オリンパス役員賠償命令(東京地裁判決)と責任判定委員会報告書
オリンパス会計不正(飛ばし・解消スキーム)事件に関わったとされる元取締役の方々に対する損害賠償請求事件の一審判決が出ました(東京地裁-裁判長は法制審会社法制部会で委員に就任しておられる方ですね)。すでに報じられているとおり、飛ばし・解消スキームに関わっていた歴代の経営トップの方々に、総額約590億円の支払を命じる判決が出ています。認容された590億のほとんどは、過年度の決算訂正によって結果的に違法配当となった金額の填補責任を根拠としています。
取材を受けたときに記者さんからいただいた判決要旨を読みますと、会社原告の事件(株主原告は共同訴訟人として参加)と株主原告の代表訴訟事件とが併合されています。支払命令を受けたのは、歴代の経営トップ(一部は相続を限定承認されているご遺族の方々)と先日の横尾さんのご著書でたびたび登場するY氏、M氏、N氏です。会社からの賠償請求と、株主代表訴訟による賠償請求において、重複している被告のみが支払い命令を受けており、飛ばしスキームに関わっておられなかった取締役の方々10名を被告とする株主代表訴訟については、いずれも請求棄却との結論です。
つまり、事件発覚当時にオリンパス社主導で設置された「取締役責任判定委員会」でクロ(善管注意義務違反あり)とされた取締役の方々は、判決でも賠償命令の対象とされ、シロ(善管注意義務違反は認められない)とされた取締役の方々については監視義務違反等はなく賠償責任はすべて(全員)否定されています。
当時、責任判定委員会報告書を読んだ私の感想として、①元社長のウッドフォード氏が取締役会で問題を指摘したこと、②PwCが海外子会社買収の経緯について疑義を呈した中間報告書を提出していたこと、③ウッドフォード氏の処遇に関して、近接した取締役会において元会長からの提案が二転三転していたことなどから、何らの調査もせず、また元会長に何の説明も求めずウッドフォード氏を解任する決議に賛成した取締役には任務懈怠はないのか、という点にとても関心を持ちましたが、裁判所は詳細な事実認定の末、取締役らには善管注意義務違反は認められない、としています。私自身は未だにやや疑問を持っていますが、ここも、ほぼ責任判定委員会報告書の判断と同様の結論です。
むしろ、このたびの東京地裁の責任判断よりも当時の責任判定委員会報告書のほうが役員に対して厳しいですね(N氏の違法配当責任は、報告書では認められていましたが、判決では棄却されています)。ちなみに当時は監査役責任判定委員会報告書もありましたが、オリンパス社の当時の監査役の方々への訴訟は、全員和解で終結しています。
最近、会計不祥事が発生した際には、自浄作用を発揮するために、株主代表訴訟を待つまでもなく、会社自身が不正に関与した役員の責任を追及するケースが増えていますが、このたびの東京地裁の判決をみるかぎり、委員会の役割が前向きに評価されるのではないでしょうか(もちろん、今後の控訴審の判断にも注目しておく必要はありますが)。会社法改正の話題として、株主代表訴訟を制限して「訴訟委員会制度」を導入してはどうか、といった意見もありますが、そのような論点にも影響が及ぶかもしれませんね(いや、それはちょっと考えすぎカナ・・・)。
おそらく近々法律雑誌等に判決全文が掲載されると思いますので、また詳細はその際に検討したいと思います(ところで東芝さんは違法配当の可能性はないですよね?もしあればたいへんなことになりますが)。
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コメント
590億円の賠償額の中には、「損失隠し疑惑を追及したマイケル・ウッドフォード元社長を解任したことで、オリンパスの信用を毀損して与えた損害」も認定されているようです。
これは「マイケル氏を解任したことで、オリンパスは内部告発者を貶める会社だ」ということが公になり、同社の信用が落ちたので、解任した旧経営陣に責任があるという考え方だろうと思います。
信用毀損をしたのは告発した役員ではなく、告発者を愚弄した役員であるという判断は重要です(当然と言えば当然なのですが、日本の企業風土では反対のことがまかりとおっています)。
役員も「公益通報者保護」の対象に含めるかが、法改正の道のりにて検討されていますが、私は上記の事例からは「含める」という意見です。
マイケル氏は山口先生の論稿「監査役の『覚醒』」も掲載された週刊エコノミストの「粉飾」特集号(12月20号)でインタビューに答えて以降、あまりお見掛けしません(私だけか)。
今回の地裁判決に感慨をお持ちなのでしょうか?。
投稿: 試行錯誤者 | 2017年4月29日 (土) 10時30分