企業の持続的成長と社内における「敗者復活戦」の効用
今週号の日経ビジネスの「 三越伊勢丹、社長辞任劇の深層 自壊の始まりか 」を読みました(日経WEBニュースの有料版でも「日経ビジネスセレクト」としてご覧になれますね)。 労組、中間幹部、経営陣の間で、いろんな思惑があったようで、取締役会内部でも前社長さんの更迭問題が冷徹に協議されていたそうです。ところで退任を余儀なくされた社長さんは、このまま三越伊勢丹から完全にリタイヤされるのでしょうか?「おまえ、今回は組の言うことを聞いて後ろに下がっていろ。とりあえずじっとしてろ」 といった説得は全くされなかったのでしょうか?通常、こういった説得は相談役とか顧問の方々が主導したりするわけですが。
先日、某社の企業不祥事対応に関与しておりましたが、同社では社内人事に「敗者復活戦」がありませんでした。幹部社員がリスクをとってチャレンジした結果が芳しくないと「あいつは終わった」と烙印を押されてしまう傾向が強いようです。したがって会社よりも部署の成績優先、情報の横断的な共有化が図られない風土が醸成されて、社内の不正が長期間明らかになりませんでした。社内不正を見逃してやることで貸しを作る文化もありました。一方、別の会社では公然と「敗者復活戦」があったので、誰もが正直にミスを報告し、また「俺では無理だ、助けてくれ」と平然と言える雰囲気がありました。したがって不正や重大事故が発生しても、早期に経営陣が知るところとなり、早期対応が可能でした。
巷間、中長期的な企業価値の向上を図るためのガバナンスが議論されていますが、このガバナンスは敗者復活戦があることを前提とした議論ではないかと疑問に思うときがあります。社長の交代を促すガバナンス、といっても、その社長さんが単純に経営者としての能力がない、というのではなく、会社のおかれた経営環境のもとでは「合わなかった」ということも多いと思うのです。良くも悪くも会社のおかれている環境が変われば、その社長さんの能力が必要とされるかもしれない。そういった敗者復活制度が暗黙の了解として組織に存在してこそ、企業はガバナンスの構築によって持続的成長を図ることができるのではないかと。
どうも日本企業の役員さんは「競争における負け方」が下手なように思います。社内慣行として、ここ一番の勝負に出て、失敗をすると会社を去るか、その後はずっと閑職に甘んじなければならないような雰囲気が漂っていませんかね?(すいません、このあたりはサラリーマンの経験がないので確信が持てません・・・)でも企業が持続的な成長を遂げるといっても、かならず浮き沈みはあるわけですから(ずっと「右肩上がり」なんて企業はありませんよね?)敗者復活戦は残しておくべきではないでしょうか。「潔い」という意味では立派かもしれませんが、企業にとっては大きな損失だと思います。
たとえ降格しても、そこで頑張っていればまだ経営トップに復活するチャンスはある、といった風土のある企業は「不祥事に強い組織」といった守りの部分だけでなく、長期的な業績向上といった攻めの部分でも強みを持っているのかもしれません。
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コメント
敗者復活戦は組織の風通しをよくする条件のような気がしていて論旨に賛成です。ない企業はヒラメ型社員、役人型社員が多いようにも感じます。この有無はどういった要因で決まるとお考えでしょうか。
投稿: tetu | 2017年3月22日 (水) 04時02分
「敗者復活」というと語弊があるかもしれませんが、日立の川村隆さんが子会社に異動したあと本社に戻り、V字回復を成し遂げたのは有名ですよね。
長期的視野を持っている(忍耐力も必要です)か、目先の浮き沈みに囚われてしまうかが、組織および個人の試行・思考方法を通じて、結局大きな差異を生じさせるのではないでしょうか?
ところで山口様が別エントリーを予定されている「公益通報者保護制度に関する国の行政機関向けガイドライン改正」については、私も消費者庁に電話で問い合わせてみましたので、山口様の卓見を楽しみにしております。
投稿: 試行錯誤者 | 2017年3月23日 (木) 09時51分
tetuさん、試行錯誤者さん、ご意見ありがとうございます。
tetuさんのご質問ですが、私は先験的に「ヒラメ型社員」「役人型社員」という人たちがいると考えていません。どんな人にもヒラメ型の要素も、出る杭型の要素も持ち合わせていて、仕事場の雰囲気によってヒラメの部分で過ごすのか、出る杭になるのか無意識に分けているものだと考えています。
この点はいま大阪市交通局の監査役をしていて感じるところです。民営化に向けて頑張るなかで、典型的な役人型の方々が変わろうとしています。ただ、やはり組織風土はそんなに簡単には変われないのですが。。。
試行錯誤者さん、明日の説明会の情報がありましたら、また教えてください。
投稿: toshi | 2017年3月29日 (水) 22時40分
昨日3月30日の消費者庁「内部通報制度に関する民間事業者向けガイドラインの説明会」に参加しました。企業の法務・コンプライアンス部門の方や弁護士の方等100名以上参加され、大盛況でした。
昨年までの公益通報者保護制度検討会の委員であった駿河大学:水尾順一教授の講演と消費者庁消費者制度課の説明による2部構成でしたが、共通していたのは「内部通報制度があるだけでは従業員は報復を恐れて通報しない。実効性のある運用をしなければならない」というメッセージが、これまで以上に強く前面に、かつ全面的に押し出されていたことです。
上記検討会座長であった東京大学:宇賀克也教授が「内部通報、行政通報、外部通報の制度間競争だ!」と話していることが紹介されたり、消費者制度課の方から「通報だけでなく「相談」というスタンスも大事だ」との、とにかく運用を活発化させるための現実的な御発言もあったりして、2時間、アッという間に終了しました。
説明および質疑応答の中で、「経営者に通報するルート以外で、顧問弁護士、社外取締役、社外監査役の誰を信用すればよいのか?」という趣旨の議論もあり、消費者制度課からは「相対的には顧問弁護士よりも社外取締役・社外監査役のほうが、より第三者的に対応してくれると思うが、やはり個人差があるのではないか?」という意味合いの回答がありました。会場内、納得せざるを得ない雰囲気が漂っていましたし、実際、同じ崇高な役割を持つ社外役員にも個人差はあると思います。
何度も繰り返し考えていますが、せっかく作った仏さまに魂が入るよう、複数の社外取締役・社外監査役に「相談」してゆこうと思います(仏さまも、いつも例えにされて大変ですね)。
投稿: 試行錯誤者 | 2017年3月31日 (金) 17時00分