監査法人必読!-「もうひとつのエフオーアイ粉飾損害賠償事件判決」
昨年12月20日、東京地裁でエフオーアイ(マザーズ上場→廃止)事件の判決が出ましたが、もうひとつのエフオーアイ事件判決の存在を、こちらのエントリーでご紹介しておりました。本家本元のエフオーアイ事件第一審判決は、データベース以外、未だ判例集にはどこにも登載されていないようですが、「もうひとつのエフオーアイ事件判決」(東京地裁平成29年1月27日)が、先に金融・商事判例の最新号(4月15日号)に全文掲載されました(20頁以下)。
エフオーアイ社は、粉飾率97%という状況の中で(無事?)東証マザーズに上場を果たしました。しかし、上場からわずか5カ月で金融庁の強制調査を受け、半年で上場廃止に至るわけです。同社の有価証券届出書等を信用して同社株式を購入した一般株主らが、会社関係者や市場関係者に対して損害賠償を求めたのが「本家本元のエフオーアイ事件訴訟」です。日本で初めて主幹事証券会社の審査ミスを理由に賠償責任を認めた判決として注目されていますが(原告、被告双方から控訴中)、会計監査人である監査法人さんは、裁判途中で和解をしたため、その行動は判決文からは全くわかりませんでした。
ところでこの「もうひとつのエフオーアイ事件訴訟判決」は、エフオーアイの架空売上の計上に協力していた取引先(具体的には富士通さん)元社員について、エフオーアイ社株主(原告)に対する損害賠償責任を認めたものです。判決文を読みますと、①なぜ会計監査人が虚偽の残高証明書に騙されてしまったのか、②なぜ納品された(とされる)現物の確認を会計監査人は省略してしまったのか、③なぜ主幹事証券会社がヒアリングの際、虚偽説明に騙されたのか、④なぜ日本取引所自主規制法人の審査が甘くなってしまったのか等、これらを検討するために参考となる事実がたいへん詳細に認定されています(しかし、日本を代表する著名企業の課長さんが、1億円の報酬約束で簡単に協力しちゃうものなのでしょうかね?なんかもっと人間臭い事情があったのではないかと邪推していまいますが・・・やや疑問・・・)。
法律家の興味は民法上の不法行為責任論(共同不法行為に関する719条1項と2項との関係、民事上の「ほう助」の解釈、民法715条における「事業の執行にあたり」の解釈、虚偽記載と損害の範囲等)だと思いますが、会計専門家の方にとって注目していただきたいポイントは、株主原告団が法人である富士通さんの責任も追及しているのですが、その責任追及を裁判所が否定する根拠理由です。一言でいうならば
「こんな立場の人(当該社員)が残高証明書出す権限ないことくらい、誰だってわかりますよね?」「こんな人が監査人の相手する立場にないことくらい、ちょっと調べればわかりますよね?」(客観的・外形的にみて事業執行との関連性なし」→使用者責任否定)
さらに、この富士通社の社員は、上場承認直前期にはもうエフオーアイ社による粉飾には協力していないのです(結局、この社員の方は報酬ももらっていないようです)。上場承認よりも3年ほど前には「足を洗った」にもかかわらず、裁判所は「上場検討の初期の段階で、取引先が虚偽説明をして会計監査人が騙されたことは、たとえ当該会社が上場まで審査で苦労したとしても、東証の審査クリアには大きな影響を与え続けている」としています(日本取引所自主規制法人さんには朗報か?笑)。つまり裁判所は「市場の番人」たる会計監査人の役割を極めて大きく評価しています。
私は(法律のご専門の方でないと、少し読むのがしんどいかもしれませんが、)ぜひ会計監査の関係者の皆様に、この「もうひとつのエフオーアイ事件判決」をお読みいただきたいと思います(もちろんお時間のある時で結構でございます)。お読みいただいて「なんだ♪これって会計士の監査がまずいからでしょ♪、俺だったらこんなヘマしないよな(笑)」とお感じになったら、それはそれで結構かと存じます。しかしお読みになって「これって、会計士災難だよな。俺も同じように騙されるかも・・・」とお考えになるのであれば、平成25年「不正リスク監査基準」の策定時に留保されている「取引先監査人との連携」問題を今一度、ご検討されてみてはいかがでしょうか。架空循環取引に協力した会社が株主から訴えられる時代になりますと、どうも会計監査人のリーガルリスクも高まるように感じます。
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コメント
本家の判決は資料版商事法務3月号に載りました。ご存知と思いますが念のため。
投稿: こねこ | 2017年5月 6日 (土) 08時37分
そうでしたか!いえ、資料版まではきちんとフォローしていなかったもので、私は存じ上げませんでした。情報ありがとうございます。
本文のほうでも紹介しておきたいと思います。
投稿: toshi | 2017年5月 6日 (土) 11時39分