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2016年12月29日 (木)

エフオーアイ損害賠償請求事件判決の威力-内部告発者が証券市場を救う

本文だけで230頁に及ぶエフオーアイ損害賠償請求事件判決の全文を(当ブログをご愛読の方から頂戴して)一読いたしました。平成28年12月20日付け、東京地裁民事第16部合議係です。社外監査役を含めた監査役の監査見逃し責任、みずほ証券さんのIPOにおける元引受証券会社としての損害賠償責任、日本取引所自主規制法人さんの私法上の注意義務を認めた画期的な第一審判決であり(ただし自主規制法人さんについては請求棄却、また審査を委託した東京証券取引所さんには注意義務は認めず)、2016年の企業法務に関連する重要判決と言えます。ただ、惜しいのは会計監査人が訴え途中で和解をされたようで、会計監査人の注意義務の中身が判断されていません。

判決文にも出てきますので、そのままの表現で書きますが、上場準備の段階から粉飾決算を続けているエフオーアイ社について「こんな会社は上場させてはいけない、ここを調査すれば粉飾がわかる」といったことが詳細な理由をもって自主規制法人さんと主幹事証券会社であるみずほ証券さんに「匿名投書」で届けられました。エフオーアイ社の経営陣は、社内でトラブルを起こして手を焼いている内部監査室長のM氏による匿名投書であることを、主幹事証券会社に伝えました。しかし、不正はなかったとして、そのまま上場が承認されてしまい、二度目の匿名投書も不発に終わり、最終的には金融庁の強制調査によって粉飾が明るみになります。証券会社は匿名投書者が内部監査室長であることが特定され、精神疾患によって会社に恨みをもった投書だという会社側の説明を信じ、M氏が退職したことによって「むしろ上場を控えたエフオーアイ社の内部管理体制にとっては好ましい状況になった」と判断したそうです。M氏をヒアリングすることもありませんでした。

残高証明の偽造については(複数の?)名門企業の担当者が加担していたのですね(具体的な社名も匿名投書の中に出てきています)。インサイダー情報という「おいしい見返り」があれば、名門企業といえどもこんなにも簡単に他社の粉飾に加担してしまうのでしょうか。インサイダー取引の摘発件数はここのところ増えていますが、市場の健全性確保にとってやはりインサイダー取引の規制強化は必要だと思います。取引所や証券会社、そして監査役や会計監査人にも内部告発をした内部監査室長(と思われる人)は、もはやどこにも相手にされないとみて最後に金融庁に内部告発を行ったものと思われます(なお、判決文には金融庁への通報という事実は認定されていないので、ここはあくまでも私の推測です)。判決では、このような匿名投書が二度も届いたにもかかわらず、深堀りした調査を怠った証券会社の姿勢に厳しい判断を下しています。9年前に、勇気をもって内部告発をした一人の社員が、ようやく市場関係者の法的規律(責任問題)に風穴を開けました。

私自身は、監査役の行動規範や法的責任への考察のために、さらに何度も読み返して研究したいと思いますが(ブロガーのエチケットとして、審理係属中にどちらかに与するような法律意見はここで述べるつもりはございません)、おそらく来年は判例雑誌に全文が掲載され、金融法務、商事法務の著名な実務家、学者の方々が、この東京地裁判決の妥当性に関して論文を発表されるはずです。また損害の範囲や責任主体等、結論的には控訴審(東京高裁)で変わる可能性もありますが、間違いなく本判決は今後の市場関係者に語り継がれるものになると確信します。

ちなみに最新の金融・商事判例(1506号)には、監査役(監査委員)による不提訴判断の法的責任に関する重要判例も掲載されましたので、併せて年末年始に研究してみたいと思います。

12月 29, 2016 商事系 |

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コメント

山口先生、あけましておめでとうございます。
内部告発者が、まさしく「千丈の堤も蟻の一穴から」を体現されたのでしょう。
証券市場を救った告発者が、9年間、威嚇・恫喝・脅迫されたり、侮辱や誹謗中傷を受けたり、または無視され続けたことに思いをはせると悲しくなります。
この方は金融庁から褒められたことはあるのでしょうか?
昨年12月21日の日弁連シンポでも、現在の内部告発は「ハイリスク・ノーリターン」と位置付けられていましたが、私たちの世代において「ミドルリスク・ミドルリターン」程度にはしたいですね。
新年の目標としては「低すぎる!」「書き直し!」かもしれません。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年1月 1日 (日) 12時28分

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