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2017年3月21日 (火)

DeNAキュレーション問題-この不祥事を事前に止めることはできたか?

(最終更新 3月21日午前11時0分)

三連休にDeNAキュレーション事業に関する第三者委員会調査報告書をじっくりと読みました。やはり要約版(約30頁)では見えていなかったものが、全文(300頁)を精査しますといろいろと興味深いコンプライアンス問題として浮かび上がります。コンプライアンス経営にご関心のある方は(かなり時間はかかりますが)全文をお読みになるのもよいかもしれません。以下は私がとくに関心を抱いた点だけをピックアップしておりますが、読まれた方それぞれに興味が湧くところは異なるかもしれませんね。

iemo社、ペロリ社をDeNA社が買収するにあたり、法務デューデリの時点で著作権侵害やプロバイダー責任制限法違反のリスクが認識されていたとしても、買収に向けて組織全体が前のめりになっている状況では誰も買収を止めることはできない、ということがわかります(いや、ホントは止めなければいけないのでしょうけど、私にも自信がありません・・・笑)。法務リスクへの対応として、「抜き打ち調査」といったPDCA活動が同社法務部を中心に実践されるのですが、結局のところ3回ほどで打ち切りとなり、数値目標達成を至上命題としたスピード経営が優先されることになります。

報告書にも評価されているように、DeNA社の法務部は、過去にも重大な案件を処理した実績もあって、一部上場会社の法務部にふさわしく、コンプライアンス意識はかなり高いものでした。そのような優秀な法務部門が、なぜキュレーション事業における著作権侵害、プロバイダー責任制限法違反、薬機法違反といった「法令違反行為」を放置しつづけたのか、これは相当にむずかしいコンプライアンスの課題です。報告書ではとりあえず買収対象会社への遠慮、経営トップへの遠慮ということが挙げられていますが、ではなぜ監査役や内部監査部門への報告や連携がなされなかったのか、そのあたりには言及されていませんでした。

また、報告書では、DeNAには「トライアル&エラー」によるコンプライアンス経営を実施する組織風土も具備されていた、とあります(自浄能力、自己修正力は具備された会社だ、と評価されています)。ではなぜ、医療情報を扱うキュレーション事業サイトWEKQ(ウェルク)が社会的に批判を浴びだした時期において、徹底した社内調査で軌道修正を行わなかったのか、これもやはり疑問が残るところです。中長期の事業計画で対外的に約束した数字をクリアすることが最優先であったとのこと。しかし、結果からみれば法令違反行為が問題とされていますが、そもそも医療健康情報に関するキュレーション事業さえ中止していれば、(良い悪いは別として)今回のような重大不祥事に発展することはなかったといえそうです。

Dna02

今回、報告書全文を読んで、他社のコンプライアンス経営に最も参考になると思われるのが、DeNAグループの運営する10のキュレーションサイトのビジネスモデル、管理体制に関する比較です。ペロリ社が運営するサイト「MERY」の社長さんはDeNAの経営トップの意見を聞かず、グループ内で独自路線を貫いたからこそ高収益を上げていたのですね。もし親会社の経営トップの指示に従っていたら、おそらく業績は上がっていなかったと思われます(私個人の意見としては、この「MERY」だけはキュレーションサイトとして今後早めに再開されるのではないか、と予想しています)。調査報告書を読むと、「MERY」に対する解説部分が一番わかりやすいのです。おそらくこれはMERYの責任者の第三者委員会に対する協力姿勢が報告書の解説記述に反映されているものと推測されます。これはグループ企業の内部統制を考えるにあたり、また、今後のキュレーション事業の展開を考えるにあたり、とても示唆に富む比較です。なお、上記図表は私なりのイメージで比較したものであり、作成責任は私にあります。

また、同じように健康医療情報を流すWELQとcutaの比較において、なぜWELQでは多数の苦情が届いたにもかかわらず、cutaには一件も苦情が届いていなかったのか、WELQと同様、外部委託に頼っていたCAFY、JOOYにおいて、なぜWELQほどの苦情が集まらなかったのか、このあたりもたいへん読み応えがあり参考になります。泥臭いかもしれませんが、日ごろからのコンプライアンス経営に対する意識の違いが如実に結果に表れているように思います。

本件不祥事を考えるにあたり、「DeNAのキュレーション事業」と一括りにしてはいけない・・・ということが全文を読んでよくわかりました。「MERY」の運営をみると、無断画像使用を中心とした著作権法違反の数が突出していて決してコンプライアンスの優等生ではありません。しかし、MERYのキュレーション事業は「どんな企業にも不祥事の芽は存在し、また不祥事は発生するけれども、不正リスクとどうやって付き合っていくか、(芽を摘み切ることはできないとしても)不祥事の芽を大きくしないためにどうすればよいか」といった(理想論ではなく)現実論としてのコンプライアンス経営の実践方法を知るうえで、とても参考になるものと思いました。競争にさらされている組織においては不正を止めることはできない、しかし大きな不祥事に発展することだけは平時からの努力によって防ぐことができる、ということがリスクマネジメントとしては大切かと。

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