電通過労死事件-企業行動規範を三次元で考える
11月17日、新人社員の方の過労自殺事件、その後の強制捜査を受けて、電通さんは「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などの言葉が並ぶ「鬼十則」という仕事の心構えについて、来年の社員手帳から削除することを検討している、と報じられています(たとえばロイターニュースはこちら)。
現役の電通社員の方々からすれば、上記ニュースにもあるように電通の営業指針が廃止されることは衝撃的でしょう。そういえば4年ほど前に読んだホイチョイ・プロダクションズさんの「戦略おべっか」の中に、この「鬼十則」のいくつかの条項について、その意味するところがストーリーとして解説されていました(本書は最近「電通マン36人に教わった36通りの『鬼』気くばり」と改題されて 文庫化されています)。
ところで、なぜこのような営業活動のための行動準則が作成されたのか、つまり、こういった準則作成に至ったエピソードや、社員が準則を実践に移すための動機付けとなるストーリーのようなものが頭に思い浮かぶものでなければ、「鬼十則」は現場の行動指針にはならないと思います。鬼十則と一般の企業の行動規範とを同等に扱うのが適切かどうかはわかりませんが、私がコンプライアンス経営のお手伝いをするときも、企業行動規範の文言を社員の方々に覚えていただいたり、カードとして携行していただくだけでは不正予防の役に立たないと感じています。
むしろ、文言は「うろ覚え」であったとしても、企業行動規範が出来上がった歴史や失敗談、過去に行動規範が社員の行動に及ぼした影響などから、行動規範を具体化するストーリーを連想してもらうことが一番効果的だと思います。 おそらく電通さんでも、鬼十則の文言自体よりも、各条項が具体的にどのような行動を求めているか、過去にこれを実現してどのような成功例があったのか、実現できずにどのような失敗例があったのかといったストーリーのほうを身につけておられるのではないでしょうか。つまり、文言としての鬼十則が廃止されたとしても、社員の心得としての鬼十則は時間軸をもって組織に形成されてきたものである以上、いったん身についた行動規範は簡単には変えることはできないように思います。
たとえば上記ニュースにあるような「取り組んだら放すな、殺されても放すな」という文言も、どのようなエピソード、ストーリーの下で作成されたのか、そのあたりまで考えたうえで廃止か存続か検討すべきではないかと。もちろん、現在の「働き方改革」の中で「使われている文言が不適切だ」と判断すれば、文言を修正したり、その条項だけを削除するということも検討すべきです。競争戦略としての社内ルールであるにもかかわらず、これを全廃するという行動は、なんとなく「社外向けポーズ」の意味合いがあるように思えてなりません。本当に社内改革をするのであれば、この鬼十則が作成された自社ストーリー自身を否定するような行動が求められると考えます。
世間ではこれで電通さんの「企業理念」に変化がみられたと評価してもらえるかもしれませんが、社内的には「理念など絶対に変えるつもりはなく、単に早く有事を収束させるための戦略にすぎない」と受け取られているのかもしれません。ちなみに上記「戦略おべっか」の中に、電通式の不祥事謝罪方法が記載されています。それによると、今回の電通さんの過労死事件にあたり、いつ謝罪会見をするのか・・・・、それは上記書籍をお読みいただくとおわかりになるかと思います。
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