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2017年4月14日 (金)

内部通報社員による内部告発の脅威-バイエル薬品カルテ無断閲覧事件

ここ数日、関心をもって事件報道の動きをみていたのがバイエル薬品さんのカルテ無断閲覧事件です。「これって、バイエルの社員が内部通報した後に厚労省に内部告発をしたのではないか?」と予想しておりましたところ、本日(4月13日)のTBSニュースで経緯が明らかになりました(TBSニュースはこちら。なお、早期に抹消される可能性があります)。やはり予想どおり、2年ほど前にバイエル社内に通報したところ、対応が不十分だったことで昨年7月に内部告発に至ったそうです。対応が不十分どころか公益通報したことが原因で退職勧奨を受けた、とのこと。

バイエル薬品さんは何度かお招きいただき、コンプライアンス意識の平均値が高い会社と認識しておりますので、今回は少しショックです。告発をした社員の方は、カルテの無断閲覧を実行した3名のうちのおひとりで「こんなことをやって利益を上げててよいのか?」と疑問を抱き、内部通報・内部告発をされたそうです。退職勧奨自体は違法とはいえませんが、その勧奨が社会的相当性を欠いた手法による場合には違法となります(判例の立場)。もし公益通報(個人情報保護法違反の事実)が原因で退職勧奨に至ったということであれば、(たとえご本人が不正に関与していたとしても)かなり会社側の態様には問題があると思います。

ところで私が一番気になりますのは、バイエル薬品さんの不祥事は、この「現場社員によるカルテ無断閲覧」だけでなく、実は組織ぐるみで行われたことへの疑惑と、この不正の背後にあるもうひとつの不正疑惑の真偽です(自社に有利な論文の原稿を用意して、ほぼそのまま医師の名義を借りて論文を完成し、自社薬品のプロモーションに使ったという疑惑です)。すでにTBSさんが詳しく報じているところです。

私はここで、あえて重大な不正の真偽については触れません。ただ、内部通報への対応がまずかったり、たとえそれ自体は重大な不正とはいえなくても、自浄作用を発揮する以前に内部告発によって不正が発覚するような事態になると、いわゆる「疑惑」と呼ばれるものが社会的には「疑惑」を通り越して、不正事実として認知されてしまうというおそろしさです。いま、TBSさんを中心に、バイエル薬品さんの重大な不正への疑惑(カルテ閲覧指示が組織ぐるみだった、閲覧した患者情報をもとに医師の名前を借りて論文を作成した)がさかんに報じられていますが、これらの不正を打ち消す(虚偽報道であることを証明する)ことに多大な労力が必要になります。

これは私がこのブログで何度もご紹介している京都の米卸会社の産地偽装米騒動でも明らかです。2月に週刊ダイヤモンド誌で「中国産の米を南魚沼産として販売しているトンデモ卸業者」と指摘され、その後徹底調査によってこの報道が虚偽だと反論していますが、いまだにその事業者は100社以上の取引先から販売停止を受け、また当該事業者の名前をグーグル検索しますと、最初に「偽装」と出てくるような風評に見舞われています。このたびのバイエル薬品の疑惑も、その真相は明らかではありませんが、前提のところでコンプライアンス違反の事実が明らかになると、その後の反論は苦しくなると思います(少なくとも第三者委員会報告書の立ち上げは必要ではないかと)。

内部告発をしたバイエル薬品の現役社員の方は、最初はコンプライアンス室へ内部通報をしています。つまり、私利私欲ではなく、会社への恨みでもなく、会社のコンプライアンス経営への姿勢を正すために通報をされたようです。この時点でなぜ会社側は通報事実に真摯に向き合わなかったのか。そこで向き合えば(良い悪いは別として)厚労省への告発には至らなかったはずです。また、これも良い悪いは別として、そこで通報への適切な対応があれば、もっと重大な疑惑についても騒がれずに済んだかもしれません。精神論ではなく、現実論になりますが、内部通報制度をきちんと運用することが会社のリスク管理として重要であることの理由は、そのあたりではないかと思います。

 

4月 14, 2017 内部通報制度 |

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コメント

内部通報を受けた際に「隠しておきたい」「通報者の口封じさえしてしまえば」という意識がいつの世にもはたらいて、後先が見えなくなってしまう。
もしくはもっと重大な「不正」がばれることへの恐怖心により、通報に真摯に向き合えなくなってしまう。
理屈で考えれば、どっちをとろうかリスク分析するのでしょうが、とっさに悪い方向へと走って引き返す勇気を失い現実的な予測ができなくなってしまう。
「公益通報制度の重要性」をひたすらアタマ(企業のTOPにも)に叩き込んで、本当に、真摯に、少なくとも世間に公表している通報マニュアル通りに進めてほしいのですが、「できない」「やる気がない」「ウソをつく」から同様な経緯での不正発覚、通報者への報復があとをたちません。
いざとなったら「トカゲのしっぽを切れば良い」というマニュアルは厳格に遵守(まさしく法令遵守の鑑のようですらあります)されていますが。。。

ところで「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会 最終報告書」についてのパブコメ結果公示は、個人的には読み応えを感じています。
パブコメに意見提出したことが初めてだったので、興味津々です。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年4月14日 (金) 09時27分

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