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2017年1月30日 (月)

エフオーアイ損害賠償請求訴訟とコーポレートガバナンス改革

昨年末12月20日に東京地裁判決が出されたエフオーアイ損害賠償請求訴訟判決(現在控訴中)ですが、この判決は本当に興味深い論点がたくさん含まれていまして、会計不正事件の調査に携わる方々にとっても、たいへん勉強になる判決です。ただ、この土曜日に、東京の大手法律事務所の某弁護士さんからお聞きしましたが、東京の企業法務に強い法律事務所の多くがこの訴訟に関係している、もしくは事件そのものに関与しているために、なかなか判決の評釈をお書きになれる方を探すのがむずかしいそうですね(著名な学者の先生も、すでに「意見書」を提出しておられるとのこと、そういえば以前コメントを頂いた「とおりすがりの商法学者」さんも?・・・笑)。せめて判決全文が早めに判例雑誌等に掲載されて、利害関係のない法律実務家の方、学者の先生方の評釈が出されることを期待しております。

さて、(この判決文の中にも登場される)エフオーアイの架空取引に加担していたとされる富士通社員(元)の方に対して、同社の元株主らが損害賠償を求めていた裁判が提起されていたようですが、この1月27日、東京地裁はこの元社員に対して1億3000万円余りの損害賠償請求を認める判決を出した模様です(ちなみに法人である富士通に対する賠償請求は棄却されたとのことで、NHKニュースだけが報じています)。取引先社員が事件に関与していなければ(審査に対して口裏合わせをしていなければ)もっと早く関係者の調査によって同社の会計不正が明るみに出ていたはずだ、と裁判所が判断したようです。

上場会社の粉飾に加担した取引先社員について、上場会社の株主に対する損害賠償責任が認められる裁判例というのも、これまであまり存在しなかったように思います(私が知る限り・・・ということですが)。企業のヘルプライン規約には、自社従業員と退職者を通報資格者と定めていて、取引先社員に通報資格を付与している企業はあまり多くないかもしれませんが、このような判決が出されるようになりますと、取引先企業の社員にも不正の早期発見に協力を要請することで、不正調査が円滑に進むような体制をとる必要がありそうですね。

ところで、私はこのブログの読者の方から判決書コピーを(研究目的のみに使用することを条件に)お借りすることができましたが、それだけでなく、読者の方を通じて、エフオーアイの事件関係者の方とも意見交換をさせていただく機会に恵まれました(すいません、ブロガーの特権ということでご容赦ください)。私は自分の関心から「エフオーアイ」という社名を聞くと、すぐに「最短上場廃止のトンデモ粉飾会社」、「市場関係者の上場審査における責任問題」ということだけ興味本位で想起しておりました。しかし時計の針を平成15年ころまで巻き戻して関係者のお話に耳を傾けてみますと、この会社がどれだけ優秀な事業の芽を保有していて、実際にどれほど日本の半導体の将来を背負う企業として期待されていたのかが、よくわかりました。だからこそ、判決文の中には前掲の富士通さんやパナソニックさん、シャープさん等日本を代表する著名企業の名前がゴロゴロと出てくるのですね。市場関係者の皆様が、単純に自分たちの利益のため、ということではなく、日本の将来を担う企業の上場を願って、エフオーアイの新規上場(ファイナンス支援)にまい進していった状況がなんとなく把握できました。

もちろん、エフオーアイのトップの方、粉飾実務を担当した取締役の方は実際に刑事裁判で実刑判決を受けており、また同社は多くの投資家の方々に迷惑をかけているわけですから、同社の粉飾は決して許されるものではありません。ただ、そこに至る過程を詳細にみていくと、ベンチャー企業を取り巻く構造的欠陥、たとえば日本におけるベンチャー企業のファイナンスのむずかしさ、日本の企業社会におけるベンチャー支援思想やスキルの脆弱さが粉飾企業を生み出している・・・という事実を改めて痛感します。また、架空取引に協力する取引先にとっては、一見何の得にもならないような不正加担行為をどうしてやってしまうのだろうか・・・といったあたりの事情も、「なるほど、その状況なら関係者は協力せざるをえないだろうな」と納得してしまいます。協力すればストックオプションをもらえる、といった個人利得的な理由ではなく、もっと企業にとって切実な問題に起因するところが大きいのです。とりわけベンチャーを支援する大企業が「健全なリスクテイク」を実践できなければ、(どんなに市場関係者の上場審査を厳格化しても)今後も第2、第3のエフオーアイ事件はかならず起きるものと確信します(このあたりの詳細は、また講演等でお話ししたいと思います)。改革の方向性は別として、やはり大企業のコーポレートガバナンスを議論することは大切ですね。

私自身が裁判に関与したアイ・エックス・アイ事件も、(後日の調査で判明したところによると)売上の8割が粉飾だったわけですが、最初はそんな大きな粉飾ではありませんでした。おそらくエフオーアイの件も同じような過程をたどってとんでもない金額の粉飾に至ったものと推測します。いま、上場企業は「健全なリスクテイク」を支援するためのガバナンス改革の真っただ中ですが、改革を実質的に進化させることは、こういったベンチャー支援の在り方にも大きな影響を及ぼすものと考える次第です。

1月 30, 2017 コーポレートガバナンス・コード |

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コメント

わたしは関与しておらず、この判決にはびっくりしました。以前に教えた学生が2人も(みずほ証券ではない)被告証券会社(別々)に勤めているので、結果の報告が来たという経緯でした。黒沼先生をはじめとする有力説の立場をとっているとはいえ、文言や立法経緯とは若干衝突するので、高裁ではどうなることやら。

投稿: 通りすがりの商法研究者 | 2017年1月30日 (月) 17時57分

>せめて判決全文が早めに判例雑誌等に掲載されて、...

電子媒体ではありますが、Westlaw Japanには判決全文が掲載されたようです。
文献番号 2016WLJPCA12206001

投稿: unknown1 | 2017年1月31日 (火) 06時25分

unknown1さん、有難うございます。無料会員登録をして早速読んでみました。事実は小説より奇なり、実に面白い。特に常勤監査役さんの責任に関わる部分は「週2日程度しか出勤しておらず・・」と任務懈怠ぶりを断罪していますね。又、こうした常勤の不誠実を見逃した非常勤監査役についても責任が問われています。これは監査役協会当たりで教材とすべきかと思ったりしてしまいます。

投稿: 彷徨える監査役 | 2017年2月 2日 (木) 14時02分

本文のほうではまだ書いておりませんが、本判決を評釈される学者の先生が決定したようです。商事法務に掲載されるのを楽しみにしております。

投稿: toshi | 2017年2月14日 (火) 11時35分

本判決についての判例評釈が筑波大学の紀要に掲載されていました。
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=40608&item_no=1&page_id=13&block_id=83

著名な先生による評釈を楽しみにしているのですが、山口先生が記事に書かれていたとおり、なかなかでてきませんね。

投稿: スイミー | 2017年3月18日 (土) 10時52分

スイミーさん、情報ありがとうございます。もうすぐ旬刊商事法務に評釈がでるとか出ないとか?(笑)。ネット上でも拝読することができますね。これは参考になります。

投稿: toshi | 2017年3月18日 (土) 15時07分

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