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2016年11月18日 (金)

監査等委員会設置会社のガバナンス改革は遅延しているか?

ひさしぶりの「監査等委員会設置会社」ネタでございます。議決権行使助言会社ISSの2017年度議決権行使助言ポリシーにおいては、従前の予想に反して「監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化」は見送られました(さすがに「社外取締役を4名以上選任しなければ反対票を投じる」というポリシーはガバナンスの現状とかい離しすぎている、との判断でしょうか)。とはいえ、やはり監査等委員会設置会社が本当にモニタリングモデルへガバナンスの転換を進めているかどうかはかなり懐疑的だというのが実感です。

本日(11月17日)の日経朝刊において「監査委員設置会社 企業統治進まず」といった見出しで、昨年施行の改正会社法で始まった「監査等委員会設置会社」の間で、トップの後任人事を決める指名委員会の設置が滞っている(つまり、監査等委員会に移行した会社の実質的なガバナンス改革は監査役会設置会社よりも進んでいない)」といった記事が掲載されていました。

ご承知のとおり、当ブログでは監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行すること(定款変更)について、かなりネガティブに捉えていますので、上記記事への反応としては

「ほらみろ、やっぱり監査等委員会設置会社に移行する会社ってガバナンスに後ろ向きな会社だってことだよね。口では取締役会改革(執行と監督の分離)、権限委譲による迅速経営の推進と言っておきながら、単にガバナンス・コード対応の隠れ蓑に使っているだけでじゃないか!」

と言いたくなるところです。ただ、(監査役会設置会社と比較して)指名委員会を設置している企業数が少ない、仮に指名委員会を設置していたとしても、その開催回数が少ない、といった事実から、監査等委員会設置会社は企業統治向上が進んでいないといった結論を導けるかどうかはまた別途検討する必要があります。なぜなら監査等委員会にはそもそも指名委員会や報酬委員会に準じた役割が会社法上認められているからです。

監査等委員会には、会社法上、監査等委員以外の取締役の人事、報酬に関する意見形成職務及び(意見がある場合に)選定された監査等委員による株主総会上での意見陳述権が認められています。つまり、私の個人的見解としては、監査等委員である取締役さんには指名委員会や報酬委員会に準じた役割が法定されていて、社長人事や社長報酬についての意見形成のための職務を怠れば会社法違反であり善管注意義務違反になる、と考えています(まぁ、これは当然だと思うのですが・・・)。

したがって、監査等委員会設置会社においては、そもそも任意の指名委員会や報酬委員会を設置する必要はなく、監査等委員会がその役割を担えばよいということです。つまり今回の攻めのガバナンスの精神を取り入れて、積極的に監査等委員会設置会社に移行した会社ほど、任意の指名委員会は設置していないということも十分考えられます。企業統治に熱心な会社も、そうでない会社と同じように「指名委員会は設置しない」という判断がなされている可能性がありそうですね。

監査等委員会設置会社に移行した会社において、「企業統治が進んでいるかどうか」を判断する基準としては、むしろ「社外監査役のときと、監査等委員である社外取締役に就任した現在とで報酬は変わったかどうか」という点を調査するのも検討すべきです。ガバナンス改革に熱心で、取締役監査等委員が何をすべきか、といったことを真剣に考えれば、職務に要する時間やリスクからみて、監査等委員への就任にはより高い報酬が付与されてもよいのではと思います(もちろん、監査の重要性からみて従来から社外監査役の報酬も高いという会社もあるので全ての会社にあてはまるというわけではございませんが・・・)。

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