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2017年3月14日 (火)

上場会社は金商法193条の3、1項による監査役通知を開示すべきである(前編)

本日(3月13日)の日経朝刊法務面では「監査法人改革、企業にも責任」と題する特集記事が掲載されていました。監査法人版ガバナンス・コードが策定されることで監査法人の経営の透明性が高まる中、企業もこれに従って適切に監査法人を選択すべき責任がある、といった内容です(著名企業の先進的な取り組みも紹介されています)。専門家のご意見を含め、監査法人改革のトレンドを知るうえでたいへん勉強になりました。

上記記事で紹介されている監査法人版ガバナンス・コードの実施を見据えた企業側の対応としては、①三様監査(会計監査、監査役監査、内部監査)の充実、②強制交代制(ローテーション)の導入、③アドバイザー監査法人の採用、④監査役会による面接制度です。いずれも会計不正を防止するための仕組みとしては検討に値するものだと思いますし、真摯に取り組めば会計不正の防止に有用です。しかし、そこで想定されているのは、どれも「どうすれば監査人が会計不正リスクに気づくことができるか」といった「気づく仕組み作り」である点が気がかりです。

監査のプロである公認会計士には優秀な方が多いので、適切な職業的懐疑心を持っていれば「不正の予兆に気づく」ことは多いはずです。ただ、定例監査の時間確保や追加報酬がとりにくい現実、そもそもの監査報酬の低廉性等から、その予兆を深掘りする余裕がないというのが現実です。世間では「長文式の監査報告書を採用せよ」と言われていますが、会社と監査法人との協議内容は開示になじみませんし、開示してもよほど会計に関心のある方でないとわからないほど複雑な協議内容は(いくらリスク情報とはいえ)開示できないでしょう。1年を通じて宿題を監査法人から出されて、その結果をみて会計監査人が監査方針を決めることもあるので、その過程で監査人は不正に気付くことも多いと思います。また監査役の方々も、会計監査人と連携をすれば会計不正リスクを共有できます。

ただ、本当にむずかしいのは「どうすれば『これって、おかしいのでは?』と声を上げることができるか」という点です。気づくことよりも「声を上げる」ことは10倍むずかしい。監査法人も監査役も、人事権や(法的ではなく)事実上の監査法人選択権を握っている社長さんにモノが言えない、というのが問題の本質ではないかと。また、「自分が間違っていたら会社に迷惑をかけてしまう」という意識がどうしても先立ちます。そこをどう変えていくかが会計不正を予防、早期発見するためのポイントであり、そこにメスを入れなければ会計不正の防止は幻想にすぎないと考えています。

私は本当の監査法人改革は、上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードの狙いと同様、監査法人による健全なリスクテイクの実現だと思います(昨年4月にも、 「厳格な監査の前提となるオオカミ少年を考える」と題するエントリーで同様の問題提起をしました)。現在、東芝さんでは、決算発表を再延期することの理由として、同社(同社グループ)の内部統制評価をめぐって日米の監査法人さんの意見が対立していることが原因と報じられていますが、まさにそういう点が監査法人改革の核心だと思うのです。

「この会社は財務報告の信頼性に影響を及ぼす内部統制上の不備がある」といったことをあらかじめ投資家に情報提供する胆力が監査法人に備わっているかどうか、という点です。そこでひさしぶりに金融商品取引法193条の3、第1項(監査役通知制度)、第2項(金融庁通知制度)の現状を分析しながら、この監査法人改革の在り方について検討してみます(後編につづく)

3月 14, 2017 企業会計 |

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コメント

金商法193条3は会計監査人が会社と意見対立した場合において、会計監査人の主張が法に準拠して行えるよう明文化されたものであり、いわば、会計監査人の手に余るような大企業と意見相違した場合においても、この条文に拠って監査人の強い立場を維持できる・・つまり会計監査人は意見表明において必要な「武器」を与えられたのである。・・と、理解して良いのでしょうか、ご教授下さい。この条文を初めて読んだ時の小生の印象は、会計監査人は自らの判断で「不適正意見」を出す事が出来なくなった、予め、当局にそうする事を申し出しなければ法律違反になるのだと、そう感じたのですが。(法律家はどのように理解されるのでしょうか。)
なお、この条文に定められた監査人の行為は、めったに「抜いてはいけない刀」とされており?、自刃用に与えられたものでしょう。

投稿: 一老 | 2017年3月14日 (火) 11時21分

一老さん、ご質問ありがとうございます。その点については最新の法律学者の方の論稿を紹介しながら、後編で解説(それほど上手ではありませんが)させていただきたいと思います。実は法律家の間でも定説があるわけではない・・・というのが実際のところです。

投稿: toshi | 2017年3月14日 (火) 11時51分

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