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2017年1月24日 (火)

もうひとつのガバナンス改革-内部通報制度への関心高まる

本日(1月23日)の日経法務面では少数株主によるガバナンスが取り上げられていましたが、こちらは従業員ガバナンスの話題です。先日、オリンパスの濱田正晴さんと意見交換(雑談?)する機会がありまして、「ブログで書いてもいいよ」とおっしゃっていたので、少しだけ紹介いたします。濱田さんといえば、オリンパス配転命令無効等請求事件の原告として有名な方で、東京高裁逆転判決で配転命令は無効、といった勝訴判決を受けた方です。その後も会社側の処遇に不満を持ち、二度目の訴訟を提起していました。最終的には会社側と和解をされ、現在は同社の「人事本部 教育統括部チームリーダー」として活躍をされています。

オリンパス社にはもうひとり「深町正さん」(仮名)という、あの会計不正事件の内部告発をされた方がいらっしゃいますが、濱田さんは内部告発ではなく「内部通報」をされた方ですね。深町さんは、「濱田さんがこんな目にあっているということは、私も内部通報だとあぶない、つぶされてしまう・・・」と感じて内部告発(第三者への情報提供)に踏み切ったわけです。濱田さんは、私が消費者庁の公益通報アドバイザーに就任していた際にも、ヒアリングをさせていただいた経験があります。

その濱田さんとの意見貢献の中で、とても興味深かったのが「私がなぜこうやって笹さん(社長)と握手をして和解して、オリンパス社で人事に携わるような地位にいるかわかりますか?」とのお話でした。

「僕はね、裁判をしているときも、会社から嫌がらせをされていたときも、これは『会社vs労働者』といった構図で闘っているという意識は全くなかったんですよ。いつも『社長と同じ方向を向いて一緒に会社の経営を考えている』という意識を持ち続けていたんです。だからこそ、こうやって人事政策に関わるようになったんです。公益通報制度って、どうも昔から『会社vs労働者』の図式で考えようとしてるでしょ?だから機能しないんですよ。」

とのこと。なるほど、公益通報者保護制度も、従業員主権によるガバナンスの一環として考えるという発想が必要なのかもしれません。「働き方改革」が進み、考え方の多様性が企業に求められる中で、意見の対立を収束させるものは単なる「部署内の慣行」ではなく企業理念です。最近、内部通報制度が部署ぐるみの集団通報という形で行われることが増えたり、また内部通報者や内部告発者の後ろに多数の支援者がいらっしゃるケースが増えているということも、なんとなく納得します。

マスコミでも公益通報者保護法の実効性検討委員会報告書が公表されたことを契機に、ずいぶんと内部通報制度が取り上げられるようになりました。朝日新聞「法と経済のジャーナル」では(有償版ではありますが)内部告発者の社内情報の持ち出しルールに関する記事が正月早々掲載されましたし、本日も(近時の企業不祥事では、発覚に至るまで、通報制度が機能不全に陥っていたといったことから)内部通報制度の体制整備義務に関する話題が取り上げられました(どちらの記事にもコメントを掲載していただきました)。また、日経新聞では、1月10日の拙稿「私見卓見」に続いて、1月14日には「内部通報制度を使える制度に指針改訂」と(社会面で)取り上げられました。とくに14日の日経記事では経済団体の代表幹事でいらっしゃった北城さんの積極的なコメントが掲載されていましたので、企業にとっても内部通報制度の整備・運用がリスク管理上とても有用である、といった意識が盛り上がることを期待しています(私とは影響力が違いすぎます)。

最近、私自身が担当する企業不正に関する内部通報・内部告発事案も、もともとは内部統制への通報者の懸念です。経営者の中長期経営計画に対する目標設定と事業部門の実績とのかい離(コミュニケーション不足)をどうしても埋められず、ストーリー作りに苦悩した経理担当者の叫び声が内部告発や内部通報として浮かび上がります。財務報告に関する内部統制の重大な欠陥は、それ自体では「犯罪行為」と認定することは困難ですが、経理担当者は企業価値を真剣に考えていました。また、(これは私とは関係ありませんが)今月号のFACTA誌に掲載されている著名な菓子製造会社の経営者問題も、それ自体が不正を根拠付けるような事実が掲載されているわけではありませんが、告発者が将来の会社を慮って情報を提供したことは明らかです。

内部通報の中には、単なる苦情相談のようなものもありますので、すべてが従業員主権に基づくガバナンスと関連するものとは言えません。しかし、コンサルタント会社の調査などでも、通報の1割程度は企業や社員の法令違反行為に関連する通報とされていますので、もうひとつのガバナンス改革として、中小の事業者の方々を含め、さらに制度が浸透することを期待します。

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コメント

オリンパス笹社長が濱田正晴様と握手をして、積極的に登用している点は、他の企業経営者も見習ってほしいと思います。
濱田様が内部「通報」~「裁判」という経緯・手段により、経営者と和解、ガバナンスにも貢献した背景には、大変な御苦悩があったと各紙で報道されました。裁判を闘うことでしか明らかにできない部分も、当然あったのでしょう。
一方で、深町正様が濱田様の御様子も見て、メディアへの内部「告発」を選択した気持ちも痛いほどわかります。
通報者、告発者の「心のケア」についても、もう少し議論が深まってもらいたいと期待します。

経済同友会終身幹事で日本IBM相談役の北城恪太郎様は、消費者庁の「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」においても、前向きな御意見を発信していました。
北城様が、1月14日の日経でも御発信されたように「内部通報は会社のためでもある」という認識を社長、取締役、監査役には胸に刻み込んで頂きたいと思います(【山口先生も常に、広く御発信されていますね。また言ってしました】)。
報復行為は止めて頂きたいですし、これまでの報復行為の検証や公表も進めて頂きたいと思います。
18年の通常国会で改正法案が審議されることを祈ります。もっと早くても良いのですが。。。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年1月27日 (金) 13時55分

いつもありがとうございます。このテーマについてはご異論、ご批判も頂戴するところですが、ロジカルな部分とパッションの部分がともに必要なのが法改正におけるパワーなのだと(今回はとくに)感じています。私はそんなに有能な実務家ではありませんので、どちらかというとブログ等でパッションの部分に訴えかけていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。<(_ _)>

投稿: toshi | 2017年2月 4日 (土) 11時09分

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