましたので(私自身の備忘録の意味もあり)お知らせいたします。また来週あたりから、個々のリリースを取り上げていきたいと思います。

ひとつめはコーポレートガバナンス関連ですが、未来投資会議構造改革徹底推進会合「企業関連制度改革・産業構造改革―長期投資と大胆な再編の促進」会合(第2回)配布資料が公開されました。構造改革の徹底推進とあるように、今後ますます国策としてのガバナンス改革が推進されるようで、注目は「法律上の取締役会以外の事実上の意思決定機関への関心」ですよね(たとえば相談役、顧問等)。

ふたつめはコンプライアンス経営の関連ですが、私が委員を務めております消費者庁公益通報者保護法実効性向上検討委員会ワーキンググループ報告書が公表されました。4月~11月のワーキンググループの会合を終えまして、(検討会親会の審議を通じて)法改正への提言が中心になっております。今後は経済団体さんや関係省庁さんの関心が(おそらく)向けられるものと思います。ちなみに一昨日の検討会親会では「そもそも公益通報者保護法を消費者庁が担う意味はあるのか?個人情報保護法のように、別途委員会形式に権限を委譲したほうが良いのではないか?」といった根源的な議論も行われました。

そして三つ目が、やはりコンプライアンス経営に関するものですが、お待ちかね、デロイト・トーマツさんが「企業の不正リスク実態調査2016」の結果を発表しました。いやいや、この実態調査の結果はなかなかおもしろいといいますか興味深いものになっております(不正が発覚した企業の多くが「当社では不正を公表しなかった」と回答されていますね)。回答数も300社を超えていますが、企業が不正とどのように向き合っているのか、今後また分析して当ブログでコメントさせていただきます。

11月 18, 2016 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

監査等委員会設置会社のガバナンス改革は遅延しているか?

ひさしぶりの「監査等委員会設置会社」ネタでございます。議決権行使助言会社ISSの2017年度議決権行使助言ポリシーにおいては、従前の予想に反して「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」は見送られました(さすがに「社外取締役を4名以上選任しなければ反対票を投じる」というポリシーはガバナンスの現状とかい離しすぎている、との判断でしょうか)。とはいえ、やはり監査等委員会設置会社が本当にモニタリングモデルへガバナンスの転換を進めているかどうかはかなり懐疑的だというのが実感です。

本日(11月17日)の日経朝刊において「監査委員設置会社 企業統治進まず」といった見出しで、昨年施行の改正会社法で始まった「監査等委員会設置会社」の間で、トップの後任人事を決める指名委員会の設置が滞っている(つまり、監査等委員会に移行した会社の実質的なガバナンス改革は監査役会設置会社よりも進んでいない)」といった記事が掲載されていました。

ご承知のとおり、当ブログでは監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行すること(定款変更)について、かなりネガティブに捉えていますので、上記記事への反応としては

「ほらみろ、やっぱり監査等委員会設置会社に移行する会社ってガバナンスに後ろ向きな会社だってことだよね。口では取締役会改革(執行と監督の分離)、権限委譲による迅速経営の推進と言っておきながら、単にガバナンス・コード対応の隠れ蓑に使っているだけでじゃないか!」

と言いたくなるところです。ただ、(監査役会設置会社と比較して)指名委員会を設置している企業数が少ない、仮に指名委員会を設置していたとしても、その開催回数が少ない、といった事実から、監査等委員会設置会社は企業統治向上が進んでいないといった結論を導けるかどうかはまた別途検討する必要があります。なぜなら監査等委員会にはそもそも指名委員会や報酬委員会に準じた役割が会社法上認められているからです。

監査等委員会には、会社法上、監査等委員以外の取締役の人事、報酬に関する意見形成職務及び(意見がある場合に)選定された監査等委員による株主総会上での意見陳述権が認められています。つまり、私の個人的見解としては、監査等委員である取締役さんには指名委員会や報酬委員会に準じた役割が法定されていて、社長人事や社長報酬についての意見形成のための職務を怠れば会社法違反であり善管注意義務違反になる、と考えています(まぁ、これは当然だと思うのですが・・・)。

したがって、監査等委員会設置会社においては、そもそも任意の指名委員会や報酬委員会を設置する必要はなく、監査等委員会がその役割を担えばよいということです。つまり今回の攻めのガバナンスの精神を取り入れて、積極的に監査等委員会設置会社に移行した会社ほど、任意の指名委員会は設置していないということも十分考えられます。企業統治に熱心な会社も、そうでない会社と同じように「指名委員会は設置しない」という判断がなされている可能性がありそうですね。

監査等委員会設置会社に移行した会社において、「企業統治が進んでいるかどうか」を判断する基準としては、むしろ「社外監査役のときと、監査等委員である社外取締役に就任した現在とで報酬は変わったかどうか」という点を調査するのも検討すべきです。ガバナンス改革に熱心で、取締役監査等委員が何をすべきか、といったことを真剣に考えれば、職務に要する時間やリスクからみて、監査等委員への就任にはより高い報酬が付与されてもよいのではと思います(もちろん、監査の重要性からみて従来から社外監査役の報酬も高いという会社もあるので全ての会社にあてはまるというわけではございませんが・・・)。

11月 18, 2016 監査等委員会設置会社 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月16日 (水)

会計監査に関する企業調査(監査法人に変化はあるか?)

かなり話題に乗り遅れてしまって恐縮ですが、ロイターさんの企業調査「監査法人の対応、半数が変化を実感」の記事を読みました。東芝会計不正事件を機に監査法人側の監査の姿勢が変わったと実感している企業(回答数は230社ほどだそうです)が半数に達し、また自社においても財務報告に関するコンプライアンス強化を実践している企業が半数に達したそうです。

最近は監査法人さんのサイドで有事対応に関与することが増えましたが、有事対応の場面でも、監査法人さんの姿勢に明らかな変化がみられますね。現場社員の会計不正が認められた場合、以前であれば統制環境に著しい不備が認められないケースでは「経営トップは推定シロ」でした。しかし最近は、企業側から「トップは不正と無関係」といった心証形成に足りる証憑が提出されないかぎり「トップは推定クロ」の前提で会社側と向き合うことが多いようです。最近の監査法人に対する厳しい処分を経験して、監査法人側にも「報酬のために企業側に甘い顔を見せることによるリスクを考えるならば、そもそも内部統制に問題のある企業との契約は早期に解消したほうが無難」といった意識が高まっていると思います。

実際に企業側と対峙してみると、税務会計、管理会計、制度会計の数字を作っているのは経理担当部門ですが、まず経理担当部門が経営陣にどれだけ力を持っているかは企業によってマチマチだと感じますね。ただ制度会計については、どんな企業でも経理部門は会計処理方針に頭を悩ますわけです。通常であれば経理部門が頭を悩ませるような処理が求められる案件は「決算の仮締め」よりも相当前に経理部門に上がってくるはずです。しかし、経営陣の不正関与が疑われる案件では、この「通常案件」とはかなり異なり、決算数値確定の直前あたりに突然「天の声」が経理部門に舞い降りてきます。そのあたりのプロセスの異常性が認められますと、「推定クロ」を覆すのはむずかしいですし、これこそ会計の世界における「相対的真実主義」の存在意義が如実にあらわれる場面です。

ところで会計不正に関する企業の実態については、もうすぐ、某監査法人系の調査機関からたいへん興味深いアンケート調査結果とその分析結果が公表される予定です。リリースされましたら、また当ブログでご紹介したいと思います。

11月 16, 2016 会計監査人の内部統制 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年11月14日 (月)

スチュワードシップ・コードの見直しと上場会社の「守りのガバナンス」の関係

11月8日、金融庁のHPに「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の意見書(3)に関する素案が公表されました。主に機関投資家のスチュワードシップ活動の実効性確保のための提言が盛り込まれていまして、やはり中心課題は機関投資家(主に運用機関)の利益相反規制です。議決権行使結果の個別開示と機関投資家のガバナンス改革の是非が論じられています。

11月13日の日経電子版の記事では「議決権行使・個別開示で攻防 生保業界と金融庁」という見出しで個別開示に難色を示す生保業界の様子が描かれています。これまでも個別開示は2度ほど金融庁会議で提案が出たけども、そのたびに生保業界の厚い壁に阻まれてきたそうです。生保の営業社員がお客様企業の社内に入れない時代、団体保険を獲得するためには生保系運用機関としても親会社(生保会社)の顔色を見ながら議決権を行使する、といった事態も(なんとなくですが)想定されそうです。

ただ今回はフォローアップ会議の議事録(第8回)を読みますと、少なくとも来春に予定されているスチュワードシップ・コードの改訂の中で「機関投資家は議決権行使の結果について個別開示することを原則とする」という方向性に共感するメンバーが多数を占めるようです(ただ、コードの改訂といいましても、ここから経済界や関係省庁の意見合意に持ち込むのがたいへんかとは思いますが)。

もちろん上場会社の中長期の企業価値向上に向けた施策がメインテーマですから、機関投資家の利益相反規制としてのフィデューシャリー・デューティーに関する議論、そして上場会社のガバナンス改革としての「攻めのガバナンス」の実効性確保に向けた議論が中心であることは間違いありません。しかし、運用機関の議決権行使結果の個別開示というのは、「攻めのガバナンス」以外にも金融庁の思惑があると考えます。かりに多くの運用機関が議決権行使結果の個別開示を実行した場合、一般の投資家がこれを活用することは至難の業です。しかしビックデータを活用できる民間団体や行政当局からすれば「ハコ企業予備軍」や「実業で著名だが不正の兆候がみえる企業」をデータから抽出できる(いわばフォワードルッキングで不正を抑止もしくは早期発見する)可能性が広がります。

つまり、運用機関が本気で中長期的企業価値向上に目を向けるとするならば、ガバナンスに問題がある、内部統制上の統制環境に問題がある、取締役会の判断に経済的合理性が乏しい、といった企業では、役員選任議案や定款変更議案等の経営の基本方針に関わる総会上程議案について反対票が多く投じられる可能性があるため、個別開示は企業の「守りのガバナンス」を充実させるインセンティブにもなりうるように思います。

とりわけ上記素案にもあるように、近年はETFの増加や年金運用におけるパッシブ運用比率が高まっていることから、運用機関が、より積極的に中長期的視点に立った議決権行使に取り組むことが期待されます。海外の機関投資家のアンケート調査結果でも、問題企業や特別の事情のある企業に優先的に「目的ある対話」を行い、重要な情報を入手する傾向がみられるようです(フォローアップ会議第9回資料参考)。右肩上がりの時代とは異なり、業績のボラティリティが大きい時代には、個別企業の時間軸および同業他社との水平軸による比較を通じて、議決権行使結果に関する集積情報はマクロ解析に有意義ではないかと。逆にいえば個別企業にとっても、会計不正に関する意見を公表しながら空売りを浴びせるファンドに反論することが容易になるのかもしれません。

コードへの対応ということですから、機関投資家としては個別開示をしない合理的理由(たとえば利益相反排除の指針を開示している、利益相反が疑われる取引を抽出して、厳格に監督をする内部の独立機関を持っているといった理由)をもって開示を拒否するところも出てくるかもしれません。ただ、このあたりは「横並び」体質が強い日本の会社である以上、いったん署名をしたスチュワードシップ・コードが見直される以上は、かなりの運用機関が個別開示を実施するかもしれませんね。

11月 14, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月 9日 (水)

九州企業のBCP-陥没事故の発生した博多駅にて

Dsc_0019本日(11月8日)の適時開示をみておりましたら、「おお!?これはひょっとして監査等委員会の乱?」と思われる会社事案に遭遇いたしました。なるほど、監査役さんの「横滑り」型の機関設計であったとしても、その気になって取締役会で議決権を行使すると、監査等委員会は極めて大きな威力を発揮するのですね。取締役に対する違法行為差止請求訴訟を大阪地裁に起こすこともリリースされています。

この会社の一連のリリースを眺めておりますと、会計監査人も監査等委員会も、これほど財務報告内部統制を大切に考えているのか・・・と思えてきて、不覚にも涙ぐみそうになりました(少し大げさですが・・・)。うーーん、横滑り監査等委員会のイメージが少し変わるかもしれませんが、(私の存じあげる方が監査等委員なので)もうすこし様子をみておきたいと思います。

さて私、本日諸事情ございまして、九州のライフラインを支える某社のご依頼で博多に日帰り出張で参りました。行きも帰りも博多駅はご覧の通り停電でしたが、新幹線は通常運行をしていました。同じ博多駅といいましても、JR九州管轄区域はまったく停電しておらず、もっぱらJR西日本管轄区域のみ停電しておりました。

陥没事故は大きく報じられていますが、福岡の企業は今年の大地震を経験して相当にBCPに力を入れていたので、影響の出た企業さんも対応が早く、比較的平穏だったように感じました(ただ福岡銀行さんは業務に支障が出たようで、こちらはたいへんだったかもしれませんね)。付近の景観が美しいということは、逆に言うと地下に様々なライフラインがゴロゴロ横たわっているということでして、このあたりが今後のBCPの課題です。

なお、陥没した道路がビジネスゾーンだったので、ライフラインを切断された人たちの数も少なかったようです(事故が早朝に発生したので負傷者が出ずにすみましたが、ビジネスタイムだったら・・・と思うとぞっとします)。

11月 9, 2016 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年11月 8日 (火)

電通労基法違反事件を企業コンプライアンスの視点で考える

朝から電通本社等に労働基準法違反の容疑で(東京労働局による)強制捜査が入ったことが報じられています。過労死事件を契機に、同社の労基法36条、32条違反問題が注目され、今後さらに同社における「組織としてのコンプライアンス意識の欠如」が指摘されることが予想されます。

たとえば日本監査役協会(関西支部)の労働法研修も、人気講師が担当している講座とはいえ、電通さんの過労死事件発覚までは例年どおり1回開催の予定でした。しかし事件発覚後この講座がすぐに満席となり、協会事務局側は追加講座を開催することにしましたが、これもすぐに満席となっています。今回の過労死事件が、大企業を中心に労務コンプライアンスに大きな意識改革をもたらそうとしていることは間違いないようです。

今後「電通という会社はもともとブラック企業だった」といった論調で様々な報道がなされるかもしれません。大企業であるがゆえに「みせしめ」として刑事立件の対象になることも予想されます。その場合「過去にこんな事件があったのに是正しなかった」「組織的な時間外労働過小申告がなされた」といった電通固有の事情に光をあてて、「ほら、こんなブラックな会社だから悲惨な事件が発生したのだ」といった不祥事のオトシドコロを探ることになるような気がします。しかし亡くなられた社員のお母様が記者会見に臨んだ本当の目的、つまり「このようなつらい事件を世間で二度と起こさない」ことを考えるためには、もう少し別の視点から考えることも必要だと思います。以下、多くの方から反論されることを承知のうえで(こういった見方もあるという意味で)私なりの企業コンプライアンスの視点から検討してみます。

ひとつは、同様の労基法違反は他社でも同様に発生しているのではないのか?という視点です。横浜の傾斜マンション事件の際、旭化成建材さんは「支持層への杭打ちデータを偽装した」として社会から大きな批判を浴び、最終的には親会社である旭化成さんのトップが退任を余儀なくされました。しかし、あまり報じられていませんが、この件では同業他社合わせて9社が、同じ日に国交省から処分を受けています(国交省のリリースはこちら)。つまり杭打ちデータ偽装というのは「どこの会社でも起こりえたこと」が行政の調査によって判明したわけでして、単に社会で騒がれるまでは性善説で調査をしていたためにわからなかったということです。労基法違反問題は、口頭注意によって終わっているケースも多いわけですから、今回の電通さんの件を契機として、厚労省が性悪説に基づいて調査をした場合、同業他社ではどうなのか・・・という点は冷静に検証することが必要です。

次に、「電通はコンプライアンス意識が欠如していたために、このような悲惨な過労死事件を引き起こした」といった因果関係がすんなり納得できるものかどうか、といった視点です。たとえば偽装請負や偽装派遣を防ぐため、もしくは親会社がしっかりと事業部門を監視する体制を整えたいために、同業他社であれば子会社や取引先に丸投げしている業務についても、電通の場合にはコンプライアンス経営を徹底させるために「正社員」として抱えていた、その結果として正社員に対する労基法違反が顕著であったという見方は成り立たないのでしょうか?(これは同業他社の状況をみてみなければわかりませんが)。ひょっとすると、同業他社では発生していない労基法違反事件も、実は子会社や丸投げしている中小の下請会社ではもっと過酷な事件が起きていて、話題性が乏しいために表面化していないということも考えられるように思います。電通さんと、同業他社さんのいずれのほうがコンプライアンス意識が高いのか、そのあたりをきちんと検証してみなければわからないのではないかと。

そして最後に、過労死事件の直前に話題となりました不適切広告事件との関連性から、電通さんの構造的欠陥を考察する視点です。たしか亡くなられた女性社員の方もインターネット広告の分析作業を担当されていたかと思います。いくらAIが発達したとしても、運用型広告の分析作業は日夜を問わず人間が行います。年々、広告代理店ではネット広告による売上比率が高まっていますが、枠広告とは異なり、運用型広告は単価が著しく安く(たとえば数百万円単位)、広告効果を高めるためには多様な分析を用いた広告主へのプレゼンが求められます。高度なスキルが必要ではあるものの単価の安い作業をこれからも広告売上の柱として拡大する事業戦略をとるのであれば、当然のことながら特定社員の加重労働が発生しやすいビジネスモデルということが言えるのではないでしょうか(だからこそ、不適切広告という不正も発生しやすい環境にある、ということではないかと)。つまり不適切広告事件と過労死事件の根っこ(不祥事の芽)は同じところにあり、これは同業他社さんでも同様ではないでしょうか。

もちろん以上の視点は、あくまでも私のコンプライアンス経営支援という視点からの意見なので、推論に基づく仮説にすぎません。しかし、電通さんはこんなブラック企業だった、といった個社事情だけで判断せず、こういった仮説の検証をひとつひとつつぶしていかなければ、電通さんだけでなく、他の広告代理店さんや他の業界でも、同様の事件が再発してしまうのではないかと危惧します。何度も申し上げますが、亡くなられた女性社員のお母様が会見で「二度とこんなつらい事件は起こしてはいけない」とおっしゃっていましたが、理性ではなく感情論として私も全く同感です。不正は決して単純な因果関係で発生するものではありません。様々な要因が重なり合って、誠実な社員がたくさん存在する企業でも発生するものと考えておくべきです。

11月 8, 2016 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年11月 7日 (月)

企業不祥事対応のトレンド-企業の自浄能力がますます要求される時代

フォルクスワーゲンの排ガス不正事件は、いよいよドイツ検察がワーゲン社の最高意思決定機関のトップにも及ぶという展開になりました。株価は事件発覚前よりも4割下落し、多くの訴訟が提起されていますが、それでも予想外に(?)販売実績は低迷していないようです(たとえばこちらのニュース等)。企業不祥事がどれほど企業の社会的信用を毀損し、企業価値を低下させるかは、なかなか予想できないのが現実です。

不祥事が企業の社会的信用をどれだけ毀損するか・・・ということは、竹を割ったように「Aが原因でBという不正が発生した」といった単純な事実に対する評価で決まるわけではありません。不祥事の発生は人的・組織的な複合的要因によるところが大きい(言いかえれば「運」に左右されるところも大きい)ことについてはほぼ社会的な合意が得られていると思います。そして、その社会的信用毀損の大きさは、やはり社会情勢を含めた様々な事情によって変動するところが大きいと言えます。

したがいまして、ときどき企業を取り巻く社会情勢(社会環境)に目を向けることも大切です。不正リスクという視点で捉えた最近の話題としては、消費者裁判手続き特例法が施行されたこと、改正刑事訴訟法が成立して合意制度(いわゆる司法取引)も2年後から施行されること等でしょうか。また、TPP関連法案が国会で承認されますと、今度は独禁法改正による確約手続が導入されますし、アメリカ大統領選挙の行方によって空白となっている連邦最高裁判事のポストが埋まりますと、FCPA等の域外適用(米国司法省の動向)にも注目が集まります。

このような法令改正で留意すべき点としては、いずれも実体法的な改正ではなく、手続法的な改正ということです。法改正等によって、企業に新たな行為規範が設定されるわけではなく、手続きの運用に変更が加えられるわけですが、そこにソフトローとしての行政のガイドラインや解釈指針等が影響を及ぼすことが予想されます。

いずれの場面でも、企業が平時においては自主ルールを運営し、不幸にも有事に至った場合には自浄能力を発揮しなければ、企業不祥事によって重大リスクが顕在化します。企業の信用損害をもたらした末に、役員には取引先もしくは同業他社からの損害賠償請求リスク、株主からの代表訴訟リスクが顕在化するものばかりです。このような傾向は、規制緩和が進み、行政規制がハードローからソフトロー中心に移行する時代となればなるほど、顕著なものとなるはずです(行政官僚は、規制権限行使の主導権を握りつつも、自らの責任を巧妙に回避するシステムとして、いよいよ本格的にソフトローを活用する時代になったと思います。一見「とても腰の低い人たちだなあ」と思えますが、深謀を垣間見るととても賢い人たちだなぁと感心します)。

このような時代において、企業が重大な不正リスクをどのように低減すべきか、という点については私なりに考えているところがあり、一言でいえば「事業戦略を進めるうえで、組織運営のホンネとタテマエのバランスをどのように調整していくべきか・・・」に尽きるものと考えています。内部通報や内部告発といったかなり狭いフィルターを通した知見に基づくものではありますが、「働き方改革」といっても、それほど日本企業の労使慣行、雇用慣行は揺らがないように感じていますので、おそらく私の見立ては正しいのではないかと。また詳しくはブログや講演等で少しずつ解説をしていきたいと思います。

11月 7, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月 4日 (金)

インセンティブ報酬に関する素朴な疑問-「アメとムチ」の発想を超えて

「英国のEU離脱には議会の承認が必要」とするロンドン高等法院の判決が出されたそうで、北アイルランド高等法院の判断では先日「不要」とされていましたので、最終的には最高裁判所の判決を仰ぐことになるようです。私は英国法制については詳しくありませんが、国民投票から離脱通知に至るまでの法制度が極めてあいまいな点(国内法、EU法とも)はオックスフォード大学教授の講演等でも問題になっていましたので(たとえばこちらの解説を参照)、高度に政治的な判断においても裁判所の判断は尊重されるのでしょうね。私も不勉強なので偉そうに言えるものではありませんが、これまであまり日本のマスメディアでは、こういったシナリオは想定していなかったのではないかと。

さて(ここからが本題ですが)先週月曜日(10月24日)の日経法務面では、「株式報酬高め、役員挑戦促す」といったタイトルの役員報酬制度改革の特集記事が掲載されていました。ガバナンス・コードにおいても、取締役に対して中長期的な企業価値向上に目を向けることが要請されていますし、報酬でインセンティブ付けを行うべき、とされています(たとえばコード原則4-2、同補充原則4-2①等)。いわゆる「アメとムチ」の発想を基にしたガバナンス改革の一環です。

そもそもの疑問ですが、ニンジンを目の前にぶら下げられて走ることの動機付けとなるのは「短期の業績向上のため」というのはわかるのですが、ニンジン(報酬)というものは、はたして中長期の企業価値を向上させることの動機付けにはなるのでしょうか?(そもそもそのようなインセンティブ付けになることは実証されているのでしょうか?ちなみに、私個人の考えとしては、短期の業績向上であっても、日本企業の経営者が短期の業績向上を目指すインセンティブは別のところにあり、報酬はあまり動機付けにはならないと考えています)中長期の企業価値向上は、マクロ経済の動向を含め、多分に「運」に左右されるところがありますし、もし「運」の部分を排除するために、同業他社との株価変動比率を用いるとしても、それは短期の業績連動の基準とあまり変わらないことになるように思えます。

また、新興企業のように、ワンマン経営者の手腕で伸びてきた会社ならわかりますが、そうでない伝統的な上場会社の場合、出世競争には勝ち抜いてきたものの、これまで会社の存亡の危機を乗り越えた経験がない社長さんが、業績連動報酬を導入することでほんとにリスクにチャレンジすることになるのでしょうか?リスクに立ち向かうのではなく、上手にリスクを回避してきたからこそ社長さんになられたのではないかと。また、創業者やワンマン経営者の方においては、報酬のために経営しているのではなく、むしろリスクにチャレンジすること自体がこのうえなく楽しいからこそ事業をされているのであり、もらってうれしいものがあるとすれば、それは報酬ではなく、次の投資につなげる内部留保ではないでしょうか。

そう考えますと、どうも日本の企業においてはインセンティブ報酬というものが根付くようには思えないのです。ところで上記の日経記事を読んで理解しましたが、世界で語られている役員報酬改革というのは決して「アメとムチ」という米国流のインセンティブ報酬の考え方だけではないということのようですね。むしろ業績が上がれば従業員の利益に優先的に回して、その分は株主に我慢してもらうための説明責任を尽くす、ということも「報酬改革のストーリー」として考える必要がありそうです(しかし、そうなると企業の中長期的な価値向上を図るのは会社と株主との二人三脚で、ということになりますね)。でもホントにそれで機関投資家の方々は納得されるのでしょうか?

なお、上記記事で紹介されていた武田薬品工業さんでは、社外取締役や監査役さんも、金銭交付ではありませんが、3年間の業績・株価によって退任時に株式で報酬を取得できるような業績連動型報酬体系を採用されるそうです。しかし監査役さんが不正の兆候を発見した場合に、手を挙げて問題が表面化した場合には株価は一時的に下がるでしょうから報酬は下がり、何も言わずに放置していた場合にはたくさん報酬がもらえる、ということになるのも何か違和感が残ります。一昨年、第三者委員会の調査によって不正が明るみに出た医師主導型臨床実験に関する不正関与事例のように、後日不正が発覚した場合には企業価値が大きく毀損されることもあるわけでして、早めに手を挙げた監査役さんは(損害を最小限度に抑えたものとして)多大な貢献をすることになりますが、それは一切報酬には反映されないのでしょうか?うーーーん、素朴な疑問は尽きません。。。

11月 4, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年11月 2日 (水)

さが美へのTOB争奪事例-少数株主保護への尽力はいずこへ?

ニッセンホールディングスの上場廃止(10月27日)に伴いまして、私も残務を済ませ、本日(11月1日)同社の社外取締役を退任いたしました。3年8か月にわたり、関係者の皆様にはたいへんお世話になりました。後半の2年ほどは取締役会議長も務めましたが、とりわけ上場子会社の独立社外取締役という、たいへん難しい職務も経験させていただきました。セブン&アイの100%子会社となりましたが、これからもニッセンの熱烈なファンの一人として、応援していきたいと思っております。

さて、「難しい上場子会社問題」といえば、さが美さんの件が話題になっています。東証1部上場のさが美さん(呉服販売)の親会社であったユニー・ファミリーマートホールディングスさんが、TOB(株式公開買付)を通じて、投資ファンドのA社に対してさが美株式をすべて譲渡しました(さが美社のリリースはこちら)。一般株主がTOBに応じないように(つまり上場を維持するために)、時価80円の株式につき、買付価格は1株56円に設定されました。一方で、A社のTOBに対抗提案を出した再生ファンドN社は、A社の買付価格(1株56円)よりも約60%も高い買収提案(1株90円+5億円の第三者割当+ユニーさんのさが美さんに対する貸付債権の買取り)を出しましたが、ユニーさんもさが美さんも、この提案には応じなかったことが国内外のメディアで報じられています。

たしかにユニー社取締役、さが美社取締役の善管注意義務違反の有無が議論されてもおかしくない事例ではないかと思います。とりわけ、さが美の取締役としては、コーポレートガバナンス報告書(最終更新2016年8月22日)において、立派な「支配株主との取引等を行う際における少数株主保護の方策」を宣言している以上、たとえN社が対抗TOBに至らずとも、買収提案が出された時点で40%以上を占める少数株主保護の措置をとる必要がありそうです。さが美さんは上場子会社であるため、経営陣が大株主の意向に従わざるをえない状況にあるわけですが、「高い価格による買収は、さが美の将来価値を上げる自信のあらわれであり、また現経営陣に対するシビアな監督も期待できる」として、少数株主はN社による買収に期待をするところです。つまり、たとえ金銭によって少数株主を排除する場面ではなくても、現経営陣は構造的な利益相反状況にある中でTOBに関する意見表明を行うことになります。

しかし「親会社の意向には逆らえない」として、さが美さんはA社によるTOBに賛同の意見表明をしており、ここに疑問が呈されています。さが美さんには独立社外取締役がいらっしゃらないので、たとえば取引所に独立役員として登録しているお二人の社外監査役の方々が「少数株主保護を目的とした第三者委員会」を構成して、独自に親会社のユニーさん及びA社との間で交渉する、その交渉経過を取締役会で説明する、ということが公正な手続きとして必要だったのではないでしょうか。たとえば10月31日のダイヤモンドオンラインの記事で東大の田中亘教授も「売却後の経営を考えた場合、高く売ることが正しいとは限らない。しかし対抗的な提案が出てきた場合、株価をそこまで引き上げるように掛け合うことはできるはずだ」「そういう努力をどこまでやったのかは疑問だ」と述べておられます。

この田中教授の見解は、ユニーさんの取締役に向けたものか、さが美さんに向けたものかは明らかではありませんが(記事の要約部分を読むと、おそらくさが美の取締役さんの行動について述べておられるものと解されますが)、少なくとも上場子会社の取締役としては、ユニーさん、A社いずれに対しても、少数株主保護のための方策(働きかけ)を検討する必要があるように思います。また仮に方策をとったのであれば、その結果については説明義務が発生するものと考えます。

いくつかのメディアで取り上げられているように、このような状況でこそコーポレートガバナンス・コードの規範力が問われているにもかかわらず、ユニーさん、さが美さん、いずれにおいてもコードに沿った対応がみられなかったのは残念です。海外メディアが指摘しているとおり、結局のところガバナンス・コードは「お飾り」「仏作って魂入れず」の状況にあることを示す一例かもしれません(ちなみにさが美さんは、8月22日現在、ガバナンスコードへの対応は開示されていません)。たしかガバナンス・コード原案では、「コードには取締役の法的責任(善管注意義務違反の有無)を判断する規範になることも期待されている」と述べられています。もちろんコード自身に法的拘束力はありませんが、「なんだ、一生懸命コンプライするように努力しているけど、しょせんコードとはこの程度のものか・・・」と他社が認識することを危惧いたします。

11月 2, 2016 TOB規制と新会社法の関係 | | コメント (1) | トラックバック (0)