マスコミ単独のスクープ記事から「企業不祥事」は生まれるか?
週刊ダイヤモンド最新号(2月18日号)の特集に、JAに近い京都の米卸会社による偽装米疑惑に関する告発スクープ記事が掲載されています。お米のブランドは高い品質管理の上に成り立っていますので、もし疑惑が真実だとすればたいへんな事件です。また、だからこそ疑惑を報じられた京都の会社はHPで「ダイヤモンドを刑事告訴し、名誉回復のために民事訴訟を提起する」と宣言しています。WEBニュースではなく、詳細な雑誌記事のほうで確認しましたが、ダイヤモンドさんは農業特集の記事を探している中で、この会社の疑惑を知ったようです。不正競争防止法違反に関連する「公益通報」があったのかどうかはわかりません。
前にも書きましたが、私も性能偽装事件の告発側に関与し、某経済雑誌の告発スクープネタを提供することになりました(もちろん会社側からへの取材に基づく反論も掲載されていました。ネット記事が掲載されたときは、やはりドキドキしたことを憶えています)。スクープ記事が発端となって、業界1位の某メーカーさんが企業不祥事に飲み込まれるものと想定していました。しかし、大手新聞社、通信社、経済雑誌含め、他のマスコミはどこも追随する記事を出さないまま、ひっそりと、その性能偽装疑惑は風化していきました。ちなみに会社側からは刑事告訴をした、民事賠償請求をした、という話は一切ありませんでした。
企業不正が、世間を騒がせる、いわゆる「企業不祥事」に発展するためには、複数のメディアが動く必要がありますが、単独スクープというのは、どうも他のメディアが「乗らない」ように思います。たとえば海外のメディアが独自に調査して発覚する、監督官庁が別ルートの告発によって強制調査に動く、SNSでの盛り上がりをメディアが同時に取り上げる、といったことがないと、記者の正義感だけでは事件の発展にはつながらないのではないかと。後は最近の文春記事のように、相手の反論を前提に、第2弾、第3弾の証拠を出してくる、といったことで社会的関心を高めるという手法がありますが、これは内部告発でもないとなかなか難しいですね。
この事件はどちらに転ぶのかはわかりませんが、もし不祥事発覚ということになれば、何が「企業不祥事」に発展させたのか、後押しするものは何か、企業の不正リスク管理の見地からは大きな教訓になりますし、またもし不祥事発覚に至らなければ、不祥事風評による企業の社会的信用毀損の重大性を認識する教訓になります。ただ、個人的な感想としては、報じられている内容が真実ならば間違いなく刑事事件に発展するような不正なので、ダイヤモンドさんはかなり周到な準備をして記事をアップされたのではないかと予想します。
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コメント
名誉毀損訴訟の場合、書いた側のハードルが非常に高い。
裁判で書かれた側が勝ったものの、何年か後に書かれたとおりだったなんてことも非常に多いですよね。
カネボウは、1990年代半ばに週刊新潮で粉飾疑惑報道がなされていましたがそれに対して提訴、500万ほどを勝ち取っています。しかし、10年後には、とてつもない金額の粉飾が判明しました。カネボウは言論を封殺して金を脅し取る会社だったわけで、本当に恥ずべき会社だったのです。
アメリカのセクハラ訴訟と日本の名誉毀損訴訟は、訴えれば勝てる可能性が非常に高い、まさしく金のなる木です。名誉毀損訴訟は、たとえ不正が真実でも訴えれば勝ててしまう。日本の言論の自由など、あって無いようなものです。
投稿: 傍観者 | 2017年2月14日 (火) 11時29分
傍観者さん、参考意見ありがとうございます。なるほどカネボウ事件ではそういった経緯があったのですね。やっぱり過去の不祥事を語るときにも時系列で丁寧に観察する必要はありますね。
さて、エントリーの件ですが、そろそろテレビでも報道が始まりました。ただ、農水省が調査を開始した、ということだけで、まだ「疑惑」の域は出ていないようです。偽装をしているといわれている会社では、すでに取引先からの返品が山のように積みあがっているそうです。
投稿: toshi | 2017年2月15日 (水) 10時28分