東洋ゴム工業免震ゴム偽装刑事問題-社外調査委員会報告書の威力
企業不祥事が発生した場合に第三者委員会が設置され、独自調査が行われることが多いのですが、刑事捜査が同時進行することによって委員会調査がストップするケースもあります。ところで、先週末、免震ゴム偽装で揺れる東洋ゴム工業さんの事件について、法人自身とともに、多くの元経営陣の方々が書類送検されました(不正競争防止法違反被疑)。本件では、捜査に先行していた社外調査委員会報告書が刑事手続きの進展に大きな役割を担ったようです。
本件社外調査委員会の報告書については、独立性の面において有識者によって評価が分かれていましたが、ただ東洋ゴム工業さん自身が「報告書の認定事実には疑義がある」と公開直後から批判的な意見を述べていたので、会社からみても相当に厳しい認定がなされていたことは認められると思います(本当は、当該社外調査委員会の独立性とは、どういった基準で評価すべきか、といったところがもっと議論されてよいのかもしれません)。
このたびの一連の報道で、印象的なのは性能偽装による商品を受領したとされる取引先関係者が社外調査委員会報告書を読んで、「これは許されない」と憤り、半年間にわたって同報告書を基に、大阪府警、大阪地検と告発に向けての相談を行っていた、という事実でした(4月1日の朝日新聞ニュースより)。いったいどのような事実が不正競争防止法違反容疑となるのか、という点は、この社外調査委員会報告書の256頁あたりを読むとなんとなくわかりますが、それでも経営トップを含めて告発事実を整理するためには、捜査機関との相当な協議が必要だったと思われます。まさに、この社外調査委員会報告書の存在が、外部告発のきっかけとなり、最終的には大阪府警の書類送検につながったことは間違いないと思われます。
東洋ゴム工業の監査役の方々が、「会社は元取締役に対して損害賠償請求はしない」と判断した際、その理由を株主に通知をしていますが、その通知された理由には、元経営者らが刑事捜査を受けている関係から、監査役による調査ができなかったとありました。したがってもちろん大阪府警、地検による独自捜査は進捗していたはずです。ただ、ステイクホルダーによる告訴がなければ立件にまでは及ばなかっただろうと思います。こうしてみると(とくにステイクホルダーへの説明責任を尽くすという目的からみると)第三者委員会報告書の威力はかなり強いものだと思いますね。
あと、これは第三者委員会報告書とは関係ありませんが、グループ社員の方による「子会社の社員は働き蜂そのもの。本社から出向してきた人間が偽装に手を染める」「何度不正が発生しても、責任をとるのはトップばかりで実際に担当した者や幹部がなんの責任も負わないのは納得いかない」といった証言も、たいへん印象深いものです(産経ニュースはこちら)。これは私が別の事件のことで週刊エコノミストに掲載いただいた論稿でも指摘しましたが、不祥事対応にとって重要なポイントです。経営トップだけが責任をとって、実際に不正に関与した人たちはまったく咎めなしでまた責任部署に就く、ということが社員にとてもがっかりさせるのですよね。このあたりが東洋ゴム工業さんが何度も不祥事を繰り返している要因だったのかもしれません。
| 固定リンク
コメント