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2017年2月16日 (木)

東芝事件がガバナンス改革に及ぼす影響-社外取締役希望者は減るかもしれない

いよいよ3月末時点における債務超過がほぼ確定、ということで東証2部に移ることが報じられている東芝さんの件ですが、日本テレビnewsWEBが内部通報の中身を明らかにしていて、なかなか衝撃的です(しかし、どうして独占入手できるのでしょうか?記者魂?)。正直申し上げて、私が昨日想像していた以上の内容でした。「独自東芝“圧力”名指し 内部通報詳細」。

日本テレビの取材で、この、内部通報では東芝の志賀重範会長と東芝のアメリカの原発子会社ウェスチングハウスのロデリック会長が名指しされていたことがわかった。・・・内部通報によると、去年12月に巨額の損失が生じたことがわかり、志賀会長がアメリカに調査に行った際、志賀会長とロデリック会長がウェスチングハウスの幹部に対し、東芝にとって有利な会計になるように圧力をかけたという。

もちろん、通報事実の真偽は調査を待たなければわかりません。現に、志賀会長は、6月まではウェスチングハウス問題について執行役として問題解決にあたる、とされています。

しかし、この内部通報に一番頭を悩ませているのは、1年半前に東芝再建のために就任された社外取締役の方々ではないでしょうか。人事刷新が決まった昨年5月の会見で、社外取締役のみ5人で構成する指名委員会の委員長(社外取締役)の方は、記者から「なぜ戦犯である志賀氏を会長に残したのか?」との質問を受けて、「たしかに若干グレーだと言われているが、原子力という国策的事業をやるうえで余人をもって代えがたい」と説明していました(「東芝 粉飾の原点」日経BP 301頁)。会計不正に関する報告書で「不正会計への関与者」と認定されていたとしても、またウェスティングハウス社のかつてのトップとして、損失隠しの実情を最もよく知る方であったとしても、やはり東芝再生という事業戦略を遂行する上では欠かせないとの経営判断があったものと思います。指名委員会では満場一致で当該会長さんが指名された、とのこと。

あえてグレーな方をトップとして残すのであれば、社外取締役としてはよほどの覚悟で監督職務を果たす必要があります(したがって、私個人としては、内部通報で示されたような事実はなかったのではないか、と思いたいです)。しかし、会計処理への影響の有無を問わず、そのような事実があったとすれば、これはかなり衝撃的な問題であり、日本のガバナンス改革への影響という点でも重大な懸念が残ります。社外取締役が中心になってガバナンス改革の目指す「リスクをとって事業にチャレンジすること」をあえて実行したわけですから、そのリスクが顕在化した場合、社外取締役はどのように対処すればよいのでしょうか(本当は、このような状況でこそ、第三者委員会を設置したほうが良いのではないでしょうか?)。

このような内部通報が明らかになった以上、日本政府が進めている「ガバナンス改革を形式から実質へと深化させよ」といった政策を掛け声だけで終わらせないためには、たとえ東芝さんが原子力を扱う国策事業会社であり、簡単には処理できない企業であったとしても、新生東芝によるガバナンスが機能した、と理解できる形で問題を処理していただきたいと願うところです。そうでなければ、「やっぱり社外取締役なんか、コワすぎてなるもんじゃないね」「結局、社外取締役なんて『お飾り』に過ぎないじゃないか」と世間から揶揄されて、現役の経営者や経営者OBといった社外取締役就任候補の方々を失望させてしまうことになるのではと危惧します。

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コメント

カネボウの件で社内は身内擁護で粉飾をやってしまうというのは定石なはずなのにあろうことか原発絡みの不適切会計が発覚後も変わらず原発畑を役員に据えたのは問題でしかないし当然の既決にしか思えない

しかも法的に強権なる指名委員会等設置会社の指名委員会が全員一致でそのような決定をしてこのような状況になったことに対して非常に重い責任を問うべきかと思う

強い権限にみあった重い責任を指名委員会等設置会社の社外には期待されているはず

責任逃れ的な理由で社外役員をやりたくない社外役員などそもそも必要とはされないでしょう

そういう弱腰な社外役員しかいないなら監査等委員会設置会社やアメリカの指名報酬委員会レベルまで指名、報酬委員会の権限を弱めるかするしかないでしょう
人事や報酬について諮問して取締役会で意思表示するなら監査等委員会で済む

投稿: 流星 | 2017年2月19日 (日) 23時18分

世界的にも最早原発はハイリスクノーリターンなのは明確で原発の護持は「リスクをとって事業にチャレンジすること」ではなくカネボウの紡績よろしくの「無理心中気味な万歳玉砕」という感じに見えます

東芝の場合は粉飾発覚後も原発畑が取締役に存在する役員選任陣容から見て

「社内執行部の言いなりになって切り捨てるべき不採算事業護持を法的強権を持つ指名委員会が止めずに社内に同調してしまった例」
と見なしても社外取締役が中心になってガバナンス改革の目指す「リスクをとって事業にチャレンジすること」をあえて実行した例といえるかは疑問です


投稿: 流星 | 2017年2月20日 (月) 00時33分

東芝の会長と子会社の会長を名指しで通報するということは、圧力を掛けられた本人による通報か?もしくは周辺部署で詳しい事情を知るものによる通報であると思います。
東芝が無視せずに対応する(日テレさんの取材記事からはそう見えますが)ということは信ぴょう性があったということなのでしょう。
社外取締役が「単なるお飾り(ガバナンスの体裁を取り繕うための)」なのかどうか、ある意味では内部統制改善を示すチャンスというか「腕の見せ所」と捉えて対応して頂けると、通報者も「通報のしがい・やりがい」があるのではないでしょうか?
こういう通報者には、消費者庁の「公益通報に関する実態調査」に積極的に参加していただけると嬉しいとも期待しますが。。。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年2月20日 (月) 15時18分

佐川急便の持株会社が上場を目論んでいるようですが、
(それなりにあの会社のことを知るひとなら誰もが思うことでしょうけど)
佐川は道義的に「有資格者」なんでしょうかねえ(^^ゞ

内部統制上の問題は東芝以上ではないのか? そういう疑念を晴らし、
過去あったような、今もあるかもしれないような不祥事を起こさない
対策が取れていないのなら、上場を認めないぐらいの矜持が、東証に
あるべきではないでしょうか。
まだ社外取締役さえ置いてませんし。
公式サイトを見ても、社史を読んでも、かつて起こした事件についての
反省の弁が見当たりませんからね。


何せコンプライアンスから自由(よく言えばいろいろ融通が利く)なのが、
佐川急便の最大の「取り柄」ですから^_^;

投稿: 機野 | 2017年2月21日 (火) 15時58分

東洋経済オンラインによる続報は、けっこう衝撃的で、東芝の【公表資料】には「経営者による内部統制の無効化」という表現まで使われているようです。
山口先生の社外取締役に関する記述とは離れてしまい申し訳ありませんが、WHの暫定社長に告発をした告発者自身が、実態解明のための弁護士との面談に応じないという気持ちはわかるような気もします。
「内部統制の不備」を指摘する正義感はあるものの、逆に言えば経営者からの圧力を良く知っているがために、自分が告発者であることを複数の人間に知られてしまう恐怖に怯えているのだと思います。
通報・告発の「匿名性の確保」と「調査(隠蔽ではないですよね)の進捗」の綱引きが、東芝内部で行われているのでしょう。
やっぱり難しい問題ですね。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年2月21日 (火) 19時24分

告発者が弁護士のヒアリングに応じない・・・・・その弁護士(大手法律事務所?)が会社側の人物であり報復を恐れている,ということではないでしょうか。
 自費で代理人弁護士を立てるほどの義理もないですし。

投稿: Kazu | 2017年2月22日 (水) 17時23分

東芝については何故2009年以来の人事部長が不正会計発覚後も取締役や代表執行役に残って原発畑を取締役に擁立できるのか。何故指名委員会がそれを容認できるのかがガバナンス的には興味深いかと

投稿: tyui | 2017年2月24日 (金) 17時48分

イヤに原発事業関係者を優遇する人事部というのは複雑怪奇としか言いようがないですが指名委員会や人事について意見表明する監査等委員会においてガバナンス的に注意すべきことは人事部責任者についての経歴や人間関係、利害関係というのが東芝の教訓なのかも知んない

投稿: 流星 | 2017年2月24日 (金) 20時51分

告発者が弁護士のヒアリングに応じない・・・

監査委員のみが調査委託先弁護士の窓口になるわけではなく、業務執行取締役支配下の従業員が介在する社内調査の延長のような建てつけであれば、告発側が弁護士ヒアリングに応じない対応もやむを得ないかと。
会社からの独立性が公言された第三者委員会の弁護士調査や、証券取引等監視委員会開示検査課のヒアリングには応じられたとしても、会社関係者には、事実を示す証拠資料の匿名提供が精一杯のラインでしょう。
代理人弁護士費用を告発者が自腹で捻出するのは、酷な話しです。やましいことが無いことの証明は、会社側にあります。

投稿: たか | 2017年2月24日 (金) 23時28分

会長や財務管理部執行役に原発畑を持ってくる人事がまかり通ってしまう指名委員会や人事部だと取締役会か指名委員会が人選する第三者委員会すらも信用しにくいかも知れない

投稿: 流星 | 2017年2月25日 (土) 10時57分

皆様、コメントありがとうございます。このエントリーをアップして10日が経過し、何名かの経営者OBの方から意見を伺いました。東芝事件の影響は大きくて、社外取締役萎縮論は私の想像以上に経営者、経営者OBの方々には存在するようです。ただ、社外取締役はお飾りではない、自分がいる以上は絶対に経営者が不正をしない、といった自信もおありのようで、結局は「経営者をみてから就任する」といった意見が強いですね。
最近また日本を代表するいくつかの会社が移行を決定した監査等委員会設置会社ですが、社外役員の重要性を考えますと、おそらくこれからは二極化しておくものと思います。

投稿: toshi | 2017年2月27日 (月) 15時05分

経営者、経営者OBが「経営者をみてから社外に就任する」という話は貴重な意見です。
ただリソー教育や東芝の件を見る限りだとこと複数代表制だと社長や会長を見るだけでは不足で役員の陣容まで見た方が良い時もある気がします。

東芝だと平成24年提出の有価証券報告書で当時の社内監査委員取締役H氏が元電力社会システム社総務部で2009年まで人事部長であったようですね(室町氏は平成25年に監査委員だったそうで)。
リソー教育だと平成24年提出の有価証券報告書で見る限りだと取締役が当時の社長の出自の教務企画部がほとんどだったりしてます

投稿: n | 2017年2月28日 (火) 17時48分

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