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2017年2月 3日 (金)

「社長交代」を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任(後編)

本日、大手運用機関のアナリストの方々と夕食をご一緒させていただきましたが、その席で(当然といえば当然ですが)企業の相談役、顧問制度について、たいへん厳しい意見を拝聴いたしました。東芝事件も背景にありますが、「常務会や執行役員会議などで喧々諤々意見交換がなされたにもかかわらず、なぜ最後に相談役のところへ案件を持ってお伺いをたてねばならないのか。そんなブラックボックスがあると、ガバナンスを議論しても意味がないのではないか」といったご意見です。そういえば本日(2月3日)の日経朝刊にも、政府が相談役、顧問制度について、「要請」という形で企業に規制をかけることが報じられていましたね。ただ、この制度は短所だけでなく、長所もありますので、今後時間をかけてゆっくりと検討すべき課題ではないかと、個人的には考えています。

さて、先週「社長交代を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任」とのエントリーを書きましたが、本日はその後編です。社長交代劇を演じることができるほどの胆力が社外取締役には求められていますが、企業の組織力学を知悉していなければ社長交代劇は企業価値を損なう、そして損失の危険の管理に最も適しているのは経営者OBではないか、といった内容でした。本日は、その理由を述べたいと思います。

1 社長交代を「決める」ことと「実行する」ことには大きな隔たりがある

今回のガバナンス改革において、社外取締役に求められることの重要な役割としてトップ人事への実質的関与が挙げられています。これはその通りかと思います。しかし実際に社長交代劇に何度か関与した者として、「交代を決める」ことは容易でも、「交代を実行すること」は至難の業です。実行に移してソフトランディングに持っていくにはたいへんな労力を要します。そこで社長経験者の覚悟がモノを言います。たとえここで社長を辞任したとしても、その後の生活はこの程度の不利益だよ、といったことを社長さんに説明できるのは、同じような修羅場を経験した方だからこそ説得力があります。

2 社長交代に関する社外・社内の影響度を熟知している

突然の社長交代劇は、社内・社外のステイクホルダーに多大な影響を及ぼします。たとえば社外においては金融機関、取引先、大株主に対する事前説明が求められます(その順番も大切です)。また社内においては、会長や顧問、相談役、経営幹部の方々への根回しも必要です。このあたりは、社内力学に精通した方でないと、なかなか段取りがわかりません。ぜひとも経営経験のある社外役員の「嗅覚」が必要になってきます。退任を求められた社長さんがどうすれば成仏できるか、どうすれば企業の大切な無形資産を持って同業他社に駆け込まないか、といったことを企業はとても気にします。社長さんが成仏できるような段取りを考えるのも経営者OBの機知がモノを言います(こんなとき、社内に顧問、相談役制度がとても役に立ちます)。

3 経営者OBだけがホンモノのガバナンスを知っている

社内の本当のガバナンスの力を持っているのは「従業員」です。株主ガバナンスと世間ではいわれていますが、経営経験者は組織を変える真の力を持った者は従業員だと知っています。だからこそ、現場を含め、従業員の方々から情報を得ることで、会社内の空気を察知します。社外役員といえども、現場従業員とのコミュニケーションを大切にするのは経営者OBの方々です。

4 社長が社内のだれ一人として相談できないことを相談できるのは経営者OBの社外役員だけである

経営者OBの方々の有事における立ち居振る舞いを観察していて、「この人が社外取締役でいてくれて本当によかった」といえるのは、社長が人間的に当該社外取締役さんを信頼している場合だと思います。わかりやすくいえば、普段社内の誰にも言えないような困りごとが生じた場合に、「この社外役員に相談してみよう」と思えるような関係が成立する場合です。私も悔しいですが、こういった関係に立てるのは経営者OBの社外取締役をおいて他にはいないと思うのです。海外ではもっとドライな関係が望ましいのでしょうが、日本企業で円満に社長交代劇を演じることができるのは、こういった関係が成り立ち、社長さんが成仏できるからだと思います。その会社に未練なく権力から離れることができるからこそ、他社の社外取締役として頑張ってみようとの気持ちの切り替えができるものと考えています。

もちろんこれらの理由は個人的な見解なのでご異論もあろうかと思います。ただ、本当に社外取締役がガバナンス・コードに謳われているような役割を果たそうと思えば、こういった過酷な社外取締役の役割を演じていただけるような方が求められているのではないでしょうか。単純に「稼ぐ力」を回復するために、経営手腕が求められている・・・といった理由だけで経営者OBが適任とされるものではないような気がしています。

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