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2016年11月24日 (木)

不正を公表しない企業判断に対するいくつかの素朴な指摘

先週土曜日に少しだけご紹介したデロイトトーマツさんの「企業の不正リスク実態調査2016」ですが、同社HPでリリースされているエクゼクティブサマリーを見ただけでもおもしろい調査結果が出ています(上場会社402社からの回答結果だそうです)。なお、私の手元には全調査結果とその評価に関する冊子がありますが、こちらにも更におもしろい(?)調査結果が記されていますので、ご興味のある方は同社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

HPにも掲載されている調査結果として、不正事実の公表判断に関する回答が集計されています。不正が判明した上場会社について、その事実を公表したかどうか、という質問に58%の企業が「公表しなかった」と回答しています(2年前の調査時点と比べると、前回は42%の企業が公表しなかったとありますので、ずいぶんと増えていますね)。その理由は公表する程度の重要性に乏しかったから、とのこと。たしかに投資家の判断に影響を及ぼす程度でなければ公表する必要はないと考えられますし、最近は不正公表の要否に関する社内基準を設定している企業も増えていますので、その影響かもしれません。

しかし、「重要性が乏しいので公表しなかった」という理由には注意が必要です。まずなんといっても重要性に乏しいと社員が考えたからこそ、素直に上司に報告した可能性が高いということです。ご承知のとおり、不正はなかなか社内でも発見できません。ましてや重要性が高く、自らの部署にマイナスとなるような不正はなかなか上司に報告が上がってきません。どうせ自分の部署の責任が問われるような不正であれば、「部署の外に見つからないこと」に賭けるのが通常の感覚であり、仲間内の義理人情を大切にする部署の常識かと。つまり重要性の高い不正は多くの会社で水面下に横たわっているということです。

つぎに、デロイトトーマツさんの実態調査では、不正事実を公表しなかった企業のうち9割が「損害金額が5000万円以下だった」ということで重要性を認めなかったとあります。たしかに定量的判断では重要性が乏しいのかもしれませんが、質的な判断ではどうなのでしょうか?犯罪に近いような不正、多人数が関わっている不正、経営者に近い立場の方による資金流用事案等、悪質なものであれば、たとえ損害金額が5000万円以下であったとしても内部統制に及ぼす影響は大きく、公表の必要性は高いと思われます。ちなみに行政当局のリスクアプローチによる不正絞り込み手法の中でも、今後は会計不正以外の不正から会計不正事案を絞り込むことも検討されているようです。

さらに、社内調査の実態からみて、不正の疑惑をどこまで深堀りして調査を行ったのか、という点です。何度も申し上げいるとおり、最近の会計不正事件の調査は「件外調査」がとても重要です。不正が発覚した場合に、その不正が組織のどこまで広がっているのか、いつから広がったのか、というタテ・ヨコの件外調査をフォレンジック手法を活用して徹底することが求められます。しかしこれは社長の徹底した指揮命令がなければ困難です。内部通報や内部告発がなされた疑惑だけに焦点をあてれば損害金額が5000万円以下であったとしても、件外調査の結果、その10倍程度の損害金額に膨れ上がるというのも稀ではありません。

上記デロイトトーマツさんの調査結果にも記載されているように、近時は日本取引所による「企業不祥事対応のプリンシプル」が公表され、不祥事発覚企業の自浄作用に関心が向けられています。公表の要否は自浄能力判断にとって極めて重要なポイントになりますので、自社固有の常識にとらわれることなく、世間の視点で判断する必要があります。

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