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2017年2月28日 (火)

横尾宣政氏はどこで提訴リスクを抱えてしまったのか?(「野村證券第2事業法人部」を読んで)

28250833_2本日発売の週刊エコノミストでは、「オリンパス粉飾の指南役と呼ばれて」と題する横尾宣政氏のインタビュー記事が掲載されていました。 記事では、オリンパス事件によって証券取引法・金融商品取引法違反、詐欺罪等による起訴事実を否認する理由を中心に語っておられます。昨週に発売された横尾氏のご著書の宣伝効果を狙ったものかもしれませんが、本書のおもしろさは、オリンパス事件の背景を綴った赤裸々な事実告白の部分だけではありません。

野村證券第2事業法人部 横尾宣政著 講談社 1,800円税別

横尾氏が被告人とされている上記刑事事件は現在上告中ということなので、横尾氏の敗訴リスクについては必要以上にここで語ることはいたしません。ただ、横尾氏のご主張が真実だとしても、それではなぜオリンパス事件に巻き込まれてしまったのか、いわば「提訴リスク」をなぜ背負うことになったのか、という視点で読みますと、本書全体がひとつのストーリーを構成していることに気づきます。

横尾氏は当時の野村證券役員から「消防車」と揶揄されるほど、社内に問題が発生した場合にはその火消し役として活躍していました。ブラックマンデーで300億もの損失を抱えたオリンパス社の損失を、横尾氏はワラントを活用して一気に利益を出すことで取り返します。これがオリンパス社と同氏との最初の出会いでした。もう二度と財テクには手を出さないように、と横尾氏はオリンパス社にクギを指すのですが、その後、これは裏切られることになります。

また、同氏は1990年初めころから、「次の時代はITマルチメディアだ!日本を支えるIT企業に資源を集中する必要がある」と考えており、数理的処理に強いだけでなく、非常に先見の明があったことに驚かされます。ご自身も高崎支店長時代からデータベース・マーケティングに強い関心を持ち、野村證券をリタイアした後、データベース・マーケティングのノウハウを事業化することに意欲的でした。そんな折、オリンパスグループ会社のデータベース事業が素晴らしい、なんとか手に入らないかと、ファーストリテイリング(ユニクロ)のCEOから相談を持ち掛けられることになります。自身もなんとか手に入れたいと考えますが、最終的にはこれを入手することはできませんでした。

これだけ優秀な証券マンである横尾氏なので、もし本当にオリンパス粉飾事件を指南するのであれば、もっと上手なスキームを考案していただろうなぁと思います。また、そもそもオリンパス社の資金運用に強い拒絶反応を示していたのですから、オリンパス社役員にはあまり近づきたくないと考えていたと思料します。ただ、やはり野村證券を退職して、自身がやりたい事業を手掛けるにはお金が必要だったこと、ちょうどオリンパス社が優秀な人材とともにデータベース事業に精通したシステムを保有しており、これを活用したかったことから、第2事業法人部時代の担当会社であったオリンパス社に必要以上に近づきすぎたところに「スキ」があったのかもしれません。バックに「野村證券」の看板を抱えていればノーと言えたことも、リタイアして経営者となり、自身のやりたいことをやるためにはノーとばかりは言えない状況に置かれていたことが、今回の提訴リスクにつながる大きな要因だったと思います。

野村證券社員時代の横尾氏の活躍はかなり「えげつない」ように見えますが、顧客に損を出したときにも、決して逃げず、真正面から顧客と向き合っていたからこそ大けがをせずに済んでいたようです。その姿勢からみて、粉飾の指南などといった逃げの姿勢を人前で見せることの嫌疑をかけられたことの屈辱感、その裏返しとしての自身の生き方へのプライドこそ、本書で横尾氏が語りたかったことではないかと推測します。ただ、これだけ優秀な方でも、自身が組織人ではなく、経営者になったときに、どうしてここまでオリンパスにのめりこんでしまったのか、そこに疑問を感じざるをえませんでした。

「形だけのコンプライアンス」の全盛が、かつての証券会社の輝きを失わせ、日本の経済に長期低迷をもたらしたという意見は私にもグサっと刺さるものがありました。いまのままではたしかに横尾氏がいうとおり、自己責任を問えるような金融リテラシーが国民に育たず、その結果として(中長期の企業価値向上を支える)機関投資家も育たないという点には共感します。「形だけのコンプライアンス」「過度の利益相反防止」が事業の分断化、人の分断化を進め、全体を見渡せる社員が減っています。だからこそ「助けて」といえる雰囲気が組織から消えつつあることを、私も危惧しています。

最後になりますが、「第三者委員会」がどのようなプロセスで選定されたのか、本書を読み、第三者委員会の独立性がいかに大切なことであるか、考えさせられました。有事に備えて「第三者委員会選定基準」のようなものがなければ、結局は経営陣のための第三者委員会に終わってしまうのではないでしょうか。

 

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2017年2月27日 (月)

株主総会に代表取締役の選定権限を留保する旨の定款の効力(最高裁決定)

平成29年2月21日、会社法実務、とりわけ非公開会社の企業統治に影響を及ぼす最高裁決定が出されました(職務執行停止、代行者選任仮処分命令申立却下決定に対する許可広告事件、最高裁第三小法廷決定)。取締役会設置会社である非公開会社における、取締役会決議によるほか、株主総会決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の効力は有効である、というものです。

会社法は取締役会設置会社においては、取締役会が代表取締役を選定・解職することができるものと定め(法362条2項3号)、「取締役会設置会社を除く株式会社は、株主総会において代表取締役を定めることができる」と定めていることから(法349条3項)、これらの条文の解釈として、取締役会設置会社である株式会社においては、法295条2項の規定によるも※、株主総会で代表取締役を選定することは(たとえ定款の定めがあったとしても)できないと解することができそうです。

※・・・ちなみに法295条2項は、取締役会設置会社の株主総会の権限について規定したものであり、会社法が定めた事項および定款で定めた事項だけが株主総会の決議事項になることを定めたものです。

しかし、今回の最高裁決定では、非公開会社である取締役会設置会社が、定款において、取締役会の決定権限を排除することなく、株主総会においても適宜代表取締役の選定権限あることを定める場合には、この定款は有効と判断しています。そもそも法295条2項は定款で定めるべき事項に制限を課しておらず、またそのように解したとしても、取締役会の代表取締役に対する監督権限の実効性を失わせることにはならない、というのが理由のようです。このあたりは、非公開会社のガバナンスを構築するにあたっては、ひとつの重要なポイントでもあり、最高裁決定の射程範囲を慎重に見極めたうえで実務にも活用できそうですね(取締役会の権限を排除して株主総会だけが選定権限を持つような定款の定めが有効かどうかは、今回の最高裁決定では明らかにされていません)。

そんなややこしいことを言わずとも、株主総会で取締役たる地位を選任・解任できればよいではないか、もしくは取締役会設置会社ではない機関設計に定款変更すればよいではないか、とも考えられます。ただ、取締役の人数が限定的であったり、業務執行に支障を来すことを防止するためには、このような定款の定めが必要な場合もあり、それなりに実益はあるものと思います。

創業家の資産管理会社など、たとえば資産管理会社の取締役会の裁量的判断をどこまで株主総会がコントロールできるか(たとえば上場会社である重要子会社の議決権行使について、非公開会社である親会社の株主がどこまで監督できるか)という点は、現実にガバナンス構築の中でいろいろと検討すべき問題が多いと思います。このたびの最高裁決定の射程範囲はかなり限定的だとは思いますが、最高裁の発想といいますか、所有と経営の分離がそれほど徹底されていない株式会社のガバナンスへの考え方については、他の問題点を考察するうえでも参考になりそうです。

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2017年2月24日 (金)

企業統治-俎上に上る「顧問・相談役」(拙稿のご紹介)

P_20170224_174533_3 さて、すっかりご紹介が遅れてしまいましたが、今週号の週刊エコノミスト(2月28日号)に「企業統治-俎上にのぼる『顧問・相談役』」なる論稿を掲載していただきました。特集が特集だけに(?)、私の存在も希薄化してしまっておりますが、探せば見開き2ページ(3000字)の論稿が出てまいります。来週月曜日には、翌週号が発売されてしまいますので、週末くらいしかご購読いただける時間は残っておりませんが、ご興味がございましたら全国書店にて発売しておりますので、ご一読いただければ幸いです。

ガバナンス改革の中で「顧問」と「相談役」は並列的に語られることが多いのですが、実態は少し異なります。代表権を持った方(会長、社長、専務さん等)が退任後に就任するのが「相談役」、それ以外の役員の方は「顧問」に就任されるケースが多いようです(ただ、相談役の代わりに「最高顧問」に就任される代表取締役の方もときどきいらっしゃいますが)。このあたりは、今後の議論において区別されるかもしれません。

そもそも、ガバナンス改革が目指すところと顧問・相談役制度とは相いれないものではなく、「両立しうるもの」と考えております。また、顧問・相談役制度は退任した役員さんだけでなく、その企業も、経済団体も、そして政府も「とても都合のよい制度」として活用しているのが実態です。もし顧問・相談役制度に問題があるというのであれば、制度を廃止するよりも情報開示の中で工夫する余地があると考えています。結構、上場会社の組織にとって重要な制度だと思いますので、じっくり検証することが大切かと思います。

PS そういえば、来週の週刊エコノミストは当ブログファンの皆様にとってはたいへん興味深いことが特集を飾っている、との噂が流れています。注目しておいたほうがよろしいかと(笑)。

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日産自動車の次期社長は現社長ではなく取締役会が決めた?

Keieironndesu大阪市交通局の経営会議終了後、書店に立ち寄り購入しました。幹部育成プログラムにおけるカルロス・ゴーン氏の経営論に関する講演(発言)録ですが、日産自動車さんのコーポレートガバナンスへの関心から、一気に読み終えました(電子書籍版もあるようですね)。

グローバル・リーダーシップ講座カルロス・ゴーンの経営論 (公益社団法人日産財団監修)

このたびの社長交代が、ゴーン氏のレジリエント・リーダーシップの一環であること、後任人事は現社長が複数名を提案して、最終的には取締役会が決めることを信念としていること、経営トップが当然に高い報酬を得なければならないと考えていることがよく理解できました。また、私なりのフィルターで「これは大事だ」と赤線を引っ張ったところも何か所がありました。

なお、本書で一番印象に残るのは第6章「カルロス・ゴーンは日産の何を変えたのか」を執筆されたCOOの志賀俊之氏の論稿です。私の感想ですが「この人がいたから外国人社長のもとで組織がひとつになれたのでは?」と。本書でゴーン氏が語っておられることを、読者に「通訳」する役割を担っておられますが、それはまさに志賀氏が日産の従業員の方々に向けててゴーン氏の経営方針を通訳して来られたことを物語っています(三菱で起きたような燃費偽装が日産では起きないと確信できるようなお話も盛り込まれています)。

孤独やリスクに立ち向かう覚悟さえあれば「決断すること」はできても、自らの決断の実行主体である役員、社員をどのようにすれば動かすことができるのか、その点への深慮やコミュニケーション手法は(違和感を抱きつつも)とても考えさせられます。なお、今回の社長退任が、果たして日産経営の全権委譲なのか、一部権限委譲なのかは、本書を読んでも(私には)わかりませんでしたので、今後の会見に期待しております。

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2017年2月23日 (木)

空売り投資家は悪か?-ファンダメンタルズ分析とガバナンス

まずは、連日続報をお伝えしている産地偽装米騒動の話題です。産地偽装を疑われている京都の米卸会社は、農協監査士の調査結果を第5報としてリリースしています。「ここ数年の間、当社の倉庫には一切中国米が納品されていないことが証明されたのだから、そもそも中国産米の混入はありえない」とのこと。さらに、本日(2月22日)のリリースでは、ついに週刊ダイヤモンドの記事の真実性を基礎付けている同位体研究所さんの分析結果の信用性を否定する根拠資料を公開しています(こうなると、同位体研究所さんの信用問題にまで発展してきますね)。最初は米卸会社が産地偽装米を流通させたかのような報道姿勢だったテレビ局も、このところは米卸会社寄りの報道姿勢に変わりつつあります。しかし農水省の調査はどこまで進捗しているのでしょうか?これだけ国民の「食の安全」に関わる重大な疑惑であるにもかかわらず、なぜマスコミは農水省の調査状況をまったく報じないのでしょうか?

さて、本日は私がコーディネーターを務め、東芝の取締役監査委員(A氏、肩書は当時)の方をパネリストにお招きした監査役全国会議の議事録を、月刊監査役2012年7月号で読み返しておりました。当時はオリンパス事件で会計不正問題への関心が高く、私がA氏に対して意地悪く、「オリンパスさんでは『モノが言えない雰囲気があった』と第三者委員会報告書で指摘されていましたが、失礼ながら東芝さんでは経営執行部に対して『モノが言えない雰囲気』はありますでしょうか?」と質問しています(同28頁)。

私のたいへん失礼な質問に、A氏は嫌な顔ひとつせず、熱心に東芝のガバナンス、内部統制の仕組みを図表を用いて説明され(同29頁)、「私ども東芝は、委員会設置会社であり、モノが言えない雰囲気や監査がやりにくい雰囲気は一切ありません」と回答されました。私を含め、2000人以上の聴講者の方々が、「さすが日本を代表する企業はすごい。あれは人的にも物的にも資源が豊富だからできるのであって、うちの会社ではあそこまではできないなぁ」といった感想を抱きました。あのときのA氏の説明はとても真摯なものであり、ガバナンス、内部統制の構築に向けた意識は極めて高いものでした。

しかし、東芝という著名企業が事業解体の危機に至ったということ、しかもPLに関連する会計不正をきっかけとして、深刻なBS上の会計不正が明らかになったという時系列をたどったこと等に鑑みると、どんな有名企業であったとしても、会計不正によって「真の企業価値」が露呈する可能性はあるのだ、ということを改めて認識するところです。昨年から今年にかけて、日本を代表する著名企業に対して国内外の空売り投資家やリサーチ会社から、「この会社は会計不正のおそれがある」との意見が公表される機会がとても増えていますが、果たしてこのような空売り投資家と呼ばれる人たちが、本当に悪者なのかどうかは一度真剣に議論してみる必要があるように思います。ちょうど金融庁の会計不正企業摘発のスコープも「ハコ企業から実業企業へ」と移行している最中ですし、こういった議論がなされることは世間的にも歓迎されるのではないでしょうか。

ちなみにFACTAの最新号(2017年3月号)に、マディ・ウォーターズ日本代表を務めるミラー和空氏の「空売り投資家の日本電産批判は『悪』か?」というタイトルの論稿が掲載されていまして、その中で空売り投資家を批判する証券アナリストと空売り投資家との議論が対話形式で掲載されていて、とても興味深いものでした(ミラー和空氏という名前をご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、あのオリンパス事件でウッドフォード氏によるオリンパス告発を支えておられた方ですね)。なんといっても「天下の日本電産」を相手にしたのですから、世間的には「そんなことありえない!あんな好感度の高いカリスマ経営者の会社を相手にケンカ売ると、そっちがケガしちゃうよ(笑)」といった批判をかなり浴びたものと思います。

ただ今回の東芝事件を経験してみると、ファンダメンタルズ派の投資家の方々にとっては、バイサイドの意見だけでなく、セルサイドの意見もいろいろと出てきたほうが投資判断に資する、という面はあることも否定できないように思います。たしかにいたずらに不安をあおり、一般投資家の狼狽売りを助長するなかで利益を上げるという面には倫理上の疑問もありますが、どんなに著名な企業、どんなに著名な経営者の名前があったとしても、それだけでバイアスが働くことは先の監査役全国会議の雰囲気からも明らかです。オリンパス事件のときも、海外のマスコミが取り上げるまで、日本のマスコミは一切動きませんでした。虚偽情報やインサイダー情報を活用することは一切許されませんが、ガバナンスや内部統制の脆弱性を突いて、財務報告の信頼性に疑問を投げかけるというのも、投資家の意識喚起にとっては重要なことではないでしょうか。空売り投資家を「好きか、嫌いか」は自由な判断だと思いますが、市場の健全性確保のために必要かどうかは別途議論の余地があるように思います。

 

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2017年2月22日 (水)

東芝・債務超過の悪夢-細野論稿(月刊世界3月号)

昨日の産地偽装米騒動の続報ですが、本日(2月21日)、疑惑の対象となっている米卸会社さんのHPに親会社による自主調査第4報が掲載されており、そこに週刊ダイヤモンド誌によるスクープ前とスクープ公表後の売上の推移表が掲載されています。大手マスコミによる報道により、不正疑惑を伝えられた事業者はこれほどの事業上の損失を受けるということですね。行政規制がソフトロー主流の時代となり、不正に走った企業が社会的制裁を受けるのは当然ですが、もし濡れ衣を着せられたとすれば、適正手続きなく、このような損失を受けることはやはり重大な問題ではないかと思います。ようやく、公平な視点から本騒動を伝えるニュースも出始めました(たとえば毎日放送ニュース)。

さてここから本題ですが、東芝さんの会計不正事件は、当初「工事進行基準」「PC(バイセル)取引」といったPL上の不適切な会計処理が話題となっておりました(第三者委員会報告書の影響も大きかったと思います)。しかし、月刊世界2015年9月に掲載された細野祐二氏の論稿がはじめてウエスチングハウス社(WEC社)の減損というBS上の問題を取り上げ、社会的反響を呼びました。時期を同じくして、東芝さんはCB&I社からS&W社を買収することになり、現在のような状況に至ります。

当ブログへのぶるーじぇいさんのコメントによって知りましたが、その細野祐二さんが再び月刊世界の最新号(2017年3月号)で「債務超過の悪夢-東芝ウエスティングハウス原子炉の逆襲」なる論稿を発表されました。さっそく拝読しましたが、今回も関連資料(デラウエア州仲裁裁判所のメモランダム・オピニオン)の丹念な読み込みとその事実に基づく企業会計面からの鋭い指摘にたいへん感銘を受けました。この細野論稿はおそらく1月末頃に締め切りだと思うのですが、2月に入っての一連の東芝騒動を予期していたかのように、現実に発生していることとのブレを感じさせません。

先日リリースしました私のエントリー(東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」)でも疑問を呈しておりましたが、PPA(取得価格配分手続き)上の問題として、買取時正味運転資本の計算に関するWEC社とCB&I社との紛争が主たる原因であることも、細野氏の論稿を読んでよくわかりました。おそらく「内部統制の不備に関する通報事実」というのも、この点に関するものだと思われます(しかしこのような質の高い論稿が、850円+消費税で読めるというのは本当にありがたい)。

また、監査法人の交代がなければ、そもそも今回の東芝問題が債務超過の危機を表面化させることはなかったであろう、とのご意見は(推論に基づくご意見とはいえ)まことにその通りかと思います。「やり方」によってはWECの「のれん」の減損は不要といったことで、昨年時点で会計不正事件のみそぎは済み、「半導体の好調によって黒字転換」を果たして業務を継続できていたのかもしれません。PWCが普通に監査をして普通の意見を述べれば、このような結果になるということであり、監査法人の独立性がいかに市場の健全性確保にとって重要であるかがわかります。「東芝の監査人変更は、社会が一旦うやむやのうちに収めてしまった東芝粉飾決算問題の本命に、まわりまわってぐさりと命中したことになる」との細野氏の表現はとても重いものを感じます。

しかしこの細野氏の推論が正しいものだとすると、会計監査人の使命は極めて重いものですね。

 

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2017年2月21日 (火)

産地偽装米騒動第2ラウンド-JA京都・米卸会社による反撃開始

2月14日のエントリー「マスコミ単独のスクープ記事から『企業不祥事』は生まれるか?」におきまして、産地偽装米を流通させているとして報じられた京都の米卸会社に関連する週刊ダイヤモンド誌の単独スクープ記事を取り上げました。本日発売の週刊ダイヤモンド誌(2月25日号)では、続報記事が掲載されておりまして、どんな新たな事実が報じられているのだろうかと期待しておりましたが、先行するWEBニュースで報じられた内容以外に、あまり新たな事実は掲載されていませんでした。「ついに行政検査に発展!」との見出しですが、そもそもダイヤモンド誌による告発は2月13日であり、行政調査はその前の2月10日なので、前号発売の時点で予定されていた記事といえそうです。

また、前回エントリーでも述べたとおり、単独誌によるスクープ記事というのは、なかなか後追いしてくれるマスコミが登場しないケースが多く、これまでいくつかのテレビニュースでは取り上げられましたが、他紙記者による取材によって新たな事実が判明した、ということは報じられていません。通常、このような行政検査が行われますと、多くの社会部(ぶらさがり)記者の方々が検査から判明した事実を(行政官からコソッと聴取をして)取り上げるのですが、そのような気配もないようです。

一方、京都の米卸会社及びその親会社であるJA京都中央会は「報じられているような大量の中国米が混入することなどありえない、週刊ダイヤモンド誌と当該記者を謝罪広告等を求めて民事賠償請求訴訟を提起した」とリリース(HPでのリリースからみると刑事告訴の準備もしている模様)。2月16日には産地偽装騒動特設HPをJA京都中央会HP内に新設し、連日の自主調査の結果を報告しています(なお、調査にあたっている農協監査士10名の名前も実名で公表しています)。

本日(2月20日)は複数のテレビ局を通じて、JA京都中央会が自主調査の様子を一般公開して、自主調査の公正性・透明性を訴えています(たとえばこちらのニュース等)。公平な立場で考えると、米卸会社・JA京都中央会側が一気に反攻に転じた形です。農水省による調査は続いている状況なので、今後どのような展開になるのかは不明ですが、「同位体研究所」における調査分析の信用性を含めて、真偽が明確になるまではかなりの時間を要することが予想されます(もちろん、内部告発や内部通報といった情報が駆け巡る事態となれば事件の急展開も考えられますが)。

私がこの話題に関心を寄せる理由は、なんといっても本事件の顛末が公益通報者保護法の改正問題にも影響を及ぼすのではないかと考えるからです。大手マスコミは同法における公益通報先である「第三者」の典型です。マスコミによる報道が不正事実発覚の端緒となることが想定されるわけですが、しかし公益通報に十分な証拠が存在しない場合には、被通報事業者は「風評」によって多大な社会的信用毀損に陥ります(おそらく、マスコミは記事内容の真実相当性を担保する資料に基づいて報道した、と主張することで敗訴することはないと思いますが、事業者側は名誉回復行為だけでは到底社会的信用を回復することはできません)。国民が「安全よりも安心」を選択する時代となったため、いったん風評被害に遭った事業者はなかなか立ち直れないというのが現実です。

公益通報者保護法の改正審議の中では、通報者の「正義」ばかりに光が当たりますが、その「正義」保護の裏で、回復しがたい風評被害に泣く事業者(およびそこで働く社員・家族)を作り上げるリスクがあります。今回のダイヤモンド誌の単独スクープも、内部告発者によるスクープでは起こりうる事態であり、これがスパッと不正発覚につながればよいのですが、このまま事件が長期化し、結局シロだったとされ、もしくはグレーのままうやむやになってしまえば、「ほら、やっぱり公益通報者保護法の改正は人権上危険ではないか」と指摘を受け、法改正見送りの立法事実として引用されてしまうことになりかねません。私は双方とも利害関係がなく、極力公平な第三者としての視点で事件を見守るつもりですが、「出てほしい」結果を抱けば「予断」を招きかねません。今後報じられるマスコミからの報道においても、極力「認識」ではなく「事実」に焦点を当てて検証してみたいと考えています。

 

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2017年2月20日 (月)

デジタル運用広告の「危うさ」と広告代理店における財務報告の信頼性

昨年12月7日のエントリー「電通事件-真綿で首を絞めるソフトローの実効性(プレッシャー)」におきまして、私は以下のとおり素朴な疑問を呈しました。いずれこの広告代理店業界におけるグレーな領域は、コンプライアンス問題の火種になるのではないかと予想していましたが、ようやく大手新聞も問題視するに至ったようです。

そしてもうひとつは広告料の不適切問題です。米国広告主協会が電通の不適切広告を広く紹介していますが、そうであるならば日本の広告主協会(日本アドバタイザーズ協会)も、そろそろ電通さん含め、大手広告代理店のデジタル広告に関する調査を開始しているのではないかと推測いたします。業界団体ではなく、広告主さんの団体ではありますが、電通さんを含め、広告代理店業界の自主規制を要望するようなことはないのでしょうか?

土曜日(2月18日)の読売新聞一面トップと社会面にて、いよいよ「ネット広告閲覧水増し」と題する特集記事が掲載されました。米国アドバタイザーズ協会の調べでは、昨年1年間で広告詐欺は8100億円(!)にも上るそうですが、やはり日本でも同様の調査が行われていたのですね。日本のIT企業を主体とした調査によると、国内で100億円以上のデジタル広告における被害額が判明したそうです。広告主は知らないうちに、過大な広告請求を受けていたことになります。

電通さんは先日、デジタル運用広告の掲載数を自動でカウントできるような仕組みを今後導入する、とリリースされていましたが、たとえ掲載されたとしても、(一瞬で消えてしまうものも含まれているそうなので)人間が一般に認識しうるような形で掲載されたのかどうか、どのように確認するのでしょうか。また広告に対するクリックの自動操作という不正をチェックする仕組みは作成できるのでしょうか。いずれにしましても、ネット広告が売上の相当部分を占めるようになってきた大手広告代理店にとって、デジタル運用広告の正確なカウントは財務報告の信頼性に関わる大問題になりつつあると思います。

電通さんの場合には、自社でネット広告をチェックする社員を抱えていますが、そもそもコンプライアンスの視点からすれば、「こんな危ない業務は下請けに丸投げするほうがよい」と考えるところも出てくるのではないでしょうか(もちろん、そのような発想自体がひとつのコンプライアンス上の問題ですが)。となると、監査の対象も下請け先事業者に向かうことになりそうです。しかしながら単価の安いデジタル運用広告の掲載回数チェックとなれば、下請け業者の社員の方々にとってはとてつもなく労働時間を要し、今度は労基法違反リスクを抱えるというジレンマに陥ります。

日本アドバタイザーズ協会役員の方が述べておられるように、今後はデジタル運用型広告の自動カウントシステムの仕組みを(業界あげて)早急に構築しなければ、財務報告の信頼性を毀損することになってしまうでしょう。「下請けに丸投げして一件落着」といったことで回避することはできないコンプライアンス問題に発展するように思えます。

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2017年2月17日 (金)

ANAの「重要な経営課題」騒動と「なんちゃって行動経済学」

本日、ANAHD(全日空ホールディングス)の社長さんが出席して「重要な経営課題」に関して記者会見を開く、との広報がなされ、ANAHDの株価が大荒れとなりました。一時は前日比7%も下落したとのこと(毎日ニュースが詳しく報じています)。フタを開けてみると重要事業会社の社長交代に関するリリースだった・・・とのことで「え?、重要な経営課題って、これだったの?」と一気に株価が急上昇しました。

「重要な経営課題」ということですから、M&Aなどの前向きな経営判断の決定もあれば、提携解消や不祥事の発覚といった後向きの判断や発生事実もありえます。もちろん重要事業会社の人事問題も立派な「経営課題」です。しかし、「重要な経営課題」を悲観的なニュースと捉えて、約7%も株価が下落するというのは興味深いですね。いえ、私も「またブログネタが増えるかも?」と、不謹慎にも考えてしまいました(笑)。

私は経済学は素人ですが、米国のノーベル経済学者ダニエル・カーネマン氏のご著書「ファスト&スロー」の発想からすると、証券市場に詳しければ詳しいほど、いわゆる「利用可能性ヒューリスティック」によって不合理なバイアスが働いてしまうものと思います。いま、世の中は東芝問題で揺れていることもありますが「重要な経営課題」と聴くと、「ああ、そういえば過去にも同じようなテーマの会見で悪いニュースが多かったよな」との認識がバイアスを生み、悲観的な結果を(楽観的な結果よりも)強く認識してしまいます。また、とくに証券市場に利害関係のない人たちからすると「他人の不幸は蜜の味」といった「感情ヒューリスティック」が機能して、悲観的なバイアスを生み出すことも考えられます。

そして「プロスペクト理論」ですね。合理的に考えれば確率が同じであったとしても、利益を得る結果と損失を生む結果を比べると、人間は損失回避の選択を優先する、という不合理な方向に動いてしまう行動法則です。こういったヒューリスティックスもプロスペクト理論も、何万年も人間が種を残していかねばならない動物である以上、制御不能な脳の働きだからしかたがない、ということなのでしょうね(ちなみに1か月後、もう一回ANAさんが「本日、重要な経営課題について会見をします」と広報したら、今度はどんな株価になるのか興味があります)。

しかし人工知能だと、こういったバイアスや思い込みといった脳の働きはなくなるのでしょうかね?だとすれば、やっぱりAIを活用した投資活動は儲けを生みやすい、ということになるのでしょう。あと、ガバナンス改革で求められている「健全なリスクテイク」なる概念もプロスペクト理論で考えるとコワいですね。このままだとドンジリになることが経営者にも確実にわかったので、リスクテイクを選好する、という結果になったと考えるのが(認知心理学、行動経済学的には)筋ではないかと。

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2017年2月16日 (木)

東芝事件がガバナンス改革に及ぼす影響-社外取締役希望者は減るかもしれない

いよいよ3月末時点における債務超過がほぼ確定、ということで東証2部に移ることが報じられている東芝さんの件ですが、日本テレビnewsWEBが内部通報の中身を明らかにしていて、なかなか衝撃的です(しかし、どうして独占入手できるのでしょうか?記者魂?)。正直申し上げて、私が昨日想像していた以上の内容でした。「独自東芝“圧力”名指し 内部通報詳細」。

日本テレビの取材で、この、内部通報では東芝の志賀重範会長と東芝のアメリカの原発子会社ウェスチングハウスのロデリック会長が名指しされていたことがわかった。・・・内部通報によると、去年12月に巨額の損失が生じたことがわかり、志賀会長がアメリカに調査に行った際、志賀会長とロデリック会長がウェスチングハウスの幹部に対し、東芝にとって有利な会計になるように圧力をかけたという。

もちろん、通報事実の真偽は調査を待たなければわかりません。現に、志賀会長は、6月まではウェスチングハウス問題について執行役として問題解決にあたる、とされています。

しかし、この内部通報に一番頭を悩ませているのは、1年半前に東芝再建のために就任された社外取締役の方々ではないでしょうか。人事刷新が決まった昨年5月の会見で、社外取締役のみ5人で構成する指名委員会の委員長(社外取締役)の方は、記者から「なぜ戦犯である志賀氏を会長に残したのか?」との質問を受けて、「たしかに若干グレーだと言われているが、原子力という国策的事業をやるうえで余人をもって代えがたい」と説明していました(「東芝 粉飾の原点」日経BP 301頁)。会計不正に関する報告書で「不正会計への関与者」と認定されていたとしても、またウェスティングハウス社のかつてのトップとして、損失隠しの実情を最もよく知る方であったとしても、やはり東芝再生という事業戦略を遂行する上では欠かせないとの経営判断があったものと思います。指名委員会では満場一致で当該会長さんが指名された、とのこと。

あえてグレーな方をトップとして残すのであれば、社外取締役としてはよほどの覚悟で監督職務を果たす必要があります(したがって、私個人としては、内部通報で示されたような事実はなかったのではないか、と思いたいです)。しかし、会計処理への影響の有無を問わず、そのような事実があったとすれば、これはかなり衝撃的な問題であり、日本のガバナンス改革への影響という点でも重大な懸念が残ります。社外取締役が中心になってガバナンス改革の目指す「リスクをとって事業にチャレンジすること」をあえて実行したわけですから、そのリスクが顕在化した場合、社外取締役はどのように対処すればよいのでしょうか(本当は、このような状況でこそ、第三者委員会を設置したほうが良いのではないでしょうか?)。

このような内部通報が明らかになった以上、日本政府が進めている「ガバナンス改革を形式から実質へと深化させよ」といった政策を掛け声だけで終わらせないためには、たとえ東芝さんが原子力を扱う国策事業会社であり、簡単には処理できない企業であったとしても、新生東芝によるガバナンスが機能した、と理解できる形で問題を処理していただきたいと願うところです。そうでなければ、「やっぱり社外取締役なんか、コワすぎてなるもんじゃないね」「結局、社外取締役なんて『お飾り』に過ぎないじゃないか」と世間から揶揄されて、現役の経営者や経営者OBといった社外取締役就任候補の方々を失望させてしまうことになるのではと危惧します。

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2017年2月15日 (水)

東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」

東芝さんは2月14日に予定していた四半期報告書の提出を、会計監査人のレヴューが得られないとして1か月延長すると発表しました。朝日新聞WEBで記者会見の様子を動画視聴しましたが、不正疑惑が持ち上がったこと、そしてメモリー事業すら手放すことも検討していること(他社に過半数の株式を譲渡してもかまわない)に言及した会見には驚きました。あと、日経の田中記者が会計的見地から(個人的には)ナイスと思える質問をされていた印象を受けました。

今年に入って「PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)の過程において内部統制上の不備がある」との内部通報があったようですね。ウェスチングハウスのCEOに対して、同社の社員からの内部通報あり・・・ということなので、すべて海外で不正疑惑が申告されたというものだそうです。ただ、東芝さんのリリースを読む限り、内部通報の内容である内部統制上の不備と、その後の調査で判明した「経営者による不適切な圧力」との関係がよくわからなかったですね(どなたか質問してほしかったです)。また国内で第一報を受けたのは経営陣なのでしょうか、それとも監査委員会なのでしょうか。監査委員会が調査の主体のようですが、調査で判明した事実は経営陣と共有するのでしょうか?海外の主要会社の経営トップの不正疑惑ですから、チャイニーズウォールが必要な気もしますが。。。

しかし、そもそも東芝さんのリリースに登場する「内部統制の不備を示唆する内部通報」とか「不適切なプレッシャーを懸念する指摘」とか、「経営者による内部統制の無効化が仮にあった場合」等、ほとんど日本語が理解できません。たしか昨年6月の時点で、東芝さんは「当社の財務報告に関する内部統制は有効とは言えない」と宣言しておられるので、無効なものを無効化するというのはどういった意味なのでしょうか?後でどっちとでもとれるような評価を示す言葉のように思えます。事実関係は調査中だとしても、公表文書の内容が不明な点は釈明する必要があるように感じました。

内部統制上の不備がどのようなものか私にも想像できませんが、S&Wを買収したWEC社のPPAについては日本でも監査が厳格になっていますので、結果的に「四半期レヴューにおいて会計監査人を騙した」ような結果となれば、やっぱり無視できない不正だと思います。以前紹介したアメリカの行動経済学者ダン・アリエリーさんの「ズル-嘘とごまかしの行動経済学」で、会計監査人を騙すのは簡単、「監査上の重要性」を活用すればいいだけ、ということが解説されていました。S&W買収金額を少なく見積もっておけば、PPAも自社監査チームだけで対応すればよい(つまり全体からみればS&Wの買収価格は重要性に乏しい)として、「PPA期限間際になって過大な債務が発覚した、のれんで処理します」と言いやすい・・・といったことを誰かが考えたのでしょうか(このあたりは会計のご専門の方のご意見もコソっとお聴きしてみたいところです)。

もちろん勝手な想像ですが、ともかく内部統制の不備が全体の決算数字への影響が軽微であったとしても、かりに監査を妨害するようなものであるとすれば、かなり重大な問題ではないかと考えます。法律事務所による調査結果への関心が高まるところです。

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2017年2月14日 (火)

マスコミ単独のスクープ記事から「企業不祥事」は生まれるか?

週刊ダイヤモンド最新号(2月18日号)の特集に、JAに近い京都の米卸会社による偽装米疑惑に関する告発スクープ記事が掲載されています。お米のブランドは高い品質管理の上に成り立っていますので、もし疑惑が真実だとすればたいへんな事件です。また、だからこそ疑惑を報じられた京都の会社はHPで「ダイヤモンドを刑事告訴し、名誉回復のために民事訴訟を提起する」と宣言しています。WEBニュースではなく、詳細な雑誌記事のほうで確認しましたが、ダイヤモンドさんは農業特集の記事を探している中で、この会社の疑惑を知ったようです。不正競争防止法違反に関連する「公益通報」があったのかどうかはわかりません。

前にも書きましたが、私も性能偽装事件の告発側に関与し、某経済雑誌の告発スクープネタを提供することになりました(もちろん会社側からへの取材に基づく反論も掲載されていました。ネット記事が掲載されたときは、やはりドキドキしたことを憶えています)。スクープ記事が発端となって、業界1位の某メーカーさんが企業不祥事に飲み込まれるものと想定していました。しかし、大手新聞社、通信社、経済雑誌含め、他のマスコミはどこも追随する記事を出さないまま、ひっそりと、その性能偽装疑惑は風化していきました。ちなみに会社側からは刑事告訴をした、民事賠償請求をした、という話は一切ありませんでした。

企業不正が、世間を騒がせる、いわゆる「企業不祥事」に発展するためには、複数のメディアが動く必要がありますが、単独スクープというのは、どうも他のメディアが「乗らない」ように思います。たとえば海外のメディアが独自に調査して発覚する、監督官庁が別ルートの告発によって強制調査に動く、SNSでの盛り上がりをメディアが同時に取り上げる、といったことがないと、記者の正義感だけでは事件の発展にはつながらないのではないかと。後は最近の文春記事のように、相手の反論を前提に、第2弾、第3弾の証拠を出してくる、といったことで社会的関心を高めるという手法がありますが、これは内部告発でもないとなかなか難しいですね。

この事件はどちらに転ぶのかはわかりませんが、もし不祥事発覚ということになれば、何が「企業不祥事」に発展させたのか、後押しするものは何か、企業の不正リスク管理の見地からは大きな教訓になりますし、またもし不祥事発覚に至らなければ、不祥事風評による企業の社会的信用毀損の重大性を認識する教訓になります。ただ、個人的な感想としては、報じられている内容が真実ならば間違いなく刑事事件に発展するような不正なので、ダイヤモンドさんはかなり周到な準備をして記事をアップされたのではないかと予想します。

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2017年2月10日 (金)

ガバナンス改革-社外取締役のインセンティブ問題をどう考えるのか?

当ブログをご覧のオリンパス社員の皆様!金融庁の職員の皆様!そして某大手監査法人の皆様!ずいぶんと凄い本が出版されるそうですよ!(笑)

「野村證券第2事業法人部」横尾宣政 講談社  発売日2月22日 住友銀行秘史に続く「実名」ノンフィクション本、野村証券のバブル全盛期とオリンパス事件の真相・・・。うーーん、とりあえず、現時点ではノーコメントとさせていただきます。

さて、本日(2月9日)法務省・法制審議会総会において諮問104号が出され、いよいよ次の会社法改正(企業統治等関係)に向けて法制審議会内に会社法制(企業統治等関係)部会が新設されたそうです。主な諮問内容は①株主総会に関する手続きの合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債管理の在り方の見直し、④社外取締役を置くことの義務付け、といった企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討せよ、とのこと。

②に示された「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備」とは、業績連動型役員報酬制度の整備等、まさに「成長戦略を推進する攻めのガバナンス、企業の稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス」といったいわゆる政府のガバナンス改革を受けての検討課題に会社法も応えよ・・・というものですね。もはやここまで来ますと、会社法が会社関係者の権利調整を目的とした(伝統的な)民事法から国富促進のための経済政策法へと変貌を遂げていると感じるのは私だけでしょうか?(ここまで来たら昭和40年代の論争にあった「株式会社は、企業としての社会的責任を果たすべき義務を有する」といった条項を、いっそのこと会社法に盛り込んでもよいのでは?)

ところで、役員に適切なインセンティブを付与するというのであれば、社外取締役に就任するため(そして期待通りに活躍してもらうため)のインセンティブの付与も検討されるのでしょうか?最近、企業の相談役や顧問制度の見直しが議論されていて、経営者OBの方々が、他社の社外取締役に就任しやすい環境を整備することが検討されています。しかし、社外取締役の報酬が低いままですと、相談役や顧問就任を辞めてまで他社の社外取締役に就任するインセンティブは全くないのではないかと。

資料版商事法務の最新号(2017年1月号)では、3年ぶりに社外役員の報酬分析(三井住友信託銀行証券代行コンサルティング部作成)が掲載されていますが、その結果を見て唖然としました。3年前と比較して、社外取締役の平均報酬額は低下しているのです。

もちろん、中小の上場会社も社外取締役を選任するようになったという「ガバナンス改革効果」の結果と考えれば、低下したことも一応は納得できそうです。ただ、前回分析の3年前と現時点での社外取締役とでは、まったく期待されている役割が異なっています。「月1回、取締役会に出席して終わり」とういわけにはいかなくなっています。伝統的な日本企業の取締役会に社外取締役が一人で入っていくという以前のイメージから、取締役会改革を支える要職としての役割を果たすというイメージに変遷しています。当然のことながら、社外取締役を務めるための拘束時間も増えますし、「提訴リスク」を含めたリーガルリスクも高まります。しかし、実際は社外取締役の平均報酬は増えるどころか低下している、というのが現実なのですね。

これでは有能な経営者OBの方々が、今後多くの上場会社の社外取締役となって活躍できる環境とはいえないですよね。それこそ会社法に「企業の社会的責任」に関する条項を挿入して、社外取締役というのは報酬ではなく公職としての使命を果たすことであるとすべきでしょうか。この現実こそ、ガバナンス改革は形式だけであり、実質へと深化する、というのは幻想ではないか・・・と感じる一つの要因です。そのあたり、今後議論されることはあるのでしょうか?

 

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2017年2月 8日 (水)

法令解釈にも「健全なリスクテイク」が求められる時代

日経コンピュータ2月2日号「ITと法規制」特集において、「法的にグレー」こそイノベーションの源、日本が米国に負ける理由 と題する記事が掲載されていますが、その内容にとても共感いたしました。ここで書かれていることは、私がコンプライアンス関連の講演でも、まったく同じことを申し上げるところでして、海外事業を展開している多くの企業の法務部門が感じているところではないでしょうか。最近、日本企業の中にも、コーポレートとカンパニーに法務を分断して、「現場に寄り添う法務」として、リスクのとれる法務部門を実践する企業も出てきた、ということを、あるベテランの企業内弁護士の方から伺いました。

昨年、東芝メディカルシステムズ社の買収を巡って、キヤノンさんと富士フイルムさんで争奪戦があり、公正取引委員会から異例の注意声明が出されました。当時、私は多くの法務担当者に「(マスコミで報じられていることが真実だとしたら)あなたなら、キヤノンさんと富士フイルムさんと、どちらの経営判断を社長さんに勧めますか?」と質問してみました。すると答えは(こちらの期待どおり?)大きく二つに分かれたことを憶えています。

答えはどのようなものであれ、そのときにグローバル企業の法務部長さんからよく聞こえてきたのが

「我々と大手法律事務所さんとの付き合い方は、この10年で激変した、立場が逆転したとまでは言わないけど、問題解決の主導権は、次第に法務部側に移りつつある感じますね」(すいません、少しソフトな言い回しに表現を変えております)

といった感想でした。法務部といえば、昔は(どうすればリーガルリスクをとらないで済むのか)外部の専門家の意見を拝聴する、といった立場だったのが、現在は自分たちが法解釈のリスクをとるにあたり、必要な点だけ外部の法律家に支援を求める(だからこそ、自分たちのリスクを最小化するためのレベルの高い専門的かつ詳細なスキル、経験を求める)とのこと。この記事では、IT企業における改正個人情報保護法問題を例にとって解説されていますが、他の一般企業に対する行政規制全般においても「法の目的と手段の取り違え」は重要な課題だと思います。事前規制社会から事後規制社会へと移り変わり、事前規制手法がハードローからソフトローへと移り変わっているにもかかわらず、法務や経理、監査の仕事(役割?)が変わっていないことのリスクです。

おそらく「法的にグレーこそイノベーションの源」であり、競争上の重要な課題である、と認識しているのは法務に関わっておられる方々のみで、経営陣が重要な課題だと認識しておられないことが大きな要因ではないかと思います。役員セミナー等では、社長さんの前で「最高法務責任者としての取締役を置くべき」と申し上げるところですが、企業内弁護士のような方々はたくさんいらっしゃっても、CLO(チーフ・リーガル・オフィサー)を置いて、事業戦略に法務を活用されている会社はまだまだ少ないと感じています。法的にグレーであることと、コンプライアンス上問題が多いこととは全く別です。だからこそ、当ブログでも12年ほど前から「闘うコンプライアンス」「行政法専門弁護士待望論」なるカテゴリーでときどきエントリーを書き続けていますが、なかなか世間的に理解していただくのはむずかしいようです。

営業秘密の漏洩防止対策を考えるにあたっても、法務系とIT系の方々の合同チームで検討するとおもしろい傾向が出ます。法務系の方々は、最初から通路を2本作って、絶対に重要情報にアクセスできないことを推奨します。しかしIT系の方々は、通路は1本だけど、おかしな動きをしたら警告を発したり、漏洩は必ずフォレンジックで発覚することの周知を推奨します(法務は「機会」に、IT系は「動機」に訴えかける)。どちらの発想が、よりビジネスの現場実務に採用されやすいでしょうか?この記事にあるような発想で、法務をビジネスチャンスにつなげる感覚が日本企業には必要だと痛感します。

 

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2017年2月 6日 (月)

三菱自動車燃費偽装問題-日産にも課徴金処分は下るのか?

皆様すでにご承知のとおり、1月27日に消費者庁から三菱自動車さんに対して課徴金納付命令が発出されました。昨年発覚した燃費偽装事件に関して、パンフレットやネット上でのCMについて、優良誤認表示が認められた、ということです。昨年4月1日に施行された平成26年改正景品表示法ですが、新設された景表法に基づく課徴金処分の第一号ということで、マスコミでも大きく報じられています。

今回報じられている課徴金処分ですが、これは「後から調査したら普通自動車にも偽装があった」と三菱さんが公表したものに関する不当表示が対象です(課徴金処分の根拠法が施行された4月1日から不当表示をやめた8月30日まで)。軽自動車については、あの記者会見が開かれた昨年4月20日に、三菱さんも(OEM供給を受けた)日産さんも表示を中止しているわけですが、こちらについては両社とも、消費者庁が課徴金処分を検討しているということのようです。

ところで1月27日の日経新聞記事によりますと、日産さんも景品表示法上の被害者返金計画の認可を消費者庁から受けていること、「日産も燃費問題に気付いていたのにその後の対応が遅かった」として措置命令を受けたことが報じられています。つまり、この記事内容が真実だとしますと、燃費偽装を行った三菱さんだけでなく、偽装を指摘しながら、その後の対応が遅かった(とされる)日産さんにも課徴金納付命令が下る可能性がある、ということですね。

「記者会見が(たとえば昨年3月中とか)もう少し早ければよかった・・・」と日産の関係者の方々も後悔しているかもしれません。燃費偽装に関する第三者調査委員会報告書によると、燃費偽装の疑いを日産が最初に指摘したのは平成27年の秋ころと記載されています。その後は日産と三菱で共同調査が行われ、偽装が判明して記者会見となるわけですが、その間に新しい景品表示法の施行日を迎えることになりました。組織としての過失が日産に認められた・・・と消費者庁から認定されることについては、日産さんとしては納得できるものでしょうか?

日産さんの今後の対応として考えられるのは、①消費者庁から認可を受けた返金措置計画に沿って返金を完了し、結果として算定される課徴金額よりも返金額が上回ることで課徴金処分を免れる、②ガイドラインでは、不当表示に気が付いてすみやかに表示を中止した場合には課徴金処分を免れることになっているので、自社の対応は「すみやかに表示を中止」した場合に該当すると主張して相当な注意を怠っていたものではないと反論すること、③返金額が算定額に不足した場合には素直に課徴金処分に従うこと、のいずれかかと思われます。

実施予定返金措置計画の認可については、当該企業の商品・サービスの内容、認定申請前の任意のリコールの状況等によって認可に関する難易度が変わると思いますので、ここでは触れません。しかし、「不当表示であることを知らないことについて相当な注意を怠っていなかった者」に、今回の日産さんが該当しないとなると、消費者庁の見解は相当に企業側に厳しいものといえるのではないでしょうか。三菱さんに対する課徴金処分の文面をみますと、「相当な注意を怠っていない」とする企業側が、その相当性を根拠つける事実を指摘しなければならない(そうしなければ立証に成功しない)ことがわかりますので、企業側の大きな課題になりそうです(また、企業法務的には不当表示の自主申告に関する消費者庁の取り扱い等も興味深い論点ですが、こちらはまた別の機会に指摘したいと思います)。

たとえば優良誤認や有利誤認に関する内部通報や内部告発が届いた場合、その調査に手間取って報告や公表に時間を要した場合、「速やかな対応とはいえない」と行政から判定されることは、どこの企業においても十分に考えられます。「相当な注意を怠ったとはいえない」とはどのようなものか、法26条の体制整備義務の十分な履行がこれにあたることは間違いありませんが、平時だけでなく有事における企業対応の状況にも関わるものだと理解しておいたほうがよさそうですね。軽自動車の燃費偽装問題に関する今後の消費者庁の判断が注目されるところです。

 

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2017年2月 3日 (金)

「社長交代」を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任(後編)

本日、大手運用機関のアナリストの方々と夕食をご一緒させていただきましたが、その席で(当然といえば当然ですが)企業の相談役、顧問制度について、たいへん厳しい意見を拝聴いたしました。東芝事件も背景にありますが、「常務会や執行役員会議などで喧々諤々意見交換がなされたにもかかわらず、なぜ最後に相談役のところへ案件を持ってお伺いをたてねばならないのか。そんなブラックボックスがあると、ガバナンスを議論しても意味がないのではないか」といったご意見です。そういえば本日(2月3日)の日経朝刊にも、政府が相談役、顧問制度について、「要請」という形で企業に規制をかけることが報じられていましたね。ただ、この制度は短所だけでなく、長所もありますので、今後時間をかけてゆっくりと検討すべき課題ではないかと、個人的には考えています。

さて、先週「社長交代を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任」とのエントリーを書きましたが、本日はその後編です。社長交代劇を演じることができるほどの胆力が社外取締役には求められていますが、企業の組織力学を知悉していなければ社長交代劇は企業価値を損なう、そして損失の危険の管理に最も適しているのは経営者OBではないか、といった内容でした。本日は、その理由を述べたいと思います。

1 社長交代を「決める」ことと「実行する」ことには大きな隔たりがある

今回のガバナンス改革において、社外取締役に求められることの重要な役割としてトップ人事への実質的関与が挙げられています。これはその通りかと思います。しかし実際に社長交代劇に何度か関与した者として、「交代を決める」ことは容易でも、「交代を実行すること」は至難の業です。実行に移してソフトランディングに持っていくにはたいへんな労力を要します。そこで社長経験者の覚悟がモノを言います。たとえここで社長を辞任したとしても、その後の生活はこの程度の不利益だよ、といったことを社長さんに説明できるのは、同じような修羅場を経験した方だからこそ説得力があります。

2 社長交代に関する社外・社内の影響度を熟知している

突然の社長交代劇は、社内・社外のステイクホルダーに多大な影響を及ぼします。たとえば社外においては金融機関、取引先、大株主に対する事前説明が求められます(その順番も大切です)。また社内においては、会長や顧問、相談役、経営幹部の方々への根回しも必要です。このあたりは、社内力学に精通した方でないと、なかなか段取りがわかりません。ぜひとも経営経験のある社外役員の「嗅覚」が必要になってきます。退任を求められた社長さんがどうすれば成仏できるか、どうすれば企業の大切な無形資産を持って同業他社に駆け込まないか、といったことを企業はとても気にします。社長さんが成仏できるような段取りを考えるのも経営者OBの機知がモノを言います(こんなとき、社内に顧問、相談役制度がとても役に立ちます)。

3 経営者OBだけがホンモノのガバナンスを知っている

社内の本当のガバナンスの力を持っているのは「従業員」です。株主ガバナンスと世間ではいわれていますが、経営経験者は組織を変える真の力を持った者は従業員だと知っています。だからこそ、現場を含め、従業員の方々から情報を得ることで、会社内の空気を察知します。社外役員といえども、現場従業員とのコミュニケーションを大切にするのは経営者OBの方々です。

4 社長が社内のだれ一人として相談できないことを相談できるのは経営者OBの社外役員だけである

経営者OBの方々の有事における立ち居振る舞いを観察していて、「この人が社外取締役でいてくれて本当によかった」といえるのは、社長が人間的に当該社外取締役さんを信頼している場合だと思います。わかりやすくいえば、普段社内の誰にも言えないような困りごとが生じた場合に、「この社外役員に相談してみよう」と思えるような関係が成立する場合です。私も悔しいですが、こういった関係に立てるのは経営者OBの社外取締役をおいて他にはいないと思うのです。海外ではもっとドライな関係が望ましいのでしょうが、日本企業で円満に社長交代劇を演じることができるのは、こういった関係が成り立ち、社長さんが成仏できるからだと思います。その会社に未練なく権力から離れることができるからこそ、他社の社外取締役として頑張ってみようとの気持ちの切り替えができるものと考えています。

もちろんこれらの理由は個人的な見解なのでご異論もあろうかと思います。ただ、本当に社外取締役がガバナンス・コードに謳われているような役割を果たそうと思えば、こういった過酷な社外取締役の役割を演じていただけるような方が求められているのではないでしょうか。単純に「稼ぐ力」を回復するために、経営手腕が求められている・・・といった理由だけで経営者OBが適任とされるものではないような気がしています。

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2017年2月 1日 (水)

フィデューシャリー・デューティーと機関投資家の訴訟提起

信託銀行が東芝社に対して「異例の提訴」を検討されている、と日経新聞で報じられています(1月30日)。「異例」というのは、刑事責任(法人の場合は金融商品取引法207条)が追及されていないにもかかわらず、東芝社に対して損害賠償を求める、という点を捉えてのことだそうです。「虚偽記載」の事実については東芝さんもほぼ認めているようなので、因果関係と損害額の立証が容易となる点において、金商法21条の2に基づく不実開示責任の追及が行われる、ということでしょうか(もちろん機関投資家側が、損害賠償の範囲を裁判所に広く認めてもらうために、民法709条に基づく不法行為責任を追及することも考えられます)。

以前、当ブログでも取り上げましたが、顧客から資産を預かって運用する機関には、最近「フィデューシャリー・デューティー(信認義務)」が強く要請されるようになりましたので、顧客に対する受託者責任を尽くすためにも、このような責任追及がなされる事例は今後も増えていくように思われます。ただ、そうなりますと、取締役や監査役といった役員個人の不実開示責任の追及も問題になりそうですが(金商法24条の4)。そのあたりは記事からは明らかではないですね。

機関投資家の方々がフィデューシャリー・デューティーを尽くすために訴えを起こす、ということになりますと、その費用対効果も問題となりますので、役員の個人責任を追及する場合には「費用倒れ」の可能性があります。また、社外取締役候補者を減らすことにもつながるようなことも、政策的に(?)とりにくいのかもしれません。役員の個人責任については、会社自身による損害賠償請求訴訟もしくは一般株主による代表訴訟の帰趨を見守る、ということかと推測いたします。

ところで金商法の勉強不足で恐縮ですが、平成26年の金商法改正によって発行会社の不実開示責任は過失責任となりました(それまでは無過失責任)が、そもそも発行会社の無過失を(発行会社側で)立証する、というのはどういったことが認められれば良いのでしょうか。やはり財務報告に関する内部統制について、相当程度の整備運用がなされていた、ということになるのでしょうか。しかし会計不正事件が発覚した企業では、先に「金商法上の内部統制は有効ではなかった」と訂正報告書を提出していますので、そのあたりの訴訟上の抗弁との関係がどうなるのでしょうか。ちょっと今、長めの出張中なので、また事務所に帰ってゆっくり考えてみたいと思います。

 

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