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2017年1月13日 (金)

会社法改正によって日本の会社は変わらない?

先日の日経法務面でも話題になっていましたが、2017年3月ころには「会社法の一部を改正する法律」附則25条に基づいた会社法改正を検討する会社法研究会の報告書がとりまとめられるそうです。附則25条というのは、

(平成26年改正会社法が)施行後2年を経過した後、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案した上で、必要があると認める場合には、社外取締役設置の義務付け等所要の措置を講ずる

というものです。商事法務さんのHPで会社法研究会の審議状況は時々チェックしているのですが、社外取締役制度に関する法令をこうすべき、といった議論が白熱しているようには(いまのところ)思えません。この2年間、東証の独立役員制度に加えて、コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されたこと、会社法において監査等委員会設置会社という機関設計が認められるようになったことで、ずいぶんと社外取締役が増えました。会社法で社外取締役を強制導入することが、いまから必要なのかどうかといいますと、あまりその必要性は認められないような気もします。少なくとも形式面では社外取締役が急増したのですから、今後は実質面において、「社外取締役が選任されることで業績が向上した」「不祥事の予防や発見に効果があった」といった立法事実が明らかになった時点で検討すればよいのかもしれません(あくまでも個人的な意見です)。

そういえば、以前このブログでもご紹介しました江頭憲治郎先生のご論稿「会社法改正によって日本の会社は変わらない」(法律時報2014年10月号59頁以下)が発表されて2年以上が経過しました。会社のガバナンスが上手くいっていないからといって、会社法の規制を強化してもほとんど無意味であり、会社法が乗っている基盤(いわば「下部構造」)が変わらない限り日本の会社は変わらないというスタンスのご論稿です。そしてこの「下部構造」というのは、①機関投資家、②経営者選抜システム、③会社事件にプリンシプル(原則主義)の適用を嫌う裁判所の姿勢、というものだそうです。

私も江頭先生が指摘されている②経営者選抜システムの変化がなければ、ガバナンス改革で会社が変わることはないだろうな・・・と思います。実務技能に長けた方が社内で勝ち上がり、そのまま社長に就任する制度の下では、経営技能を習得する機会がないのでCEOの人材不足をもたらしている、同じようにビジネスの世界で勝ち上がった経営者OBが社外取締役に就任しても、執行部との目線が同じなのでなんら会社は変わらないといったあたりが説得的です。

ところで、この「会社法が乗っている基盤(下部構造)」には全く変化はみられないのでしょうか。機関投資家についてはスチュワードシップ・コードの浸透があり、企業との建設的な対話を図るという意味ではやや変化が生じてきたように思えます。また②についても、法で規制できるような課題ではありませんが、「働き方改革」が推進されて、同一労働・同一賃金に関する指針案等も出てきました。大きく変わるというものではありませんが、少なくとも日本型雇用慣行が少しずつ変化する傾向は(政府の力で)出てきたように思います。

問題は③ですね。裁判所が商事事件を判断するなかで、原則的な判断基準を示すということはあまり見受けられません。ただ、ガバナンス・コードをコンプライしている会社の役員が、その運用を怠っているようなケースでは善管注意義務違反に該当する、といった判断がなされることもあるかもしれません。また、近時の最高裁判決の傾向をみていると、経営判断の内容には踏み込まず、判断過程の適正手続性審査に重点を置いているとも読み取れそうなので、その手続きの経済的合理性をチェックするなかでプリンシプルの趣旨を尊重しているのかもしれません。このような諸事情から、「下部構造」に変化はみられるように思います。

不祥事防止よりも、業績向上のためのガバナンスということも会社法改正が検討される一因のようですが、その実現のためには「会社法改正でできること、できないこと」「法改正に向けて尽力する関係者の並はずれたパワーが発揮される可能性があるかどうか」といったところをまず理解しておく必要があると思います。そうでないと、やはり「会社法改正では日本の会社は変われない」といった結論を再確認することになってしまうような気がいたします。

1月 13, 2017 会社法を語る人との出会い |

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コメント

会社法でやるべきことは、内部統制関係じゃなくて、株式全部取得事案での適切な株主保護や、少数株主権の強化だと思いますよ。

今の会社法は、ザルというより犯罪。幾らで取っていってもOKって言ってるのと同じですからね。裁判所も、価格判断することに対しては匙を投げましたし。

裁判所に一任して、良きに計らえでやってくれという国会の要請に対し、裁判所がやりませんと事実上明言した以上、全部取得事案の適正化のためには、立法で最低限度の基準を定めるしかありません。

どういう会社のシステムを構築するのか、これは一々法令で定めることじゃない。その部分は、多くの選択肢の中から、株主が資本の論理に基づいて決めていくというので十分じゃないかな?社外取締役云々も、人選によっては全く無意味ですし、義務化のメリットが見えない。

一方、資本関係を根本から変更するような内容は、民主主義で言えば、少数派の人権や国籍を剥奪するみたいな議論であって、十分な保護が必要になってくるわけですが、そっちの方の議論は遅々として進みませんね。


投稿: 傍観者 | 2017年1月16日 (月) 16時41分

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