内部監査部門の強化は不正発見力向上につながるか-その2
今週月曜日(11月5日)の日経法務面では内部監査部門の不正発見力に関する特集記事が組まれていました。そういえば私も今年の8月18日付けエントリーで、内部監査部門強化が不正発見につながるのか?といった問題提起をしておりました。内部監査部門といえば指導的役割が中心であり、現場の不正を発見するような役割がそれほど期待されていないのではないか、もし期待されるのであればいくつかの前提条件が必要ではないか・・・といったこと書きました。
上記日経記事では、最近のコーポレートガバナンス・コードでの要請事項との関係で、不正発見力向上に向けた内部監査部門の底上げに取り組む企業事例が紹介されています。監査役や社外取締役らとの連携によって統制環境の健全化に役立つような体制作りが始まっているそうです。ただ、8月18日のエントリーにコメントいただいた「場末のコンプライアンス」さんが
(リスクアプローチによる効率的な監査を実現するため)には、現場を知る監査、検査部隊が必要であり、米国SECの初代委員長同様、現場の手口を知り尽くしている人間を配置しなければ成果は上がらず、現状のような縦割りで、結果的に内部監査基準に精通した人間のみを養成するような人材育成では、到底難しい話でしょう。
と指摘されているとおり、監査部門を担う方々のスキル、それも個々の監査部門の社員による努力ではなく、全社挙げての内部監査のスキルアップという面にも光をあてる必要があるかと思います。
最近、私が担当した某社の会計不正事件の調査では、経理部門と監査部門との力の差をまざまざと見せつけられました。経理部門は日頃から営業部門とのコミュニケーションをはかっていて、さらにローテーションによって営業を経験している経理社員も存在することから、営業から上がってきた数字をみただけで異常な取引を行っている可能性を感じとっていました。不正・誤謬の初期段階であれば、経理が営業と話をして正しい数字に修正させますので(監査法人に知られることもなく?)何事もなかったかのように不正・誤謬が解消されます。
しかしその会社の監査部門の担当者は、あまり他の部門との交流がなく、ローテーションも活発ではないので「現場感覚が乏しい」というのが実情でした。数字をみても、営業活動の様子が思い浮かばないということから、ヒアリングも実効性が上がらない。たとえば事業部門と経理部門の交渉の末、経理部門のプロの業によって「かなりクロに近いグレー」が「かなりシロに近いグレー」にドレッシングされたとしても、その事実を内部監査部門が把握することはできない、という状況でした。経理部門が不正撲滅に熱心な状況であればよいのですが、役員クラスから「なんとかしろ」と言われると、会計監査人に適正意見をもらうためのストーリーを作る側に回ってしまう。そのような中で、不正を発見すること以前に、不正の兆候に気づくことですら、やはり監査部門が「ノルマに追われている状況にある現場を知る」ことがとても大切ではないかと思いました。
上記の日経記事では「内部監査部門の役割向上のためには独立性強化や専門性向上、非業務執行役員との連携が不可欠」とされています。しかし、それ以前に「内部監査部門は社内で様々な職場を経験する、もしくは事業部門や経理部門とのコミュニケーションによって(トップからのミッションを果たすために必死になっている)現場の感覚を習得する」といったことが必要だと考えます。少なくとも監査部門に経理の経験の長い人を置くだけで、他部門が監査部門を見る目が変わるのではないでしょうか。
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コメント
このHPを楽しく拝見させていただいております。
今回の記事に記載されていた通り、弊社の内部監査室もJ-SOXの対応で四苦八苦しています。本来ならばリスクを想定し、リスクアプローチの監査を実施しなければならないと日々考えていますが、現状は年間内部監査計画をこなすのが精いっぱいです。現在、内部監査室には2名体制で親会社と子会社5社を評価しています。監査項目としては≒30アイテムを手分けしていますが、海外子会社がそのうち3社ありますので時間的余裕がありません。経営者へ人員増員や他部門との交流のため人員の交代などを要望していますが、内部監査に対する人的資源は割けないとの回答ばかりで人的充実が不足して状態は、弊社も同じです。
投稿: デック | 2016年12月 9日 (金) 08時29分
山口先生。
ご無沙汰しております。
昨年「レベッカ」の件でコメントさせて頂きました。
今回の「内部監査部門の…」を拝見させて頂きみたびコメントさせて頂きます。
私、現在、内部監査に従事しておりますが、以前は10年程、経理課に所属しておりました。
IPO、会計制度変更への対応、J-SOXなど様々な事象に対応してまいりました。
内部監査に配属になり、気が付いたことは、やはり、経理での経験は非常に重要であったことです。
営業部門の方も業務関連については、入り易いのですが、やはり数字の感覚が無いと難しい部分があると思います。
先生に上記の様な事をご発言頂けると非常に心強いです。
私なりに、これからも精進して「会社を良くするため」業務に取組んで行きます。
投稿: 小嶌正史 | 2016年12月 9日 (金) 10時09分
いつも楽しく拝見させて頂いております、ありがとうございます。
内部監査部門に経営トップの関与が疑われる不正に対する対応を期待するならば、現在の東芝のように取締役会(監査委員会事務局)配下に内部監査部門を置かなけれればなりません。
いかに優秀な経理経験者が内部監査部門に配属されようと、経理担当役員、社長、営業部門長など複数の業務執行役員クラス、または代表取締役クラスが関与又は黙認している会計不正を前にすれば、社長直下の日本型内部監査部門のままでは、機能しません。
複数の不正関与部門から情報を隠蔽され、さらに不正を黙認している経営トップの直下に配置された内部監査部門は「牙を抜かれたライオン」と同じです、「そんなの単なるネコでしょ!」と言いたくなります。
(第三者委員会報告書をよく読むと内部監査部門も実情はよく知っていても、知らないふりをせざるを得ないですし、不正が発覚してもトップの黙認をかばうために、知らなかったとする内部監査部門も多いのではないかと)
そういう牙を抜くようなシステムを前提として、「だから内部監査部門は役に立たない!」という議論は、CIAホルダーとして甚だ遺憾です。
投稿: たか | 2016年12月10日 (土) 01時43分
たかさんの意見に賛成です。教科書的にCAE(監査室長)はCEOに報告するとなっていますが、できれば取締役会、さらに理想を言えば監査役直下で報酬人事体系もすべて別にするなどの本気モードの組織を作らないと複数の役員が関与するような不正には対応できないと思います。
投稿: 工場労働者 | 2016年12月10日 (土) 05時22分
山口先生、こんにちは、今年もよろしくお願いします。下記のコメント、大変実感を覚えました。内部からは希望者がいないのか、他社出身者(コンサル出身者とか)主体で構成されるなど、監査役が社外監査役主体になってしまう(いや、監査委員が社外取締役主体になってしまう)場合の弊害に似るのではないでしょうか。前回監査でも内部監査からお墨付きを得てます。本件、監査委員にも話は通っています。という、形式を整えるには好都合の状況になっていないか、と思います。
>しかしその会社の監査部門の担当者は、あまり他の部門との交流がなく、ローテーションも活発ではないので「現場感覚が乏しい」というのが実情でした。・・・・・・・・・・
さて、「たか」さんのご意見(CAEのレポートライン、人事考課や報酬の件)、おっしゃる通りですね。10年くらい前かと思いますが、内部監査部をどこに置いていますか、というアンケートが、行われました(私が居た会社で、アンケート結果を見た覚えがありますから、立派な団体が主催していた筈)。選択肢の中に、監査役直下、監査役会直下、というのが入っておらず、少し悲しい思いをしました。私は、監査役会の下に置くべきだと思っていたからです。なお、当時は、委員会設置会社という制度はありませんでした(独自に設けていた会社はあったと思いますけれど~~~)。
私見ですが、キャリアプランにも、内部監査部署を入れる方がいいのだと思います。
異動希望はあるが、どこに希望すべきかわからないなら、いったん、監査部や企画部や経理部など全社を鳥瞰できる部署を経験する。①監査部に行けば、全然知らない部署の様子が分かる。他部署の情報がデータベース化されている。経営レベルの話がある程度聞こえてくる。②監査担当になれば、知らない部署の様子をなんとか把握することが要求される(将来、どこかの課長や部長や子会社社長になった時、生かせます)。知らない部署の人と繋がりができる(日本社会でもどこでも、人間関係が大事です。また、社内における、各分野の専門家と繋がりができることも大事です)。各部署の人事権者へ自分の存在・能力を知ってもらうルートとして社内的に認知しておく。③監査部で、社内各部出身者と人間関係ができる(同期制度など作ればよいでしょう)。④とりあえず、社外役員(監査委員)と接する機会を増やす。
現状の各社において、監査部は組織規程上は上位にありますが、実際の地位はどうなのでしょう。また、形式的には権限は強いが、実際には行使できないという実態があるケースも多いのではないでしょうか。これも将来、アンケートを取ってほしいものです。
投稿: 浜の子 | 2017年1月21日 (土) 10時56分