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2017年1月23日 (月)

変わる企業不祥事対応-第三者委員会設置企業が減少傾向

先週、「企業不祥事対応のトレンド・・・」といった講演についてご紹介しましたが、顕著なトレンドのひとつに不祥事調査の傾向が従来と変わってきたことが挙げられます。10年ほど前、加ト吉さんの架空循環取引に第三者委員会が設置されたあたりから、企業不祥事を発生させた企業がリスク管理(もしくはステイクホルダーへの説明責任の履行)として第三者委員会を設置するケースが増えました。

とりわけ2010年に日弁連が東証さんや金融庁さんの要望に応える形で「企業不祥事発生時における第三者委員会ガイドライン」を策定したことをきっかけとして、会計不祥事が発覚した企業では日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置して、発生事実、その原因究明、そして再発防止策を公表するというパターンが急増しました。しかし第三者委員会の信用性はかなり高まった一方で、その信用性を悪用するような弊害も出てきました。みなさまご承知のように日弁連ガイドラインに準拠している、とリリースしながらも、その実質は経営者の責任回避のための「隠れ蓑」に使われているケース、いわゆる「なんちゃって第三者委員会問題」への懸念が強まり、民間団体による第三者委員会の格付け機関も動き出すようになりました。

ところで、この第三者委員会制度ですが、最近の傾向が少し変わってきているようです。これまで、会計不正事件を中心に、企業不祥事が発覚するケースにおいては第三者委員会を設置することが多かったのですが、最近になってどうも第三者委員会に代わって社内調査委員会が設置されるケースが増えているようです。これは私が直接調査したのではなく、上記の格付け機関の事務局を務める東京の法律事務所さんが調査した結果でありますが、2015年1年間に不祥事調査を公表した45件のうち、第三者委員会を設置した企業が25件、社内調査委員会を設置した企業が20件でした。しかし2016年は合計41件のうち、第三者委員会は16件、社内調査委員会は25件と、大きく逆転現象が起きています。

つまり企業不祥事が発生した際に、第三者委員会を設置する企業が減少傾向にあります。その理由として私が考えますのは、ひとつは東証の企業不祥事対応のプリンシプル(2015年3月公表)の影響が挙げられるのではないかと。不祥事発覚時において、できれば第三者委員会の設置が望ましいとされていますが、状況によっては社内調査委員会の設置でも目的を達成することができるケースもあるといったことが浸透しました。たとえば会計不正事件の第三者委員会の設置は数千万から一億円以上の費用が必要とされますので、企業にとっても「社内調査で済むか否か」は重大課題です。そのあたり「プリンシプル」(原則主義)の解釈には幅があるとみて、社内調査委員会を設置する企業の数が増えているように思えます。

また次の理由としては社外役員の急増による影響が考えられます。社外取締役や社外監査役さんが委員になって不正調査を進めることで、対外的には第三者と同等の公正性、独立性を委員会が確保できるのではないか、といった考え方が企業において浸透しているように思います(ただし、私自身としては社外役員が委員に就任することで、第三者委員会と同等の公正性が確保されるかというと、やや懐疑的です・・・もちろん個別案件にもよりますが)。

そして最後の理由として、社会的に「なんちゃって第三者委員会問題」がかなり浸透してきたことではないかと思います。このブログでも過去に何度か取り上げましたが、最近は会計監査人(監査法人)が、事実解明が緩い委員会報告書にはノーを突きつけることが増えています。また、社会的に話題となった委員会報告書に対しては、第三者委員会格付け機関が厳しい目でチェックして、そのこと自体が話題になりましたし、さらに「委員を選定するに至った過程まで説明せよ」といった社会的風潮も高まってきています。このように経営者が従来のように「不正追及に対する隠れ蓑」として第三者委員会を活用する傾向に歯止めがかかりだした、ということの顕れではないかと推測しています。

第三者委員会ブームが、弁護士の新たなビジネス領域を作出する一方で、せっかくの信用性に世間の疑惑の目が向けられることにもつながりました。上記のような第三者委員会報告書の減少傾向は、これに歯止めをかけるものとして、私は好意的に受け止めています。なによりも、このように厳しい目が向けられる中で、第三者委員会報告書の信用性が(厳しいチェックによって)再び高まることが期待されますし、また企業側においても、経営者自身が社内調査と第三者調査の比較基準を意識し、調査の公正性、独立性をどのように担保するのか自らの責任で判断することにつながるものと思われます。このあたりは不祥事が発覚した企業に対する東証さんや金融庁さんの指導内容にもよりますし、もう1年ほど傾向をみたほうが良いかもしれませんが、今後も不祥事調査の品質は、社内調査であれ、第三者委員会調査であれ、よりレベルが高まることに期待したいと思います。

 

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コメント

粉飾額よりも第三者委員会設置費用のほうが高額になったりしてましたし、社内委員会への移行は正常化したのだと言うしかありません。

ところで、第三者委員会の設置費用って何であんなに高いんでしょうね?
監査法人ならば、独占業務であることに加え、粉飾見逃しの賠償責任もあるわけでリスクに応じた報酬として最低でも数千万円が必要になるのは自然です。

しかし、第三者委員会はノーリスクであり、そもそも特定の資格保有者の独占業務ですらありませんから、労力に応じた報酬で十分だと思うのですが、やたらとバブル化していました。ほんの2-3ヶ月、別の仕事の片手間で働いた弁護士が数千万円取って行くとか、まともな価格設定がなされていないケースがほとんどだったと思います。

第三者委員会の設置は、株主側から見れば無駄使いにしか見えませんし、社内委員会で済ます代わりに、詳細な報告書を作って内容で勝負したほうが投資家からの評価も得られるでしょう。

投稿: 傍観者 | 2017年1月23日 (月) 11時31分

問題が生じた企業や組織が「独立した第三者専門家」に調査を依頼し、事実の客観性とその影響を評価した上で、改善策を提言する目的で立ち上げられる委員会である筈です。が、そもそも、委員の人選において、その依頼者を的にするような結論を導きかねない人を候補者にする訳がありません。その事が利害関係者に指摘糾弾された事件の最たるものが、某グローバル企業と東京都知事の事案で明らかにされたのです。第三者委員会による説明は、執行部責任者の責任に対する「防波堤」とならず、むしろ高波を呼ぶ事になる上に、そのコストは想像を超える金額である事が、何でもかんでも「第三者委員会」で「早期決着」の意欲を殺ぐ事になったのでしょうか。・・しかし、今後、社外役員などで構成される社内調査委員会による事態究明とその報告が主流になるかと言えば、これは無理が有りますね。社外役員はその為にのみ選任されたのではないからです。従って、社内調査委員会が選出した社外第三者委員会によって、重要事案は調査されるべきであると・・いう風に、なるのではないでしょうか?

投稿: 一老 | 2017年1月23日 (月) 16時44分

傍観者さんが、第三者委員会が高いと書かれた部分に一言コメントです。第三者委員会調査の専門事務所でもあれば別ですが、普通は、弁護士事務所と公認会計士などにお呼びがかかって、それまでの日常の仕事を放りだすかのような日程で仕事をしなければいけないわけです。おそらく、ヒヤリングとその検討などで月に10日調査に費やさなければならない状況が3カ月とか続くわけです。たかが10日ではなく、平日が21日くらいしかないなかでの10日間です。3カ月で30日、監査と同じ1日10万円計算で、300万円とか言われたら、私なら受嘱しないです。弁護士は、時間3万円くらいで働くのが普通の仕事ですが、30日×8時間×3万円=720万円となりますね。普通に仕事が回っている弁護士だからこそ、そんな金額ではやりたくないということになるのではないでしょうか。「この人だれ?」というような無名で、若い弁護士と公認会計士のグループに依頼しても、箔が出ないから、相応の人に持っていく。だから高い。ほとんど仕事もしないのに、その「箔」のために名前を連ねるヤメ検みたいな弁護士もいるので、その人が持っていく報酬が高いのであれば、高いかもしれませんが、バブルと書くほどのものではないように思います。上記の計算なら、時間3万円計算の弁護士が5人で3600万円ですものね。

投稿: ひろ | 2017年1月23日 (月) 17時27分

一人当たり30日×8時間もの時間を掛けてる第三者委員会って本当にあるんですかね?多くても一人100時間ぐらいの仕事量だと思うんですけどね。2-3日社内で聞き取りして、社内調査を利用しつつ50ページぐらいの薄い内容の書面を作るだけってところも相当数あるような?

相談料のように細切れで設定する報酬じゃなく、纏まって払ってくれる性質の報酬ならば、時給3万でも別に安くないはずです。実際には、時間当たり、最低10万ぐらい持って行ってます。時給30万ぐらいになってる所も多いんじゃないですか?

報告書には、委員の実働時間や拘束時間も書いてもらって、調査報酬の適正さぐらいは示してほしいもんです。

投稿: 傍観者 | 2017年1月23日 (月) 19時13分

第三者委員会報告書の減少傾向は、「不正追及に対する隠れ蓑」として第三者委員会を活用する傾向に歯止めがかかったものでは無く、第三者委員会という名称を冠すれば日弁連ガイドラインへの準拠性などをうるさくチェックされるなど、なんちゃて調査が許されないことが不祥事に関与した(関与するような)経営者らにまで広く浸透したことが要因ではなかろうかと感じます。そのような経営者らに本気の第三者委員会では無く、社内調査委員会でお茶を濁す悪知恵を授ける専門家が跋扈しているのかもしれません。

架空売上や売上前倒しなど会計監査に係る上場企業の不祥事案についてまで社内調査委員会で済まされるようなことがあってはならないと思います。
事実解明が緩い第三者委員会調査報告書に会計監査人がノーを突きつける場合があるとはいえ、事実解明が緩いかどうかの判断材料が隠蔽された結果、会計監査人がノーとまで言えなかった事案が無かったのか、疑問です。

不祥事が粉飾決算の場合、その結果は、従業員にとってのメリットよりも経営者にとってのメリットが大きいことから、端緒となった会計監査人からの指摘事項について取締役らの関与度合いが明確でない場合であっても、第三者委員会調査が行わわれなければ、事実解明は期待できません。

第三者委員会のコストについて、一律に法外なものだとは言えないと思います。
高額すぎるように思われる事案の場合には、それなりの理由があるものが大半であろうと思料されます。
いくつかの第三者委員会調査報告書を精読したところ、会社側の全面的協力が調査開始時点においては必ずしも得られていなかったことがうかがえるものがありました(中には「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」に真っ向から反する対応と書かれているものなどもありました。)そのような悪質な事案では、まともな第三者委員会であれば調査補助者として会計士を短期間に大規模に調査に充て、疑わしい取引全数を補助者専門家に調査させるでしょうし、フォレンジック専門家に保全させるPC、HDDの範囲も拡大させるため、結果として費用が高額になりがちなのでしょう。
調査費用が粉飾額や企業規模に比べて高額になった事案の中には、粉飾に関与した経営者ら複数人が(調査委託者窓口の指揮者でありながら組織的に事実の隠蔽を図ったり、有報提出までのリミットをにらみながら、調査の時間切れを狙い、証拠となる資料を積極的には出さなかったのではなかろうかと疑わざるを得ない第三者委員会調査報告書もあります。

不祥事が粉飾決算であった場合、粉飾のツケである調査費用などは、会社が一旦支払うので粉飾額などと調査費用を比較して株主にとって高額な調査費用は迷惑だと考えてしまいがちですが、問題として、会社(不祥事後の取締役会や監査役又は監査等委員会)が粉飾の首謀者や主要な関与者であったために辞任した取締役らに損害賠償を厳しい姿勢で積極的に求めていない点にこそあるものと思います。


会計監査で経営者不正の可能性が完全に否定できない場合に社内調査委員会や特別調査委員会で取引所自主規制法人や証券取引等監視委員会などが調査委員のメンバー構成が設置時点から適切かどうか、更に厳しくチェックする仕組みが求められます。

投稿: たか | 2017年1月27日 (金) 08時03分

皆様、ご意見ありがとうございます。とても参考になります。
ところで「経営財務」の今週号から、第三者委員会の意義(最新事情?)について座談会記事が掲載されておりますね。(来週号が後編だそうです)まだきちんと読めておりませんが、とても関心があります。

投稿: toshi | 2017年1月27日 (金) 14時04分

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