企業は監督官庁のコンプライアンス違反を監視すべきである
驚いた方もいらっしゃると思いますが、本日(12月15日)の日経ニュースによりますと、大企業が(下請け先等の)中小企業からの値上げ申請に対して誠実に対応することを政府(中小企業庁)が基準を作って要請する方針だそうです。基準自体に罰則は設けないそうですが、大企業が中小企業との協議に応じず、値上げを拒否する場合などは下請法違反(買いたたき)にあたる恐れもある、とのこと。いわゆる「グレーゾーン」を活用してハードローの脅威で企業規制を行うという近時の典型例ですね。「働き方改革」に関わるコンプライアンス対応は、来年にかけてますます企業のレピュテーションに影響を及ぼすものになりそうです。
ところで当ブログでは10年以上前から「行政法専門弁護士待望論」を掲げていますが、ここ数年、待望する気持ちは強まるばかりです(ある業界からは「おまえがやれ」と言われおりますが、専門といえるほど実務経験がないので私にはちょっとむずかしそうです・・・すいません・・・)。行政権限の脅威をもって監督官庁が(行政の望ましい方向へ)企業規制をかける場合、行政権限発動の要件が問題となるのですが、これが結構「穴がある」ケースが見受けられます。法律専門家だからこそ、この穴を上手につつけるスキルというものがあるわけです。
以前、性能偽装事件の企業対応を支援したケースでは、偽装をした企業が一番悪いのは当然ですが、偽装が長年発覚しなかった原因は、行政の検査方法が法令に違反した形で行われていたこと(つまり手抜き検査をしていたこと)によるものでした。最終的には行政処分が課せられるにあたり、そのあたりの行政のコンプライアンス違反が影響したのではないか、と思われる裁量権行使がなされたように思えました(あくまでも「思えた」だけであり、そのような手加減が加えられた、という事実が存在したわけではございません。念のため・・・)。
行政の効率化が進むにしたがって、行政組織内においても不祥事の芽はずいぶんと増えてきたように感じます。たとえば人手不足です。誤解をおそれずに申し上げますと、企業も監督官庁のコンプライアンスを厳しく監視していれば(行政のデュープロセス違反をチェックすること)、それが企業にとってもメリットとなって返ってくる可能性もある、ということではないかと。いや「メリット」という言葉が不適切だとすれば、再発防止に向けた「共助」が進むことになるのではないかと思います。
この発想で考えますと、企業規制がハードローだけではなくソフトローも多用する時代になればなるほど、企業にとってお得感が高まるのですね。決して不祥事を起こしてしまった企業の「逃げ道」を探るようなものではありませんが、企業不祥事は社員だけではなく、組織の構造的欠陥によって発生する、ということを真摯に考えますと、その先には企業と行政との組織間の構造的欠陥にも起因するところがあるのではないか、といった考え方にたどりつくのもいたって自然な気がいたします。最近の労務コンプライアンス問題が、労働者の保護ということだけでなく、(労働者の保護を通じた)国民の生命、身体の安全に向けられてきたことをみておりますと、この考え方はますます説得力が増すような気がいたします。
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