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2017年3月 8日 (水)

労基署臨検業務の民間委託の実現可能性について考える

本日(3月7日)の日経朝刊に「労基署業務を民間委託-立ち入り検査について規制改革会議が検討」との記事が掲載されています。政府の規制改革推進会議が、事業者による長時間労働慣行などへの監視を強めるため、企業に立ち入り検査(臨検)を行う労働基準監督官の業務の一部を民間(具体的には社労士さん)に委託することが検討されているそうです。

臨検等の労基署業務を民間委託することの推進派のご意見について、2月28日付けダイヤモンドオンラインの八代尚宏氏の論稿「ブラック企業の労基法違反摘発を『民間委託』すべき理由」が参考になります(反対派意見に対する再反論も掲載されています)。また、週刊東洋経済の2月25日号の特集記事「労基署監督官の告発-過剰労働がはびこる真因」では、3名の労働基準監督官の匿名座談会が6ページにわたって掲載されています。そこでは臨検業務の問題点が指摘されていて、「監督官は臨検業務を遂行するにあたり、どのように上司から評価をされているか」といったとても根本的な問題についても語られています。

いずれにしても、日経記事にも記載されているように、労働時間の規制が喫緊の課題といいながらも、その規制の実効性は全く担保されていない(十分検討されていない)のが現状です。多くの企業で労働時間規制が形骸化しているにもかかわらず、重点的な臨検は、違反が目立った企業への「見せしめ」として行われている、とのこと(週刊東洋経済の匿名座談会記事より)。民間委託が検討されるのも当然のことかと思います。

ただ、労働基準監督官の調査は(駐車違反の摘発業務を委託するようなものとは異なり)かなりむずかしい業務ですし、たとえば従業員からの告発を受けた場合の情報収集方法や守秘義務の履行についてはかなり神経を使うようで、民間に委託するとしても限定的にならざるをえないように思います。長時間労働規制の違反行為に刑事罰が科される、といったことになればなおさら行政処分の謙抑主義(比例原則、平等原則、他事考慮禁止)が求められます。現在の労働基準監督官の職務評価方法(件数主義)を変更して、重点事業所への深度ある検査に集中してもらうようにして、その「重点事業所」の絞り込み作業に民間委託者を活用する、といったリスクアプローチの手法を採用せざるをえないのではないでしょうか。

また、公益通報者保護法の改正によって、これまで以上に労働者が監督官庁(行政機関)に公益通報を行いやすい環境を整備することも不可欠です。現行法上、労働者が保護されるための「通報にかかる事実の真実相当性」の要件を緩和して、長時間労働規制違反を疑わせるようなある程度の確からしさを示す証拠を行政機関に提出すれば労働者の地位が保護されるように法改正を早急に行うべきです。この内部情報をもとに「臨検対象事業所」を絞り込むことも効率的な労働時間規制の実効性を担保することになります。民間委託と労働者による申告制度、これらによって労働基準監督官による重点検査を補完する方向性が妥当ではないかと考える次第です。

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