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2017年2月27日 (月)

株主総会に代表取締役の選定権限を留保する旨の定款の効力(最高裁決定)

平成29年2月21日、会社法実務、とりわけ非公開会社の企業統治に影響を及ぼす最高裁決定が出されました(職務執行停止、代行者選任仮処分命令申立却下決定に対する許可広告事件、最高裁第三小法廷決定)。取締役会設置会社である非公開会社における、取締役会決議によるほか、株主総会決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の効力は有効である、というものです。

会社法は取締役会設置会社においては、取締役会が代表取締役を選定・解職することができるものと定め(法362条2項3号)、「取締役会設置会社を除く株式会社は、株主総会において代表取締役を定めることができる」と定めていることから(法349条3項)、これらの条文の解釈として、取締役会設置会社である株式会社においては、法295条2項の規定によるも※、株主総会で代表取締役を選定することは(たとえ定款の定めがあったとしても)できないと解することができそうです。

※・・・ちなみに法295条2項は、取締役会設置会社の株主総会の権限について規定したものであり、会社法が定めた事項および定款で定めた事項だけが株主総会の決議事項になることを定めたものです。

しかし、今回の最高裁決定では、非公開会社である取締役会設置会社が、定款において、取締役会の決定権限を排除することなく、株主総会においても適宜代表取締役の選定権限あることを定める場合には、この定款は有効と判断しています。そもそも法295条2項は定款で定めるべき事項に制限を課しておらず、またそのように解したとしても、取締役会の代表取締役に対する監督権限の実効性を失わせることにはならない、というのが理由のようです。このあたりは、非公開会社のガバナンスを構築するにあたっては、ひとつの重要なポイントでもあり、最高裁決定の射程範囲を慎重に見極めたうえで実務にも活用できそうですね(取締役会の権限を排除して株主総会だけが選定権限を持つような定款の定めが有効かどうかは、今回の最高裁決定では明らかにされていません)。

そんなややこしいことを言わずとも、株主総会で取締役たる地位を選任・解任できればよいではないか、もしくは取締役会設置会社ではない機関設計に定款変更すればよいではないか、とも考えられます。ただ、取締役の人数が限定的であったり、業務執行に支障を来すことを防止するためには、このような定款の定めが必要な場合もあり、それなりに実益はあるものと思います。

創業家の資産管理会社など、たとえば資産管理会社の取締役会の裁量的判断をどこまで株主総会がコントロールできるか(たとえば上場会社である重要子会社の議決権行使について、非公開会社である親会社の株主がどこまで監督できるか)という点は、現実にガバナンス構築の中でいろいろと検討すべき問題が多いと思います。このたびの最高裁決定の射程範囲はかなり限定的だとは思いますが、最高裁の発想といいますか、所有と経営の分離がそれほど徹底されていない株式会社のガバナンスへの考え方については、他の問題点を考察するうえでも参考になりそうです。

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コメント

立憲君主の権限の範囲や江戸時代において大名の家庭内である奥と藩の行政の表を分離する動きというのがあるので所有と経営の分離のバランスというのは古今東西あった話という気もしてきます

投稿: basireios | 2017年2月27日 (月) 17時33分

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