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2017年3月28日 (火)

内部告発、内部通報制度への企業実務理解に求められる「三点セット」

(2017年3月28日午前11時45分最終更新)

企業不祥事を発生させた企業にとって、マスコミから大きく取り上げられるような不祥事に発展させてしまうか、それとも夕刊ベタ記事掲載1回のみで、世間からほとんど話題にもされない不祥事で終わらせるかは、「公益通報」への対応次第といっても過言ではありません。昨年12月の内部通報対応指針(公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン)に続き、今年3月21日、内部告発対応の指針(行政機関向けガイドライン)も消費者庁HPに公表されました

「行政機関向けガイドラインなど、われわれ民間事業者には関係ないのでは?理解不要ではないの?」とお考えの方も多いかもしれません。われわれ法律家にとっては、法定受託事務(行政組織法)、行政規制の在り方(行政作用法)、国賠法と不作為による権利行使(行政救済法)といった興味深い論点もありますが、一般の事業者にとっては関心も薄いと思います。しかし、行政機関向けガイドライン」は内部職員からの通報への対応指針と、外部労働者からの通報への対応指針に分かれている点は要注意です。

つまり、後者は外部労働者から監督官庁に対して内部告発がなされた場合に、監督官庁はこの通報にどのように対処すべきか、その対処の行動規範を定めた指針でありまして、これが「公益通報制度実効性検討委員会」の報告書によって大きく改訂されました(3月21日、各省庁との申し合わせ済です)。監督官庁に対して内部告発がなされたにもかかわらず、監督官庁の不適切な対応によって告発者が事業者から厳しい不利益取扱いを受けたことが何度もありましたので、有識者のヒアリングも行われ、また上記委員会でも大いに議論されました。

たとえば上場会社や機関投資家に要望されているソフトロー(コード)にたとえますと、民間事業者向けガイドラインがコーポレートガバナンス・コード、労働者通報に対する行政機関ガイドラインがスチュワードシップ・コードのような役割です。また、現在法改正に向けて検討中である公益通報者保護法との関係まで含めて図で示しますと、以下のような相互補完関係に立ちます(どのように相互補完の関係にあるかは、また別途解説させていただきます)。

Naibujitumu_2公益通報者保護法改正は未了ではありますが、民間事業者向けガイドライン、労働者通報に関する行政機関ガイドラインを読みますと、法改正で対応することがやや困難と思える点をソフトローで補完しよう(法改正の趣旨を先取りしよう)との意図が伝わってきます。通報者の範囲、通報対象事実の範囲、通報事実の真実相当性要件の緩和、通報者の秘密保護、通報に基づく調査方法の柔軟性等、「法改正だと、ここまでは可能だろうか・・・」と感じるところに、国はガイドライン行政を活用して事業者の自主的取り組みに委ねようとしています。公益通報制度実効性検討委員会において委員間で意見が分かれた論点について、法改正では困難かもしれませんが、ソフトローによる行動規範として反映させたい、といった消費者庁の趣旨が表れているものと(私個人としては)感じるところです。

ということで、民間事業者は自社の内部通報制度を設置・運用する場合には民間事業者向けガイドラインの趣旨を理解していただくことをお勧めいたしますが、内部告発を検討している社員の皆様、そして内部告発がなされた企業の経営者、実務担当者の皆様は、内部告発に対して、今後国の機関がどのような対応をするのか、きちんと理解をしておく必要があると思います。そして、今後改正が予定されている公益通報者保護法が、これらのガイドラインの運用と相互補完関係に立つ以上は、その法改正の動向にもご留意ください。今後、企業の不正リスク管理のためには、この公益通報に関する「三点セット」の理解は不可欠です(個人的には内部監査部門の充実が結構大事かなぁ・・・などと考えたりもしています)。

3月30日の消費者庁主催の民間事業者向けガイドライン説明会(東京開催)は、あっという間に満席締め切りとなり、パブコメ案への意見も230件に及び、事業者の関心の高さがうかがわれます。同説明会は、主に内部通報制度への取組みに関するものですが、ぜひとも内部告発対応に関する行政機関向けガイドライン(労働者通報篇)にもご留意いただければと。

PS こんなところでつぶやいても仕方ないのですが、上記民間事業者向けガイドラインの中に「法令違反等」の定義(法令違反のほかにどのようなものが含まれて「等」とされるのか)が明らかにされていないのでは?と感じるのは私だけでしょうか?たぶん「各社の内部規則に違反する行為」も含めて「等」とされているとは思うのですが・・・

追補 本日(3月28日)、月刊監査役の最新号(2017年4月号)が届きましたが、森・濱田松本法律事務所の矢田悠弁護士による解説論稿「内部通報制度のあり方と監査役-民間事業者向けガイドラインの改訂を踏まえて-」が掲載されています。同ガイドラインがうまくまとめられており、今後の参考にさせていただきます。

 

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コメント

いつも楽しく拝見させていただいております。ありがとうございます。

個人的には、有報のリスク情報のページに本年度の内部通報の件数を開示させてみたら良いのではないかと。

投稿: たか | 2017年3月29日 (水) 01時36分

明日3月30日の民間事業者向けガイドライン説明会に参加します。
国の行政機関向けガイドラインについては、(どんな省庁と申し合わせたのかを知りたくて。)申し合わせ会議の議事録を請求しようと3月22日に消費者制度課担当者に電話で問い合わせたところ、「議事録は無い」とのことでした。
「国の行政機関向けガイドライン改正版」の中味については、消費者庁の「公益通報相談ダイヤルに聞いてほしい」とのことでした。この相談ダイヤルは「即答できないことは調べて折り返し連絡する」対応をして下さるので、本件についても同様な対応をとられることを、相談ダイヤルの方に電話で確認しました。
消費者庁が各省庁に内部規定を改訂するよう3月20日に「各省庁にお願いした」うえで3月21日に公表したとのことであり、「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会 最終報告書」のパブコメ結果開示とともに、各行政機関の対応に期待しています。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年3月29日 (水) 17時37分

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