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2016年11月29日 (火)

社会福祉法人改革によるガバナンスの強化の行方は?

今朝(11月28日)の日経新聞では監査法人や同族企業、そして社会福祉法人に関する企業統治が話題になっていました。そもそも経営諮問委員会のようなものを設置することが「ガバナンス改革」とまでいえるのかどうかはやや疑問ですが、内部の方々だけで組織運営していたところに外部の目を入れるという意味ではやはり改革といえるものがある、ということなのでしょうね。ともかく社会福祉法人の場合には、理事を選出する母体である評議員会の委員に(強制的に)社外者を選任させる、財務規律の強化を図る・・・ということなのでこちらは正真正銘「ガバナンス改革」といってもよいかもしれません。

ところで新聞記事(法務面特集記事)では、社会福祉法人のガバナンス改革はコンプライアンス経営のため、ということで「果たして理事らの不正を改革によって防止できるか」という視点がクローズアップされていました。しかし、私が過去に関与したいくつかの社会福祉法人の事例では、そもそも社外役員が就任した瞬間に、過去の不正が発覚したというものばかりでした。上場会社の役員経験者の方々が、ガバナンス構築に向けて組織内の調査を開始したとたんに、長年社会福祉法人内で行われていた不正が暴かれた・・・というものです。社会福祉法人のガバナンス改革は、上場会社にガバナンス・コードが導入されるのとはワケが違うということです。

したがって、私の感覚からすると、社会福祉法人のガバナンス改革の一番の目的は「今後、不正を防止できるか」といったゆるふわのマッタリしたものではなく、「現在行われている多くの不正をどれだけ暴くことができるか」という喫緊の課題解決だと考えます。私が過去に関与したものは、いずれもかなり規模の大きな法人だったので(事件は)地方新聞にも掲載されましたが、それほど騒がれない程度の不正が起きる比較的規模の小さなところまで含めると、たいへんな数の不正が暴かれるのではないかと推測いたします。

当然のことながら社会福祉法人では、現在「不正をどうやって隠すか、不正と言われないために、これまでの慣習をどう変えていくべきか」「社外の人材といっても、話のわかる昔からの知り合いでよいか」といったことに躍起になっておられるところもあると思いますし、これを指南するコンサルタントの方々も大忙しかと存じます(もちろん不正とは無縁の立派な社会福祉法人もたくさんあります)。いずれにしても、過去はどうあれガバナンス改革によって将来的に経営の健全化が図られることは好ましいと思います。ただ、社会福祉法人には「行政からの不当なイジメに対する正当防衛として、不正をしないと経営がやっていけない、不正をやることで、なんとか地域の福祉に貢献できている、健全化することで地域の弱者を切り捨てないといけない」といった切ない事情も多々あるので、そのあたりのジレンマが社会福祉法人統合化(=サービスの偏在化)とともに表面化する気がいたします。

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