証券取引等監視委員会・委員長の思い描く「フォワード・ルッキングな視点」
3月22日の朝日朝刊、日経夕刊等でも報じられているとおり、内部告発に対する行政機関向けのガイドライン(指針)の改訂版が公表されました。行政機関向けとはいえ、中身は企業不正に関する行政の対応指針なので、企業にとっても重要なトピックです。また別エントリーにてとりあげてみたいと思います。
さて、期せずしてSESC(証券取引等監視委員会)の委員長に就任された長谷川充弘氏のインタビュー記事が経営財務(3月13日号)、日経記事(3月21日付)と続けて掲載されました。経営財務ではSESCの証券市場の健全性確保に向けての取組について、また日経記事では最近話題の空売りファンドへのSESCとしての規制意欲について語っておられます。
日経記者が「空売りファンドはとんでもない奴らですね!ちょっとSESCがガツンといわせてやってくださいよ~♪」といったトーンで委員長に質問をぶつけるのですが、委員長の口からは日経記者さんが引き出したい回答がなかなか出てこないようでした。
この長谷川委員長の日経インタビューでは、空売りファンドへの規制を(SESCとしては)様子見しているように感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、先に上記経営財務のインタビュー記事を読んでいた私としては、(委員長は)上場会社の説明責任を果たす姿勢を促すためには、むしろ多様なスタイルの投資家が存在していることを歓迎しておられるのでは・・・との印象を持ちました。それは証券取引等監視委員会の新しい思想である「フォワード・ルッキングな視点」を、上記経営財務のインタビューでは力説されていたからです。
日経記者さんも、そして私も「SESCの常識」と考えているのは、証券取引等監視委員会は事後規制の砦だ、という点です。市場を汚すような「法令違反行為」に対して、委員会が課徴金処分や刑事立件の勧告を行うことで証券市場の健全化を図ることを、どうしても期待しています。しかし、委員長がインタビューで語っておられるように、本当に悪い奴は時効で救われて、不祥事が発覚したときにたまたまトップだった人たちが批判を浴びることで本当に良いのだろうか?(これは東芝さんの件でも、またオリンパスさんの件でもあてはまると思います)今後は不正の未然防止や真の再発防止策の検討に監視委員会も真剣に取り組むべきではないか、というのがフォワード・ルッキングな視点に基づく思想です。
これは監視委員会自身が健全なリスクテイクを実践することを意味するのではないでしょうか。先日もインサイダー取引で行政処分の取消判決が出ましたし、東芝の歴代社長さんへの刑事立件への積極的な姿勢(対立する検察庁の消極的な姿勢)も同様です。企業犯罪は企業の病気なので、それをいかに早く見つけて対策をとるか、ということにもっと監視委員会が「前のめり」になってもよいのではないか、といったところかと。上場会社の様々な情報を集めるわけですが、たとえば空売りファンドの積極的な活動においても、そのレポートに上場会社はどのように反応するのか、空売りファンドの行動よりもむしろ監査委員会は、対象とされた上場会社の反応にこそ関心を向けているのではないかと思うのです。
フォワード・ルッキングな視点を強調するとなれば、東証の売買審査部との連携も、これまで以上に深まるものと思います。AIを駆使した市場監視等、当局の審査も水面下でじっくりと行われる傾向が強まるものと予想します。
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