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2016年12月30日 (金)

今年もお世話になりました(年末のご挨拶)

例年この時期は家族旅行ですが、今年は諸事情ございまして私個人の仕事納めが本日になってしまいました。事務所の入っているビルがおそろしいほど静まりかえっております。

本業については一切ブログではお話できませんが、いろいろと社会的にも騒がれた事件に関与できて充実した一年でした。また、これはブログでも書きましたのでご承知の方も多いとは思いますが、代理人としてではなく、当事者として訴訟リスクを背負う事態となりました。株主代表訴訟リスクというものを、自分のこととして実感することができました(まだまだリスク顕在化のおそれはありますが・・・)。当事者になってみると、やっぱり「有能な代理人」の支援を受けることがどんなに精神的な安定につながるか、身にしみますね(笑)。あ、あとD&O保険の存在も(笑)。

まだまだブログで書き足らないことが多いのですが、ひとまず今年はこれでお休みさせていただきます。どうか良いお年をお迎えくださいませ。

山口利昭 拝

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2016年12月29日 (木)

エフオーアイ損害賠償請求事件判決の威力-内部告発者が証券市場を救う

本文だけで230頁に及ぶエフオーアイ損害賠償請求事件判決の全文を(当ブログをご愛読の方から頂戴して)一読いたしました。平成28年12月20日付け、東京地裁民事第16部合議係です。社外監査役を含めた監査役の監査見逃し責任、みずほ証券さんのIPOにおける元引受証券会社としての損害賠償責任、日本取引所自主規制法人さんの私法上の注意義務を認めた画期的な第一審判決であり(ただし自主規制法人さんについては請求棄却、また審査を委託した東京証券取引所さんには注意義務は認めず)、2016年の企業法務に関連する重要判決と言えます。ただ、惜しいのは会計監査人が訴え途中で和解をされたようで、会計監査人の注意義務の中身が判断されていません。

判決文にも出てきますので、そのままの表現で書きますが、上場準備の段階から粉飾決算を続けているエフオーアイ社について「こんな会社は上場させてはいけない、ここを調査すれば粉飾がわかる」といったことが詳細な理由をもって自主規制法人さんと主幹事証券会社であるみずほ証券さんに「匿名投書」で届けられました。エフオーアイ社の経営陣は、社内でトラブルを起こして手を焼いている内部監査室長のM氏による匿名投書であることを、主幹事証券会社に伝えました。しかし、不正はなかったとして、そのまま上場が承認されてしまい、二度目の匿名投書も不発に終わり、最終的には金融庁の強制調査によって粉飾が明るみになります。証券会社は匿名投書者が内部監査室長であることが特定され、精神疾患によって会社に恨みをもった投書だという会社側の説明を信じ、M氏が退職したことによって「むしろ上場を控えたエフオーアイ社の内部管理体制にとっては好ましい状況になった」と判断したそうです。M氏をヒアリングすることもありませんでした。

残高証明の偽造については(複数の?)名門企業の担当者が加担していたのですね(具体的な社名も匿名投書の中に出てきています)。インサイダー情報という「おいしい見返り」があれば、名門企業といえどもこんなにも簡単に他社の粉飾に加担してしまうのでしょうか。インサイダー取引の摘発件数はここのところ増えていますが、市場の健全性確保にとってやはりインサイダー取引の規制強化は必要だと思います。取引所や証券会社、そして監査役や会計監査人にも内部告発をした内部監査室長(と思われる人)は、もはやどこにも相手にされないとみて最後に金融庁に内部告発を行ったものと思われます(なお、判決文には金融庁への通報という事実は認定されていないので、ここはあくまでも私の推測です)。判決では、このような匿名投書が二度も届いたにもかかわらず、深堀りした調査を怠った証券会社の姿勢に厳しい判断を下しています。9年前に、勇気をもって内部告発をした一人の社員が、ようやく市場関係者の法的規律(責任問題)に風穴を開けました。

私自身は、監査役の行動規範や法的責任への考察のために、さらに何度も読み返して研究したいと思いますが(ブロガーのエチケットとして、審理係属中にどちらかに与するような法律意見はここで述べるつもりはございません)、おそらく来年は判例雑誌に全文が掲載され、金融法務、商事法務の著名な実務家、学者の方々が、この東京地裁判決の妥当性に関して論文を発表されるはずです。また損害の範囲や責任主体等、結論的には控訴審(東京高裁)で変わる可能性もありますが、間違いなく本判決は今後の市場関係者に語り継がれるものになると確信します。

ちなみに最新の金融・商事判例(1506号)には、監査役(監査委員)による不提訴判断の法的責任に関する重要判例も掲載されましたので、併せて年末年始に研究してみたいと思います。

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2016年12月28日 (水)

会社法務A2Z特集号に論稿を掲載いただきました。

Dsc_0027_400東芝さんの業績が数千億円規模の特損計上の可能性発表ということで、またまたスゴイことになってしまいました。米国原子力事業を担うウエスチングハウス社が1年前に買収した企業の「のれん」の減損に関連するものですが、社長記者会見では「12月中旬に(減損の可能性を)知った」そうです。東芝さんが特別注意市場銘柄から解除されるためには内部管理体制に不備がないことが条件ですが、(原子力事業の運営費用は想定外に膨らみやすい・・・といった事情を考慮したとしても)「12月までトップに減損が報告されなかった」という事実はどうみても内部管理体制の欠如としか言いようがないと思います。26日の社長記者会見が突如キャンセルされて翌日になった、という事態をみても異常事態ではないかと。不謹慎ですが、今後の上場維持のためには「減損の事実を知っていて、あえて公表しなかった」ほうがよっぽど内部管理体制が整備されていることの理由になるのではないでしょうか(もちろん統制環境の不備という問題が新たに生じますが・・・)。ここへきて東芝さんの経営問題が再燃するとは予想もしていませんでした。

さて、クリスマス三連休も終わり、皆様もそろそろ仕事納めの頃ではないでしょうか。当事務所も12月28日から1月4日までお休みをいただきます。そういえばブログをご覧のある方から、「エフオーアイ損害賠償請求事件の判決全文をお送りします」とのご連絡をいただきました(どうもありがとうございます)。おそらく年始になると思いますが、ご厚意に甘えてじっくり読ませていただきます(とても楽しみです!)。

本題ですが、第一法規さんの会社法務A2Zの毎年恒例特集「企業法務2017年の展望」におきまして、危機管理・不祥事対策部門の執筆を担当させていただきました(上掲写真ご参照。合計4ページです)。証券市場、公正取引法、労働法、消費者法等の分野における重大リスクの認識ということに焦点をあてておりまして、少しずつではありますが私個人の意見も述べております。全国書店にて発売されましたので、またご興味がございましたらお読みください(なお、毎度のことながら執筆陣は私以外は豪華です)。

紙幅の関係でほとんど触れることができませんでしたが、来年は内部通報制度の整備や内部告発への公益通報者保護法の適用問題など、企業不祥事を原因とした企業のリスクマネジメントが更に注目を浴びることになるのは間違いないでしょう。本日もファーストリテイリング社のパワハラ内部告発記事が話題になっていますが、企業の対応をみながら第2、第3の不祥事記事が掲載されるというパターンは、(以前にも船場吉兆事件等でもみられましたが)今後のトレンドになると思います。よく社長の記者会見で「私は知らなかった」とおっしゃいますが、ホントに知らないからこそ、第2、第3の不祥事告発が容易になされる傾向にあります。

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2016年12月27日 (火)

違法残業による社名公表制度-求められる内部通報制度充実への真摯な取組み

(12月27日午前1時30分 追記あり)

本日(12月26日)のニュースでは、厚労省が違法な長時間労働を放置する企業の社名公表の要件を厳しくすることが報じられています。電通さんの過労死事件への社会的関心から、厚労省では緊急対策がとられたそうです(ただし、私は電通社員の方の過労死は長時間労働問題よりもパワハラ問題のほうが大きいのではないか、パワハラを許容しない職場環境を整備できなかったことのほうが問題ではないか、と考えていますが)。

(追記)厚労省の緊急対策にはパワハラ防止策も盛り込まれたそうです。労基法にはパワハラ規制の条文がないために、今後の監督対応がどのようになるのか、やや疑問が残るところですが一歩前進ですね。

パワハラ問題への個人的な見解は別として、このような厳しい厚労省の措置が施行される以上、社員による監督官庁への内部告発は「ブラック企業への引き金」となる可能性が高くなりました。もし現場の問題行為を社員が見つけた場合には、内部告発ではなく、速やかに内部通報(社内通報)がなされるかどうかが「ホワイト企業へ引き返す黄金の橋」になりそうです。

誠実な企業の社員の道徳観には二通りあります。ひとつは会社や上司、同僚への忠義や義理を最優先に考える道徳観。チームプレーを大切にして、他社と競争するときには強力な力を発揮します。もうひとつの道徳観は忠義や義理よりも「正しいことをやりきる」「たとえ社命でも決して悪いことはしない」という仁徳を最優先に考える道徳観。たとえお世話になった組織の不利益になることでも悪いことは悪いと指摘して組織に改善を求め、それでもダメなら外から改善を要求するタイプ。いま、日本の企業にはこの二つのタイプの道徳観が混合しつつあるように感じます。コンプライアンスを語る際にも、この二つの道徳観をどう調和させるか・・・といったところにとても気を配ります。

長時間労働を一律に厳しく規制することの是非については、この二つの道徳観が混在する中で議論がかみ合わない状況ですが、働き方改革、労働の流動化促進等、労働環境の変化にともなって「正しいことに見て見ぬふりは許されない」といった道徳観をもった社員の方々が確実に増えています。したがって内部告発は会社への恨みや個人的利益のためではなく、個人の倫理観、道徳観に起因する職場環境改善を目的としたものが増えており、当然のことながら集団化、組織化しているのが最近の傾向です。

企業が持続的な成長を図るためには、社内の社員層に「断裂世代」を作ることは避ける必要があります。しかし「ブラック企業化」がたとえ一時的であったとしても、3~5年間の優秀な社員がいない空洞化(断裂化)現象を作ってしまい、これはどんな名門企業でも競争上の致命傷となります。いまこそ真剣に断裂化現象を極力回避するための内部通報制度(違法残業の予兆を速やかに社内発見する制度)を充実させる方策を検討すべきです。

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2016年12月24日 (土)

監査等委員会による適法性意見表明と多数決原理

ここ数カ月ほど注目しておりますジャスダック上場の某会社さんの件(監査等委員会設置会社です)。元社長の会計不正疑惑を発端として大株主と現経営陣との対立が激化しておりまして、来年2月に臨時株主総会(双方が取締役選任議案を出し合う予定)が開催されるそうです。議決権行使の基準日も1月11日と定められました。

そして12月21日、現経営陣はぎりぎり24,99%の希薄化が生じる(資本業務提携契約に基づく)第三者割当増資(株式と新株式予約権発行)をリリース。翌22日には同社の監査等委員会が第三者割当増資の発行価格の算定根拠に合理性があり、とくに有利な発行には該当しない旨の意見を表明しています。

取締役監査等委員の意見では足りず、監査等委員会としての意見が必要とのことで、同社は前日のリリースを訂正したわけですが、監査等委員会は監査役とは違って「組織的監査」が原則です。したがって、今回も適法性に関する意見表明を監査等委員としでではなく、監査等委員会として行った(そのように取引所から指導された?)ものと思われます。

しかし、監査等委員会設置会社の監査は組織的監査が原則といっても、違法行為差止請求権は個々の監査等委員に付与されており、また違法行為を見つけたときの報告義務(取締役会に対する)、株主総会への違法性に関する監査報告も個々の監査等委員に付与されています。今回は会社法上の適法性についての意見ですが、そもそも適法・違法の判断というのは多数決原理になじむものなのでしょうか?かりに監査等委員会としての意見を表明するとしても、それが全員一致なのか、それとも意見が分かれたのかは株主も知りたいところではないかと。私的な意見は控えますが、おそらくこの状況における第三者割当増資だと「不公正発行」が当然問題となるわけですから、基準日以降に株式を取得した株主が会社法124条4項によって議決権を行使できるのかどうか、といった問題についても、株主は監査等委員会(または監査等委員)の意見をお聴きしたいところではないでしょうか。

同社の支配権争いの状況をみるにつけ、監査等委員会設置会社の監査等委員は有事にはたいへん厳しい状況に置かれるものと推察いたします。上で述べたような適法性意見のほかにも、会社側、株主側から別々に取締役選任議案が上程されるわけですから、どの候補者が当社取締役にがふさわしいか、といったことは公正な立場で主体的に監査等委員会が意見を形成する必要があります。まちがっても現経営陣と大株主との和解的協議によって(監査等委員会は蚊帳の外で)決まりました、ということにならないよう配慮する必要がありそうです。

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2016年12月22日 (木)

エフオーアイ粉飾損害賠償判決-東証の注意義務認める

火曜日(12月20日)の夜に今年の注目判決として速報版でご紹介したFOI損害賠償請求事件判決(東京地裁)ですが、被害者弁護団から判決の概要がリリースされています。みずほ証券さんは金商法に基づく発行市場損害のみ認容されたそうです。東証さんの不法行為責任は認められていないものの、抽象的には不法行為責任の前提となる注意義務が認められたそうで、これは重要判決ですね。

また、コメントをいただいております「通りがかりの商法研究者」さんの情報によると、判決全文は200頁以上で、FOI社の監査役(社外監査役を含む)の責任が認められているそうです。おそらく「監査見逃し責任」が認容されたのでしょうね。なお会計監査人は提訴されたにもかかわらず判決当事者からははずれているようなので、和解をされたものと思われます。

やっぱり、私的には今年一番の注目判決といえそうでして、なんとか正月休みにでも判決を読めないだろうか・・・と。25日の朝、目が覚めたら枕元に判決謄本が積まれていたりして・・・そんなわけないか(笑)。

(12月23日追記)

グーグルで検索しておりますと、私の過去ログがひっかかりまして、エフオーアイの粉飾決算については2010年のこちらのエントリーで内部告発問題を解説していたのですね。もう11年近くブログを続けておりますと、情けないことに自分でもどんな事件について書いたのか忘れているようです(笑)。

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2016年12月20日 (火)

速報-粉飾決算会社の主幹事証券会社に賠償命令!!

粉飾決算企業の上場関与証券会社に初の賠償命令(サンケイビズニュース)。

今週月曜日の日経法務面では、企業法務に携わる法律家が今年最も注目した案件はジュピターテレコム最高裁決定と三菱燃費偽装事件とのことでした。しかし遺産分割審判に関わる最高裁大法廷決定に続き、まだ最後にこんな隠し玉(クリスマスプレゼント?)が残っていたとは、いやいや驚きました(ただ本日「驚いた」のは、この判決だけでなく、パナホームさんの100%子会社化にも驚きましたが・・・、これは個人的事情からです。。。)。これは私的には今年一番注目の商事裁判例の可能性大ですね。かつてアイ・エックス・アイ粉飾決算事件の後始末に関与した者として、あの事件でも証券市場に関与した関係者の責任追及がなされましたが和解的解決で終わっておりました。ともかく東京三会のエフオーアイ被害者弁護団の皆さま、認容額が少ないとはいえ、6年がかりでこれほど衝撃的な証券被害判決(東京地裁)を得られたこと、おめでとうございます。

エフオーアイの上場主幹事証券会社であるみずほ証券さんに3100万円の損害賠償責任が認められたとのこと(金額よりも、責任が認められたことの衝撃が大きいですね)。みずほ証券さんとしては控訴する可能性が高いとは思いますが、ともかくどこかで判決全文が読めることを期待しております(みずほ証券以外の証券会社と東京証券取引所に対する請求は棄却されたようですが、監査法人に対する請求も棄却されたのでしょうか?)。執務中ではございますが、とりあえず速報版ということで。

(追記)

有償版の朝日新聞「法と経済のジャーナル」の過去記事によりますと、原告団は会計監査人(公認会計士2名)に対しても訴えを提起したとのことです。また、証券会社の損害賠償責任が認められたとのことですが、これが上場審査中の違法行為なのか、上場後粉飾が発覚した後の証券会社の対応に問題があったのかは判決文を読まないとわからないところです。いずれにしても、今後のIPOに及ぼす判決の影響力は、判決全文を読んでみないとわからないと思います。証券取引所や証券会社がどのような責任回避の理屈を主張していたのか・・・という点にも注目ですね。

(追記その2)

その後のNHKニュースによりますと、みずほ証券の責任が認められたのは、事前に情報提供があったにもかかわらず、その真偽をきちんと調査をせずに上場に関与した(結果として虚偽記載の書類を用いて株式募集を行った)点に金商法上の法人の賠償責任を認めたからのようですね。しかしエフオーアイの事件では、東証にも紙爆弾が投げられていたと記憶していますが、そちらは責任根拠にはならなかったのでしょうか?上場前の「紙爆弾(内部告発)」か・・・うーーーん、やっぱり内部告発は怖いですね。

(追記その3)

午後10時代に出てきた日経ニュースによると、みずほ証券には二度にわたって内部告発が届いていたそうです。上場前の審査に問題があったということのようですね。また上場後、1か月経過した時点で2chにすごい内部告発が出ていますね。ちなみにSESCが強制調査に入ったのは上場後7か月経過してからです。「こんな架空循環取引で実績上げてる詐欺会社に上場資格を付与するって、東証終わってる」との内容。ヤフー板でも当時から「粉くさい」といった投稿はかなり頻繁に掲載されていますね。

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2016年12月19日 (月)

ガバナンス改革-議決権行使助言会社も「形式」よりも「実質」か?

先週、米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスさんが、「2017年度議決権行使助言方針」において「日本の監査役会設置会社の場合、社外取締役と社外監査役の合計人数が(監査役を含む)全体の3分の1以上となるように要請する」ことが報じられていました。3分の1に満たない場合には取締役会議長となることが多い会長さんの選任議案に反対推奨を行うとのこと(日経ニュース12月15日付けより)。

これを「ガバナンス規制が厳しくなった」とみるかどうかは意見が分かれるかもしれません。しかし、私は日本の監査役制度を真正面から認めたものとして前向きに評価しています。監査役もボードメンバーであり、社外監査役もモニタリング構成員として(経営の監督者として)重視する、といった同社の指針変更は、議決権行使助言会社も日本企業のガバナンスについて「形式」よりも「実質」を重視する姿勢に変わってきたことの表れではないかと。社外監査役2名と社外取締役1名であれば、社内取締役5名でも無事クリアできそうなので、わざわざ(ガバナンス・コード対応として)監査等委員会設置会社に移行する必要はなくなりますね。この先、「監査等委員会設置会社には社外取締役4名以上の選任を求める」といったISSさんの指針等が出た場合には、すでに監査等委員会設置会社に移行した企業さんはどう対応されるのでしょうか。

日経新聞の11月23日付け記事によると、グラスルイス社の2017年指針では「社外取締役についても、上場企業の現役経営陣については兼務1社までとするが、非上場会社の経営者や大学教授の方々の場合には兼務4社まで」といった方針に変更するようで、こちらも社外取締役の役割が重視されるなかでかなり現実的な水準ではないかと思います。

最新の旬刊商事法務(12月15日号)の巻末「スクランブル」で初めて知りましたが、海外では議決権行使助言会社に対する法的規制が厳しくなってきているそうです。主に①助言会社の議決権行使助言業務とコンサルタント業務との利益相反問題、②推奨判断に対する企業側からの反対意見陳述の機会付与という点からだそうですが、日本でもスチュワードシップ・コードの改定を控えており、助言会社もコード対応が求められる立場なので、「形式よりも実質」ということでかなり柔軟な対応に変わってくるのかもしれませんね。

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2016年12月16日 (金)

企業は監督官庁のコンプライアンス違反を監視すべきである

驚いた方もいらっしゃると思いますが、本日(12月15日)の日経ニュースによりますと、大企業が(下請け先等の)中小企業からの値上げ申請に対して誠実に対応することを政府(中小企業庁)が基準を作って要請する方針だそうです。基準自体に罰則は設けないそうですが、大企業が中小企業との協議に応じず、値上げを拒否する場合などは下請法違反(買いたたき)にあたる恐れもある、とのこと。いわゆる「グレーゾーン」を活用してハードローの脅威で企業規制を行うという近時の典型例ですね。「働き方改革」に関わるコンプライアンス対応は、来年にかけてますます企業のレピュテーションに影響を及ぼすものになりそうです。

ところで当ブログでは10年以上前から「行政法専門弁護士待望論」を掲げていますが、ここ数年、待望する気持ちは強まるばかりです(ある業界からは「おまえがやれ」と言われおりますが、専門といえるほど実務経験がないので私にはちょっとむずかしそうです・・・すいません・・・)。行政権限の脅威をもって監督官庁が(行政の望ましい方向へ)企業規制をかける場合、行政権限発動の要件が問題となるのですが、これが結構「穴がある」ケースが見受けられます。法律専門家だからこそ、この穴を上手につつけるスキルというものがあるわけです。

以前、性能偽装事件の企業対応を支援したケースでは、偽装をした企業が一番悪いのは当然ですが、偽装が長年発覚しなかった原因は、行政の検査方法が法令に違反した形で行われていたこと(つまり手抜き検査をしていたこと)によるものでした。最終的には行政処分が課せられるにあたり、そのあたりの行政のコンプライアンス違反が影響したのではないか、と思われる裁量権行使がなされたように思えました(あくまでも「思えた」だけであり、そのような手加減が加えられた、という事実が存在したわけではございません。念のため・・・)。

行政の効率化が進むにしたがって、行政組織内においても不祥事の芽はずいぶんと増えてきたように感じます。たとえば人手不足です。誤解をおそれずに申し上げますと、企業も監督官庁のコンプライアンスを厳しく監視していれば(行政のデュープロセス違反をチェックすること)、それが企業にとってもメリットとなって返ってくる可能性もある、ということではないかと。いや「メリット」という言葉が不適切だとすれば、再発防止に向けた「共助」が進むことになるのではないかと思います。

この発想で考えますと、企業規制がハードローだけではなくソフトローも多用する時代になればなるほど、企業にとってお得感が高まるのですね。決して不祥事を起こしてしまった企業の「逃げ道」を探るようなものではありませんが、企業不祥事は社員だけではなく、組織の構造的欠陥によって発生する、ということを真摯に考えますと、その先には企業と行政との組織間の構造的欠陥にも起因するところがあるのではないか、といった考え方にたどりつくのもいたって自然な気がいたします。最近の労務コンプライアンス問題が、労働者の保護ということだけでなく、(労働者の保護を通じた)国民の生命、身体の安全に向けられてきたことをみておりますと、この考え方はますます説得力が増すような気がいたします。

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2016年12月14日 (水)

証券市場の健全性確保に立ちはだかる司法の壁?(K物産事件)

12月12日をもって証券取引等監視委員会の佐渡委員長が退任されました。日経ニュースによりますと、佐渡氏は(東芝事件で歴代社長の立件が困難を極めていることについて)「検察との関係などいろいろと検討すべき事案であり、新しい委員会で新しい視点で判断していただきたい」と述べられたそうです。金融庁VS検察庁の決着は、次の委員長の時代に持ち越されるそうです。このままでは証券市場の健全性は確保できない、といった強い意欲をもって金融庁が立件に動いたのですが、検察庁は司法判断のハードルの高さからか、なかなか積極的に動くことはないようです。

さて、「金融庁vs検察庁」の構図で司法の壁を痛感するものとして、東芝会計不正事件ばかりが報じられていますが、私はむしろ神戸物産事件のほうが深刻ではないかと感じています。自社株買いに絡む内部情報を漏えいしたことによる、日本で過去最高の巨額(50億円)インサイダー事件として今年2月に報じられた神戸物産インサイダー疑惑。同社内部でも徹底した調査を行ったそうですが、今年6月には法人および役員に対する神戸地検の捜査も行われたことが報じられました(会社自身もリリースで認めておられました)。しかしご承知のとおり、この12月9日に神戸地検は法人及び役員について(理由は明らかにされていないものの)不起訴処分とすることを決めました(会社のリリースに基づく)。

昨年11月に金融庁の調査が開始されたそうですが、今年2月以降は巨額インサイダー事件の報道で株価は急落、同社役員の名誉も失墜したそうですが、ここでも金融庁と検察庁との意見の食い違いがあったものと推測されます。ここからは私の完全な憶測にすぎませんが、この9月に東京電力株式の公募増資に関する関係者への課徴金命令取消判決が出たところなので、「情報提供者」を立件するインサイダー規制についても検察庁は相当に慎重になっているのではないでしょうか。しかし今回の神戸物産事件については、上場会社およびその一般投資家に及ぼす影響の大きさからみて、単なる金融庁vs検察庁の構図の話題だけで済む話ではないように思います。むしろ今後の証券市場の健全性をどのように規制していくべきか、といった大きな論点に関わる話ではないかと。

証券取引等監視委員会の佐渡委員長は、最後の記者会見にて「印象に残っているのは公募増資インサイダー事件だ」と述べておられましたが、一連の公募増資インサイダー事件を含めて、心残りになった事件もいくつかあるのではないかと(勝手に)想像しております。

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2016年12月13日 (火)

経済誌「企業不祥事特集」の記事投稿の件

この時期は懇親会が続き、なかなか更新する時間もないので執務中ではありますが、経済誌の特集記事への投稿をお知らせいたします。

現在発売中の週刊エコノミスト(12月20日号)「粉飾-ダマし方、見抜き方」におきまして、「監査役の覚醒-増えるモノ言う監査役」なる論稿(2ページ3000字)を掲載いただきました。私の論稿の隣に掲載されている(公益通報者保護制度検討委員会でご一緒している)光前幸一弁護士の「内部通報者保護-制度充実で試される財界の本気度」も併せてお読みいただければ幸いです。しかし私以外はホントに豪華な執筆陣で驚きました。

もうひとつ、これも現在発売中の日経ビジネス12月12日号「謝罪の流儀-夜明ければ社会の敵に」におきまして、「思考停止がもたらすマニュアルの罠」でコメントを掲載いただきました。この特集で掲載されている企業不祥事は、私はこの1年間にブログで掲載したものばかりで、現場での新たな取材内容から、新たな事実を発見できて興味深いところです。

また、来週も雑誌掲載論稿のお知らせがひとつございますが、発売されてからご紹介させていただきます。どうかよろしくお願いいたします。

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2016年12月12日 (月)

電通過労死事件の背後にはガバナンス、コンプライアンス問題がある

平成29年度の与党税制改正大綱が公表されましたが、組織再編税制にはかなり大きな改正が予定されています。最近の「攻めのガバナンス」に対応するものですが、事業再編やM&Aの手法選択にも影響が及ぶようなので、法案審議後にきちんと勉強しておく必要がありそうですね。

さて、3日ほど前のマスコミ報道で、電通さんが長年の営業の鉄則を示した「鬼十則」を廃止し、社員手帳から削除することを正式に決めたことが報じられていました。私も、11月21日付エントリー「電通過労死事件-企業行動規範を三次元で考える」におきまして、鬼十則削除に関する問題点をそこで述べておりますが、どうも報じられているところによると鬼十則は完全に廃止されるようであります。

ところで文芸春秋の今月号(2017年1月号)に、電通の元常務の方による「電通は本当に悪いのか」といった10頁ほどの論稿が掲載されていましたので、興味深く読ませていただきました。過労死事件でご遺族側の代理人をされている弁護士の方が、同誌12月号に論稿を発表されていたので、(タイトルからみても)これに対する電通OBによる反論(電通擁護論)が掲載されているものだろうと思って読み始めました。しかしその内容は、電通擁護論などといったものではなく、逆に元常務の方によるたいへん電通さんの組織に対する厳しい指摘が中心です。

一言でいえば、このたびの電通さんの不適切広告問題、過労死問題は、決して「鬼十則」に代表されるような電通さんの精神論に起因するものではなく、電通さんのコーポレートガバナンス、コンプライアンスの不全に起因するものである、ということです。鬼十則を廃棄するといったことでは到底過労死問題の再犯を防止できるものではない(それはあくまでも対外的なポーズである)、電通さんの体質を本気で変えなければご遺族の方々の期待に応えることはできない、とのこと。私が11月21日付けエントリーで懸念していたことが、電通の元役員の方から厳しく指摘されていることは、やはり社内の方々だけでは容易に変えることができない構造的欠陥がそこに潜んでいるということではないでしょうか。

どのような体質がガバナンス、コンプライアンスの課題であるかは上記文芸春秋をお読みいただきたいと思いますが、ただ私が感じたことは、元常務の方が「電通の特殊体質だ」と指摘しておられる点は、ほかの企業においても多かれ少なかれあてはまるものと確信しております。最近のDeNAさんの不祥事でも同様ですが、重大な不正リスクを認識することはできても、その不正リスクがあるからといって新規事業をストップできる企業などほとんどありません。結局はゴーサインを出さなければ利益を獲得することはできないのですね。

それでも現実には不祥事を顕在化させる企業と顕在化させない企業に分かれるのです。だからこそガバナンスとコンプライアンスの課題がそれぞれの企業に横たわっているのであり、重大な不正リスクを認識しつつもトライアル&エラーの思想で経営判断にゴーサインを出す知恵が必要になるものと思います(「そもそもグレーゾーンに侵入するくらいなら、この事業はやらない」と決定できるのは社長さんくらいでしょう・・・)とりわけ電通さんのように、現場部門と管理部門の力関係に大きな差がある企業(元常務さんの評価による)の場合には、この「知恵」がとても大切だと感じています。

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2016年12月 9日 (金)

公益通報者保護制度-法改正に向けた第1ラウンド終了

夕刊各紙、テレビニュースで報じられておりますように、本日消費者庁の公益通報者保護制度実効性検討委員会の最終回(第14回)が開催されまして、公益通報者保護法の見直し提案に関する報告書が大筋でとりまとめられました(「大筋」というのは、細かな字句の修正等を座長一任として、後日正式案が公表される予定だからです)。

私も(恥ずかしながら)夕方のNHKニュースでドアップで映っていましたが、検討委員としての役目は本日終了しました。ちょうど3年前(2013年11月)、消費者庁の公益通報制度アドバイザーを拝命して以来、阿南氏、坂東氏、岡村氏(現任)の三長官のもとで実効性向上への施策作りをお手伝いさせていただきましたが、これで一応お役御免です。宇賀克也座長も「今回の提言をぜひとも法改正につなげてほしい」と会見で述べておられましたが、私もまったく同感です。

ただ、公益通報者保護法改正に向けた作業は第1ラウンドが終了したところであります。今後は経済団体や中小事業者団体、法務省や厚労省を含めた関係官庁、大臣や国会議員の方々に理解を求めていかなければ改正にはつながりません。まさにタフな第2ラウンドが控えているものと推察します。今後また大きな企業不祥事が発覚するような事態となれば、想定外のスピードで法改正が進んだり、個人情報保護法のように、消費者庁から新設委員会に管轄を移行する、ということも「政治家の一声」でありうると思います。いろいろな準備をしておく必要がありそうです。

なお、法改正ばかりが注目されていますが、本日(12月9日)、内部通報制度の実効性を高めるための民間事業者ガイドラインも11年ぶりに改訂され、消費者庁HPで公表されました(私も一部改訂作業に携わりました)。事業者の通報者に対する「不利益処分」とはいかなるものを含むのか、個別具体的に示す等、かなり詳細な内容になっております。とりわけ上場会社の皆様方は、ガバナンス・コードにおいても適切な内部通報制度の整備が要請されていますので、ぜひとも新しい民間事業者ガイドラインを参照いただき、今後の改訂等にお役立ていただければ幸いです。

最後になりますが、本日の朝日新聞夕刊の一面(東京版・大阪版とも)に私のコメントが掲載されていますので、その部分だけ引用させていただきます。

(内部通報制度に詳しい山口利昭弁護士の話)「内部通報制度は、パワハラなど労務上の問題については比較的機能しているが、重大な企業不正についてほとんど機能していない。制度があっても、社員の人たちがそれを信頼しておらず、通報したら報復にあうのではないかと疑い、萎縮しているからだ。まずは企業自身が、制度を機能させることにメリットがあると理解し、制度に対する社員の信頼を高めていくことが必要だ。」

もちろん委員の皆様の中には「内部通報制度が機能するというのは幻想にすぎない。マスコミや監督官庁のような第三者に情報を提供する内部告発者を保護することこそが企業不正撲滅には有効だ」と主張される方もいらっしゃいます。ただ私自身としては、内部通報制度を整備することが、社会の流れからみて企業にも大きなメリットがあることを、今後も広報していきたいと思います。消費者庁のみなさま、(ワーキンググループメンバーを含めた)委員のみなさま、いろいろとありがとうございました。

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内部監査部門の強化は不正発見力向上につながるか-その2

今週月曜日(11月5日)の日経法務面では内部監査部門の不正発見力に関する特集記事が組まれていました。そういえば私も今年の8月18日付けエントリーで、内部監査部門強化が不正発見につながるのか?といった問題提起をしておりました。内部監査部門といえば指導的役割が中心であり、現場の不正を発見するような役割がそれほど期待されていないのではないか、もし期待されるのであればいくつかの前提条件が必要ではないか・・・といったこと書きました。

上記日経記事では、最近のコーポレートガバナンス・コードでの要請事項との関係で、不正発見力向上に向けた内部監査部門の底上げに取り組む企業事例が紹介されています。監査役や社外取締役らとの連携によって統制環境の健全化に役立つような体制作りが始まっているそうです。ただ、8月18日のエントリーにコメントいただいた「場末のコンプライアンス」さんが

(リスクアプローチによる効率的な監査を実現するため)には、現場を知る監査、検査部隊が必要であり、米国SECの初代委員長同様、現場の手口を知り尽くしている人間を配置しなければ成果は上がらず、現状のような縦割りで、結果的に内部監査基準に精通した人間のみを養成するような人材育成では、到底難しい話でしょう。

と指摘されているとおり、監査部門を担う方々のスキル、それも個々の監査部門の社員による努力ではなく、全社挙げての内部監査のスキルアップという面にも光をあてる必要があるかと思います。

最近、私が担当した某社の会計不正事件の調査では、経理部門と監査部門との力の差をまざまざと見せつけられました。経理部門は日頃から営業部門とのコミュニケーションをはかっていて、さらにローテーションによって営業を経験している経理社員も存在することから、営業から上がってきた数字をみただけで異常な取引を行っている可能性を感じとっていました。不正・誤謬の初期段階であれば、経理が営業と話をして正しい数字に修正させますので(監査法人に知られることもなく?)何事もなかったかのように不正・誤謬が解消されます。

しかしその会社の監査部門の担当者は、あまり他の部門との交流がなく、ローテーションも活発ではないので「現場感覚が乏しい」というのが実情でした。数字をみても、営業活動の様子が思い浮かばないということから、ヒアリングも実効性が上がらない。たとえば事業部門と経理部門の交渉の末、経理部門のプロの業によって「かなりクロに近いグレー」が「かなりシロに近いグレー」にドレッシングされたとしても、その事実を内部監査部門が把握することはできない、という状況でした。経理部門が不正撲滅に熱心な状況であればよいのですが、役員クラスから「なんとかしろ」と言われると、会計監査人に適正意見をもらうためのストーリーを作る側に回ってしまう。そのような中で、不正を発見すること以前に、不正の兆候に気づくことですら、やはり監査部門が「ノルマに追われている状況にある現場を知る」ことがとても大切ではないかと思いました。

上記の日経記事では「内部監査部門の役割向上のためには独立性強化や専門性向上、非業務執行役員との連携が不可欠」とされています。しかし、それ以前に「内部監査部門は社内で様々な職場を経験する、もしくは事業部門や経理部門とのコミュニケーションによって(トップからのミッションを果たすために必死になっている)現場の感覚を習得する」といったことが必要だと考えます。少なくとも監査部門に経理の経験の長い人を置くだけで、他部門が監査部門を見る目が変わるのではないでしょうか。

 

 

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2016年12月 7日 (水)

電通事件-真綿で首を絞めるソフトローの実効性(プレッシャー)

電通さんを取り巻くソフトローについて、ときどき考えることがあります。大きく分けて二つの問題があるように思います。

ひとつは労働問題(過労死)問題です。2020年東京オリンピックについて、立候補ファイルには「ISO20121 イベント・サステナビリティ・マネジメントシステム認証において、持続可能な社会、環境、経済に関する新しい基準を遵守していく」と明記されて、組織委員会もアクション&レガシープランに「持続可能性」を掲げ、専門委員会も設置しています。今後はロンドン大会を参考に、ステークホルダーへの啓発運動も行われるようです。

そこで、電通さんの今回の労働問題によって、電通さんは今後の東京オリンピック関連の仕事を続けていくことはできるのでしょうか?もし可能であるならば、それはオリンピック組織委員会はどのような理由で電通さんにお仕事を依頼できるのでしょうか。また、これはどの程度、他の大手広告代理店にとって関心の的になっているのでしょうか(誰か、こういった疑問を抱く人はいないのでしょうかね?)

そしてもうひとつは広告料の不適切問題です。米国広告主協会が電通の不適切広告を広く紹介していますが、そうであるならば日本の広告主協会(日本アドバタイザーズ協会)も、そろそろ電通さん含め、大手広告代理店のデジタル広告に関する調査を開始しているのではないかと推測いたします。業界団体ではなく、広告主さんの団体ではありますが、電通さんを含め、広告代理店業界の自主規制を要望するようなことはないのでしょうか?

業務への影響がどれほどかは門外漢の私には測りかねますが、いずれにしても(コンプライアンスを扱う法律家の視点からは)ハードローではなく、ソフトローによる電通さんへの締め付けがどれほどのものになるのか、また他の広告代理店にどれほどの波及効果があるのか、あまりマスコミで報じられていない視点ではありますが非常に興味があります。

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2016年12月 5日 (月)

IESBAの新規定-監査法人に対する内部告発制度への期待

監査法人の経営幹部の方とお話ししていて、どこの監査法人でも最近話題に上るのがIESBA(国際会計士倫理基準審議会)が作成した新しい規定「違法行為への対応」です。この国際ルールの適用は来年7月からとなりますが、日本公認会計士協会さんに対しても、「同等レベルのルールを策定することを検討しなければならない」と要求しています。

日本語仮訳は会計士協会さんのHPで閲覧可能ですが、監査法人の幹部の方々が悩んでおられるのが「監査人が違法行為をたまたま見つけたときの対応」です。当該国際ルールでは、この「違法行為」の範囲がかなり広いわけでして、環境問題や公衆衛生・安全問題、情報漏えい、賄賂問題なども含みますし、「不正」とあるのはおそらく不正競争防止法や経済法違反も含む概念だと推測されます。会計士の社会的役割を高めるための倫理規範の改訂なので、おそらく広く不正問題に直面した会計士さんの職業倫理を高める必要がありそうです。

このたびの臨時国会で改正道路運送法が成立し、バス事業者の安全運行義務違反の罰金が100倍となり、刑事罰も厳格化されました。また民間団体を活用しての監査制度も開始されるそうです。運輸事業者における働き方改革も注目されていますが、労働問題は労働者の人権保護だけでなく国民の生命の安全性確保の問題も含むものと認識されつつあります。先の会計士さんが対応すべき違法行為の範疇にも(労働問題が)含まれうる課題ではないでしょうか。

もちろん不正に「重要性」がなければ対応する必要はありませんが、会計監査人の「違法行為への対応」が行動指針として広く認知されるようになれば、社内の内部通報や内部告発にも影響が出てくると思います。会計監査人の守秘義務はたいへん信頼のおけるものなので、広く違法行為を通報し、その是正を監査法人から経営者に求めてもらう、ということになるかもしれませんね。このIESBAの新規定の施行開始を受けて、日本公認会計士協会さんがどのような倫理規定の改訂を行うのか、公益通報者保護制度との関係も深いものとして、今後注目しておきたいと思います。

 

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2016年12月 3日 (土)

内部通報制度の最新情報(直前ですがセミナーのお知らせ)

DeNA創業者の南場智子さんのご著書「不格好経営」では、独禁法違反(優越的地位の濫用事案)を指摘した公正取引委員会とガチで闘った経験から「そもそもグレーゾーンで事業を行うこと自体に当社の問題があった」と自戒をこめて回想しておられます。モバゲーサイトの「援助交際目的使用」撲滅作戦の経験なども含め、ビジネスモデルを展開するにあたり、今後同社はコンプライアンス経営の意識を強く持つ会社に発展するものと期待しておりました。

しかし、このたびのキュレーションビジネスにおける同社の不適切行為については、徳力基彦さんがご指摘のとおり、かなり悪質なもののように見受けられます。ただ、徳力さんも述べておられるように、私もDeNA社員の方による内部告発記事が掲載されたことが不祥事発覚の大きな端緒になったように思います(DeNAさんも、この記事が公開された翌日に問題サイトの非公開に踏み切りました)。従来からビジネスモデルに疑問を感じていた社員の方が、社会的に火がついたことをきっかけとして記者さんの取材に応じたものと推測されます。このような取材記事が掲載されるまで、今回の医療情報に関するキュレーションビジネスが社外からどのように受け止められるのか、DeNA社内で議論する機会はなかったのでしょうか。社内におけるレポートラインの在り方やヘルプラインの機能不全に関心があります。

さて、(ここからは広報ですが)年内の内部通報制度に関するセミナーに私も登壇しますので、(本当に直前となりましたが)お知らせいたします。今回は、リスクマネジメント・コンサルタントのエス・ピー・ネットワークさん主催(レクシスネクシス社後援)の出版記念セミナーに、私はゲスト的な立場で登場します。「あまり出しゃばらないほうがいいのでは・・・」と思いまして、ブログでの広報も控えておりました。ただ、「東京も大阪も、お席にまだ若干余裕がある」とのことなので、当ブログをご覧の方々で、内部通報制度や内部告発への社内対応に関心がございましたらお越しいただければ幸いです。ちなみに大阪は12月6日、東京は12月20日で、いずれも午後2時開演でございます(大阪のみなさま、ホンマに直前になりまして申し訳ございません)。

内部通報制度の最新事情~有効に機能する制度の運用と今後のあり方について

講演内容は上記HPにてご確認ください。私は第Ⅰ部の基調講演(60分)と、第Ⅲ部のパネルディスカッションに登壇いたします。公益通報者保護法改正に向けた審議状況の最新状況や今後の動向、11年ぶりに改訂される公益通報制度に関する民間事業者ガイドラインの改訂等についても若干触れたいと思います。企業不祥事を端緒とする役員のリーガルリスクという視点では、内部通報や内部告発への社内対応の巧拙が大きな影響を及ぼします。中小事業者を含め、ビジネスを円滑に進めることに役立つリスクマネジメント手法として、ヘルプラインを活用する時代が到来したと言えるでしょう。運用する会社側にも、また活用する社員側にも「密告制度」などといった10年前の暗いイメージはなくなってきたことを実感していただきたいと思います。なお、レクシスネクシスさんの上記HPからお申し込み可能でございます。

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