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2016年11月14日 (月)

スチュワードシップ・コードの見直しと上場会社の「守りのガバナンス」の関係

11月8日、金融庁のHPに「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の意見書(3)に関する素案が公表されました。主に機関投資家のスチュワードシップ活動の実効性確保のための提言が盛り込まれていまして、やはり中心課題は機関投資家(主に運用機関)の利益相反規制です。議決権行使結果の個別開示と機関投資家のガバナンス改革の是非が論じられています。

11月13日の日経電子版の記事では「議決権行使・個別開示で攻防 生保業界と金融庁」という見出しで個別開示に難色を示す生保業界の様子が描かれています。これまでも個別開示は2度ほど金融庁会議で提案が出たけども、そのたびに生保業界の厚い壁に阻まれてきたそうです。生保の営業社員がお客様企業の社内に入れない時代、団体保険を獲得するためには生保系運用機関としても親会社(生保会社)の顔色を見ながら議決権を行使する、といった事態も(なんとなくですが)想定されそうです。

ただ今回はフォローアップ会議の議事録(第8回)を読みますと、少なくとも来春に予定されているスチュワードシップ・コードの改訂の中で「機関投資家は議決権行使の結果について個別開示することを原則とする」という方向性に共感するメンバーが多数を占めるようです(ただ、コードの改訂といいましても、ここから経済界や関係省庁の意見合意に持ち込むのがたいへんかとは思いますが)。

もちろん上場会社の中長期の企業価値向上に向けた施策がメインテーマですから、機関投資家の利益相反規制としてのフィデューシャリー・デューティーに関する議論、そして上場会社のガバナンス改革としての「攻めのガバナンス」の実効性確保に向けた議論が中心であることは間違いありません。しかし、運用機関の議決権行使結果の個別開示というのは、「攻めのガバナンス」以外にも金融庁の思惑があると考えます。かりに多くの運用機関が議決権行使結果の個別開示を実行した場合、一般の投資家がこれを活用することは至難の業です。しかしビックデータを活用できる民間団体や行政当局からすれば「ハコ企業予備軍」や「実業で著名だが不正の兆候がみえる企業」をデータから抽出できる(いわばフォワードルッキングで不正を抑止もしくは早期発見する)可能性が広がります。

つまり、運用機関が本気で中長期的企業価値向上に目を向けるとするならば、ガバナンスに問題がある、内部統制上の統制環境に問題がある、取締役会の判断に経済的合理性が乏しい、といった企業では、役員選任議案や定款変更議案等の経営の基本方針に関わる総会上程議案について反対票が多く投じられる可能性があるため、個別開示は企業の「守りのガバナンス」を充実させるインセンティブにもなりうるように思います。

とりわけ上記素案にもあるように、近年はETFの増加や年金運用におけるパッシブ運用比率が高まっていることから、運用機関が、より積極的に中長期的視点に立った議決権行使に取り組むことが期待されます。海外の機関投資家のアンケート調査結果でも、問題企業や特別の事情のある企業に優先的に「目的ある対話」を行い、重要な情報を入手する傾向がみられるようです(フォローアップ会議第9回資料参考)。右肩上がりの時代とは異なり、業績のボラティリティが大きい時代には、個別企業の時間軸および同業他社との水平軸による比較を通じて、議決権行使結果に関する集積情報はマクロ解析に有意義ではないかと。逆にいえば個別企業にとっても、会計不正に関する意見を公表しながら空売りを浴びせるファンドに反論することが容易になるのかもしれません。

コードへの対応ということですから、機関投資家としては個別開示をしない合理的理由(たとえば利益相反排除の指針を開示している、利益相反が疑われる取引を抽出して、厳格に監督をする内部の独立機関を持っているといった理由)をもって開示を拒否するところも出てくるかもしれません。ただ、このあたりは「横並び」体質が強い日本の会社である以上、いったん署名をしたスチュワードシップ・コードが見直される以上は、かなりの運用機関が個別開示を実施するかもしれませんね。

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