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2017年2月10日 (金)

ガバナンス改革-社外取締役のインセンティブ問題をどう考えるのか?

当ブログをご覧のオリンパス社員の皆様!金融庁の職員の皆様!そして某大手監査法人の皆様!ずいぶんと凄い本が出版されるそうですよ!(笑)

「野村證券第2事業法人部」横尾宣政 講談社  発売日2月22日 住友銀行秘史に続く「実名」ノンフィクション本、野村証券のバブル全盛期とオリンパス事件の真相・・・。うーーん、とりあえず、現時点ではノーコメントとさせていただきます。

さて、本日(2月9日)法務省・法制審議会総会において諮問104号が出され、いよいよ次の会社法改正(企業統治等関係)に向けて法制審議会内に会社法制(企業統治等関係)部会が新設されたそうです。主な諮問内容は①株主総会に関する手続きの合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債管理の在り方の見直し、④社外取締役を置くことの義務付け、といった企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討せよ、とのこと。

②に示された「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備」とは、業績連動型役員報酬制度の整備等、まさに「成長戦略を推進する攻めのガバナンス、企業の稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス」といったいわゆる政府のガバナンス改革を受けての検討課題に会社法も応えよ・・・というものですね。もはやここまで来ますと、会社法が会社関係者の権利調整を目的とした(伝統的な)民事法から国富促進のための経済政策法へと変貌を遂げていると感じるのは私だけでしょうか?(ここまで来たら昭和40年代の論争にあった「株式会社は、企業としての社会的責任を果たすべき義務を有する」といった条項を、いっそのこと会社法に盛り込んでもよいのでは?)

ところで、役員に適切なインセンティブを付与するというのであれば、社外取締役に就任するため(そして期待通りに活躍してもらうため)のインセンティブの付与も検討されるのでしょうか?最近、企業の相談役や顧問制度の見直しが議論されていて、経営者OBの方々が、他社の社外取締役に就任しやすい環境を整備することが検討されています。しかし、社外取締役の報酬が低いままですと、相談役や顧問就任を辞めてまで他社の社外取締役に就任するインセンティブは全くないのではないかと。

資料版商事法務の最新号(2017年1月号)では、3年ぶりに社外役員の報酬分析(三井住友信託銀行証券代行コンサルティング部作成)が掲載されていますが、その結果を見て唖然としました。3年前と比較して、社外取締役の平均報酬額は低下しているのです。

もちろん、中小の上場会社も社外取締役を選任するようになったという「ガバナンス改革効果」の結果と考えれば、低下したことも一応は納得できそうです。ただ、前回分析の3年前と現時点での社外取締役とでは、まったく期待されている役割が異なっています。「月1回、取締役会に出席して終わり」とういわけにはいかなくなっています。伝統的な日本企業の取締役会に社外取締役が一人で入っていくという以前のイメージから、取締役会改革を支える要職としての役割を果たすというイメージに変遷しています。当然のことながら、社外取締役を務めるための拘束時間も増えますし、「提訴リスク」を含めたリーガルリスクも高まります。しかし、実際は社外取締役の平均報酬は増えるどころか低下している、というのが現実なのですね。

これでは有能な経営者OBの方々が、今後多くの上場会社の社外取締役となって活躍できる環境とはいえないですよね。それこそ会社法に「企業の社会的責任」に関する条項を挿入して、社外取締役というのは報酬ではなく公職としての使命を果たすことであるとすべきでしょうか。この現実こそ、ガバナンス改革は形式だけであり、実質へと深化する、というのは幻想ではないか・・・と感じる一つの要因です。そのあたり、今後議論されることはあるのでしょうか?

 

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コメント

深町隆さんの「内部告発の時代」を読んだ際も(今、あらためて手元で開いていますが、)、ここまで実名で書いて大丈夫なのか?と思いました。
今回、大出版社の講談社さんもやりますね。
「社外取締役が公職である」ことは、そもそも【企業が社会の公器である】と言われていることと同義であるぐらい当たり前とも思えますが、「本音と建て前」のいやらしい世界ですね。
会社法改正により、夢幻地獄(正しくは無間地獄です)の苦しさ辛さを解消できるのでしょうか?

投稿: 試行錯誤者 | 2017年2月11日 (土) 17時50分

社外取締役のインセンティブに関して、時同じくして「現代ビジネス」で評論家の山崎さんという方が意見を述べておられます。社外取締役(社外監査役を含む?)は既に、「対面上の制度」と堕しており、世間(の期待)に付き合っているだけのビジネス素人に「ありがたい立場」を提供しているに過ぎないのであるから、月5万円程度の、捨てても惜しくない水準に報酬を定めるほうが経営執行者への牽制になるのでは・・とする主張です。さて、金額水準の議論は横に置くとして、社会一般の理解と納得が法規の趣旨・眼目と合致して始めて一つの制度として機能する事に照らせば、社外役員に就任している者として、耳の痛い指摘ではないかと、つい思ってしまいます。報酬を現状の2倍以上にすれば果たして経営の効率化が推進されるのかどうか、逆に、この法の制度が廃止されたならば、ガバナンスの劣化が顕在化してしまうのかどうか?、現段階は実効性の実験場ではないでしょうか。なお山口先生の潜在意識として、実は、社外取締役は結局のところ「公職」として存在する・・という結論が、最終文面では見え隠れするように読み取れたのですが、深読みし過ぎでしょうか。

投稿: 一老 | 2017年2月13日 (月) 13時06分

 社外取締役導入は、日米貿易摩擦問題に端を発し、1988年(昭和63年)に開始された日米構造問題協議に於る米国からの要求であると未だに私は信じています。ブーンピケンズが日本企業の株式買い占めに失敗したことに対し、株主利益の保護が不十分である、と強く批判した米国政府が情報開示と株主利益の拡充を強く要請し、日本企業に新たに米国型社外取締役制度を導入して米国人弁護士を就職させろ、と云う背景です。日本側は、取締役間に無用の対立を生じさせるとの懸念から代案として、新たに社外監査役制度、監査役会を導入し、社外役員による経営監視と云う米国にとっても理解しやすい監視制度を導入することで日米が合意しています。1993年(平成5年)です。その後、委員会制度の導入で過半数を社外取締役とする米国型コーポレートガバナンスモデルが導入されましたが採用している会社は現在でも80社程度でしょうか。因みに日弁連は3委員会設置に賛成ですが、経団連、経済同友会は1つの委員会でもよいのでは、との意見でした。
 機関設計にも外圧があるということですが、関連する法改正の議論が、その方面の専門家と言われる学者、大学の先生の研究、議論の対象として長年時間が費やされ企業側は辟易としているのではないか、とは言い過ぎでしょうか。

投稿: 小口昌夫 | 2017年2月14日 (火) 10時36分

小口さん、ご解説ありがとうございます。ガバナンスの歴史はそのようなものなのでしょうね。また、企業側が辟易しているというのも事実だと思います。ただ、以前の「守りのガバナンス」ということであればそれでよいのですが、攻めのガバナンスという概念が入ってきますと、企業としては「辟易」をこえて、拒絶反応まで出てきているというのが私の印象です。どうやって儲けるか…という点をガバナンス論で語るというのは、J-SOX導入といったこととはまた別次元で、かなり深刻な問題を投げかけているように思います。だから多くの会社は「なんちゃってガバナンス」で乗り切ろうとされているのではないかと。もちろん前向きにとらえてガバナンス改革を真剣に実行されている会社があることは認めますが。

投稿: toshi | 2017年2月16日 (木) 00時54分

武家社会の世襲慣行よろしく日本は元来余所には厳しい所はある感じです

事業の成果としての利益を事業に直接タッチしてない余所者が多く配分という状況は給与や出世が満足でないご時勢において社内の幹部の反感を食らうので統治的には難しい部分もありそうかと

報酬の額は代表訴訟や多重代表訴訟の際の責任の額とも言えそうですが

投稿: 流星 | 2017年2月19日 (日) 23時42分

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