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2017年1月 9日 (月)

企業の「相談役」「顧問」制度にはガバナンス・コードはなじまない

どのマスコミよりも早く、NHKさんが経産省の最新コーポレートガバナンス調査の集計結果を報じています(1月8日付けNHKウェブニュースより)。東証1部、2部上場2500社のうち、871社から得た回答をもとに集計したところ、①「相談役」や「顧問」を導入している企業は70%以上にのぼり、②そのうち35%の企業で「相談役」や「顧問」が現経営陣に対して指示や指導を行っていることが判明したそうです(私の実感では、導入企業はもっと多く、また指示や指導はあたりまえ・・・と思っていたのですが)。

上記ニュースによると、経産省は、こういった実態が企業統治をゆがめることのないよう制度の在り方を提言していく方針だそうです。おそらく経産省の「コーポレートガバナンス・システム研究会」で今後審議がなされるものと思いますし、金融庁のガバナンスフォローアップ会議、法務省に近い会社法研究会等でも話題になるものと予想しています。著名な議決権行使助言会社さんでも、今後上場会社が顧問、相談役制度が経営に影響を及ぼす方向性に動くときには関連議案には反対票を投じるように推奨されるようです。このような流れからしますと、とりわけ上場企業の「相談役」「顧問」という制度は、現在のガバナンス改革の中ではかなりネガティブなイメージで捉えられているように思われます。

私が社外取締役を務めている会社では(ガバナンス報告書ですでに開示している範囲で申し上げますが)、60歳取締役定年制に例外はなく、取締役は一切会社には残りませんので、会長職はもちろん、顧問も相談役制度もありません。私が取締役に就任した以降に、何名かの社内取締役(専務や常務)が退任されましたが、退任後は一切会社とは関係はなくなり、もちろん顔を出すこともありません。その影響からか、事業部門の垣根を超えて一切の派閥はなく、社外取締役、執行役員を含めて、本当に一生懸命次期社長候補者を探さねばならないという状況になります(だからこそ社長候補者の選任過程は、その判断基準も含めて透明化しないとやっていけないのです)。

ただ、実際に社長選任過程に関わり、また他社でいくつもの派閥争いの紛争解決に関わる経験から申し上げますと、当社の制度は当社に特有のビジネスモデルや雇用慣行、さらには会社成長の歴史に由来するものだからこそ機能しているのであり、決して他社でも「相談役」や「顧問」を廃止することで取締役会の実効性が高まったり、社長後継者プロセスが透明化されるかというと、そんなに甘いものではないと考えています。むしろ長年「相談役」「顧問」がおられた上場企業にはそれなりの利点(長所)があるわけで、その存続を個々の企業ごとに考えなければ「短所を補完するためのガバナンス」によって長所を阻害することにならないか、非常に懸念を抱きます。

たとえば対内的効果としては、人事への関与があります。社長後継者争いには、何名かの候補者が出てくるわけですが、最終的に社長が選任された後、「お前もまだまだこれからがあるんだから、捲土重来を期せよ」といって社長になれなかった候補者を社内につなぎとめるのは相談役、顧問として会社に残る方です(会長とか現社長とか)。もし「捲土重来の機会を保証する人」がいなければ、(ポスト争いに敗れたと烙印を押された方は)官僚の世界と同じく、さっさと優秀な人材が他社に移ってしまい、企業の競争力はそがれます。社長候補と呼ばれるほどの有能な方をみすみす他社にとられてしまうことを見逃すわけにはいかないと思います。

また、対外的効果としては、ステイクホルダーへの影響力行使という利点があります。もちろんご本人自身も企業帰属意識を充足させるような肩書を持ち続けたいと思うわけですが、それ以上に世間は組織に帰属している人だからこそ評価をする、といった風潮があります。たとえば経産省や金融庁、法務省といった官僚組織が、有識者会議に民間委員を任命する場合、「●●会社元代表取締役」という肩書で選任するでしょうか。そうではなく「●●会社相談役」とか「●●会社最高顧問」といった企業帰属が一目でわかる肩書がある方を選任するほうが「経済界の意見を聴いた」といった名目作りには大切だと考えておられるのではないでしょうか。経済団体の理事職への就任といった場面でも同様です。もし今後、政府が相談役制度や顧問制度は廃止すべき、との意見をガバナンス・コード等を用いて提言するのであれば、政府委員を経済界から選任する場合にも、相談役や顧問の肩書のついた方は選任しない、もしくはそのような肩書は委員名簿に公表しないといったことを検討しなければ矛盾するのではないでしょうか。

ガバナンス改革は形式から実質へと進化させるべき、とお正月の大発会において麻生大臣が述べておられましたが、この相談役、顧問制度はまさに「実質化」にとっては重要な課題です。本件については賛否両論あるでしょうし、ガバナンス改革推進に熱心な有識者の皆様方からは私の意見についてはご異論もあるでしょう。ただ、相談者や顧問制度の長所と短所を機関投資家を含めてきちんと議論することが大切ですし、そのうえで「一律要請」になるようなガバナンス・コードは活用すべきではなく、最終的には企業自身の判断に委ねる、相談役制度、顧問制度を維持する説明責任は、株主との建設的な対話の中で果たす、といったことが妥当な落としドコロではないかと考えています。

1月 9, 2017 コーポレートガバナンス・コード |

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