東芝・債務超過の悪夢-細野論稿(月刊世界3月号)
昨日の産地偽装米騒動の続報ですが、本日(2月21日)、疑惑の対象となっている米卸会社さんのHPに親会社による自主調査第4報が掲載されており、そこに週刊ダイヤモンド誌によるスクープ前とスクープ公表後の売上の推移表が掲載されています。大手マスコミによる報道により、不正疑惑を伝えられた事業者はこれほどの事業上の損失を受けるということですね。行政規制がソフトロー主流の時代となり、不正に走った企業が社会的制裁を受けるのは当然ですが、もし濡れ衣を着せられたとすれば、適正手続きなく、このような損失を受けることはやはり重大な問題ではないかと思います。ようやく、公平な視点から本騒動を伝えるニュースも出始めました(たとえば毎日放送ニュース)。
さてここから本題ですが、東芝さんの会計不正事件は、当初「工事進行基準」「PC(バイセル)取引」といったPL上の不適切な会計処理が話題となっておりました(第三者委員会報告書の影響も大きかったと思います)。しかし、月刊世界2015年9月に掲載された細野祐二氏の論稿がはじめてウエスチングハウス社(WEC社)の減損というBS上の問題を取り上げ、社会的反響を呼びました。時期を同じくして、東芝さんはCB&I社からS&W社を買収することになり、現在のような状況に至ります。
当ブログへのぶるーじぇいさんのコメントによって知りましたが、その細野祐二さんが再び月刊世界の最新号(2017年3月号)で「債務超過の悪夢-東芝ウエスティングハウス原子炉の逆襲」なる論稿を発表されました。さっそく拝読しましたが、今回も関連資料(デラウエア州仲裁裁判所のメモランダム・オピニオン)の丹念な読み込みとその事実に基づく企業会計面からの鋭い指摘にたいへん感銘を受けました。この細野論稿はおそらく1月末頃に締め切りだと思うのですが、2月に入っての一連の東芝騒動を予期していたかのように、現実に発生していることとのブレを感じさせません。
先日リリースしました私のエントリー(東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」)でも疑問を呈しておりましたが、PPA(取得価格配分手続き)上の問題として、買取時正味運転資本の計算に関するWEC社とCB&I社との紛争が主たる原因であることも、細野氏の論稿を読んでよくわかりました。おそらく「内部統制の不備に関する通報事実」というのも、この点に関するものだと思われます(しかしこのような質の高い論稿が、850円+消費税で読めるというのは本当にありがたい)。
また、監査法人の交代がなければ、そもそも今回の東芝問題が債務超過の危機を表面化させることはなかったであろう、とのご意見は(推論に基づくご意見とはいえ)まことにその通りかと思います。「やり方」によってはWECの「のれん」の減損は不要といったことで、昨年時点で会計不正事件のみそぎは済み、「半導体の好調によって黒字転換」を果たして業務を継続できていたのかもしれません。PWCが普通に監査をして普通の意見を述べれば、このような結果になるということであり、監査法人の独立性がいかに市場の健全性確保にとって重要であるかがわかります。「東芝の監査人変更は、社会が一旦うやむやのうちに収めてしまった東芝粉飾決算問題の本命に、まわりまわってぐさりと命中したことになる」との細野氏の表現はとても重いものを感じます。
しかしこの細野氏の推論が正しいものだとすると、会計監査人の使命は極めて重いものですね。
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