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2017年4月28日 (金)

オリンパス役員賠償命令(東京地裁判決)と責任判定委員会報告書

オリンパス会計不正(飛ばし・解消スキーム)事件に関わったとされる元取締役の方々に対する損害賠償請求事件の一審判決が出ました(東京地裁-裁判長は法制審会社法制部会で委員に就任しておられる方ですね)。すでに報じられているとおり、飛ばし・解消スキームに関わっていた歴代の経営トップの方々に、総額約590億円の支払を命じる判決が出ています。認容された590億のほとんどは、過年度の決算訂正によって結果的に違法配当となった金額の填補責任を根拠としています。

取材を受けたときに記者さんからいただいた判決要旨を読みますと、会社原告の事件(株主原告は共同訴訟人として参加)と株主原告の代表訴訟事件とが併合されています。支払命令を受けたのは、歴代の経営トップ(一部は相続を限定承認されているご遺族の方々)と先日の横尾さんのご著書でたびたび登場するY氏、M氏、N氏です。会社からの賠償請求と、株主代表訴訟による賠償請求において、重複している被告のみが支払い命令を受けており、飛ばしスキームに関わっておられなかった取締役の方々10名を被告とする株主代表訴訟については、いずれも請求棄却との結論です。

つまり、事件発覚当時にオリンパス社主導で設置された「取締役責任判定委員会」でクロ(善管注意義務違反あり)とされた取締役の方々は、判決でも賠償命令の対象とされ、シロ(善管注意義務違反は認められない)とされた取締役の方々については監視義務違反等はなく賠償責任はすべて(全員)否定されています。

当時、責任判定委員会報告書を読んだ私の感想として、①元社長のウッドフォード氏が取締役会で問題を指摘したこと、②PwCが海外子会社買収の経緯について疑義を呈した中間報告書を提出していたこと、③ウッドフォード氏の処遇に関して、近接した取締役会において元会長からの提案が二転三転していたことなどから、何らの調査もせず、また元会長に何の説明も求めずウッドフォード氏を解任する決議に賛成した取締役には任務懈怠はないのか、という点にとても関心を持ちましたが、裁判所は詳細な事実認定の末、取締役らには善管注意義務違反は認められない、としています。私自身は未だにやや疑問を持っていますが、ここも、ほぼ責任判定委員会報告書の判断と同様の結論です。

むしろ、このたびの東京地裁の責任判断よりも当時の責任判定委員会報告書のほうが役員に対して厳しいですね(N氏の違法配当責任は、報告書では認められていましたが、判決では棄却されています)。ちなみに当時は監査役責任判定委員会報告書もありましたが、オリンパス社の当時の監査役の方々への訴訟は、全員和解で終結しています。

最近、会計不祥事が発生した際には、自浄作用を発揮するために、株主代表訴訟を待つまでもなく、会社自身が不正に関与した役員の責任を追及するケースが増えていますが、このたびの東京地裁の判決をみるかぎり、委員会の役割が前向きに評価されるのではないでしょうか(もちろん、今後の控訴審の判断にも注目しておく必要はありますが)。会社法改正の話題として、株主代表訴訟を制限して「訴訟委員会制度」を導入してはどうか、といった意見もありますが、そのような論点にも影響が及ぶかもしれませんね(いや、それはちょっと考えすぎカナ・・・)。

おそらく近々法律雑誌等に判決全文が掲載されると思いますので、また詳細はその際に検討したいと思います(ところで東芝さんは違法配当の可能性はないですよね?もしあればたいへんなことになりますが)。

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2017年4月27日 (木)

コンプライアンス研修がIPO企業役員の必須科目になった・・・

先日、ある会合で、日本取引所グループの某役員の方から聞いたお話。

(私)「上場日に会社関係者がそろって記念写真撮るじゃないですか。これまでの苦労が実って、みんな笑顔で、鐘を鳴らして、ホント”晴れがましい日”って感じですよね。

(某役員)「でもね、山口さん、記念写真をよお~く見ると、おもしろいことに気づくんですよ。創業ベンチャーから頑張ってきた仲間と、上場準備段階で就任した経理担当役員や監査役の皆さんとの間にビミョーな”すきま”が空いているんですよね。このすきまが結構コワかったりして

(私)「・・・・・・・・

今朝(4月27日)の新聞報道にもありましたように、日本取引所自主規制法人さんが、新たに「新規上場申請会社に対する上場審査におけるeラーニング」を開発し、経営者や社外役員に限らず、業務執行取締役等を含めた全役員の皆様が受講対象となりました。日本取引所さんは午後2時にホームページで公表しておられます。

このeラーニングの活用は、上場前後の経営者主導による不適切な取引等が発生したことを受け、2015年3月31日に公表した「最近の新規公開を巡る問題と対応について」に係る取組みを、更に前進させるために実施するものです。

だそうです。取締役と監査役、全員に受講義務がある、つまりE-ラーニングはIPOを目指す企業の必須科目になったということのようですね。私は中身はよく存じ上げませんが、すべて事例方式の設問で、取締役や監査役は何をすべきかが問われたり?、すべての役員が全問正解に達することが合格条件だったり?(いや、よく存じ上げませんが)。受講された方、ぜひ感想を教えていただければと。

「エフオーアイを忘れるな!"Remember FOI !"」が自主規制法人さんのスローガンかどうかは不明ですが、まずは実行することがなにより大切ですよね。いままでの「やらされコンプラ」「なんちゃってコンプラ」のイメージをまだ引きずっておられる経営者の方が多いと思いますが、ぜひこのe-ラーニングによってイメージを変えていただければと思います(私は取引所の者ではございませんが)。

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東芝監査人交代問題-窮地を救うホワイトナイトは何処に?

多くのマスコミで「東芝が会計監査人の交代に向けて最終調整」と報じています。朝日新聞ニュースではすでに準大手の具体的なお名前も出ています(太●監査法人さん?)。東芝さんは先日、3Qの四半期報告書を開示しましたが、監査人であるPwCあらた監査法人さんは、意見(結論)を表明しない(結論不表明)とのレビュー報告書を出しました。東芝さんとしては、このままだと上場廃止になってしまうので、やむをえず監査人の交代を検討せざるをえない、ということですね。

マスコミ報道を読むかぎり、東芝さん主導で会計監査人を交代させる印象ですが、PwCの関係者の方々からすれば複雑な心境ではないでしょうか(守秘義務があるので取材に応じることはできない・・・)。

私は真相はまったく逆だと思います。2Qの決算が終了して「やれやれ」というところでいきなり「海外子会社で7000億の減損事由あり。社長が発表予定」と言われて、なぜ監査法人が「ああ、そうですか」と言えるでしょうか。現場の担当会計士の方々は耳を疑い、おそらく「生き地獄」に落ちて行ったと想像できます。PwCの上層部及び海外事務所は「契約破棄」「東芝へ損害賠償」と主張するのが筋で、それをなんとか「結論不表明」というところで妥協したのではないかと。PwCのほうから「もう、アンタとはやってられまへんわ!」ということでしょう。私はもう少し政治的判断で「限定付き適正結論」あたりがオトシドコロだと思いましたが、私の予想はかなり甘すぎたようでして、PwCの経営陣及び海外事務所の意見は相当に厳しかったと推測しています。

ご承知の方も多いと思いますが、監査人が「意見不表明」の報告書を提出するのは、財務諸表に対する意見表明ができないほど、会計記録が不十分であったり、監査証拠が入手困難である場合に限られています。この監査報告がなされると、「不適正意見」と同様に「その決算書は信用できない」ということになり、上場会社は上場廃止基準に抵触することになります(四半期レビューの結論不表明もほぼ同じ意味です)。上場廃止基準とは関係ありませんが、今後東芝さんが提出する内部統制報告書にも意見は出せないと思います。

東芝さんは「意見不表明というのは天災地変や監査書類の紛失など、物理的に監査に必要なものが出せない場合だけに限られる報告だが、うちは必要なものをすべて出しているのだからPwCはルール違反だ。けしからん」といった申し開きをされるのでしょうか。一方のPwCさんは「いえいえ、監査報告は監査法人の自主的判断で出せます。もっと必要な監査資料を出せといっているのに出さないのであれば、意見は表明できませんし、そのような会社側との見解の相違ある場合にも適用されます」と回答されるかもしれません。いずれにしましても、東芝の役員さんも、会計監査人であるPwCさんも、株主代表訴訟のリスクを負っているので「別れ際」には細心の注意が求められます。

会社法監査と金商法監査を担当する公認会計士は統一せよ、といった東証ルールがあるので(有価証券上場規程438条)、簡単には株主総会を開けない東芝さんの場合、交代後はとりあえず会社法監査のための「一時会計監査人」の選任を裁判所に申し立てることになると思います。ただ一時会計監査人の方は、期中の交代、しかも東芝さんのような大会社の計算書類の監査をどうやっておやりになるのでしょうか?元金融庁長官の方が顧問をされ、会計士協会の現会長さんの出身母体でもあるPwCさんが「これでは到底意見は出せない」と太鼓判(?)を押した企業の監査について「いやいや、PwCさんのほうが間違っている、東芝さんは現状で監査意見は出せますよ」と言い切って監査意見を出すホワイトナイト的な監査法人さんは出現するのでしょうか?(ちなみに法律の世界とは異なり、会計監査の世界では「セカンドオピニオン」はありません。意見不表明から意見表明というのが「セカンドオピニオンとは言えない」との言い訳はありそうですが・・・・・)

報道では「準大手の監査法人を軸に交代を検討中」「太●有限監査法人か?」とありましたが、私は多少の利益相反に目をつぶってでも、大手監査法人への交代しかないと思います(具体的にはK●M●さんと提携しているあ●●監査法人さん以外にはないのでは?--もちろん私の個人的な推測にすぎません)。ただ大手監査法人さんにも受ける、受けないの自由はもちろんありますので、どうコロぶのかはわかりません。

この東芝監査人交代は、東芝さんにとっての最大のピンチと考えているのですが、それにしても相変わらず時価総額は9000億以上、社債は2000億以上・・・・。なにか世間とは別の風がメガバンクと政府中枢あたりのインサイダーで吹いているのでしょうかね。。。せっかく監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)事務局が日本に設置されたのですから、監査の品質を悪化させるようなことだけは避けていただきたいと願う(上申する)ばかりでございます<m(__)m>

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2017年4月26日 (水)

産地偽装米騒動-マスコミはなぜ消費者の食の安心に無関心なのか?

週刊ダイヤモンド誌に産地偽装米スクープ記事が掲載された2月以降、ずっとこの問題に関心を寄せておりましたが、先週金曜日(4月21日)、JA京都中央会の特設HPに、記事の信用性に影響を及ぼす重大な鑑定結果が公表されました。ダイヤモンド誌が、京都の米卸業者の販売する産地米に「中国産が混じっていた」と報じる根拠となった鑑定書を作成した研究所が、JA京都中央会からの再鑑定依頼に対して「すべて国産米」という鑑定結果を出したそうです(鑑定書も添付されています)。同研究所は、たしか最初は再鑑定を拒絶しておられたようですが、最終的には鑑定をされたのですね。

「中国産が混じっている」からといって、決してお米の安全性に問題がある、とは申しません。ただ、日本産ということだけでなく、産地をきちんと明記してお米を販売することは、お米の流通に関わる方々にとって、ブランドを守る事業者の経営問題を越えて、消費者の「食の安心」に関わる重大な責務です。したがって、経済誌のスクープ記事は(このシリーズの最初のエントリーで申し上げましたとおり)消費者に与える影響が大きい以上、他のマスコミはよほどのことがない限りは後追い記事を書かないのでありまして、その点においては私の想定通りでした。

ただ、実際には農水省も行政調査に動き、ダイヤモンド誌も翌週号に第2弾の記事を掲載したことから、この米卸事業者は、未だに関西で100店舗以上の販売店から販売停止処分を受けており、経営面に深刻な打撃を受けたままです。もちろん、米卸事業者側としても刑事、民事の法的手続きを進めているそうですが、ご承知のとおり最終結論が出るまでには相当の年月を要するのであり、この米卸事業者には法的な結論を待つだけの経営上の余裕は残されていない可能性があります。今回のダイヤモンド誌側が依拠した鑑定結果が再鑑定によって別の結果となった以上、事業者としてやれることは全てやり尽くしたと評価できます(とりあえず、コンプライアンス経営という視点からの私の関心はここまでです)。

ところで、本来ならば行政調査の結果が速やかに出されるべきとは思いますが、JA京都中央会側の問い合わせに対して、未だ農水省からの回答はないそうです。ダイヤモンド誌といえば、経済誌として信用されているブランドですし、その記事も真実性が高いものと評価されています。この状況のままですと、どう考えても(世間的には)当該米卸業者の産地偽装疑惑は払しょくされないまま「グレー企業」としての烙印を押されてしまいます。また、ダイヤモンド誌が信用性の高い記事を書くメディアだけに、世間的には産地偽装米が、農水省の調査もあいまいなままに世間に流通している、と認識された状況が継続します。

この状況を受けて、せめてダイヤモンド誌と同じくらい信用性の高い記事を書かれているマスコミの方々が、「ファクト」(事実経過)だけでも報じるべきではないでしょうか?これは、米卸事業者の信用を回復するために、というわけではなく、消費者に及んでいる「食の安心」への脅威を少しでもなくすためです(おそらく2月以降「ファクト」をこれまで報じているのは大阪ローカルの毎日放送さんだけだと思います)。たとえば著名な経済誌がスクープとして「食の安全・安心」に関する記事をアップしたとしても、消費者としてはこの記事を冷静に受け止めることが必要、鑑定といっても、結論はファクトではなく意見にすぎない・・・その教訓だけでも「自己責任を問われる時代」の消費者教育の一環ではないでしょうか。

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2017年4月24日 (月)

企業の悪評は一過性?-フィナンシャルタイムズ社説に異議あり

先週金曜日(4月21日)の日経朝刊(8面)に、英国フィナンシャルタイムズ紙の社説が掲載されていました。このたびのユナイテッド航空の過剰予約問題は世界で報じられ「この先何十年も語り継がれることになるだろう」と記されています。ただ、株式市場は冷静で、このたびの不祥事でユナイテッドの株価はあまり下落していないそうです。また、排ガス不正問題に揺れたフォルクスワーゲン社も、スマホ発火事故を起こしたサムソン社も、業績は悪化していません。これらのことから「たとえ企業不祥事を起こしたとしても、会社の悪評は一過性のものであり、顧客獲得にはそれほどの影響はない」と(やや批判的に)締めくくっています。

同じようなことは、私も以前からずっと考えているのですが、実際にはやはり企業不祥事は企業の業績に大きな影響を及ぼす、というのが私の結論です。ユナイテッド航空の今回の不祥事は、そもそも航空機の安全性に関わる不祥事ではありませんので、商品の安全性や経済性に関わるフォルクスワーゲンやサムソンの不祥事と比較すること自体にやや違和感を持ちます(もし航空機の安全に関する不祥事であれば、過剰予約問題とはまったく世間の評価は変わります)。

また、フォルクスワーゲンやサムソンの不祥事が業績に影響を及ぼさなかったとしても、不祥事を繰り返した三菱自動車さんでは、現実に組織再編につながるほどの大きな影響が出ています。海外ではどうかわかりませんが、日本では商品を販売した会社は、その商品が一般的に商品使用に耐えうると思われる期間、その商品を安全に使用するためのサービスを提供しなければならないのであり、これは社長さんが業務上過失致死罪で有罪とされたパロマ工業事件の判決でも示されています。これまでファンだった消費者は、最初の重大不祥事が発生したら「まさか」と思いますが、とりあえずは会社の再生を願って熱心なファンを続けてくれることが多いようです(これはとても大事なことでして、企業不祥事発生時における信用毀損状況の収束見込みが決まります)。

そして、消費者の生命、財産の安全を裏切る不祥事を起こした場合、商品の売上にはそれほど影響がなくても、二度目の不祥事発覚時には「まさか」が「やっぱり」に変わり、当該商品のファンは一変して企業の敵になる可能性があります。つまり、フォルクスワーゲンやサムソンのケースにおいて、現在のところ不祥事の発生が業績に影響していないとしても、購入者(ファン)の意識は不祥事の前と後では大きく変わっていることは注意が必要だと思います。このブログでも過去の不祥事について何度も取り上げてきましたが(たとえばエキスポランドやJR西日本に関連するこちらのエントリー)、これからは(これまで取り上げられなかったような軽微な不祥事でも)マスコミが過敏なほどに当該会社の不祥事を取り上げるようになり(前の不祥事によって消費者の関心が高まっているので当然です)、くりかえし当該企業の信用が毀損される、という競争上の大きなハンデを背負うことになります。

消費者は、どんな企業でも不祥事は起こりうることを理解しています。むしろ起きたときに企業がどのような対応をとるのか、その点への関心が高いのであり、単純に「不祥事による悪評は一過性か」といった質問に、容易に結論が出るものではないと考えています。一度大きな不祥事を起こした企業が、今後どのように再生していくのか、そこに疑問が生じるようになると、不祥事が業績にも株価にも大きな影響を及ぼすようになるものと思います。重大な不祥事は、企業に競争上の大きなハンデを与えることは間違いないかと。

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2017年4月23日 (日)

消費者庁・民間事業者向けガイドライン説明会に登壇します。

富士フイルムHDさんが決算発表を延期されることが日経ニュースで報じられています。グループの富士ゼロックス社の海外販売子会社で、過去の会計処理について妥当性を調査する必要が出てきたために、決算発表を延期を決定したうえで第三者委員会を設置したそうです。

上記日経ニュースによりますと、2015年に、不適切な会計処理があると内部通報があり、これに対して富士ゼロックス社が対応していましたが、2016年11月、富士フイルムHDさんの監査法人から(たぶんHDが)問題があると指摘を受けたそうです。第三者委員会の報告を待たないと正確なことは言えませんが、(通報から監査法人の指摘まで長時間要したことから推測しますと)おそらく会社の対応が遅々として進まないので、内部通報者が監査法人に内部告発をした、ということだと思われます。

ただ、富士フイルムHDさんは、今期に監査法人が交代していますので、ひょっとすると前の監査法人さんが問題視していなかった通報事実について現在の監査法人さんが問題視している、ということかもしれませんね。これも監査法人版ガバナンス・コードの影響かもしれません。いずれにしましても、内部通報への企業側の対応が不十分だと、通報者はためらわずに第三者へ情報提供する、といった典型例かと。

さて、今年前半は改正個人情報保護法に関する解説書が、そして今年後半は「内部通報制度」に関する解説書が、多くの著者から発刊される模様ですが、昨年12月に改訂されました「内部通報制度に関する民間事業者向けガイドライン」の説明会が、いよいよ大阪でも開催されることになりまして、不肖私が前座を務めさせていただくことになりました(消費者庁HPでも公表されています。東京では前回あっという間に満席になりましたので、東京での追加説明会の開催も公表されていますね)。消費者制度課の方による①11年ぶりの改訂ガイドラインの説明、②近時の公益通報者保護制度の解説がメインイベントです(私はあくまでも「前座」でございます)。

会場は(たぶん大阪の方はすぐにおわかりになると思いますが)OMMビルの会議室ですが、募集人員が80名ということなので、ひょっとしたら満席になるかもしれません。私の感覚では、民間事業者向けガイドラインは、先日公表されました行政機関向けガイドライン(外部労働者等からの通報)とセットで理解をしておく必要があると思いますし、また公益通報者保護法と内部通報制度との関係性についての理解も必要かと思います。そのあたりを私なりに解説させていただきたいと思いますので、ぜひお時間のある方は天満橋までお越しいただければと思っております。

 

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2017年4月21日 (金)

監査法人必読!-「もうひとつのエフオーアイ粉飾損害賠償事件判決」

昨年12月20日、東京地裁でエフオーアイ(マザーズ上場→廃止)事件の判決が出ましたが、もうひとつのエフオーアイ事件判決の存在を、こちらのエントリーでご紹介しておりました。本家本元のエフオーアイ事件第一審判決は、データベース以外、未だ判例集にはどこにも登載されていないようですが、「もうひとつのエフオーアイ事件判決」(東京地裁平成29年1月27日)が、先に金融・商事判例の最新号(4月15日号)に全文掲載されました(20頁以下)。

エフオーアイ社は、粉飾率97%という状況の中で(無事?)東証マザーズに上場を果たしました。しかし、上場からわずか5カ月で金融庁の強制調査を受け、半年で上場廃止に至るわけです。同社の有価証券届出書等を信用して同社株式を購入した一般株主らが、会社関係者や市場関係者に対して損害賠償を求めたのが「本家本元のエフオーアイ事件訴訟」です。日本で初めて主幹事証券会社の審査ミスを理由に賠償責任を認めた判決として注目されていますが(原告、被告双方から控訴中)、会計監査人である監査法人さんは、裁判途中で和解をしたため、その行動は判決文からは全くわかりませんでした。

ところでこの「もうひとつのエフオーアイ事件訴訟判決」は、エフオーアイの架空売上の計上に協力していた取引先(具体的には富士通さん)元社員について、エフオーアイ社株主(原告)に対する損害賠償責任を認めたものです。判決文を読みますと、①なぜ会計監査人が虚偽の残高証明書に騙されてしまったのか、②なぜ納品された(とされる)現物の確認を会計監査人は省略してしまったのか、③なぜ主幹事証券会社がヒアリングの際、虚偽説明に騙されたのか、④なぜ日本取引所自主規制法人の審査が甘くなってしまったのか等、これらを検討するために参考となる事実がたいへん詳細に認定されています(しかし、日本を代表する著名企業の課長さんが、1億円の報酬約束で簡単に協力しちゃうものなのでしょうかね?なんかもっと人間臭い事情があったのではないかと邪推していまいますが・・・やや疑問・・・)。

法律家の興味は民法上の不法行為責任論(共同不法行為に関する719条1項と2項との関係、民事上の「ほう助」の解釈、民法715条における「事業の執行にあたり」の解釈、虚偽記載と損害の範囲等)だと思いますが、会計専門家の方にとって注目していただきたいポイントは、株主原告団が法人である富士通さんの責任も追及しているのですが、その責任追及を裁判所が否定する根拠理由です。一言でいうならば

「こんな立場の人(当該社員)が残高証明書出す権限ないことくらい、誰だってわかりますよね?」「こんな人が監査人の相手する立場にないことくらい、ちょっと調べればわかりますよね?」(客観的・外形的にみて事業執行との関連性なし」→使用者責任否定)

さらに、この富士通社の社員は、上場承認直前期にはもうエフオーアイ社による粉飾には協力していないのです(結局、この社員の方は報酬ももらっていないようです)。上場承認よりも3年ほど前には「足を洗った」にもかかわらず、裁判所は「上場検討の初期の段階で、取引先が虚偽説明をして会計監査人が騙されたことは、たとえ当該会社が上場まで審査で苦労したとしても、東証の審査クリアには大きな影響を与え続けている」としています(日本取引所自主規制法人さんには朗報か?笑)。つまり裁判所は「市場の番人」たる会計監査人の役割を極めて大きく評価しています。

私は(法律のご専門の方でないと、少し読むのがしんどいかもしれませんが、)ぜひ会計監査の関係者の皆様に、この「もうひとつのエフオーアイ事件判決」をお読みいただきたいと思います(もちろんお時間のある時で結構でございます)。お読みいただいて「なんだ♪これって会計士の監査がまずいからでしょ♪、俺だったらこんなヘマしないよな(笑)」とお感じになったら、それはそれで結構かと存じます。しかしお読みになって「これって、会計士災難だよな。俺も同じように騙されるかも・・・」とお考えになるのであれば、平成25年「不正リスク監査基準」の策定時に留保されている「取引先監査人との連携」問題を今一度、ご検討されてみてはいかがでしょうか。架空循環取引に協力した会社が株主から訴えられる時代になりますと、どうも会計監査人のリーガルリスクも高まるように感じます。

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2017年4月20日 (木)

上場会社は金商法193条の3、1項による監査役通知を開示すべきである(後編)

先週、東芝さんの3Q四半期報告書に関連するエントリーをアップしましたところ、たいへん多くの方々に閲覧いただきました。そして会計・監査実務のご専門家の方々からも、何通かメールにてご意見をいただきました。東芝さんの会計監査人であるPwCあらた監査法人さんはなかなか自身のご意見を出せない立場であることも、よくわかりました(それが良いか悪いかは別として)。これは私の単なる邪推ですが、あれだけ日経ビジネスさんやAERAさんに内部社員の「叫び」が届いているわけですから、PwCさんのところにはもっと多くの内部告発が届いていることは間違いないと思っています。そのような内部告発の内容は、日本公認会計士協会さんや金融庁(公認会計士・監査審査会)さんのほうから調査をかけなければ守秘義務の関係で外部に情報提供することはできないのでしょうね。このたび公表されました監査法人版ガバナンス・コードでも、内部通報や内部告発を受領した監査法人さんの守秘義務に関する定めがありますし、おそらくかなり慎重な対応をされているのではないかと推測されます。

さて、その監査法人の守秘義務を解除する法的根拠といえば、代表的なものに金融商品取引法193条の3があります。この「監査法人の伝家の宝刀」について、ようやく後編を書かせていただきます。前編のエントリーを書いてからすでに1か月が経過してしまいました(この1か月、コンプライアンス関連の話題が豊富だったので、なかなか続編を書く時間がございませんでした<(_ _)>)。監査証明業務の過程において、監査法人が被監査対象会社の法令違反等の事実を発見したときは、まずは当該会社の監査役(監査役会)に対して法令違反等事実の是正を求め、それでも会社が何ら対応しない場合には、(重大な法令違反等事実に限定されますが)守秘義務を解除して金融庁に当該事実を報告しなければならない、というものです。前回のエントリーにて、一老さんから「これは抜かずの宝刀ではないか」といったご質問を受けましたが、法律家の間でも積極行使説と消極行使説に分かれているのが現実です。

いままで193条の3は行使されたことはほとんどないのでは?とのご疑問もありますが、某省庁の幹部の方の講演などを拝聴しますと、これまで会計不正が疑われる上場会社に対して、金商法193条の3(法令違反等行為の是正要求通知制度)1項に基づく監査役への通知が6~8回程度発信されているようです(この点は弥永教授もビジネスロージャーナル9巻2号のご論稿の中で「知られていないものがあと数件ある」と触れておられます)。オリンパス会計不正事件の際、当時の会計監査人が「193条の3をちらつかせた」と第三者委員会報告書で報告されていましたが、あれは「ちらつかせた」だけですので、ここではカウントされておりません。

外から伺い知れる3件は、春日電機、セラーテムテクノロジー、JFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)ですが、本当に会社と監査法人とのガチンコで通知が出され、会社側も開示をしたのはおそらくJFLAだけだと思われます。JFLA社の会計監査人(当時)が、財務報告内部統制の不備を理由に193条の3に基づく法令違反等是正通知を監査役に発し、会社側には理由も含めて開示を要求しました(実際にも適時開示されました)。その後、さらなる会計監査人による調査過程において、実際に「粉飾」が発見されているわけですから、やはり「全社的内部統制に重要な不備」→「粉飾の発見」という図式をみれば、193条の3の有用性は高いと思います。

私個人としては、同社監査法人は(現場に「やってみなはれ」と許可を与えた同法人トップを含め)とても胆力があったと評価しています。いや、気合だけの問題ではなく、むしろ193条の3、第1項に基づく監査役への通知は適時開示の対象だと解釈しています。これを受領した上場会社は監査法人から通知を受けたこととその通知理由を適時開示すべきですし、このJFLAの会計監査人の行動のほうがむしろ当然だと考えています。通知を受領しながら開示しないことは、不適切(開示規制違反)ではないでしょうか。

東芝事件が「会計不正事件」→「事業売却による分社化」といった一連の流れをたどっていることをみますと「もっと早く『助けて』と叫んでいれば、もっと別の流れがあったのでは」と思わざるをえません。実際、JFLA事例では、早期に193条の3を通知したことで、監査法人も(社内取締役全員が交代した)会社も元気に活動を続けています。また、弁護士兼公認会計士でいらっしゃる中野竹司氏のご論稿「なぜ『法令違反等事実』通知規定は活用されないのか -JFLA事例を契機に考える」(月刊企業会計2016年5月号)でも同様の指摘がなされ、早期における193条の3の活用が提言されています。

さらに、今年2月に発刊された江頭憲治郎先生古稀記念論文集「企業法の進路」(有斐閣)901頁以下に堀田佳文先生(千葉大学准教授)の「会計監査人の義務と責任-金融商品取引法193条の3を手掛かりとして」と題する論文が掲載されています。そこでもJFLA社のように、早期に193条の3を会計監査人が行使すれば早期是正を図れるにもかかわらず、なかなか活用されないという問題点が指摘されています。監査法人が「期待ギャップ問題」を放置することによって(193条の3を行使しないままで)、権限を行使すべき責任を回避し続けていると、今後は司法が会計基準の解釈を通じて会計監査人の責任問題に深く関与することになる、というジレンマに陥ることを指摘されていて、私もまったく同感です(このたび、日本公認会計士協会近畿会さんが会計士アンケート調査結果に基づく提言書を公表され、その中で「会計審判所の創設」を提言されていますが、会計士協会と金融庁による別々の処分の交通整理が主たる目的とはいえ、司法の介入防止のためにも会計審判所制度はひとつのアイデアかと思います)。たしかに金融庁への通知(193条の3、第2項)は「抜かずの宝刀」でもよいのかもしれませんが、監査役通知についてはもっと活用されるべきだと考えます。これこそまさに「監査法人改革」の第一歩です。

昨年12月20日に東京地裁で出されたエフ・オー・アイ損害賠償請求事件判決(判決理由)によると、同社では平成16年から三様監査は続けられており、また会計監査人と監査役会との連携にも問題はなかったとされています。それでも監査役の皆様は同社の不正を見抜くことはできず、結果的には業務監査の面で任務懈怠責任を問われています。裁判の上で会計不正で問題となる監査役の職務は、会計監査ではなく、業務監査の不適切な運用です。過去の判例を調べましたが、これまで監査役さんの任務懈怠が裁判上で認められた事例はすべて業務監査が問題とされています(例外は平成11年の大和銀行株主代表訴訟のみ)。だからこそ会計監査人が自ら手を突っ込むことができない被監査対象企業の業務監査を促すためにも、この道具(金商法193条の3)が活用されなければならないのです。また、投資家を含めて、会計監査人はリスクをとってゲートキーパーとしての役割を担っているという意識(会計処理には解釈問題がつきまとうのであり、結果として粉飾とは評価されない場合もある、という意識)を持たねば、監査法人が健全なリスクテイクはできないと思います。

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2017年4月18日 (火)

企業統治改革を後退させる機関投資家の「費用対効果の壁」

本日(4月17日)の日経法務面では、「取締役会の監督機能の引き上げへ-『社外』明確な役割求める」と題するガバナンス改革関連の記事が掲載されていました。とりわけ経産省研究会による会社法解釈指針に沿った内容で、ガバナンス改革に関心を持つ「法律家」の皆様には(その解釈を正しいとみるかどうかは別として)わかりやすい内容だったと思います。

ただ、私的に関心を抱いたのは昨日(4月16日)の日経日曜版の一面記事「株指数運用、市場を席巻-低コスト強み、投信の8割、企業選別する機能衰えも」と題する特集です。アメリカと異なり、日本の市場ではインデックス運用は増えないだろうとの読みがはずれて、日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割までがインデックス運用に席巻されているそうです。それに加えて「超高速取引」が日本株売買の7割に達するとなると、結局のところ、企業との対話によって銘柄を選別したり、中長期で保有を継続するといったことは「費用対効果」の面において労多くて益なし、と判断される傾向が進んでいるようです。

2016年夏季「大和総研調査季報」には、金融調査部の方による「企業ガバナンス改革の実は結ぶか」と題するご論稿が掲載されていますが(ネット上で閲覧可)、株主と企業との建設的対話の「厳しい現実」が機関投資家アンケート調査結果として公表されています。日本株を保有する投資顧問業者の対話関心事で圧倒的に多いのが「企業戦略」「株主還元策」「企業業績及び長期見通し」。逆に「社外取締役の有無、役割」「取締役報酬」「社会・環境問題」「社長後継計画」などはいずれも10%未満。「株式の政策保有」などはまったく回答もされていません。「そもそもコスト以上のベネフィットが期待できなければ、対話は行われない」とされ、よほど資金規模が大きなところでなけえばインデックス運用をしている投資業者は対話はしないだろうと見込んでおられます。

投資先企業に何か目立った動き(企業不祥事が発生、業績の悪化等)があれば、機関投資家としてもリスク・アプローチによって対話を図るとは思いますが、これもやはり費用対効果を考えての行動かと思われます。どうも「政府の常識」と「市場の常識」とが空回りになっているように思います。日本株市場でもインデックス運用の割合がここまで高くなりますと、(上記日経記事でも懸念されているとおり)ガバナンス改革の流れには今後閉塞感が漂うのではないでしょうか。さらにいえば、今月から始まる法務省法制審議会での会社法改正の審議においても、あまり「ガバナンス改革」の流れを重視した性急な改正論議は避けたほうが望ましいように思います。

私が知る限り、社外取締役の方々も、取締役会に出席するために月1回出社する方もいれば、業務執行に積極的に参加して週2~3回はいろいろな会議に出席してアドバイスを提供する方もいらっしゃいます。監査役さんと意見交換をする方もいれば、従業員の方々と意見交換をする方もいらっしゃいます。したがって社外取締役の役割を一律明確にすることは困難ですし、報酬の決め方にしても各社各様で合理性があると考えます。機関投資家の方々があまりモノサシとして関心を持っていない以上、外向きではなく、内向きにガバナンス改革を自社の戦略に活かす道を模索すべきです。

ガバナンス・コードのような「行動規範」が策定されることについては私は反対しませんが、これを遵守することにはむしろ違和感を覚えます。ウチは遵守しないと宣言しながら、当社のガバナンス(そして、そのガバナンスが企業価値の中長期的向上につながるストーリー)を開示することが大切ですし、インデックス運用の評価要素程度に投資家に活用してもらえればよいのではないかと。「コンプライ」は担当者でも判断できますが、「エクスプレイン」は社長でなければ判断できません。私はむしろそこに目を向けるほうが企業のガバナンス改革への姿勢を見抜くことができると思います。

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2017年4月15日 (土)

産地偽装米騒動-最終報告書で企業の信用は回復されるのか

2月の週刊ダイヤモンド誌での報道以来、ずっと注目してきた京都の卸米業者による産地偽装米販売騒動ですが、本日(4月15日)、JA京都中央会さんの特設HPにて最終報告書が公表され、ひとつの区切りがついた模様です。もちろん、ダイヤモンド社を被告とする民事訴訟は始まったばかりなので、当事者の方々は「これから」ということだと思いますが、これまでの経緯がこの最終報告書を読むと理解でき、企業コンプライナンス支援に関わる専門家にとってはたいへん参考になります。

私もこれまでのエントリーで繰り返し疑問を呈しておりましたが、当該米卸業者が信頼を回復するための分水嶺ともいうべき「農水省による行政調査」は、かなり問題点が多かったようで、いまだ結論が出ておらず、JA京都中央会側において農水省に質問状を提出しているところだそうです。どのような法的根拠によって農水省の行政調査が進められたのかは明らかではありませんが、行政調査に対する企業側の初動対応は極めて重要であることがわかります。

また、この行政調査が継続中であるために、JA京都中央会側による(権威ある鑑定業者への)鑑定依頼が一時的に拒否されていたことも報告書によって判明します(いや、これは厳しい・・・。これでは仮に風評被害だった場合に、事業者は自己防衛すらできない、ということでしょうか。。。)さらに、産地偽装報道の根拠とされた鑑定書を作成した事業者へ、JA京都側から依頼した再鑑定の結果についても、この最終報告書では明らかになっておりません(鑑定結果は出ない、ということなのでしょうか)。

本件騒動において私の一番の関心は「どこまで自力救済をやればステイクホルダーの皆様が信頼・安心してくれるのか」といったところですが、調査報告書を読んでもそのあたりは残念ながら明確にはなりません。依然として近畿の100店舗以上の米販売店が、この米卸業者との取引停止を継続している、ということなのでしょうか。売り上げは5割も落ち込み、従業員の暮らしにも影響が出ているということのようです。ちなみに、この米卸業者の社名をグーグル検索しますと、検索バーに「偽装」と出てきます(ひょっとしたら、その責任の一端はこのブログにあるかもしれませんが・・・)。

この(親会社による)最終報告書の公表ということだけでは、未だ信用が完全に回復されたとまではいえないのかもしれません。最終的には裁判の結果を待たねば誤報だったのかどうかは語れませんが、いずれにしても、大手マスコミに企業不祥事を報じられた企業にとって、いったん毀損された信用は容易には回復できない、ということが一連の経過から明確になりました。

私自身、企業側の支援だけでなく、ときどき内部告発者を支援することもありますが、調査不足のまま誤った情報をマスコミに提供してしまい、企業の信用が毀損された場合のことを危惧します。だからこそ社内情報などをもとに、十分なチェックが求められるところですし、真実相当性の判断についても法律的観点からチェックすることが必要だと肝に銘じています。しかし、今回の産地偽装米騒動の展開をみるに、調査活動の秘密は徹底しなければならないことをあたらめて痛感いたしました。それにしても、「安心」つまり米卸業者の販売再開のためのお墨付きは、やはり農水省による調査結果の発表しかありえないと思うのです。どうすれば行政は調査結果の公表に踏み切るのでしょうか。企業のコンプライアンス経営にとってたいへん大きなポイントです。

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2017年4月14日 (金)

内部通報社員による内部告発の脅威-バイエル薬品カルテ無断閲覧事件

ここ数日、関心をもって事件報道の動きをみていたのがバイエル薬品さんのカルテ無断閲覧事件です。「これって、バイエルの社員が内部通報した後に厚労省に内部告発をしたのではないか?」と予想しておりましたところ、本日(4月13日)のTBSニュースで経緯が明らかになりました(TBSニュースはこちら。なお、早期に抹消される可能性があります)。やはり予想どおり、2年ほど前にバイエル社内に通報したところ、対応が不十分だったことで昨年7月に内部告発に至ったそうです。対応が不十分どころか公益通報したことが原因で退職勧奨を受けた、とのこと。

バイエル薬品さんは何度かお招きいただき、コンプライアンス意識の平均値が高い会社と認識しておりますので、今回は少しショックです。告発をした社員の方は、カルテの無断閲覧を実行した3名のうちのおひとりで「こんなことをやって利益を上げててよいのか?」と疑問を抱き、内部通報・内部告発をされたそうです。退職勧奨自体は違法とはいえませんが、その勧奨が社会的相当性を欠いた手法による場合には違法となります(判例の立場)。もし公益通報(個人情報保護法違反の事実)が原因で退職勧奨に至ったということであれば、(たとえご本人が不正に関与していたとしても)かなり会社側の態様には問題があると思います。

ところで私が一番気になりますのは、バイエル薬品さんの不祥事は、この「現場社員によるカルテ無断閲覧」だけでなく、実は組織ぐるみで行われたことへの疑惑と、この不正の背後にあるもうひとつの不正疑惑の真偽です(自社に有利な論文の原稿を用意して、ほぼそのまま医師の名義を借りて論文を完成し、自社薬品のプロモーションに使ったという疑惑です)。すでにTBSさんが詳しく報じているところです。

私はここで、あえて重大な不正の真偽については触れません。ただ、内部通報への対応がまずかったり、たとえそれ自体は重大な不正とはいえなくても、自浄作用を発揮する以前に内部告発によって不正が発覚するような事態になると、いわゆる「疑惑」と呼ばれるものが社会的には「疑惑」を通り越して、不正事実として認知されてしまうというおそろしさです。いま、TBSさんを中心に、バイエル薬品さんの重大な不正への疑惑(カルテ閲覧指示が組織ぐるみだった、閲覧した患者情報をもとに医師の名前を借りて論文を作成した)がさかんに報じられていますが、これらの不正を打ち消す(虚偽報道であることを証明する)ことに多大な労力が必要になります。

これは私がこのブログで何度もご紹介している京都の米卸会社の産地偽装米騒動でも明らかです。2月に週刊ダイヤモンド誌で「中国産の米を南魚沼産として販売しているトンデモ卸業者」と指摘され、その後徹底調査によってこの報道が虚偽だと反論していますが、いまだにその事業者は100社以上の取引先から販売停止を受け、また当該事業者の名前をグーグル検索しますと、最初に「偽装」と出てくるような風評に見舞われています。このたびのバイエル薬品の疑惑も、その真相は明らかではありませんが、前提のところでコンプライアンス違反の事実が明らかになると、その後の反論は苦しくなると思います(少なくとも第三者委員会報告書の立ち上げは必要ではないかと)。

内部告発をしたバイエル薬品の現役社員の方は、最初はコンプライアンス室へ内部通報をしています。つまり、私利私欲ではなく、会社への恨みでもなく、会社のコンプライアンス経営への姿勢を正すために通報をされたようです。この時点でなぜ会社側は通報事実に真摯に向き合わなかったのか。そこで向き合えば(良い悪いは別として)厚労省への告発には至らなかったはずです。また、これも良い悪いは別として、そこで通報への適切な対応があれば、もっと重大な疑惑についても騒がれずに済んだかもしれません。精神論ではなく、現実論になりますが、内部通報制度をきちんと運用することが会社のリスク管理として重要であることの理由は、そのあたりではないかと思います。

 

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2017年4月13日 (木)

公益通報者保護制度実効性検討委員会報告書へのパブコメ公表

約120年ぶりの債権法改正法案が今国会で成立する見込みとなったようですね(毎日新聞ニュースはこちら)。民事法改正は国民の社会生活にも大きな影響を及ぼすものと思います。ただ民事法の関係でいえば、私は最高裁に上告(上告受理申立て)されている民事事件の半分が「本人訴訟」という事態のほうがよほど国民の社会生活に影響を及ぼしているのではないかと思うのですが、いかがでしょうかね?(^^; 

重要案件に最高裁判事の審理が集中できない民事訴訟の現状は、裁判所と弁護士会で真剣に検討すべき時期にきているように思います。弁護士自身の「利益」につながらない問題かもしれませんが、このまま放置していると自分たちの首を絞めることになるのではないかと。。。(「お前が言うな!」と叱られそうなので、これ以上は申しませんが・・・刑事事件の司法制度改革は進みましたが民事事件の司法制度改革は行わないのでしょうか?)。

さてここから本題ですが、本日(4月12日)、消費者庁HPに公益通報者保護制度の実効性検討委員会報告書への意見(パブリックコメント)が公表されました。検討委員会が公益通報者保護法の改正に向けた提言を出しましたが、その提言に対するご意見が多数公表されています(なお、このパブコメに基づいて報告書が修正されるわけではございません)。

この3月1日にも、大阪地裁において、従業員の監督官庁への不正通報を「公益通報」と認めつつも、「諸事情からすれば当該従業員は自主的に退職したといわざるを得ない」として従業員の不当解雇の主張が排斥した判決が出ています。2010年の拙著「内部告発・内部通報-その光と影」でも提言し、また上記報告書でも、公益通報と従業員の退職や配転命令といった業務命令との関連性が認められる場合には因果関係の立証責任を会社側に転換すべき、との提言をしましたが、この点については賛成意見が多かったようです。

反対意見の中には「そんなことをしたら、揉め出してから公益通報をする社員が出てきて人事・労務政策に支障が出る」との反対意見もありましたが、そもそも通報の対象となるような事実を抱えていること自体をなくすために公益通報者保護法が存在しますので、批判はあたらないように思います。

また、私自身が委員会で強く提言しておりました「事業者が公益通報に対して適切に対応すべき体制の整備義務に関する規定を設けること」については、とてもたくさんの賛成意見、反対意見が寄せられています。いや、これはありがたいです!これはぜひとも、今後の法改正への活動に参考にさせていただきたいと思います。

 

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2017年4月12日 (水)

ココログ・アクセスランキング46位(どうもありがとうございます)

(4月13日午前11時30分最終更新)

ブログを開設して早13年目に突入いたしましたが、ここ2日ほど「東芝問題」に関するエントリーをアップしたことでアクセス数が急上昇いたしまして、ココログのアクセスランキングでも46位(4月12日現在)となりました(13日は35位)。往年の著名ブログよりも上位、というのも驚きです。はやりすたりの激しいブロガー業界(?)において、企業法務を扱う「お堅い」ブログが多くの方々にお読みいただいていることはとても嬉しいですし、私自身も励みになります(ちなみにアクセス解析では、ほぼ60%が40代、25%が30代、10%が50代、男女別だと男性70%、女性30%ということでして、この傾向は数年来変わっておりません)。

ご承知のとおり、このブログはBLOGOS(ブロゴス)に転載されておりますので、実はそちらでお読みの方のほうが圧倒的に多いのですが、毎日、ブックマークからこちらのアドレスにお越しの方はコメント欄をご覧いただけるという「特典」がございます。ぜひとも、有益なご意見がてんこもりのコメント欄のほうもご覧いただければ幸いです(すいません、最近なかなかお返事を返しておりませんが、きちんと拝読させていただいております)。

今後とも、当ブログを御贔屓によろしくお願いいたします。 山口利昭

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東芝四半期報告書-なぜ「限定付適正意見(結論)」がもらえなかったのか?

皆様方すでにご承知のとおり、4月11日、東芝さんが3Qの四半期報告書を開示しました。業績が好調に推移しているセグメントもありますが、やはり記者さん方が注目しているのは監査人による適正意見が付かない報告書が出された、という点です(正確には「結論不表明」とするレビュー報告が付いた四半期報告書が開示された、ということです)。東芝さんのリリースには一般の人が読むと誤解を招く表現もみられますが、(EDNETで確認したところ)これまで1Q、2Qの四半期報告書に関するPwCさんのレビュー報告書には適正意見(※)はついていましたが、今回は意見不表明(レビューの結論不表明)ということになりました。ニコニコ動画で記者会見の様子を拝見しておりましたが、マスコミ関係の皆様の質問はやはり「これからもPwC監査法人から適正意見はもらえない、と考えているのか?意見がもらえない場合、監査法人を交代させるのか?」といったあたりに集中していたようです。

※・・・四半期報告書へのレビューなので「適正意見」といっても期末監査の場合よりも消極的な心証で足ります。正確には「無限定結論」「限定付結論」」「否定的結論」「結論不表明」と言いますが、ややこしくなるので期末監査の監査意見に合わせて、なるべく「適正意見」という言葉を使います。

私は会計や監査の専門家ではないので、全くの素人としての素朴な疑問ですが、東芝の社長さんは「上場廃止を避けるために全力を尽くす」と記者会見でおっしゃってましたが、ではなぜ限定付適正意見(限定付結論)をもらう努力をしないのでしょうかね?無限定適正意見(無限定結論)はもらえないとしても、ウエスティングハウス関連以外のところに限定して適正意見をもらう(適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められないとの結論をもらう)、というのはできなかったのでしょうか?そのほうが上場廃止の是非を判断する東証さんにとってもありがたかったと思うのです。

2013年の(上場廃止基準に関する)制度変更前のお話ですが、東証マザーズ上場第1号だったインターネット総研さんが(上場子会社だった)アイ・エックス・アイの粉飾決算に遭遇してしまって監査人から意見をもらえず、最終的には上場廃止になったことがありました。そのときに「こんな事情で当社が廃止になるのはおかしい!」と抵抗していたインターネット総研の社長さんのお話では、東証から「せめて限定付適正意見は監査法人からもらえないか」と示唆されたそうです(私は一部事件に関与しておりますので、詳しい内容は控えますが、この話は今でもネット上に社長さんのインタビュー記事として掲載されています)。また「三洋減損ルール」が話題となった三洋電機さんの会計不正事件が発覚した際には、監査人であるあずさ監査法人さんが2007年3月期の決算書に限定付適正意見を出しておられたものと記憶しております。

今回の東芝さんも、PwCさんと意見の一致がみられずに平行線なのであれば、それぞれ折り合いをつけて「限定付き適正意見(限定付結論)」を出すということで妥協することも考えられたのではないでしょうか。これだけ多くのステイクホルダーが存在するわけですから、東芝さんもPwCさんも自分の意見に固執している、ということはどう考えてもおかしいと思うのです。それともPwCさんとしては、限定付きでも適正意見(結論)は出せないほどに「ウエスチングハウスを除外してしまってはレビューの意味がなくなるほど重大問題」と判断したのでしょうか?もしくはレビュー報告書にも「強調事項」として記載されているように、継続企業としての注記を付したことで、もはや限定付きでも「投資家の誤解を招く」として限定付結論は出せなくなってしまったのでしょうか?

確定した証拠を前提として、監査人と会社との「会計処理方法に関する意見の不一致」が原因であれば「結論不表明」もやむをえませんが、レビューに必要な消極的な心証形成のための証拠の不足(レビュー手続きに関する不満足事項)ということが原因であれば現行の監査基準ものとでも限定付適正意見(結論)は出せるのではないかと、素人ながらに疑問を感じました。昨日のエントリーの続きになってしまいそうですが、余程の事情がないかぎり限定付適正意見は出せない(やはり監査法人さんも責任問題には巻き込まれたくない・・・)という発想が強いのでしょうか。

しかし、四半期レビューは通期の監査よりも適正性判断のハードルが低い(監査人の心証は合理的保証ではなく限定的保証で足りる)わけですから、そこで意見(結論)が表明されないとなりますと、5月に予定されている有価証券報告書の監査ではさらに適正意見をもらえる可能性が乏しくなりそうです。5月にはさらに厳しい監査が東芝さんに待ち受けているわけでして、これをどうやってクリアされるか、ぜひとも会計専門家の方々のご意見をお聴きしてみたいところです。小さな上場会社さんだったらオピニオン・ショッピングということもありますが、東芝さんとなるとそんなこともできないでしょうし。。。

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2017年4月11日 (火)

見下された新日本監査法人-東芝にはTGAAPがあった

本日発売のAERA(4月17日号)は東芝大特集とのことで、日経ビジネスに対抗するかのごとく東芝関係者からの証言がたくさん掲載されていて興味深い内容です。実名での東芝元社長批判や、「業績悪化と会計不正の原因はまったくベツモノ。勝手に世間がストーリーを作り出すから話がややこしくなる」と解説する学者のご意見など、なかなかリアルで充実しております(さて、11日の決算発表はどうなるのでしょうか?会計監査人の意見は出るのでしょうか?)

そんな東芝大特集の中に、「見下された新日本監査法人-なぜ不正会計を見抜けなかったのか」といった見出しの記事が見開き2頁で掲載されています(ちなみに私の意見はほかでも述べているように、「見抜けなかった」のではなく「見抜いたけれども声に出して言えなかった」というものですが、いかがでしょうか)。新日本監査法人のシニアパートナーの方のご意見も、実名で掲載されています。

AERAの記者さんが「東芝が監査法人を見下していた」と評価した根拠として、記事中では東芝経理部による担当会計士への(ブライドの高い)態度が強調されています。会計監査の現場では「日本基準の会計基準(JGAAP)とも、米国会計基準(USGAAP)とも異なる「東芝会計基準」(TGAAP)という言葉が使われていたそうです( (^^;; ホンマカイナ?・・・・・そういえば三洋電機さんの会計不正事件でも「三洋減損ルール」という言葉が出てきましたね 笑)

でも、そこに出てくる東芝経理部の方々の発言内容は、特に東芝に特有のものではなく(つまり東芝経理部が特に傲慢なのではなく)、どこの経理部でも監査法人と対立するケースでは同じような言葉が出てきます(これは実際に対立する場面に遭遇すればわかります)。むしろ大規模上場会社の経理部員は、いったいどのような仕事をすれば上司に認めてもらえるのか、どうすれば出世競争に勝てるのか、そこに想像力を働かせればどこの経理部も同じように(社内でのプレッシャーを抱えながら)会計監査人と対応していることがわかります(私も、直接東芝さんの元経理部員、元経営監査部員の方にお話をうかがって、ナルホドと腹落ちしました)。

この記事の最後も「監査における意識改革こそ東芝事件の教訓である」と締めくくられていますが、私も総論としてはそのとおりかと思います。しかし各論がなかなか出てこない。監査法人版ガバナンス・コードは総論であって各論にはなりえない。覚悟を持った各論が出てこなければ、もはや会計基準を司法裁判所が解釈する(有価証券虚偽記載、違法配当等の刑事裁判に会計監査人を取り込む)ことになってしまうはずです。

「財務諸表の作成責任は、一次的には上場会社にある、監査法人は作成された会社の財務諸表に二次的な責任を持つ。だからこそ騙されたら不正など見抜けない」との主張はそのとおりです。でも「だからしかたがない」で済ませることは会計の世界に司法が入り込むことを正当化します。そうしなければ金融庁(財務局)自身が公権力の行使としての「不作為の違法」によって国賠訴訟で敗訴する時代(大和都市管財事件大阪高裁判決)、行政が責任を背負うことになってしまうわけですから。東芝歴代社長さんの刑事立件に関する「検察庁vs金融庁」の構図でもおわかりのとおり、金融庁はリスク(無罪)を背負う覚悟を持ちました。では監査法人はどうなのでしょうか?

 

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2017年4月10日 (月)

アスクル消防法違反疑惑-事前潜伏型二次不祥事への警鐘

(倉庫火災事故のために遅れていた)連結決算の発表を終えたばかりのアスクル社(東証1部)ですが、その公表直後に消防法違反の疑いで本社や子会社に警察の家宅捜索が入りました。消防法で規制されている危険物を倉庫内に保管していたにもかかわらず、同社において届出や許可申請を怠っていたことや、危険物の保管場所が指定されていたにもかかわらず、指定場所にはほとんど保管されていなかったことが容疑事実として報じられています。

エタノールを含む商品が通常どのように保管されているのか(同業他社でも、ホントのところどこでもこの程度の保管状況なのか)、この「法令違反」によって莫大な保険金支払いに影響が出るのかどうか、といったことはわかりません。ただ、アスクルさんの不祥事は、典型的な「やぶへびコンプライアンス」(事前潜伏型二次不祥事)に該当します。たとえ消防法違反による制裁が軽微であったとしても、「目に見えないコンプライアンスよりもお客様の要望(早く届ける)に応えることが大切」といった日ごろのコンプライアンス経営への姿勢が世間から評価されることになりますので、その点は上場会社としてかなり大きな痛手かと思われます。

毎度申し上げるところですが、企業不祥事など、どこの企業でも発生します。残念ながら完全に防ぐことは不可能です。しかしマスコミや世間に騒がれる「二次不祥事」だけは防がねばなりません。二次不祥事には「事後隠ぺい型二次不祥事」と「事前潜伏型二次不祥事」があります。企業不祥事発生後にこれを隠す、証拠を破棄する、虚偽報告をする、見て見ぬふりをする(放置する)というのが事後型二次不祥事です。これは比較的わかりやすい二次不祥事です。

いっぽう事前潜伏型二次不祥事とは、その不祥事だけを捉えれば軽微な不正、他社でもやっている不正かもしれませんが、たとえば別の事故や事件が発生することによって、事前の軽微な不祥事にスポットがあたるというものです。事後型と同じく、その会社の組織的なコンプライアンス経営への姿勢が問われる、という意味において業績や株価への影響度が大きいとされています。

事前潜伏型二次不祥事(やぶへびコンプライアンス)の事例は、このブログでも過去何度も紹介して警鐘を鳴らしてきました。ご商売に熱心で、誠実な社員が多い企業ほど留意しなければならない二次不祥事です。だからこそ各社におけるコンプライアンス経営の実力差がはっきりと出る領域でもあります。警察はアスクル本社の捜索も行っている、ということなので同社の法令順守体制(内部統制)の状況にも関心を寄せているものと思われます。東芝事件でもおわかりのとおり、内部統制上の問題は、その影響がどの範囲に及ぶのか、明確になるまで非常に時間を要します。今回の件も「単なる一倉庫における消防法違反」で済むのか、それとも更に全社的な安全配慮義務違反の調査にまで捜査が及ぶのか、今後の展開が気になるところです。

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2017年4月 7日 (金)

「公益」資本主義-英米型資本主義の終焉

Img_803210ba9c4291066dc73162fbec55f本日(4月6日)の日経新聞朝刊7面に、それほど大きな記事ではありませんが、 「米経済『何かが間違い』JPモルガンCEOが株主に書簡」と題した記事が掲載されています。低い労働参加率、高額な教育費、国内のインフラ更新投資の欠如(大阪でもこのままだと水道費が1.6倍になるとか)、難解な税制等、いずれも米国の景気は上向きですが、所得格差が広がる懸念が示されており、これを大手金融機関のトップが「違和感」と捉えています。

株主資本主義、金融資本主義のアメリカでも、所得格差の現実に直面して、原丈人氏が提唱する「公益資本主義」に近い考え方を信奉する人が出始めたのではないでしょうか。日本ではAA型種類株式を導入したトヨタ自動車のCEOの方も、公益資本主義の賛同者のおひとりです。

公益資本主義(文春文庫)原丈人著

書店に並んだ日に一気に読みました。いままでは「公益資本主義」の考え方、現実の資本主義社会への問題提起に共感しておりました。たぶん原氏のご著書をこれまで読まれた多くの方も同様ではないかと。ただ、本書はそこから進んで「では、いかにして株主資本主義から公益資本主義へと転換すべきか」その実践に向けた原氏の提言(ロードマップ)が後半に出てきますので「総論賛成、各論(一部?)反対」となるかどうか、そこが本書を読まれる方とぜひとも議論したいところです。法律的に批判をすることはできますが、具体的な提言に賛同するのであれば、その実現に向けた道筋を汗をかきながら考える必要があります(でもそのほうがワクワクして楽しそうですね)

星野リゾートの星野さんが大阪の新今宮に観光型ホテルを建設する時代です。「そんなアホな」と凡人の私などは一笑に付してしまいそうが、カリスマ経営者なら「町を変える」ことも現実化させるのかもしれません。この公益資本主義が日本に浸透する日も、近い将来、現実化するような気もしますね。

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2017年4月 5日 (水)

三越伊勢丹社長退任騒動-社外取締役が見るべきものは戦略の実体かプロセスか

昨日(4月3日)の日経「経済教室」では、大阪市立大学の吉村典久教授の「企業統治改革の課題(上)-社外取締役・監査役連携を」と題する論稿が掲載されていました。とくに先日の三越伊勢丹HDにおける社長退任事例を引用して、社外取締役の社長交代劇における役割、従業員ガバナンスの役割と限界といった点について興味深い解説がなされていました。

ちょうど4月1日(土)にコーポレート・ガバナンス・ネットワークの関西勉強会で、私も「社長退任のプロセスから見た三越伊勢丹HDのガバナンス」と題する発表をしておりまして、ほぼ同じような論点について25名ほどの会員の方々と活発な議論をしました。今年3月1日に日経ビジネスオンラインでインタビューを受けておられた元社長さん(そのわずか1か月後に退任されたわけですが)が「これからの三越伊勢丹のV字回復戦略」として掲げ、すでに実行しておられる点は、まさにガバナンス改革の時代にふさわしい社長さんの姿勢ではないか、なぜ辞めなければならないのか」といった問題提起を私からさせていただきました。

3月末ころになると、JR東日本で労務対策の責任者(総務部長)を経験され、その後ルミネの社長・会長を務められた花崎淑夫氏も元社長擁護論をマスコミで展開されていたので、タイミングの良い検討会だったのですが、そこで数名の会員の方から傾聴に値する意見が出されました。

社長の戦略が間違っていたのか、それとも正しいのかは、10年くらい経過してみないとわからない。見る人によって正しいと考えるのも正解だし、誤った戦略と考えるのも正解。ただ、経営者は実体としての戦略を立てることのほかに、その戦略を実行する幹部や社員にわかりやすい言葉(シンプルな言葉)で納得させることができて、組織全体を一定の方向へ束ねることができて、その結果として成果を出せることが必要。つまり、元社長さんの戦略がどんなに立派だとしても、プロセスを間違えたのではないか。現場に出て社員とコミュニケーションをとったのかもしれないが、社員が腹落ちするような言葉で語りかけていないのではないか

このご意見については、私も「なるほど」と思いました。この騒動を伝えた3月12日付け日経ヴェリタスでも、大手証券会社の意見がふたつ紹介されていまして、元社長退任(事実上の解任)という結果を受けて「これで構造改革の実行体制が強化された」と好意的みる立場(野村證券さん)と、「改革の後退につながりかねない」と悲観的にみる立場(みずほ証券さん)に分かれています。たしかに中長期的な成長のための戦略とその戦略を担う責任者との関係については、みる人によって意見が大きく分かれるのかもしれません。では、社外取締役はこの騒動においてどのような役割が期待されたのでしょうか。

大きな企業でトップの経験を持つ3名の社外取締役の方々が、この騒動でどのような行動に出たのか、ほとんどマスコミからは伝わってきません。なのでここからは推測ですが、百貨店ビジネスの復活のための処方箋(戦略)について、業界の外の人である社外取締役さん方は、意見は言えるとしても、最終的には社内の執行者にゆだねるしかないと思います。ただ、上記議論にもあるように、この社長さんに社員がついていくだけの人望があるのか、そのような動機付けをする努力をしているか、戦略を実行に移せるだけの「束ねる」力はあるのか、といったプロセスの面については、ご自身方の経営者としての経験も踏まえて、きちんと判断しておられたのではないでしょうか。社員が構造改革に反対しているから、といった事実ではなく、構造改革を断行するためのプロセスを間違っていたからこそ、社外取締役の方々は会長さんと歩調を合わせて社長退任のストーリーに参加されたのではないかと推測いたします。

最近は指名・報酬委員会の委員を社外取締役が務めることが多くなりました。しかし、「社外の人間に何がわかるのか」「そもそも業界を知らずしてモニタリングなど務まるわけがない」等と批判されることもあります。たしかに戦略の実体面だけに焦点をあてると、そのような批判が当たっているように思いますが、「経営者にとって必要な要素」としてのプロセスの面に焦点をあててみると、公正な社外の目、とりわけ経営経験者としての目で見る人がボードを構成していることには大きな価値があるように思えます。

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2017年4月 4日 (火)

会社法研究会検討課題以外の立法提案について(個人的な雑感です)

本日は会社法改正という「立法手続き」に関するお話なので、守秘義務もしくはエチケット違反に極力配慮しながら書かざるを得ないことをご了承ください。

私は数か月前に(コーポレートガバナンスに関連する)ある事項について、このたびの会社法改正審議(法制審議会会社法制部会での審議)に先立ち、立法提案をさせていただきました。ご承知の方も多いと思いますが、すでに(法制審議会に先立つ)会社法研究会での報告書が公表され、ほぼ会社法改正のための審議事項は固まっていると思われます。

ただ、会社法研究会での検討課題以外の立法提案についても、日弁連を通じて検討事項として取り上げるかどうか協議をする機会がありました。そこで、ある事項について、具体的な立法提案をさせていただきました。日弁連の対策委員の皆様には賛成意見、反対意見を多数いただきました。また、私なりの再反論なども提出させていただきまして、最終的には日弁連の正式な立法提案として、法務省との協議対象に採用していただきました(賛同意見、反対意見を含め、私の立法提案を真剣に審議いただいた日弁連委員の方々にたいへん感謝しています、どうもありがとうございました)。

抽象的な物言いで恐縮ですが、①法務省側の「会社法改正」に関する考え方(一般論として、どのような事態となれば法改正の必要性あり、と認められるのか)、②具体的な改正要望事項と現行の会社法法制とのバランス(他の条文の制度趣旨と整合性がとれるのか)、③法改正までしなければならないほどの実務上の不具合が、現行法上で立法事実として認められるのか(たとえばソフトローで足りるのでは?、利害関係者間での金銭的補償で目的は達成できるのでは?)といったことが相当クリアにならないかぎり、なかなか俎上には乗せてもらえない、という現実を認識いたしました。単純な「世の中の流れ、社会の変化」程度では(議員立法ならいざ知らず)法改正の審議の場にさえ乗せてもらえない、という高い壁を痛感しました。

具体的な結論は申し上げられませんが、率直に言って私の力不足でした。私の提案事項は、すぐにでも法改正の必要性が高いと思っておりますので、たいへん悔しいです。反省すべき点もあり、自分の能力がまだまだ低いことを認めざるをません。ただ、真剣に法改正に向けた手続きにチャレンジしたことで、いろいろと学ぶことはありました。とりわけ今後の公益通報者保護法の改正審議にあたり、条文化作業などにも自分なりの意見を述べたいと考えていますので、今回のチャレンジの結果をバネにして(政治的な風だけでは到底法改正はむずかしい)、手続きの厳しさを十分理解したうえで準備をしておきたいと思います(まずはファクトをきちんと提示できることと、現行法を誰よりも理解することを徹底する必要がありますね)。

 

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2017年4月 3日 (月)

東洋ゴム工業免震ゴム偽装刑事問題-社外調査委員会報告書の威力

企業不祥事が発生した場合に第三者委員会が設置され、独自調査が行われることが多いのですが、刑事捜査が同時進行することによって委員会調査がストップするケースもあります。ところで、先週末、免震ゴム偽装で揺れる東洋ゴム工業さんの事件について、法人自身とともに、多くの元経営陣の方々が書類送検されました(不正競争防止法違反被疑)。本件では、捜査に先行していた社外調査委員会報告書が刑事手続きの進展に大きな役割を担ったようです。

本件社外調査委員会の報告書については、独立性の面において有識者によって評価が分かれていましたが、ただ東洋ゴム工業さん自身が「報告書の認定事実には疑義がある」と公開直後から批判的な意見を述べていたので、会社からみても相当に厳しい認定がなされていたことは認められると思います(本当は、当該社外調査委員会の独立性とは、どういった基準で評価すべきか、といったところがもっと議論されてよいのかもしれません)。

このたびの一連の報道で、印象的なのは性能偽装による商品を受領したとされる取引先関係者が社外調査委員会報告書を読んで、「これは許されない」と憤り、半年間にわたって同報告書を基に、大阪府警、大阪地検と告発に向けての相談を行っていた、という事実でした(4月1日の朝日新聞ニュースより)。いったいどのような事実が不正競争防止法違反容疑となるのか、という点は、この社外調査委員会報告書の256頁あたりを読むとなんとなくわかりますが、それでも経営トップを含めて告発事実を整理するためには、捜査機関との相当な協議が必要だったと思われます。まさに、この社外調査委員会報告書の存在が、外部告発のきっかけとなり、最終的には大阪府警の書類送検につながったことは間違いないと思われます。

東洋ゴム工業の監査役の方々が、「会社は元取締役に対して損害賠償請求はしない」と判断した際、その理由を株主に通知をしていますが、その通知された理由には、元経営者らが刑事捜査を受けている関係から、監査役による調査ができなかったとありました。したがってもちろん大阪府警、地検による独自捜査は進捗していたはずです。ただ、ステイクホルダーによる告訴がなければ立件にまでは及ばなかっただろうと思います。こうしてみると(とくにステイクホルダーへの説明責任を尽くすという目的からみると)第三者委員会報告書の威力はかなり強いものだと思いますね。

あと、これは第三者委員会報告書とは関係ありませんが、グループ社員の方による「子会社の社員は働き蜂そのもの。本社から出向してきた人間が偽装に手を染める」「何度不正が発生しても、責任をとるのはトップばかりで実際に担当した者や幹部がなんの責任も負わないのは納得いかない」といった証言も、たいへん印象深いものです(産経ニュースはこちら)。これは私が別の事件のことで週刊エコノミストに掲載いただいた論稿でも指摘しましたが、不祥事対応にとって重要なポイントです。経営トップだけが責任をとって、実際に不正に関与した人たちはまったく咎めなしでまた責任部署に就く、ということが社員にとてもがっかりさせるのですよね。このあたりが東洋ゴム工業さんが何度も不祥事を繰り返している要因だったのかもしれません。

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