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2017年1月 4日 (水)

株主上程議案に対する監査等委員会の意見陳述権行使

昨年から注目しております某上場会社(東証マザーズ)の支配権争い事案ですが、予想どおり、年末に募集株式の発行等について差止め仮処分の決定が出されたそうです(大阪地裁決定)。会社側は債務者審尋もなく突然決定が出されたことから、1月4日午前9時に保全異議を申し立てるそうですが、仮の地位を定める仮処分において債務者審尋なしに決定を出すというのも、年末の要急事案としての特別事情が認められた、というところでしょうか。

一昨年のアルファクス・フード・システムさんの事例あたりから、この支配権争いが顕在化している時期の第三者割当増資については、主要目的ルールはかなり後退してきている(原則として不公正方法による株式発行と推定する)方向にあるように感じますし、社外役員は「有利発行」か否か、著しく不公正な株式等の発行か否か、という点への判断と情報開示が強く求められるようになってきているように思います。

ところでこの某上場会社さんは監査等委員会設置会社です。過半数の社外取締役さんで構成されている監査等委員会には、経営評価機能を発揮するために株主総会における役員の選任・解任に関する意見陳述権が付与されており、定時株主総会だけでなく、臨時株主総会においても権限行使が期待されています。この某上場会社さんは、大株主の要求に応じて臨時株主総会を開催するそうで、そこでは大株主さんの上程議案(大株主から提出された取締役選任議案)が審議されます。この場合、会社側は株主上程議案に対する意見を表明することになると思いますが、そもそも監査等委員会は意見陳述をする立場にあるのでしょうか。

会社法の条文上は何らの制限もありませんから、株主上程議案による取締役候補者への意見形成も監査等委員会の職責に含まれるようです。しかし、そもそも指名委員会類似の監督機能を果たすために監査等委員会の意見陳述権が認められたわけですから、取締役選任に関する株主上程議案にまで意見を述べることは制度趣旨を超えるものではないか、とも思われます。つまり株主側から「監査等委員会としての意見を聴きたい」と質問されても、そのような意見を述べる立場にはない、として説明義務を果たさなくてもよい、ということになるのかどうか。最近の有力な見解では、意見陳述権といえども、述べるべき時に述べないというのは取締役監査等委員の善管注意義務違反に該当するそうなので、このあたりはきちんと整理しておくべきではないでしょうか。

ちなみに監査等委員会設置会社の「現実」を知るうえで、月刊監査役最新号の別冊付録に「選任等・報酬等に対する監査等委員会の意見陳述権の実務と論点-中間報告としての実態整理-」なる報告書が掲載されておりまして、ここに監査等委員会設置会社のアンケート結果が集計されていて、とても参考となります。愕然としたのは監査等委員会の意見によって経営執行部の意見が修正されたと回答した会社がわずか1社(67社中)。また意見を開示した会社においても、監査等委員会がどのようなプロセスで代表取締役の人事や報酬の妥当性を判断したのか、開示情報から把握できる企業はほとんど存在しないというのが現実です。

いまガバナンス改革のフォローアップは形式から実質へと移っていますが、このままだとガバナンス・コードの改訂において「監査等委員会設置会社は指名委員会等設置会社への段階的プロセスである」とか「監査等委員会設置会社の取締役は過半数を社外取締役にすべき」という流れに移行するのではないでしょうか(冗談ではなく、本当にそのように移行する可能性があるように感じます)。監査等委員会設置会社に移行した会社は今年が正念場であり、監査等委員会の実質的な機能発揮、つまり社長人事や社長の報酬に積極的に監査等委員が関与しているという実態を各社とも形成・開示することが不可欠かと思われます。

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