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2017年2月 8日 (水)

法令解釈にも「健全なリスクテイク」が求められる時代

日経コンピュータ2月2日号「ITと法規制」特集において、「法的にグレー」こそイノベーションの源、日本が米国に負ける理由 と題する記事が掲載されていますが、その内容にとても共感いたしました。ここで書かれていることは、私がコンプライアンス関連の講演でも、まったく同じことを申し上げるところでして、海外事業を展開している多くの企業の法務部門が感じているところではないでしょうか。最近、日本企業の中にも、コーポレートとカンパニーに法務を分断して、「現場に寄り添う法務」として、リスクのとれる法務部門を実践する企業も出てきた、ということを、あるベテランの企業内弁護士の方から伺いました。

昨年、東芝メディカルシステムズ社の買収を巡って、キヤノンさんと富士フイルムさんで争奪戦があり、公正取引委員会から異例の注意声明が出されました。当時、私は多くの法務担当者に「(マスコミで報じられていることが真実だとしたら)あなたなら、キヤノンさんと富士フイルムさんと、どちらの経営判断を社長さんに勧めますか?」と質問してみました。すると答えは(こちらの期待どおり?)大きく二つに分かれたことを憶えています。

答えはどのようなものであれ、そのときにグローバル企業の法務部長さんからよく聞こえてきたのが

「我々と大手法律事務所さんとの付き合い方は、この10年で激変した、立場が逆転したとまでは言わないけど、問題解決の主導権は、次第に法務部側に移りつつある感じますね」(すいません、少しソフトな言い回しに表現を変えております)

といった感想でした。法務部といえば、昔は(どうすればリーガルリスクをとらないで済むのか)外部の専門家の意見を拝聴する、といった立場だったのが、現在は自分たちが法解釈のリスクをとるにあたり、必要な点だけ外部の法律家に支援を求める(だからこそ、自分たちのリスクを最小化するためのレベルの高い専門的かつ詳細なスキル、経験を求める)とのこと。この記事では、IT企業における改正個人情報保護法問題を例にとって解説されていますが、他の一般企業に対する行政規制全般においても「法の目的と手段の取り違え」は重要な課題だと思います。事前規制社会から事後規制社会へと移り変わり、事前規制手法がハードローからソフトローへと移り変わっているにもかかわらず、法務や経理、監査の仕事(役割?)が変わっていないことのリスクです。

おそらく「法的にグレーこそイノベーションの源」であり、競争上の重要な課題である、と認識しているのは法務に関わっておられる方々のみで、経営陣が重要な課題だと認識しておられないことが大きな要因ではないかと思います。役員セミナー等では、社長さんの前で「最高法務責任者としての取締役を置くべき」と申し上げるところですが、企業内弁護士のような方々はたくさんいらっしゃっても、CLO(チーフ・リーガル・オフィサー)を置いて、事業戦略に法務を活用されている会社はまだまだ少ないと感じています。法的にグレーであることと、コンプライアンス上問題が多いこととは全く別です。だからこそ、当ブログでも12年ほど前から「闘うコンプライアンス」「行政法専門弁護士待望論」なるカテゴリーでときどきエントリーを書き続けていますが、なかなか世間的に理解していただくのはむずかしいようです。

営業秘密の漏洩防止対策を考えるにあたっても、法務系とIT系の方々の合同チームで検討するとおもしろい傾向が出ます。法務系の方々は、最初から通路を2本作って、絶対に重要情報にアクセスできないことを推奨します。しかしIT系の方々は、通路は1本だけど、おかしな動きをしたら警告を発したり、漏洩は必ずフォレンジックで発覚することの周知を推奨します(法務は「機会」に、IT系は「動機」に訴えかける)。どちらの発想が、よりビジネスの現場実務に採用されやすいでしょうか?この記事にあるような発想で、法務をビジネスチャンスにつなげる感覚が日本企業には必要だと痛感します。

 

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